babble babble


2011年08月の日記

2011年08月29日(月)
暗獣20
2011年08月25日(木)
連絡
2011年08月24日(水)
湿原
2011年08月23日(火)
西洋将棋
2011年08月22日(月)
夕日
2011年08月19日(金)
暗獣19
2011年08月17日(水)
吸血鬼8
2011年08月15日(月)
暗獣18
2011年08月12日(金)
人工知能10
2011年08月09日(火)
平行世界〜記念日編
2011年08月07日(日)
吸血鬼7
2011年08月06日(土)
光神王国〜記念日編
2011年08月04日(木)
暗獣17

暗獣20
 ザザとノイズ混じりの声がラジオから流れる。コーヒーを飲みながらラジオを聴いていたロイは、たった今得た情報に眉を顰めた。
「嵐がくるのか」
 夏も終わりに近づき、嵐がやってくる季節となってきていた。ラジオの気象情報によると、どうやらかなり大きい嵐が来るらしい。窓の外へ目をやればまだ空は明るいものの、幾つもの雲が千切れて次々と過ぎていくのが嵐が近いことを予感させた。
 ロイはコーヒーのカップを置くと立ち上がる。ラジオが載った棚にしがみつくようにしてラジオを聴いていたハボックは、ロイが立ち上がったことに気づいて振り向いた。尋ねるように見つめてくるハボックの金色の頭をポンポンと叩いてロイはリビングを出ていく。そうすればハボックも気象情報を流し続けるラジオから離れてロイの後を追った。
 庭に出たロイは出しっぱなしになっていた水撒き用のホースやバケツを物置に片づける。普段あまり見慣れない事をするロイをハボックが不思議そうに見ればロイが言った。
「嵐が来るんだ、ハボック。大雨が降って強い風が吹く」
 だから片づけないと、とロイは言いながら幾つかある植木鉢を家の中に入れていく。するとハボックも中の一つを小さな手で持ち上げて、うんしょうんしょと運んでくれた。
「ありがとう、ハボック。助かる」
 ロイが言ってハボックの金髪をくしゃくしゃとかき混ぜるとハボックが嬉しそうに笑う。しまっておいた方がよいものを片づけて家の中に戻ったロイは、少し考えて窓に向かった。
「鎧戸を閉めておいた方がいいな」
 ロイはそう言って家中の鎧戸を閉めて回る。まだ昼日中であるにもかかわらず鎧戸が閉まり家の中が薄暗くなるのを見れば、暗いところが好きなハボックは喜んでにこにこしながらロイの後をついて回った。
「嬉しそうだな、お前」
 そんなハボックにロイは苦笑する。鎧戸の閉まった室内を、嬉しそうに動き回るハボックだったが。

 数時間後。
 ビョオオオッッと風が吹き荒れ、ザアザアと雨が叩きつけるように激しく降る音がする。家の中にいてすら風の音も雨の音も大きく鳴り響き、まるで嵐の真ん中にこの家だけが取り残されているように錯覚させた。時折雨が鎧戸に風で叩きつけられ、シャアアアッッという音がする。風の音、雨の音が鳴り響く度、小さなハボックはビクリと震えてロイにしがみついた。
「まったく、さっきまではやけに嬉しそうだったのに」
 からかうようにロイが言ったがハボックはロイにしがみついて離れない。ピシャーン、ガラガラッッと雷の音まで響けば、ハボックはロイの膝の上で飛び上がり、ロイの腕の中に潜り込むように頭を突っ込んだ。
「ハボック」
 ギュッと空色の瞳を瞑り小さく震えるハボックの背をロイは宥めるように撫でる。
「大丈夫だ、ハボック。大丈夫だから」
 ロイが優しくそう言った時。
 フッと家の明かりが消える。突然家が闇に包まれてハボックはびっくりして凍り付いた。
「停電か」
 やれやれとため息をついてロイは立ち上がろうとする。ロイの膝からおろされそうになって、ハボックが「ぴっ」と鳴いてロイの胸にしがみついた。
「ハボック」
 ぶらんと胸にぶら下がるハボックを呆れたように目を見開いて見たロイはクスリと笑う。片手でハボックを抱いて、ロイは棚の抽斗からキャンドルを取り出し火を灯した。
「ほら、ハボック、これで大丈夫だろう?」
 再びソファーに腰を下ろしてロイが言う。闇の中、ゆらゆらと揺らめく焔は暖かく、とても美しかった。
「綺麗だな、ハボック」
 外は相変わらず嵐が吹き荒れていたが、小さな焔が二人の心を凪いでいく。ロイの黒い瞳の中に焔が煌めき、ハボックの金色の髪が焔を弾くのを見て、二人はにっこりと笑い合った。揺らめく小さな焔を前にロイとハボックは、寄り添って嵐が行き過ぎるのを待ったのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

【ハボロイリレー小説部屋更新のご案内】
土曜日に「volere」第一章出会い6みつき分更新されてます。つい話の中に季節関連のネタを入れちゃうんですが……もうプラムの時期じゃないよなぁ(苦笑)書いたのがそんな季節だったもんでー(苦笑)

「暗獣」です。季節ネタを書きたくて相変わらずまったり進行中。今回は台風ネタです。丁度今、台風やってきてますね。このまま来たら関東直撃じゃね?と思うんですが(苦)二学期早々台風なんてタマランですよねぇ。

ええと、実は先日拍手に英語でコメ頂いたんですが……。当方純国産なものでー(苦)短いコメなんですが逆にニュアンスを掴みかねるというか、素直に褒めて頂いているととっていい、のかな。いやだって、全然informativeじゃないし……(汗)悩みつつもコメント頂けるのはありがたく嬉しいです。「Thank you for coming. I'm glad to have you comment.」ぐらいしか言えなくてごめんなさいですorz

以下、拍手お返事です。英語のコメの方、上記ご参照ください(って、日本語で書いていいのか(苦)

釧路湿原いいですね!! の方

釧路湿原は初めて行きましたがなかなかよかったですよvうふふふ、妄想は時を選びませんよね!ビバ!妄想vv(笑)
2011年08月29日(月)   No.99 (カプなし)

連絡
 ピピピ……。
 テーブルに置いた携帯が小さな音共に震える。ソファーに寝そべって本を読んでいたロイが本から視線を上げて見つめれば、携帯は何回か呼び出し音を響かせたあと、震えるのをやめた。
 ロイは再び視線を戻すと本を読み始める。それでも「早く手に取ってよ」と強請るように時折携帯が着信ランプを瞬かせるのが目の端に入ってくれば、ロイはひとつ息を吐き出して携帯に手を伸ばした。
 パチンと携帯を開けばメールのマークが光っている。それを選んでメールを開くと案の定メールは出張中のハボックからだった。
『今日は朝からS岬を回る観光船に乗ったっスよ。写真はその時海から見えた滝。温泉水の滝なんだとか。この滝なら滝に打たれる修行も辛くないでしょうね』
 そう書かれたメールには緑の岩肌を濡らしながら海に落ちる滝の写真が添えられている。ロイはその写真を暫くの間じっと見つめていたが、携帯を閉じると読書を再開した。
 チッチッと時計が時を刻む音が聞こえる部屋の中でロイは一人読書を続ける。どれくらいたったろうか、再び携帯の着信音が静けさを破るように鳴り響いた。仕方なしに本を読むのを中断してロイはメールを確認する。メールはやはりハボックからで、今度はロープウェイで眺望が見事だと有名なD山に登り、ロープウェイの駅から20分程歩いた先の展望台まで行った事を知らせてきた。
『雨だからやめたらって言っても聞きやしないクセに歩き始めたら文句タラタラで参ったっスよ』
 そう書かれたメールには展望台から撮ったのだろう、雨に煙る湖と眼下に広がる樹海の写真が添えてある。ロイはその写真も暫く見つめてからそっと携帯を畳んだ。
 ハボックは今、セントラルから出張中のお歴々にくっついて観光地を案内している。視察とは名ばかりの観光ツアーに嫌々ながらも同行させられたハボックはせめてもの息抜きとばかりに、行った先々の写真と共にロイにメールを送ってくるのだった。それは色鮮やかな花畑であったり夕日が沈んだばかりのオレンジの空を映し出した湖であったりと様々で、簡単な説明文や感想と共に送られてくる。そして最後に必ず記されている言葉があった。
『大佐と一緒に見たいっス』
 どんなに雄大な景色も美しい花々も一人で見るのは味気ない。ハボックのメールに必ず添えられた一言は彼の心情を隠すことなく伝えてきて、ロイはハボックが送ってくる写真をじっくりと見つめるのだ。
「全く、おかげで一緒に行かずとも景色を覚えてしまうじゃないか」
 ロイはうんざりとした口調でそう呟く。だが、その口調とは裏腹にロイの瞳は楽しげにハボックが送ってくる写真を見ていた。
「別に待ってる訳じゃないからな」
 ロイは携帯をテーブルに置いて本を広げる。だが、気がつけば本の文字より携帯を見つめている事に気づいて、ロイは思い切り眉を顰めた。
「ハボックめ」
 今頃彼は何を見ているのだろう。あの空色の瞳が映し出しているものを想像して、ロイはハボックと一緒にその場に立つ己の姿を思い描いていた。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですv

両親が春に携帯を買ったので携帯にメールを送ったりするのですが、全然見てくれなくて「メール送ったんだけど」と連絡する事が度々……。両親曰わく「メール来ないし」って、まぁそんなにアドレス教えている訳じゃないし言うことも判らんではないのですが、やはり不便この上ない。なのでこの旅行中は携帯で写真を撮ってはメールを送ってみました(笑)まあ、見たり見なかったりで変な時間に返信が入ってきたりしてましたが……。せめてパソメールよりは確認してくれと言いたいです(苦笑)

旅行は今日で終わり東京に戻りますが、前にお知らせしました通り土曜日も更新お休みです。今日は家に帰ったら多分12時頃だし、明日は午後から父が泊まりに来るもんで。流石に書く余裕ない(苦笑)それにしても今回の旅行中は日記書いたなー。あんまり旅行ネタっぽくなかったですが。とりあえず判ったのはなに見ても妄想のタネになるって事ですね(笑)

以下、24日拍手お返事です。

柚木さま

あはは、ダンナに一票ですか(笑)確かに相棒の二人、ロイとハボっぽいですね。私も相棒好きですよ。旅行は観光も楽しみましたが、自分で作らなくてもご飯食べられるのが嬉しくて(笑)ネタになってるんだかよくわかりませんが、日記楽しんで頂けていたら嬉しいです。
2011年08月25日(木)   No.98 (カプなし)

湿原
 ハボックは身の丈程の草を掻き分けながら進んでいく。空は重く垂れ込めて今にも雨が降り出しそうだった。
「ッ?!……っと」
 感じた気配に振り向けば、今年生まれたばかりの仔鹿が目をまん丸にしてハボックを見ている。よほど驚いたのだろう、お尻の白い毛がブワッとハート形に逆立っているのを見て、ハボックは苦笑して手を伸ばした。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ」
 ハボックはそう言って伸ばした手で鹿の子柄の毛をそっと撫でてやる。仔鹿は暫くの間ハボックが撫でるに任せていたが、やがて小さな尻尾を振って草の間に消えていった。
 重く水を含んだ湿地をハボックはゆっくりと歩いていく。時折吹き抜ける風が草の穂先と一緒にハボックの金髪をそよがせて通り過ぎていった。
「そろそろか」
 ハボックは顔を巡らせ辺りを見回して呟く。夏の短いこの辺りでは、もう其処此処に竜胆の紫の花が見え隠れし、薄がその穂を開き始めていた。ハボックが一歩歩くたび竜胆の花が震え薄の穂が揺れる。緑と紫と薄茶の原が広がる湿地に金色の頭を隠したハボックが最後の十数メートルを一気に進み、湿地を走る木道の陰に隠された小さな木箱に手を伸ばそうとした時。
「あっ?!」
 横合いから伸びてきた手がハボックより一瞬早く木箱を取り上げていく。木箱を持った手の続く先を見れば、黒曜石の瞳が面白がるような光をたたえてハボックを見ていた。
「私の勝ちだな」
「大佐」
 ロイは木箱を手にニヤリと笑う。ハボックはムゥと唇を突き出して言った。
「どうして判ったんスか?」
 ひょんな事から付き合いだすずっと前にハボックがロイに当てて書いたラブレターが出てきた。寄越せ、嫌っスと終わりのない押し問答を続ける二人を見かねて、居合わせたヒューズがラブレターを入れた木箱をこの国立公園に広がる湿地に隠し、先に見つけた方に渡すとしたのだが。
「飼い主が自分の犬に遅れをとったら拙いだろう?」
 ロイは楽しそうに言いながら木箱の蓋に手をかける。それを見たハボックが情けなく眉を下げた。
「やっぱ見るんスか?」
「当然だ」
「嫌だなぁ……」
 ハボックはそう呟いて竜胆と薄が揺れる中に潜り込む。木箱から取り出した紙片に目を通したロイが顔を上げた時にはハボックの姿は見えなくなっていた。
「ハボック?」
 名を呼んでもハボックは姿を現さない。
「馬鹿だなぁ。私から逃げられる筈がないだろう?」
 ロイはそう言って笑みを浮かべる。ロイの声をさらった風がハボックを隠した草はらの上を吹き抜けていった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですv

毎度よく判んない話ですみません(汗)いや、今日は釧路湿原に行って健康的に散策などしてきたのですが、脳内では湿地で訓練するハボックの姿なんぞが浮かんでいて不健全極まりなかったっていう、それだけの話なんですがね(苦笑)仔鹿が湿原の中にいたのは本当です。しかし、本当何をしてても妄想の種って尽きませんね。物凄い実感してみたり(笑)
2011年08月24日(水)   No.97 (カプなし)

西洋将棋
 カチリ。
 ロイが手を動かすと硝子盤の上の駒が音を立てる。ロイは暫し考えてから次の一手を動かした。
 ハボックはリビングのソファーにだらしなく腰掛けて雑誌を捲っている。なにも気にしていないようでいて窓辺の席でチェスをしているロイの様子を耳をそばだてて聞いているのは、カチリと硝子の盤が音を立てる度くわえた煙草がピクリと震えるのを見れば明らかだった。
 ロイは時折大切にしまってある硝子製のチェスを持ち出してチェスを打つ。それは何かに迷っている時であったり、一歩踏み出すタイミングを探っている時であったりした。
 ロイがチェスを打つ度ハボックは盤を挟んで向こう側に座る今はもういない誰かの姿を見る。眼鏡の奥で常盤色の瞳を面白がるように輝かせるその人相手に、ロイがチェスを通して静かに語りかけ、答えを導き出しているのかと思うと、ハボックは胸の奥に昏い焔が燃え上がるのを止めることが出来なかった。
(オレじゃあまだまだ役にたたないって事か?)
 ロイの親友だった彼がホムンクルスの刃に倒れてからもう随分と立つが、相変わらず大事な局面では今こうして側にいる己ではなく彼に相談するのかと思うと、ハボックは嫉妬と無力感に苛まれる。
(それじゃあオレはなんなんだよ)
 自分とてロイの役にはたっていると思う。実践部隊の長としてロイの手足となってその意志を実現させるべく先頭に立ってロイの行くべき道を切り開いてきたつもりだ。だが。
(オレじゃあアンタの支えにはなれない?)
 ヒューズと同じ形では無理でも今生きて側にいるものとしてロイの心の支えでありたいのに。
 ハボックが目を閉じて心の中のしょう気を吐き出すように長く息を吐き出した時。
「何を考えている?」
 不意にそう声が降ってきてハボックは驚いたように顔を上げた。見下ろしてくる黒曜石をほんの数瞬見返したハボックは無理矢理に笑みを浮かべる。
「別に無理なにも」
 だが、そう答えた途端、不満げに眉を顰めたロイに思い切り耳を捻り上げられた。
「イテテテテッッ」
 容赦ない行為にハボックは涙の滲む瞳で恨めしげにロイを見る。ロイはフンと鼻を鳴らして言った。
「お前がそんな顔をしている時は非生産的な事を考えている時なんだ」
 違うか?と問われてハボックは唇を噛んで俯く。そうすればロイが金色の頭をポカリと叩いた。
「くだらんな」
 ピシリと言い切られてハボックはムッとしてロイを見る。
「アンタには判りませんよ」
 オレの気持ちなんてこれっぽっちも判りゃしない。そう言えば、
「ああ、全く判らんな」
 そう返されて、ハボックは泣きそうに顔を歪めた。そんなハボックにロイはひとつため息をつく。
「何をそんなに怯えている?私はここにいるのに」
「大佐」
 言って真っ直ぐに見つめてくるロイに息を飲めば、ロイの腕が伸びてきてハボックの金色の頭を抱き締めた。
「迷うな、ハボック。私もお前がここにいる限り迷ったりしない」
 そう囁く声にハボックは目を見開く。
「迷うな、ハボック。お前は私を導く光であってくれ」
 そう囁いて金髪にキスを落としてくるロイをギュッと抱き締めて。
「はい、大佐……はいっ」
 ロイの為にももう迷ったりしないとハボックは心に決めて、硝子のチェスを視界から消し去るようにそっと目を閉じた。


いつも遊びにきてくださってありがとうございます。拍手、元気貰ってます、とっても嬉しいですv

今日泊まったホテルの売店を覗いていたら盤の大きさが15センチ四方位の小さな硝子のチェスが売られてたんですよー。特に土地の土産と言う訳じゃないのですが、1050円とお安かったので思わず買ってしまいましたー(爆)ダンナには「右京さん思い出すね」と言われたけど、勿論浮かんだのはロイだったのは言うまでもありません。そんなわけで今日はこんな話。まぁ、毎度同じような話ばかりですがね(苦笑)旅行来てまでなにやってるんだって感じですが(苦笑)
2011年08月23日(火)   No.96 (その他)

夕日
「あー、くそッ、もっとスピードでねぇのかよ、このポンコツ!」
 ハボックはハンドルをきりながら口汚く罵る。助手席で慣性の法則に従って体を傾けたロイが言った。
「別に無理する必要ないんじゃないのか?」
「でも折角ここまで来たんだし」
 ハボックはそう言いながら車を走らせる。今二人は出張の帰り道、少し足を延ばした先にあるという国立公園に向かっているところだった。
「すっごい夕日が綺麗なんですって」
 ハボックは前方を見つめながらそう言う。ロイが会議でつまらない議論を聞き流している間、喫茶店のウェイトレスから聞いたハボックが寄り道したいと渋るロイを強引に説き伏せたのがこうして車を走らせている理由だった。
(何を話していたんだか)
 ロイにしてみれば情報の出どころが気に入らない。ハボックが本人が気づかないだけで実はかなりモテていることを知っているからだ。
(もしかしたら自分を誘って欲しいというアピールだったんじゃないのか?)
 夕日が綺麗な場所があるから一緒に行かないかと暗に匂わせていたのではといらぬ勘ぐりをせずにはいられないロイだった。
「頼むからゆっくり沈んでくれよ」
 ロイの気持ちなどまるで気づかずにハボックが言う。目的地の近くの駐車場に車を停めるとハボックはキーを引き抜き車から飛び出した。
「大佐、早く!」
 ハボックとは対照的にのんびりと降りてくるロイにハボックは足踏みしながら言う。外に出たロイが体を伸ばすか伸ばさないかのうちにその手を取ると全速力で走り出した。
「おいっ、ハボック!そんな走らなくてもッ」
「なに言ってるんスか!夕日なんてあっという間に沈んじまいますよ!」
 ハボックはそう怒鳴ってロイの手を掴んだまま走る。足をもつれさせそうになりながらもついて行くロイと二人、もう誰もいない木道を走り抜けた。
「大佐、あそこ!」
 木道の終点は開けた展望スペースになっている。そこに走り込んだ途端、目の前に広がる景色に二人は息を飲んだ。
 陽が沈んだばかりの空は水平線に沿って濃いオレンジ色に輝いている。上に行くに従って薄紫に暮れる空に浮かぶ雲が夕日を受けてピンクがかったオレンジ色に染まっていた。水平線の下に広がる海もまたオレンジに染まり、その手前の森を黒く浮かび上がらせている。その光景全てが一度に見渡せて、二人は暫くの間何も言わずに目の前の大パノラマを見つめていた。
「綺麗っスね」
 ハボックが漸く言葉にする事を気がついたと言うようにそう呟く。微かに頷くロイを見て、ハボックは言った。
「来てよかったっしょ?」
「まあな」
 夕日を見つめながらそう答えるロイにハボックは笑みを浮かべて言った。
「話聞いた時、大佐と一緒に見たいと思ったんスよね」
 そう言えばロイが驚いたようにハボックを見る。夕日を映してオレンジの焔を灯す黒曜石を見つめてハボックは言った。
「一緒に見られてよかった」
 そう言って笑うハボックをロイはじっと見つめていたが、フッと笑みを浮かべる。
「そうだな」
 言って笑みを浮かべれば繋いだままだった手をどちらともなく引き寄せて。
 オレンジから段々と紺色に暮れゆく空の下、二人の唇がゆっくりと重なっていった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手励みになります、嬉しいですv

北海道に来ています。今日は知床観光だったんですが、早い時間の飛行機が取れなかったとかでツアーの出発時間が遅めだったんですよね。一時半過ぎに中標津に着いて、知床岬の観光船乗ったりして最後の知床五湖が現地6時過ぎでほぼ日の入りの時刻。それでも一湖の展望台まで行きますってことで高架木道通って行ったんですが、すっごく綺麗でしたーv開けた向こうの水平線がオレンジに染まっているのはホント絶景でしたよ。ゆっくり夕焼けを見たのなんて久しぶりかも。駆け足でも行った甲斐があったってものですv

以下拍手お返事です。

菜ノ花さま

わーい、早速読みに伺いました〜!ハボに告白されて戸惑うロイが可愛い〜vロイが告白されたのを聞いて「俺だって」と張り合う幼なじみがカワイソ楽しいです(ヒドイ)ハボには好きと言われても嫌悪感ないんですね、うふふv可愛い二人をありがとうございます!書いて頂けて良かった〜!とっても楽しかったですv
2011年08月22日(月)   No.95 (その他)

暗獣19
「ハボック?」
 本を読んでいたロイはハボックの姿が見えないことに気づいて辺りを見回す。暑い日が続く今日この頃、ハボックはロイの側で過ごすことが殆どだったから、その小さな姿が見えなくなれば妙に気になって、ロイは本を置いて立ち上がった。
「どこに行ったんだ?」
 最近ではすっかり定位置になっていた部屋の中の風の通り道である床の上にはハボックの姿はない。ぐるりと部屋の中を見回したロイは、窓から身を乗り出すようにして庭を見下ろした。
「いた」
 ハボックは丁度部屋の真下辺りに立っていた。仰向けた顔が空を見ているのかと思ったが、どうやらハボックの視線はもう少し下を向いているようだ。なにをしているのだろうとロイが見つめる先で、ハボックは不意に庭木の一本に駆け寄っていく。その勢いのままピョンと手を伸ばしてジャンプすれば、ビビッと悲鳴のような鳴き声を上げて蝉が飛び立っていった。
「ッッ!!」
 その途端ハボックが顔を手の甲でこする。どうやら逃げる際にひっかけられたらしいと察して、ロイは必死に顔をこすっているハボックの姿にククッと笑って声をかけた。
「やられたな、ハボック」
 そう言えばハボックがきょろきょろと辺りを見回す。
「こっちだ、ハボック!」
 声の出所を探すものの見つけられずにいるハボックにロイはニヤリと笑うと一度中に引っ込み、グラスの水を持ってきた。窓の下あたりでまだ辺りを見回しているハボックの頭めがけて水を振りかける。そうすればびっくりして飛び上がるハボックを見て、ロイはゲラゲラと笑った。
「ッッ!!」
 流石に今度はロイの居場所を見つけてハボックが見上げてくる。鼻に皺を寄せてムゥとロイを睨んだハボックはポンと毛糸玉に姿を変えた。ポンポンポンと木の幹や壁にボールのように跳ね返りながらあっと言う間に上まで上がってきたと思うと、二階の窓辺に立つロイに飛びかかってくる。
「わわっ」
 頭やら顔やら肩やらポンポンと飛び跳ねられて、部屋の中を逃げ回るロイの持つグラスから零れた水がロイの顔を濡らした。
「ハボック!!」
 しつこく飛び跳ねるハボックにロイが大声を上げる。そうすれば最後にポンと跳ねたハボックが再び姿を変えてロイの前に立った。ムンと両手を腰に当てて睨んでくるハボックをロイは濡れた顔で情けなく見下ろす。ロイの前髪からポタリと雫が落ちるのを見て、ハボックがニコニコッと笑った。
「満足か?」
 やれやれとため息をついて、ロイは脚にしがみついてくるハボックを抱き上げる。コツンと額を軽く打ちつけると楽しそうに笑うハボックを見れば、ロイも笑うしかなかった。
「蝉を捕まえるのはちょっと難しいな」
 ロイは言いながらハボックを抱いて階下に降りる。そのまま庭に出ると、さっきハボックが蝉を捕まえようとしていた木の辺りまでやってきた。
「その代わりと言ってはなんだが……」
 ロイはハボックを抱いたまま木の周りをしげしげと見て回る。葉陰に蝉の抜け殻を見つけてにっこりとロイは笑った。
「ほら、ハボック。これも結構いいだろう?」
 そう言ってハボックに渡した抜け殻は脚も折れずに完璧にその姿を保っている。嬉しそうに陽にすかして抜け殻を見たハボックは、ロイの腕からピョンと飛び降り家の中に駆け込んでいった。
「おい、そのまま宝物と一緒にしたら潰れるぞ」
 堅そうに見えるものの所詮は蝉が脱ぎ捨てた皮だ。他のものと一緒くたにすれば壊れてしまうのは目に見えていて、ロイは慌ててハボックの後を追う。急ぎ足で階段を上がり寝室に入ったロイの目に飛び込んできたのは。
 大好きな天使達を覆う時計のガラスのドームの上に抜け殻を置いて、棚の縁に掴まるようにしてフンフンと鼻歌を歌うハボックの姿。
「ハボック」
 呼べば尻尾をふぁさりと振って、空色の瞳がロイを見上げてくる。ロイは金色の髪をくしゃりとかき混ぜて、天使と蝉の抜け殻を楽しそうに眺めているハボックの鼻歌を聴いていたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございますv拍手、頑張る励みになります、嬉しいです〜vv

「暗獣」です。こんなまったり話でいいんだろうかと思いつつ書いている暗獣ですが、意外に「好き」と言って下さる方がいらしてとっても嬉しいです〜vそしてそう言って頂けると調子に乗って書く(苦笑)しかし、この話ハボックが喋らないので、ものっ凄く読んで下さる方の想像力に頼っている気がしますー(汗)二人の様子が思い描けるよう、少しでも上手く書ければいいんですが。どうぞ皆さま、うまいこと想像してやって下さいましー(こら)

そういやこの間書いた「人工知能」は10話目でした。そして9話も夏の暑い盛りの話だった。要するに一年ご無沙汰だったって事ですね。しかも同じネタで書いてるってどんだけ書いた事覚えてないんだ、自分orz 自慢じゃないけど実は自分で書いた話でありながらばっちり覚えているのはまずありません。殆ど覚えてないので読み返すと「へー、こんな展開だったのか」と思う。鳥頭にも限度があるような(がっくし)

そうそう、更新の件、明日は更新ありますが来週はまた旅行で不在になりますので更新お休みしますー(苦)日記はなるべく書けるよう、携帯充電して頑張りますので、そんな感じでよろしくお願い致します。

以下、拍手お返事です。

暗獣18の水遊びするロイハボに の方

いや〜ん、本当ですか?そう言って頂けて滅茶苦茶嬉しいですvvまた暑さがぶり返してくるようですが、少しでも気分転換のお役に立てたらシアワセですv
2011年08月19日(金)   No.94 (カプなし)

吸血鬼8
alucard 8

「あるものは好きに使っていいぞ」
 ロイはそう言いながら扉を開く。促されて入ったそこは立派な調理器具が並ぶ広い厨房だった。
「すげぇ……」
 中に一歩入ってハボックはその立派さに目を見張る。備え付けてあるコンロもオープンも冷蔵庫も、そこにあるものはどれもこれも最新型のものばかりだった。
「こんなの初めて見た……」
 雑誌の広告で見たことはあるが、街の小さなレストランで働くハボックには縁のないものばかりだった。いつかこんな器具のある大きな店で働けたらいいと思いはするものの、ハボックにとっては夢物語に過ぎなかったのだが。
「これでは不満か?」
 立派な器具を前に何も言わずに見つめていれば、不意に心配そうに尋ねる声が聞こえてハボックは声のした方を見る。そうすればロイと目があって、ハボックは慌てて首を振った。
「不満だなんて!こんな立派な厨房、入った事ねぇっスよ。立派過ぎてオレが作るような料理には勿体無いって言うか……」
 ハボックはそう言ってバッグを持つ手を握り締める。
「マスタングさん、オレにはここでマスタングさんに食べて貰えるような料理は作れないっス。どうぞ料理人を呼び戻して作って貰って下さい」
 恐らく自分に気を遣って、料理人達は奥に引っ込んでいるのだろうとハボックが言う。だが、ロイは薄く笑って肩を竦めた。
「さっきも言っただろう?ここには料理人はいないんだ」
「は?料理人がいないって、じゃあこの厨房は誰が使ってるんスか?毎日料理作るっしょ?」
 そこまで言ってからハボックは浮かんだ考えにハッとして目を見張る。
「そっか!奥さん!マスタングさん、結婚してるんスね!」
 目の前の男は結婚していても不思議でない年代だ。こんな簡単な事を失念していたなんて、自分はなんて馬鹿なのだろうとハボックが思った時、ロイがプッと噴き出す。突然笑い出したロイにハボックがキョトンとしていれば、ひとしきり笑ったロイが言った。
「私は独身だよ、ハボック」
「え?それじゃあ彼女が来て作ってくれるんスか?」
 あくまでロイの為に作ってくれる誰かの存在があるものと信じて疑わないらしいハボックをロイはじっと見つめる。真っ直ぐに見つめてくる黒曜石に何だか全て見透かされてしまいそうで、落ち着かなげに視線を彷徨わせるハボックにロイは言った。
「残念だが私には料理を作ってくれるような人間はいないんだ」
「え?それじゃあ日々の食事は―――」
 どうしているのだろう。そう思ったハボックが問いかけるより早く、ロイが言った。
「私の為にパスタを作ってくれるんだろう?頼むよ、ハボック」
 そう言ってにっこり微笑まれれば、もうこれ以上作れないと言うのは単なるワガママにしか聞こえなくなってくる。ハボックは一つ息を吐き出して頷いた。
「判ったっス。それじゃあ精一杯腕ふるわせて貰います」
「頼むよ」
 漸く望む答えが返ってきてロイは嬉しそうに笑う。それに笑い返してハボックはバッグを下ろし、取り出したエプロンをつけたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、更新励みになります、嬉しいですv

【ハボロイリレー小説部屋更新のご案内】
先週末に「volere」第一章出会い5おうかさん分更新されてます。ご案内遅れてすみません(汗)

「吸血鬼」ですー。おかしいな、料理するところまでで一話になるはずだったんだが、ハボックがいつまでもウダウダしてるから料理をする前までで一話使ってしまったじゃないか(おい)こうだからズルズル話が長くなる気がしますー(苦)

以下、拍手お返事です。

柚木さま

「暗獣」気に入って頂けてますか?嬉しいですーvコピー本か……来年まで連載してたらなるかもしれません(爆)本当毎日暑いですね、最近は省エネで冷房が弱めのところが多いとはいえ、やはりこう暑いと外との温度差が体に優しくないと思います〜。お体お気をつけてお過ごし下さいね。
2011年08月17日(水)   No.93 (カプなし)

暗獣18
「暑いなぁ」
 ロイはそう呟いて額の汗を拭う。窓辺の椅子に腰掛けて外へ目をやれば、雲一つない空が広がっていた。
 ここのところアメストリスは例年にない猛暑が続いていた。もともと暑さが苦手であるロイはいい加減うんざりして椅子に沈み込むように体を預ける。ハボックの瞳と同じ色の空も、今のロイには憎らしいばかりだった。
「お前がこの家から出られるなら避暑にでも出かけるんだが」
 ロイはそう言いながらハボックを見る。ハボックは部屋の中の一番風通しのよい場所で腹を床に着けてぺったりと伏せていた。窓から入る風がハボックの金髪と尻尾の毛をさわさわと撫でて通り過ぎていく。半ばぼうっとした頭でその様子を暫く眺めていたロイは、一つため息をつくとやれやれと立ち上がった。
「冷たいものでも飲んでこよう……」
 そう呟いてロイがよろよろと部屋を出ていけば、伏せていたハボックも起きあがって後を追った。

「冷蔵庫の中に住みたい……」
 ロイは開け放った冷蔵庫の中に首を突っ込んでそう呟く。軽い足音に振り向けばハボックが不思議そうな顔で見つめてくるのと目があって、ロイは慌てて冷蔵庫を閉めた。
「別に涼んでいた訳じゃないぞ」
 ロイは言い訳のように呟いてグラスに注いだミネラルウォーターを一気に飲み干す。古い屋敷は暖炉はあるものの夏の暑さを凌ぐための画期的な設備はなく、鈍い音を立てて羽を回す扇風機は熱風を送る役にしかたたなかった。
「暑いなぁ」
 ロイは未練がましく冷蔵庫を見つめて呟く。それでもハボックの視線を感じれば仕方なしに冷蔵庫から離れた。
「暑いなぁ……」
 言うまいと思うものの気がつけばそう言ってしまう。言えばそれだけ暑さと苛立ちが増して、ロイは窓越しに晴れ渡った夏空を睨みつけた。
「まったく、本を読む気もおきやしない」
 どんな状況でも読書だけは出来る自信があったが、流石にこう暑いと頭がぼんやりとして字を追う気にもならない。暫くの間空を睨んでいたロイはふと思いついた考えにハボックを見下ろした。
「水を撒こう、ハボック」
 ロイの言葉にハボックがキョトンとして首を傾げる。ロイはハボックの体をヒョイと抱き上げると庭に出た。ハボックを下ろして、ロイは物置から長いホースを引っ張りだし庭の隅の蛇口に取り付ける。あまり使っていなくて堅い栓をキュッキュッと音を立てて捻れば、ホースの中を水が駆け抜けていった。そうしてロイが手にしたホースの先から水が勢いよく飛び出してくる。最初生温かった水が冷たくなって、ロイは嬉しげにホースの先を潰した。ロイが潰したホースの先から噴き出した水が太陽の光を受けてキラキラと輝く。それを見たハボックが顔を輝かせるのに気づいて、ロイはニヤリと笑うとホースの先をハボックに向けた。
「ッッ!!」
 直接水をかけられてハボックが飛び上がる。必死になって庭中を逃げ回るのを狙って水をかければ、ハボックは庭木の陰に飛び込んだ。
「暑いから気持ちいいだろう?」
 笑いながら言うロイを木の陰からそっと顔を出したハボックが見上げる。金色の頭めがけてホースを向ければハボックがポンと小さな毛糸玉に姿を変えた。
「あっ」
 ハボックの姿を見失ってロイがきょろきょろと庭を見回す。茂る緑の中に毛糸玉を見つけられずにいると、不意に葉陰からピョンと飛び出した毛糸玉がロイの顔めがけて飛びついてきた。
「うわっ」
 ぶつかる寸前に再び姿を変えたハボックに顔にしがみつかれてロイは芝生の上に倒れ込む。手から離れたホースが宙に舞って、二人の上に水が降り注いだ。
「こら、ハボック!」
 慌ててハボックを引き剥がし、ロイは水道の水を止める。すっかり濡れそぼった姿で顔を見合わせた二人は、次の瞬間弾けたように笑った。
「気持ちいいな、ハボック」
 ロイはもう一度蛇口を捻ると潰したホースの先を上に向ける。そうすれば高く噴き上げられた水が太陽の光を浴びてキラキラと降ってきた。喜んで空に手を伸ばして跳ね回るハボックと一緒に水を浴びながら存分に涼んで、ロイは水を止める。ホースを隅に片づけたロイはハボックを連れて家の中に戻った。
「ああ、すっきりした」
 ロイは子供のように楽しげな口調で言うと、ハボックと一緒にシャワーを浴びて服を着替える。水遊びとシャワーですっかりと汗が引けば俄に込み上げた眠気に、ロイは欠伸をしながら二階へ上がった。窓辺の椅子にドサリと腰を下ろすと後からついてきたハボックがロイの膝によじ登ってくる。ロイは椅子に深く腰掛けてハボックの金髪をワシワシとかき混ぜた。
「楽しかったな、ハボック。今度から暑いときはこれにしよう」
 ロイは言って窓の外へ視線をやる。さっきまでは憎らしいばかりだった青空もとても清々しく感じて。
 窓から入る風に黒髪と金髪を遊ばせながら、ロイとハボックはのんびりと夏の午睡を楽しんだ。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいです〜v

いや、久しぶりに「恋猫」でも書こうと思って読み返していたのですが、diamondに格納してあるのが17話、でもその後日記に書いたよねぇ……。実家だと読み返せなくて書けませんでしたー(苦笑)
そんなわけで「暗獣」です(笑)例によってまったり話で進展がありませんが(苦笑)それにしても毎日暑い……もういい加減暑いの飽きたから涼しくなってくれないかしら。ホント秋が恋しいですーorz
2011年08月15日(月)   No.92 (カプなし)

人工知能10
「まったく……なんて暑さだ」
 ロイはそう呟いて額の汗を拭う。たまの休日、欲しい本を探して古書店巡りをしようと家を出たはいいが、あまりの暑さにロイは二軒目の店を出たところでいい加減嫌になっていた。
「……今日のところは帰ろう」
 普段のロイであれば本への熱意は多少の事では萎えたりしないが、今日の尋常でない暑さの前では流石の熱意もその熱度が敵わなかったようだ。ロイはげっそりとしたため息をつくと手ぶらのまま家への道を辿り始めた。
 太陽は容赦なくジリジリと照りつけ、焼けた石畳は熱を照り返して暑さを倍増する。ロイは黙々と歩いていたが、丁度目に入った木陰に向かった。少しでも涼をとろうと入った木陰にロイと同じ事を考えたらしい人が入ってくる。近くに人がくれば焼けた服の生地や肌から上る熱気で、もともと大した涼しさもない木陰は日向とは直射日光がないだけの違いしかなくなってしまった。
「……」
 ロイはうんざりとしたため息をついて再び家へと歩き出す。暑さの中歩くのにいい加減キレかかった時漸く家が見えて、ロイは最後の十数メートルを一気に歩くと家の中に飛び込んだ。
 途端にひんやりとした空気が体を包み、ロイはホッと息を吐く。廊下の先のガラス扉を抜けた先の部屋に入れば、聞き慣れた声がロイを迎えた。
「お帰りなさい、大佐」
「ハボック」
 シュンッと軽い音がして金髪の青年が姿を現す。ロイが体を預けるように倒れ込んだ何もない空間に床から椅子がせり上がり、ロイの体を受け止めた。
「暑かったっしょ?」
 ハボックはそう言って冷たいミネラルウォーターが入ったグラスをロイのところへ運んでくる。実際はホログラムの青年が運ぶことはなく、彼の動きに合わせてワゴンがロイのところへグラスを運んでいるのだった。
「ありがとう、ハボック」
 それでもロイは、ハボックに向かって礼を言う。口に含めば微かにレモンの爽やかさが口に広がって、ロイは一気にグラスの水を飲み干した。
「……」
 ふぅと息を吐くロイの耳に漣のように笑うハボックの声が聞こえる。一気に飲み干したグラスをワゴンに置くと、グラスがワゴンの中に吸い込まれるように消えて、代わりにカフェオレのカップが現れた。
「一息つきました?」
「ああ」
 ハボックの声にロイは頷いてカップを取る。程良い熱さのカフェオレは暑さに疲れたロイの体に染みて、疲れを溶かしていった。
「まったくとんでもない暑さだ。おかげで本を探せなかった」
 せっかくの休みだったのにとぼやくロイの足下にハボックはしゃがみ込むと、ロイの膝に頬を寄せる。ロイはホログラムの金髪を撫でるように手を寄せると目を細めた。
「お前は煩わしい熱がなくていいな」
 外の余りの暑さにいい加減うんざりしていたのだろう、人の体温さえ鬱陶しいとロイが笑う。カフェオレを飲み干し少し休むと目を閉じたロイが、程なくして規則正しい寝息を立てればハボックはそっとため息をついた。
「オレにとっちゃその煩わしい熱こそが一番欲しいものなんスよ、大佐」
 ロイに触れることが出来る熱を持った体を得るためならどんな事だってするのに。
 ハボックはそっと目を閉じると微かな音と共にその姿を消す。後には己の膝に手を載せて眠るロイが一人残されていた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

忘れ去られているであろうシリーズ(爆)「人工知能」です。今実家なもので何話目か判らない(苦笑)家帰ったら番号振っときますー。って、間空きすぎってことですよね(汗)

今日は夏コミ行ってきました。いやぁ、暑かった……。判っちゃいたけどやっぱり暑かったです。それでもしっかり好きなロイハボ絵師さんに無理言ってロイとハボック描いて貰っちゃったしv(←迷惑な)もうそれだけで良し!前日にいきなりご一緒する事にして頂いたSさんともゆっくりお話出来てたしv暑かったけどとっても楽しかったですv

以下、拍手お返事です。

菜ノ花さま

おおお、ハボロイ書いて頂けたんですか!!わ〜〜いv無理言ってけしかけた甲斐があった!!(こら)是非是非読ませて頂きたいですーッ!!サイトにアップされてるんでしょうか?どちらへ伺えばー??教えてくださいませ〜v
2011年08月12日(金)   No.91 (カプなし)

平行世界〜記念日編
イロモノ混在。苦手な方ご注意

「ジャン!」
「ハボ」
 ハボックは時計台の下に立つ長身に向かって手を振って足早に近づく。己と瓜二つでありながらどこか甘い感じがする青年の側までくるとハボックは言った。
「ごめん、待たせた」
「いや、オレも今来たばっかだから」
 ハボックの言葉ににっこりと笑ってジャンが答える。その優しい笑顔にハボックも笑い返した。
「じゃあ行こうか」
 そう言ってハボックはジャンを促す。随分と前に二人きりで食事に出かける約束を交わしていたハボックとジャンは、今日はその約束を果たすために普通であるなら乗り越えられない時空の壁を越えて会っているのだった。
「ジャン、ここ」
 狭い路地に入ったところにあるこぢんまりとした店にハボックはジャンを案内する。カランとドアベルを鳴らして扉を開けながらハボックは言った。
「ロイが好きな店なんだ」
「そうなの?」
 ハボックが中へ入れば馴染みの店員が二人を席に案内してくれる。向かい合って腰を下ろすとハボックはビールとつまみになりそうなものを幾つか注文した。
「はい、食いたいもの選んで、ジャン」
「え?オレ?」
 メニューを差し出されてジャンは慌てて覗き込む。急かしてしまわないよう、店員は先に受けた注文を奥へ通しに行った。
「ええと、カラマリサラダって旨い?」
「うん、小さい揚げイカリングが入っててスパイシードレッシングがかかってんだけど、旨いよ」
「じゃあ、それと……」
 ジャンはハボックに尋ねながらメニューを選んでいく。一通り選んでオーダーすると、丁度運ばれてきたビールを手に取った。
「それじゃあ俺たちの日に乾杯!」
「オレ達の日ってなんか恥ずかしくねぇ?」
 グラスを合わせながらジャンが顔を赤らめる。ハボックは一気にビールを半分ほど飲んでニヤリと笑った。
「だって実際俺たちの日だろ。だから今日にしたんじゃないか」
「まあそうだけど」
 ジャンは答えて鶏レバーのムースを口に運ぶ。美味しい、と顔を綻ばせるジャンを見つめてハボックは言った。
「元気してたか?ジャン」
「うん、見ての通り元気だよ。ハボは?」
 ニコッと笑うジャンの笑顔にハボックは胸がほわんと暖かくなる。相変わらずの癒し系だなぁと思いながら元気だと答えるハボックにジャンが言った。
「ロイ、どうしてる?」
「ん?ああ、相変わらずだよ。会議サボるし抽斗の中におやつ詰め込んでるし」
「あはは」
 そう聞いてジャンが笑う。ガーリックで味をつけた焼き牡蠣を頬張ってジャンは言った。
「ロイって可愛いよね、守ってあげたくなるっていうか」
「……それ聞いたら怒るぜ、ロイ」
「なんで?」
 言われてキョトンとするジャンにハボックは苦笑する。ロイとハボックにとってジャンは弟のようで、可愛くてたまらない彼を傷つけようとする全てのものから守ってやりたいと思う存在だ。そんなジャンに可愛くて守ってあげたいと思われていると知ったら、ロイが不機嫌になるのは明らかだった。ジャンはよく判らないというように首を傾げていたが、ビールを一口飲んで言った。
「ロイにも会いたかったな」
「なんだよ、俺だけじゃ不満?」
 せっかく自分たちの記念日に二人だけで過ごす時間を満喫しようとしているのにそんな事を言うジャンにハボックは顔を顰める。唇を突き出して不満な気持ちを隠そうともしないハボックにジャンは慌てて首を振った。
「そう言う事じゃなくて、ほら、こっちにはなかなかこられないだろ?」
 それは確かにジャンの言うとおりだ。実際平行して存在する世界の理を無視して二人のジャン・ハボックが一緒にいるなど本当なら許されることではなかった。
「やっぱりロイも呼べばよかった。二人で祝うのもいいけどみんなに祝って貰えばきっともっと楽しいよ」
「ジャン……」
 そう言われてしまえば返す言葉がなくてハボックが口を噤んだ時。
「それなら一緒に祝うとしよう!」
 その声と同時にマスタングが満面の笑みと共に現れる。ジャンっ、と叫んで抱き締めようとするマスタングの頭を一緒にやってきたロイが思い切り拳固で殴った。
「ジャンが呼べばよかったと言ったのは私だっ!お前などお呼びじゃないッ!」
「なんだとっ?ジャンはみんなに祝って貰いたいと言ってるんだぞ!」
 二人して現れたと同時にギャイギャイと言い合いを始めるマスタングとロイをハボックとジャンは目を丸くして見つめる。
「一体どうしてここが」
 出かけるとは言ったが目的も場所も言わなかったはずなのにとハボックが呟けば、ロイがフンと鼻を鳴らした。
「私の目を盗んでジャンに会おうだなんて百年早いぞ、ハボック」
「こんな狼と二人きりで会うなんて、危険にもほどがあるぞ、ジャン」
「百年早いって、アンタね……。おいっ、馴れ馴れしくジャンに触ってんじゃねぇっ!!」
 目の前で騒ぎだす三人をポカンとして見つめていたジャンが、俯いて肩を震わせる。
「ジャン?」
「どうしたジャン?」
「どこか痛むのか?」
 心配して覗き込む三人に。
「ハボもロイも大佐も、みんな大好き!」
 顔を上げたジャンがそう叫ぶ。
「みんなでお祝いしよう。きっと楽しいっスよ、ね?」
 そう言って笑うジャンの笑顔に。
 三人は顔を見合わせて笑うと、さっそく持ってこさせたグラスを乾杯と高く掲げたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、ヤル気貰ってますvありがとうございますv

ハボックの日ですね。そんな日に相応しく、空は朝から晴れ渡り夏の陽射しが降り注いでおります。暑いってば(苦)
ハボックの日はハボックでお祝いと言う事で攻め受け両ハボ登場させました。これまたお久しぶり、平行世界の連中です。この設定、嫌いな方は嫌いだろうなと判ってるんですが(苦笑)とりあえずみんなで乾杯出来れば目出度いってことで〜。ちなみにカラマリサラダとか焼き牡蠣とか、昨日食べてきました。息子が合宿で不在なので普段食べに行けないオイスターバーへ行ってきたんですよ。旨かったですv夏の生牡蠣も美味っスよv

あ、そうそう。木曜日から実家に帰るので今日の更新後、土曜と火曜は更新お休みしますー。日記は出来るだけ書けるように頑張ります。そんな感じでよろしくお願いします。

以下、拍手お返事です。

Sさま

最凶コンビでのお仕事、お疲れ様ですーー!ハイムの二人がリフレッシュのお役にたてたのならとっても嬉しいですvこちらこそSさまの一言で久しぶりに王子と姫を書く事が出来て楽しかったですvお忙しい中頂いたリク、勿論書かせて頂きますとも!両片思い、いいですよねvvカッコいいSPハボック書けるように頑張りますvv
2011年08月09日(火)   No.90 (カプなし)

吸血鬼7
alucard7

 ハボックは目の前の古い屋敷を口を開けて見上げる。こんな森の奥深く入ったところに建っているとは思えぬほど、屋敷は大きく立派だった。
「すっげぇ……」
 先ほどロイが言っていた長老の話といい、恐らくは由緒ある立派な家柄なのだろう。きっと料理人だって最高の人材を揃えているに違いなく、ハボックはロイの誘いがあったからとはいえ、たかが小さなレストランのコックである自分が料理を作りに来たことを激しく後悔していた。
「どうしよう、オレなんかが料理していいとこじゃねぇよ……」
 ロイの肥えた舌を満足させられるような料理などとても作れない。ハボックは肩にかけたバッグをグッと引き寄せる。自分としてはいい食材を揃えてきたつもりだったが、ロイの目にはいかにも貧相に映るだろう。
「のこのこやってきたオレが馬鹿だった……」
 ハボックがそう呟いて(きびす)を返そうとした時。
「ハボック!なにをしている?早く来い!」
 呼ぶ声に顔を上げればロイが短いステップを上がった扉のところからハボックを見ている。ハボックは少し迷ってから駆け寄るとステップの下からロイに向かって言った。
「すみません、マスタングさん。オレ、帰ります」
 ごめんなさい、と頭を下げてハボックはクルリと背を向ける。だが、数歩も行かないうちにハボックはグイと腕を引かれて引き留められた。
「どう言うことだ?帰るって、何故?」
 怒ったような表情でそう言うロイをハボックは直視出来ずに目を逸らす。一度キュッと唇を噛んで、ハボックは言った。
「だって……こんなでっかい屋敷に住んでて、料理人だって一流の人雇ってんでしょ?オレなんかが作れるわけないじゃねぇっスか」
 ハボックの言葉を聞いてロイは目を瞠る。目を逸らしてこちらを見ようとしないハボックに、ロイはフッと笑って言った。
「この家に料理人はいないよ」
「え?」
 驚いて顔を上げるハボックにロイは笑う。
「料理人はいないんだ。ほら、いいから中へ入れ」
 ロイはそう言ってハボックの腕を引く。ロイに導かれるまま大きな玄関扉をくぐって中へ入れば、そこは広いホールになっていた。
「お帰りなさいませ、ロイ様」
「バルボア。ハボックを連れてきた」
 出迎えた男にロイが言う。バルボアと呼ばれた男はハボックを見て言った。
「ようこそ、いらっしゃいました、ハボック様。ロイ様のお世話をさせて頂いておりますバルボアと申します。これからはハボックさまのお世話も申し使っておりますので、なんなりとお申し付けください」
 そう言って深々と頭を下げる男にハボックは目を丸くする。
「いや、お世話ったって……」
 今日はロイのために料理を作りに来ただけで夜には戻るつもりだ。特に世話を焼いてもらう必要もないと困ったような顔をするハボックにロイが言った。
「ハボック、キッチンはこっちだ」
「え?あ……はい」
 ロイの後についてハボックは屋敷の奥へと入っていく。その背をバルボアの昏い瞳がじっと見つめていた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになりますvありがとうございますv

もうすっかり忘れ去られていそうな「alucard」です。去年の10月以来、かな。これで見落としてたら笑えるが(苦笑)とにかくぼちぼち日記連載も進めていければいいなと思ってますー(←断言できないところがミソ)

ところで、ハボロイ拍手リクお寄せくださった方々には本当にありがとうございます。いや、正直もし一個もなかったら「カモン」と振り上げたこの手はどこへ下ろせばいいんだろうと内心心配していたのですが、蓋を開けてみれば五つも頂いてしまいました。嬉しいですーvv頂いた順にチャレンジさせて頂きますね。ええと、多分じゃなく時間かかるかと思われますが気長にお待ち下さいませ(汗)頂いたリクエストは下記の通りです。

no.80「見毛相犬」設定でのお話(byりんさま)
no.81「ハボ←ロイで。ノーマルなハボを自分に惹き付け、尚かつハボに男同士のHの仕方を教えてしまう」(by阿修羅さま)
no.82「バイオリンを弾くハボと惚れ直す大佐」(by貴和子さま)
no.83「猫になる体質を持ったロイと世話をすることになってしまったハボックの話」(by柚木さま)
no.84「VIPなロイさんとSPのハボック、両片思いから両思いまで」(bySさま)

拍手リクはハボロイ、ロイハボ合わせて通しで番号振ってるんですが、気がつけば80越え……。いやもう本当にありがたいです!リクの何が楽しいかっていうと、自分じゃ思いつかないような面白いネタに出会えるってことでしょうか。今回も見てるだけでニヤニヤしちゃうようなリクを本当にありがとうございます。楽しいお話をお届けできるよう頑張りますvv

以下、6日拍手お返事です

りんさま

いつも遊びに来て下さってありがとうございますv拙宅でロイハボにも嵌って頂けたとのこと、めちゃくちゃ嬉しいです〜v大好きだなんて、いやもう照れくさくも嬉しいですv「見毛相犬設定での話」リク承りました。頑張って書いていきますので暫しお待ちくださいませvりんさまもお体お気をつけてお過ごしくださいね。

阿修羅さま

いつも遊びに来て下さってありがとうございますーvご家族の体調が優れないとのこと、ご心配ですね。そんな中での拍手、ありがとうございます!「金剛石」もお楽しみ頂けているとのことで嬉しいです。うわ、お友達にもですか!キャ〜ッ、恥ずかしいーッ///でも楽しんで頂けたら嬉しいです。ハボ←ロイのリク、承りました。「先生がお・し・え・て・あ・げ・るv」には思わず噴き出しちゃいましたよ(笑)いやあ、楽しく書けそうですv待っててくださいねv

貴和子さま

アンソロの方もお読み頂いてありがとうございますーvあはは、燃焼理論!でも、思い出したくない事とかあると一生懸命他の事考えたりしませんか?うえださんはバイオリンの名手だったんですね!ふふふ、「バイオリンを弾くハボ」承りました、タマラ〜ンvロイが惚れ直すほどカッコよく書けるように頑張ります!貴和子さまも暑い中、お体お気をつけてお過ごしください。

柚木さま

リク色々ありがとうございます!どれにしようかと迷いましたが、「見毛相犬」は他にもリク頂きましたし、現代パラレルはどうにも不得手なもんで(苦笑)猫になるロイがめちゃくちゃカワイイと思ったのでこれで!恋愛に発展するかはその時次第ということで、頑張ります!アンソロは私も初めての体験でしたからちょっとドキドキでした。周りが凄過ぎてかなり恥ずかしかったですー(苦笑)
2011年08月07日(日)   No.89 (カプなし)

光神王国〜記念日編
ハボロイ風味

「このたびは結婚五周年おめでとうございます、ロイ様」
「ありがとう、ハクロ公爵」
 満面の笑みを浮かべて祝いの言葉を口にする男にロイは笑って礼を言う。ハクロはロイの秀麗な顔を見つめて言った。
「それにしてもこの五年でロイ様がハイムダールの為になさったことは本当に素晴らしいですなぁ。いや、私は勿論最初から信じていましたとも。ロイ様なら間違いなくやってくださると!」
 そう言って熱弁を振るう男が、ハボックの正妻としてロイを迎え入れる事をよく思っていなかったことをロイはよく知っている。よくまあこんな事が言えると思いながら、ロイはそんな事はおくびにも出さずにこやかに話を聞いていた。
 今日はハボックとロイの結婚五周年の記念の式典だ。朝から幾つもの行事をこなし、今は祝いの言葉を伝えようと家臣達が入れ替わり立ち替わりロイの前に立ち並んでいるところだった。
(それにしてもハボックは何処に行ったんだ?)
 さっきまではその顔にあからさまに面倒だという表情を浮かべて祝辞を聞いていたハボックは、いつの間にやらその姿を消していた。
「ちょっと失礼します」
 ロイは傍らの国王に会釈して席を立つ。いい加減喉も乾いたとシェリー酒のグラスを取り、その程良い甘さにホッと息を吐いた時、ロイを呼ぶ声が聞こえた。
「ロイ」
 聞き慣れたその声の主を探してロイはキョロキョロと辺りを見回す。広間に飾られた光の神を象った像をグルリと回れば、ハボックがたっぷりと襞を取った垂れ幕の陰に立っていた。
「お前、なにをやっているんだ、こんなところで」
 隠れるようにその長身を垂れ幕の中に潜ませているハボックにロイは眉を寄せる。戻るぞと歩きだそうとするロイの腕をハボックが掴んだ。
「ちょっと外へ出ましょう」
「なにを言ってるんだ。まだ式典は続いて───」
「いいからいいから。ここ、暑いっしょ。少し涼みに行きましょう」
 ね?と笑うハボックの言うとおり、広間の中は人々の熱気でかなり暑い。正装に身を包んでいることもあって、ロイの白い頬はほんのりと紅く染まっていた。
「少しだけだぞ」
 ロイは言ってハボックに引かれるまま庭へと出る。途端に夜の涼しい空気が熱気を払って、ロイは大きく息を吐き出した。
「いい風だな」
 ロイは柔らかな風が頬を撫でるのに任せて目を閉じる。そのロイの手をハボックは握って歩きだした。
「おい」
 涼んだらすぐに戻らなければならないと言うのに城から離れて歩き出すハボックにロイは眉を顰める。
「どこまで行くんだ。すぐに戻らないといけないんだぞ」
「いいじゃないっスか。もういい加減無礼講になってるし、後は父上に任せておけば大丈夫っスよ」
「でもっ」
 今夜の主役は自分達二人だ。その二人が抜けてしまっては拙いだろうと言うロイを振り向いて、ハボックは言った。
「オレはみんなに祝ってもらうより二人きりで祝いたいっス」
 そう言って見つめてくる空色にロイは目を瞠る。「そんな我儘を」とモゴモゴと口にするロイにクスリと笑って、ハボックはロイの手を引いて庭の奥へと進んだ。
「ロイ、こっち」
 ハボックは青々と茂った木々の間にロイを連れていく。肩に羽織ったマントを外し地面に広げると座るようにロイを促した。
「ああ、肩凝った」
「……お前な」
 うーんと伸びをして言うハボックにロイは呆れてため息をつく。ハボックは背後についた手に体重を預けるように仰け反るとハアアと息を吐き出した。
「だって朝早くからずっとっスよ。ティが背筋伸ばせって何度も蹴飛ばしてくるし、もうクタクタ」
 ハボックの唇から出た名に、ロイは赤毛の男の姿を思い浮かべてクスリと笑う。もしかしたら二人の姿が見えない事に気づいて探しているかもしれないとロイが言えば、ハボックが否定した。
「ティは探しに来たりしないっスよ」
「何故だ?ティワズならこういうセレモニーを大事にしろと言うんじゃないか?」
「公式の部分はね。でも、もう終わったし。それに」
 と言いかけてハボックは言葉を飲み込む。十年ほど前、同じようにパーティを抜け出したティワズに男とのセックスの手ほどきを受けた事を思い出したが、ハボックは賢明にもそのことを口にはしなかった。
「なんだ、言いかけてやめるなんて」
「まあ、いいじゃないっスか。ティは探しに来ないんだからそれで問題ないっしょ?」
 不服そうに言うロイにハボックは笑って細い肩を引き寄せる。さらさらとした黒髪に唇を寄せて言った。
「今年もこうしてアンタと祝う事が出来てよかった」
「ハボック」
「毎年この日がくる度、オレは神に感謝せずにはいられないっス」
 そう言ってハボックはロイをじっと見つめる。大きな手でロイの頬を優しく撫でた。
「これからもずっと……オレが死ぬまで側にいて下さいね」
 そう言って熱く見つめてくる空色に、ロイは夜風で熱が引いた筈の頬が再び熱くなるのを感じる。染まった頬を見られたくなくてハボックの手を押しやると、顔を背けてロイは言った。
「死ぬまでというのは無理だな」
「どうしてっ?」
 てっきり笑って頷いてくれるとばかり思っていたのに、そんな答えが返ってきてハボックは目を見開く。「なんでっ」と喚くハボックを見ずにロイは答えた。
「私の方が年上なんだぞ。順番から言えば私の方が逝くのは先だろう」
 ロイが言えばハボックが即座にその考えを否定する。
「駄目っスよ。オレの最期の時にはロイとティに手を握っていて貰うって決めてるんスから」
「なんだ、それは」
 そんな事を言う男をロイは呆れて見上げる。ハボックは逸らされていた瞳が自分を見てくれた事に嬉しそうに笑った。
「いい考えっしょ?」
「どこが」
「だからロイはオレより長生きしてくれないと」
 楽しそうに言う男をロイはじっと見つめる。それからそっと目を閉じて言った。
「それは無理だ」
「どうして?」
「お前が死んだらその瞬間に私の息も止まる。お前のいない世界でなんて生きていけない」
 消えそうな声でそう囁くロイをハボックは目を見開いて見つめる。「ロイ」と呼べば、ロイがハッとして目を見開いた。
「いっ、今のはなしだッ!!」
 ロイは真っ赤な顔でそう叫ぶと勢いよく立ち上がる。そのままの勢いで走り去ろうとするロイの手首を、ハボックは咄嗟に掴んだ。
「待って、ロイ」
「離せッ!」
「嬉しいっス」
「だからなしだと言っただろうッ!」
 普段なかなかその想いを口にしてくれない年上の伴侶の思いがけない言葉に、ハボックは嬉しそうに笑う。グイと掴んだ手首を引けば、細い体が胸に倒れ込んできた。
「ハボック!」
「愛してます、ロイ」
 慌てて逃れようとする体を抱き締めてハボックは囁く。そうすればまん丸に見開く黒曜石を見つめて、ハボックは続けた。
「愛してます。オレの命はアンタに捧げます。オレの全てはアンタのものっス」
 そう言って見つめてくる空色にロイは息を飲む。止めた息を細く吐き出して、ロイは視線を落とした。
「馬鹿を言うな。お前はハイムダールのものだ。この国の希望でこの国の光だ」
 たとえどれほど自分達のことを民が祝福してくれようと、それだけは変わらないとロイは思う。俯くロイを見つめてハボックは言った。
「オレはアンタの為ならハイムダールを捨てますよ」
「な……っ?」
「アンタとハイムダールとどっちか一つを取れって言われたら迷わずアンタを取ります」
 その言葉に弾かれたようにロイはハボックを見上げる。ハボックはロイの白い顔を両手で包み込んで言った。
「愛してます。これからもずっとオレの側にいて」
 そう言うハボックの精悍な顔をロイはじっと見つめる。結婚した頃はまだどこか少年っぽさが残っていた顔も、五年を過ぎて今ではすっかりと男の顔になっていた。
「来年も再来年も……五年先も十年先も百年先だって、ずっとずっとこうして二人で祝いましょう」
「……その頃は凄い年寄りだな」
「クヴァジールよりもね」
 クスリと笑う唇にハボックはチュッと口づける。
「ロイ」
 強請るようにその名を呼べば、ロイは小さく息を吐き出して言った。
「ずっとずっと一緒にいよう。毎年こうして二人で祝おう。そして……最期は一緒に光の神の元へ旅立とう」
 この国がその名に戴く神の御下に旅立つその日まで共にあることを誓って。
 青い月明かりの下、二人は何度も何度もその愛を確かめあった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになりますvありがとうございますv

【ハボロイリレー小説部屋更新のご案内】
「volere」第一章出会い4 おうかさん分更新される予定です(今、朝の九時半なのでまだ更新されてませんが、後刻更新されると思います)基本第二、第四土曜日更新ですが、本日はハボロイの日ということでv

ハボロイの日ですねvお久しぶり「ハイムダール国物語」の二人でございます。いや「ハイムダールの二人でハボロイの日のお祝い出来ませんか?」というコメント頂いたもので〜。基本、うちのサイトは言ったもん勝ちです(笑)お答えできるかは私の力量にも左右されますけども……。お祝いになっているのかはよく判りませんが、とりあえず記念日の二人ってことで。ロイがハイムに嫁いで数年がたち、ハボも大人になってきたって感じでしょうか。相変わらずラブラブな二人ですv

あ、そうそう。先日チラリと書きましたがハボロイの日限定でハボロイ拍手リク受け付けてます。気長に待って頂ける方(ここがポイント)よろしければリクしてやってください。

そして、ここからが大事なお知らせ!ハボロイの日の企画は相変わらず目ぼしい物のない拙宅ですが、実は素敵な企画に参加させて頂きました!その名も……ta-da!!

「ハボロイwebアンソロジー 8061 in Summer!」

です!!
その名の通りウェブ上でハボロイのアンソロを楽しむ企画です。総勢12名の絵描きさん&字書きさんがそれぞれ夏のお題を引っ提げて漫画、イラスト、小説をかいてらっしゃいます。豪華メンバー勢揃いで凄いですよ!!私も恥ずかしながら隅っこに加えさせて頂きました。お声掛け頂いた主催の柚さまには本当にありがとうございます!いやいやハボロイ好きにはタマラン企画ですよv是非是非ハボロイスキーな皆さま、お出かけ下さいませ!!こちらからどうぞ↓トップページにもリンク貼っておきます。



この企画、サプライズ企画と言う事で話題に出せなかったんですよねー。駄目と言われると余計に喋りたくなるのもので、喋りたくて堪りませんでした〜(笑)そして日記にご案内を載せる前にちゃっかり先に楽しんで来たんですが(おい)いやもう、ホント凄いっスーーー!!どなたの作品も本当に素敵でハボロイ堪能しまくりです。拙作、あまりにも恥ずかしくて引っ込めたい気分満々なんだがorz ともあれ、暑さに負けず、皆さんも、レッツ、ハボロイvv
2011年08月06日(土)   No.88 (ハボロイ)

暗獣17
「遅くなってしまったな……」
 ロイはずっしりと本が入った袋を抱えて古書店の扉を開ける。通りに出て空を見上げれば、綺麗に晴れ渡っていた空はうっすらとオレンジがかってきていた。
 家を出た後、真っ直ぐ図書館に向かったロイは昼を挟んでずっと調べものをしていた。その後必要な本を探して古書店を渡り歩いているうち、すっかりと遅くなってしまったのだった。
 ロイは重い袋を抱えて夕方の通りを歩いていく。通りはその日の夕飯の材料を買い求める人や、仕事を終えて一杯飲みに出かけようとする人々で賑わっていた。人の流れを縫って歩きながらロイは横目で店先に並ぶものを眺める。何かハボックにと思ったが、甘い香りを放つ桃も茶色い髭をつけたトウモロコシも、ハボックの土産には向かなかった。
「クッキーでも買うかなぁ」
 そう呟いたもののクッキーばかり買うのもつまらない。今日は気の利いたものがなさそうだと、ロイが家へと足を向けようとした時。
 店先に置かれたガラスのポットの中に色とりどりの小さな星が入っているのが目に入る。側に寄ってみれば、それはとげとげも可愛らしい金平糖だった。
「珍しいな」
 子供の頃、大好きだった事を思い出してロイは目を細める。ハボックもきっと気に入るだろうと、ロイは早速店主を呼んで金平糖を包んで貰った。
 ハボックの手のひらにも乗るような小さな包みを手にロイは家路を急ぐ。空の色が綺麗なオレンジに染まる頃、ロイは家にたどり着いた。鍵を開けて扉を開いたロイは、玄関前の廊下を見て目を瞠る。廊下にはロイが出かけた時そのままに、ハボックが伏せていた。
「ハボック」
 ロイの声にハボックの耳がピクリと動く。ハボックは閉じていた目を開けてロイを見上げた。その途端ハボックはパッと身を起こしてロイに飛びつく。ロイの脚に頬を擦り寄せるハボックを見下ろしてロイは言った。
「もしかしてずっとここで待ってたのか?」
 そう尋ねればハボックがパタパタと尻尾を振る。ロイはハボックを促して中へと入った。
 リビングのソファーに荷物を下ろし、ロイは隠しから金平糖の小さな袋を取り出す。手のひらに載せてやれば不思議そうな顔をするハボックを見て、ロイは袋の口を縛る紐を解いてやった。小さな包みの中から覗く淡い色合いの金平糖にハボックは目を瞠る。そっと一粒取り出して高く翳してハボックは目をキラキラと輝かせた。
「気に入ったか?」
 ロイの声が聞こえているのかいないのか、ハボックは袋を逆さにして金平糖を床に広げる。散らばった金平糖を一つずつ丁寧に並べると、床に寝そべり間近から金平糖を眺めた。
 ロイはハボックの頭をぽんぽんと叩くと浴室に向かう。シャワーで汗を流したロイは、濡れた髪をタオルで拭きながら手早く食事の支度を整え簡単に夕食をすませた。買ってきた本のうち二冊だけ残して残りは書斎に運び、既に積んである本の上に更に積み上げる。机の抽斗から手帳を取り出し今日の成果を簡単に書き留めて、少ししてリビングに戻るとハボックは金平糖と共に姿を消していた。
「ハボック?」
 ロイはハボックを呼びながらリビングを出る。他の宝物と一緒にトランクにしまいに行ったのかと、ロイは二階の寝室に向かった。
「ハボック」
 寝室に入ればハボックがベッドの上に座り込んでいるのが目に入る。なにをしているのだろうと近づいたロイは、枕の上に金平糖が綺麗に並べられているのを見て目を見開いた。
「ハボック、ここは宝物置き場じゃないぞ」
 そう言えば空色の瞳がロイを見たがハボックは金平糖をどけてくれようとはしない。どうやら白いカバーの上に淡い色の金平糖を並べるのが楽しいらしく、ロイはやれやれとため息をついてハボックを抱き上げた。
「これじゃあ枕を使えないじゃないか」
 ロイは言いながらベッドに腰を下ろす。そうすればロイの腕から抜け出たハボックが、ロイが腰掛けた拍子に転がった金平糖を枕に並べ直した。綺麗に並べてハボックは満足そうに笑う。それを見れば金平糖を片づけろとはロイには言えなかった。
「仕方ない奴だ」
 ロイは苦笑混じりに言ってベッドにゴロリと転がる。
 その夜、ロイとハボックは金平糖を蹴飛ばしてしまわないように、ベッドの隅で二人して丸くなって眠りについたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手も嬉しいですv

「暗獣」です。これ、ラストに持って行く前に季節で書きたいシーンはあるのですが、どうしようかなぁ。夏場の話は今書けるとして秋とか冬とか書ける季節まで書いてたら、この手のまったり話ばかりになってしまう……。諦めて話を進めるか、季節を無視して話を書くか、暫く休ん……だらそのまま放置になりそうだしなぁ。ちょっと悩むところです。

以下、拍手お返事です。

Sさま

素敵な青年の主張をありがとうございます!(笑)最近あんまりハボロイの方の主張を聞いていなかったので、ちょっぴり安心しました(苦笑)そして、ハイムお好きとのこと、あの話はかなり楽しんで書けて私的にもお気に入りなのでそう言って頂けてとっても嬉しいですvお祝い……出来るかなぁ。ちょっと考えてみますね。上手く出来なかったらごめんなさいってことでっ(汗)
2011年08月04日(木)   No.85 (カプなし)

No. PASS
 OR AND
スペースで区切って複数指定可能
  Photo by 空色地図

[Admin] [TOP]
shiromuku(fs4)DIARY version 3.50