「さあ、どうぞ」 ヒューズは玄関のベルを鳴らして帰った事を中に知らせると、二人の前で玄関の扉を開ける。ハボックが入っていいのか?と言うようにロイを見上げた時、中からパタパタと足音がして小さな女の子が駆け寄ってきた。 「ハボちゃあん!」 エリシアは大声で呼んでハボックに抱きつく。小さな手でギュウッと抱き締められて、ハボックは目をパチクリとさせた。 「ハボちゃん、待ってたよ!来てくれて嬉しいっ」 「ろーいっ」 エリシアがハボックの手を握って言えばハボックも嬉しそうに笑う。握りあった手をブンブンと上下させて喜ぶ子供達に、クスクスと笑みを含んだ声が降ってきた。 「いらっしゃい、ハボックちゃん、マスタングさん」 「やあ、グレイシア、久しぶり。お言葉に甘えて来てしまったよ」 そう言うロイにグレイシアは笑みを深める。 「来てくださって嬉しいわ。どうぞゆっくりなさって下さいね」 「ありがとう。ハボック、こちらはヒューズの奥方でエリシアのお母さんのグレイシアだ」 そう紹介されてハボックはグレイシアを見上げる。恥ずかしそうにモジモジとするハボックの前に膝をついて、グレイシアは言った。 「はじめまして、ハボックちゃん。あなたのことはマースから聞いてるわ。今日は来てくれてありがとう」 「ろーい……」 優しく笑いかけられて、ハボックはロイのコートをギュッと握って答える。恥ずかしそうに見つめてくる空色を受け止めて、グレイシアは子供の頬を優しく撫でた。 「さあ、コートを脱いで中にどうぞ」 立ち上がって促すグレイシアにコートを渡して、ロイとハボックは中へと入る。通されたリビングは部屋のあちこちにハロウィンの飾りがしてあって、それを見たハボックが目をキラキラと輝かせた。 「ろーい〜っ!」 興奮に頬を紅潮させてピョンピョンと飛び跳ねるハボックにロイとヒューズは顔を見合わせてクスリと笑う。エリシアがハボックの手を取って飾りのひとつひとつを説明して歩くのを一頻り眺めてからヒューズが言った。 「今夜のハロウィンの為に用意した物があるんだよ、ハボックちゃん」 そう言われてハボックが不思議そうにヒューズを見上げる。傍らでエリシアが顔を輝かせて言った。 「パパ、あれね!エリシアが持ってきてあげるっ」 「うん、頼むよ、エリシアちゃん」 ヒューズが頷けばエリシアがリビングを飛び出していく。少ししてエリシアは大きな包みを抱えて戻ってきた。 「パパぁ、持ってきたぁ」 「ありがとう、エリシアちゃん」 ヒューズはエリシアから包みを受け取るとハボックに向き直る。ハボックの前に膝をついて包みを差し出した。 「はい、どうぞ」 包みを差し出されてハボックはおずおずと受け取る。横からエリシアに「開けてあけて」と急かされてハボックはリボンを解いて包みを開けた。 「ハロウィンの衣装だよ。今夜はそれを着てエリシアちゃんと一緒にお菓子を貰いに行ってごらん」 「ろーい……」 そう言われてハボックが包みの中から出てきた物を広げる。淡い金色がかったフカフカしたものを広げてみれば、それは可愛い犬の着ぐるみだった。 「これなら犬耳と尻尾を出してても仮装だと思われるだろう?」 「ろーいっ」 言われた途端ポポンと犬耳と尻尾が現れる。フカフカの尻尾を見て、エリシアが言った。 「エリシア、ハボちゃんの尻尾大好き!可愛くて気持ちいいんだもんっ」 エリシアはハボックの尻尾をそっとすくい上げスリスリと頬を擦り付ける。擽ったそうにしながらも、ハボックはにっこりと笑って着ぐるみを抱き締めるとヒューズを見上げた。 「ろーいっ!」 「気に入ってくれた?よかった」 ヒューズは笑ってハボックの金髪を撫でる。立ち上がると微妙な表情を浮かべているロイに言った。 「興奮していきなり尻尾が出るよりこの方がずっと安全だって」 「まあな」 ロイは言ってため息をつく。 「帰ってからも着たいと騒ぎそうだがな」 「その時はその時だろ」 ハハハと笑うヒューズにロイが顔をしかめた時グレイシアがお茶を運んできて、文句を言い損ねたロイはため息と共にお茶を飲み干した。
「さあ、気をつけて行っておいで」 「うん!お菓子いっぱい貰ってくるっ」 夜になれば可愛らしい仮装に身を包んだ子供たちにヒューズが言う。絵本に出てくる妖精のお姫さまのドレスを着たエリシアは、すっぽりと首まで着ぐるみを着込んだハボックの手をしっかりと握った。 「ハボちゃん、頑張ろうね」 「ろぉいっ」 言われて尻尾をフサフサと揺らして答えるハボックに、ロイが心配そうに眉を顰める。そんなロイの背をヒューズが苦笑して叩いた。 「過保護はよくないぜ、ロイ」 そう言う友人の髭面をロイは睨む。 「大丈夫だって。なあ、ハボックちゃん」 「ろいっ」 コクンと頷くとハボックは、エリシアと二人出かけていった。 「よし、じゃあ俺たちは一杯飲みながら他の子供が来るのを待とうぜ」 そう言ってヒューズは奥へと戻ろうとする。だが、閉まった扉を睨んでいたロイが、コートをひっつかんで外へと飛び出して行くのを見て常盤色の目を丸くした。 「おいっ、ロイっ?」 「やっぱり心配だ、後をつける!」 「な……っ?ちょっと、待て、ロイっ」 ロイはヒューズが引き止めるのに構わず走ると子供たちの姿を探す。同じように衣装に身を包んだ大勢の子供が行き交う中、一際可愛らしい二人連れを見つけて急いで近づいていった。 「大丈夫か?ハボック……」 ロイは街路樹の陰から二人の様子を伺う。そんな事には露ほども気づかず、エリシアはハボックの手を引いて一軒の家に近づいていった。 「ハボちゃん、エリシアがトリックオアトリートって言うから、ハボちゃんは籠を出してね」 「ろーいっ」 ハボックが頷くのを見て、エリシアは家の扉を叩く。そうすればノックに答えて女性が出てきた。 「トリックオアトリートっ!」 エリシアがニッコリ笑って言うのを聞いて、ハボックが緊張した面持ちで手にした小さな籠を差し出す。それを見て女性はニコニコと笑った。 「まあ、可愛らしいワンちゃんと妖精のお姫さまね。はい、お菓子をどうぞ」 女性は言ってハボックが差し出した籠にお菓子の袋を入れてくれる。それを見てハボックはパアッと顔を輝かせて尻尾を振った。 「あらっ、よく出来た尻尾ね」 女性にそう言われてハボックは恥ずかしそうに尻尾を抱えるとエリシアの後ろに隠れる。女性はエリシアとハボックの頭を撫でると手を振って家の中に入ってしまった。 「やったね!ハボちゃんっ」 「ろーいっ」 二人は籠の中のお菓子を見てにっこりと笑いあう。再び手を繋いで次の家に向かうのをこっそり見守っていたロイはホッと息を吐いた。 「よかった、何とか貰えたな」 ロイはそう呟くと更に二人の後を追う。 「トリックオアトリートっ」 「ろーいっ」 そうしてハボックとエリシアがあちこちの家で可愛らしい衣装を褒められながら楽しくお菓子を貰って歩くのを、ずっと陰から見守って歩いたロイは翌朝腰痛で目が覚める事になるのだった。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですvv
「暗獣」です。なんかもう、前振りの枝葉が多過ぎて肝心の書きたいシーンに来たところではすっかり力尽きた感ありありです……(苦)本当はロイと二人のハロウィンも考えないではなかったのですが、ハボック一人じゃトリックorトリート出来ないので、セントラルでエリシアちゃんにご同行頂きました(笑)ハボが着ている着ぐるみは頭の部分はありません。尻尾は本物が出せるよう小さな穴があいてます。赤い首輪のところまで着ぐるみで頭はそのまま、本物の犬耳で(笑)過保護なロイは中腰で物陰に隠れてついて歩いてたので、翌日はきっと腰痛(笑)
以下、拍手お返事です。
「深淵に偲ぶ恋」のハボのかっこよさに の方
うわぁ、本当ですかっ?SPってもっとカッコいいものじゃ?と若干思い始めていたのでそう言って頂けて嬉しいです〜vそしてチェン(笑)すっかりハボの部下で定着してきました(笑)成長していると嬉しいなぁと思いますv
阿修羅さま
わあ、大丈夫ですか?色々やらねばならない事、やりたい事もおありでしょうがくれぐれもお体大切になさってくださいね。大ファンだなんて……(照れ)ご自身でも素敵なお話を書かれる阿修羅さまに書いて欲しいものがあるなどと言われると、緊張するというかなんというか(苦笑)ともあれ、ではニアピン3つでキリリク一つ……なんて言ってるとキリバン踏み抜けそうな気もします(笑)
なおさま
偽名じゃないですよ〜。人魚姫ですから別人、別人(笑)あ、そうか。確かにシンデレラ!(笑)しかし、人魚姫でシンデレラって、どれだけお姫様なんだ、ハボック(爆)
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