ロイハボ前提
最近つきあい始めたばかりのハボックに一緒に夕飯を食べないかと誘われてロイが二つ返事で答えたのは昨日のこと。翌日は二人そろって休みだし、雰囲気のいい店に連れていってそのまま家にお持ち帰りだなどとあれこれ算段していたロイが、ハボックに「今日は連れていきたい場所がある」と言われ、まあそれでもお持ち帰りは出来るだろうと司令部を出たのは二十分ほども前のことだ。ハボックに付いて歩いていたロイは、辺りにそれらしいものが全く見えてこないのに気づいて尋ねた。 「連れていきたい場所があるって……どこなんだ?」 「もうすぐっスから」 店が建ち並んだ賑わう界隈を過ぎてからもう大分経つ。何度尋ねても「もうすぐ」としか答えないハボックに、ロイは苛立ちを覚えて言った。 「おい、ハボック」 「ここっス、大佐」 不意に足を止めたハボックがそう言ってアパートを指さす。ハボックが指さす先には、だがごく普通の小さなアパートがあるきりで、とても食事をするような場所があるようには見えなかった。 「ここ?だが────おい」 眉を顰めるロイに構わずさっさと階段に向かってしまうハボックを、ロイは慌てて追いかける。狭い階段を上がりながら、ロイは前を行くハボックに言った。 「隠れ家的な店なのか?それにしちゃ下に看板も出ていなかったな」 幾ら隠れた名店と言えど、看板の一つもなかったら客が来ないのではないのだろうか。それとも口コミ会員制の類の店なのだろうかと思いながら階段を上っていたロイの耳にハボックの声が聞こえた。 「ここっス」 「────ここ?」 連れてこられたのはどう見ても普通のアパートの一室に過ぎない。こんなところにあるレストランなど怪しすぎると、ここはやめた方がいいのではとロイが考えている間にハボックは扉をノックしてしまった。 「なあ、ハボック」 それでも中に入る前なら帰っても構わないだろうとロイはハボックの肩に手を伸ばす。その時、鍵を回す音がしてガチャリと扉が開いた。 「こんにちは」 「いらっしゃい」 にっこりと笑って言うハボックに答えた相手を見て、ロイは伸ばした手をそのままに固まってしまう。ポカンとして見つめてくる黒曜石に、ホークアイはうっすらと笑みを浮かべた。 「どうぞ」 ホークアイは言って二人を中へと招き入れる。ありがとうと中へ入ろうとして、ハボックはロイが固まっているのを見て眉を寄せた。 「なにしてるんスか、大佐。さっさと入って」 「えっ?いや、だが、しかし」 入ってと言われたロイはキョロキョロと辺りを見回しそれから扉の中を見る。どう見ても個人の住宅としか見えないそれに、ロイはハボックに尋ねた。 「おい、ここってもしかして中尉の」 「アパートっスよ。ほら、扉締めて」 何でもないことのように言われロイは仕方なしに扉を閉める。重たい音を響かせて閉まった扉が地獄の門のように感じながら、ロイは恐る恐る中へと足を踏み入れた。 「お邪魔しまぁす」 その時いつになく明るい声が聞こえてロイはハボックを見る。ひどく嬉しそうなその顔に、ロイは俄かに不安になった。 (まさか……本命は中尉とか言うんじゃないだろうな。連れていきたい場所があるって、食事などではなく本当は) 自分とのことは単なる遊びで本当はホークアイの事が好きなのではないだろうか。もしくは上官である自分の申し出を断り辛く身を許してしまったが、やはり自分の気持ちに嘘はつけないと二人の関係を許して欲しいと直談判するつもりなのかもしれない。 (い、いや、だがこの間の夜だってハボックは) と、ロイの脳裏に数日前ハボックと過ごした夜の事が浮かび上がる。羞恥に震えながらも誘うように脚を開いてしがみついてきたハボックの姿を思い出せば、ついうっかり伸びてしまった鼻の下をロイは慌てて引き締めた。 「手ぇ洗わせて貰うっスね」 その時、ハボックの声が聞こえてロイが視線を向けると、ハボックは勝手知ったる様子で奥へと入っていく。チラリとホークアイの様子を伺いながら後を追ったロイは、洗面所で手を洗うハボックに言った。 「おい、一体どういうことだ?これは」 「大佐も手、洗って。ちゃんとしないと怒られるっスよ」 「いや、だが」 「あ、呼んでる。はーい、今いくっス!」 説明して欲しいと言う間もなく、ハボックはそそくさと行ってしまう。仕方なしに手を洗って元の部屋に戻れば、ハボックが料理の手伝いをしたり食器を並べたりしていた。 (や、やはり二人はつきあっているのか……ッ) 仲睦まじい二人の様子にロイは目を見開く。自分といる時とは全く違う笑みを浮かべるハボックに、ロイはヨロヨロと後ずさった。 (あんなに可愛らしく強請ったのも、好きと囁いて私を離さなかったのも全部嘘だったというのか……ッ!いや、もしかしたら最初から出世の為に私に身を任せて……ッ!恥ずかしいとか言いながらあーんなこともこーんなことも好きにさせたのは……ッ!!) 常日頃明晰だと謳われる頭脳の中で、あられもないハボックの姿を思い浮かべながらロイは悶々と考える。 (あんな可愛いハボックと別れなくてはならないなんて、そんなッッ!!それならいっそ三人でつき合うって事に────) ハボックを挟んで3Pならそれはそれで萌える、などと一瞬腐ったことを考えてしまってから、いやいやそんなことを言っている場合ではないとロイがぐるぐると考えていればハボックの声が聞こえた。 「大佐、用意出来たっスよ」 そう言われてハッとして見れば、食卓の上には旨そうな料理が並んでいる。どれも手作りらしい料理の数々を見つめながら、ロイはドサリと椅子に腰を下ろした。 「このチキンのオーブン焼きが旨いんスよ〜」 ニコニコと笑いながらハボックが言う。それを聞いてロイは恐る恐る尋ねた。 「もしかしてこれまでにも食べさせて貰ったことがあるのか?その……中尉の手料理を」 「勿論っスよ。今日はリクエストしたんです」 「────そうか」 ハボックの言葉にロイは心臓を射抜かれたように感じる。二人がつき合っているのは決定的だ。やはり今日は二人の仲を認めて貰う為に呼ばれたのだとロイはテーブルの下で手を握り締めた。 (お持ち帰りどころの話じゃないな……) 食事が終われば一人アパートを追い出されるに違いない。その後ハボックはホークアイと楽しい時を過ごすのだろう。 (滑稽だ……まったく) 今まで色んな女性とつき合ってきたが、その誰よりも惹かれたのがハボックだった。男であることも気にならないほどハボックが好きで、本気で欲しいと思った。だが、手に入れたと思ったのは単なるこちらの思い込みで、ハボックの方には全くその気がなかったらしい。 (くそ……っ、それならそれで早く引導を渡してくれ) ロイが胸の内で呟いた時、ハボックが言った。 「今日大佐をここに連れてきたのは話したい事があったからっス」 そう言うハボックの言葉にロイはギクリと身を強張らせる。引導を渡して欲しいと思った筈だったが、反面聞きたくないとも思ってロイは堅く目を閉じた。 「改めて紹介しますね。────オレの姉さんっス」 「────は?」 その時聞こえた思いもしなかった単語に、ロイは閉じていた目を開けてポカンとする。アパートに着いたときよりもガッチリ固まってしまったロイに、ハボックが心配そうに言った。 「えっと、聞いてます?大佐」 「……今なんて?」 「オレの姉さんです、って」 そう言って照れくさそうに笑うハボックをまじまじとロイは見つめる。 「ねえさん?」 「はい」 「ねえさんって、血の繋がった身内のアレ?」 「そうっス。って言っても半分ですけど」 言われてロイはハボックを見、ホークアイを見る。見慣れている筈の副官を食い入るように見つめるロイにハボックが言った。 「オレたち、異父姉弟なんス」 「イフキョウダイ」 まるで聞いたことがない言葉のようにロイは片言に繰り返す。頭の中でぐるぐると回った単語が漸く意味を成した瞬間。 「ヒエエエエエエッッ?!」 ロイの口から奇声が飛び出した。 「異父姉弟ッ?姉だってッ?聞いてないぞ、そんなこと!!」 「別にわざわざ発表する事でもないっスから」 ねぇ、とハボックがホークアイに言えば、ホークアイが頷いた。 「私たちが姉弟であることは大佐の部下として働く事には関係ありませんから」 「そっ、それはそうだが」 ロイは思ってもいなかった現実に心臓をバクバクさせながら二人を見比べる。 「あまり似てないな」 同じ金髪ではあるが色合いも髪質も違う。男女であることを差し引いても姉弟と言うほどには似ていなかった。 「私は父親似ですから」 「オレは母さんに似てるって言われるっス」 ねっ、と笑いかけるハボックの髪を撫でてホークアイは言った。 「そうね。ジャンは母さんによく似てるわ」 そう言ってハボックを見つめる瞳には慈しみが溢れている。だが、次の瞬間ロイを見た鳶色はそんなものは欠片も宿っていなかった。 「そう言うわけで、大佐。改めてよろしくお願い致します」 言って、ホークアイは軽く頭を下げる。それにつられて頭を下げたロイにホークアイはにっこりと笑った。 「ジャンのことを泣かせたら承知しませんから」 「ハイッッ!!大事にさせて頂きますッッ!!」 にっこりと笑った顔の中で瞳だけは笑っていない。ピンと背筋を伸ばして大声で答えたロイはピクピクと頬をひきつらせて笑みを浮かべた。 「ジャン、今日は泊まっていらっしゃい。明日は休みでしょう?」 「えっ?あー、そうっスけど」 ハボックは言いながらロイをチラリと見る。ひきつった笑みを浮かべたままハボックと視線を交わすロイに、ホークアイが言った。 「ここからお持ち帰りなんてゼッタイに赦しませんから」 「お持ち帰りなんてそんな滅相もないッ!」 まるで心を見透かすように見つめてくる冷たい鳶色に、だらだらと冷や汗を流すロイだった。
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先日書いた「鷹の目諸説2」の続きを読みたいとコメント頂いたので、書いてみました。実はネタ元の方には続きをチラリとお見せしたのですが、今回は改めて(笑)しかし、ロイ、大変だろうなぁ(苦笑)でもなんだかんだ言ってハボックがロイの事好きだから、結局最終的にはホークアイが折れそうな気もします。
あー、そうだ。明日の更新ですがまた「セレスタ」だけになりそうです、すみません(汗)どうにも間に合わない…orz 最近どうも受けロイが可愛くも美人にも書けず、書くのに時間がかかって仕方ありません(苦)それからそろそろいい加減に「菫2」を書かねばと寝る前に布団の中でチマチマと読み進め、じゃあ書こうかなと思ってポメラを見たらアップしてないのが一章ありました(苦笑)これ、明日にでもアップしますかね…?ロイハボばっかりだと言われそうな気もしますが(苦笑)
以下、拍手お返事です。
なおさま
ダース・ベイダー!(笑)ブラッドレイのテーマソング、そんなのだったんですね(笑)ふふふ、興味をなくすなんて、ロイ、甘いよ!って感じですかね(苦笑)「久遠」ははは、流石に狛犬同士を始めると大変な事になるので。でも、妄想覗いてみたいなぁv鷹の目姉弟説、リメイクしてみました。前回書いたのは読まずに書いたのですがどんなもんでしょう(苦笑)
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