「オレを錬金術師にしてくださいッ!お願いしますッ!」 家の門を開けようとした時いきなり飛び出してきた男にその言葉と共に頭を下げられて、ロイは思い切り顔をしかめる。胡散臭そうに見つめれば、男は慌てて顔の前で手を振った。 「怪しいもんじゃないっス!オレはただ焔の錬金術師に教えを乞いたくて――――」 「お前が怪しい者ではないとどうして判る?」 ロイは男の言葉を遮ってピシリと言う。 「そもそもこんなところにいきなりやってくるなんて、消し炭にされても文句は言えんぞ」 実際発火布を填めていたら迷うことなく指を鳴らしていた。銃を抜かなかったのは一緒にいたヒューズがダガーを掌に落とすのが判ったからだ。ロイに言われて金髪の男は背の高い体を小さく縮めて上目遣いにロイを見た。 「いきなりやってきたのは謝ります。でも他に方法を思いつかなくて……」 「そんなのはお前の勝手な事情だな。私には関係ない。とっとと帰れ」 「そんなっ!お願いしますッ、オレ、錬金術師になりたいんス!」 男はロイの冷たい態度に声を張り上げて一歩出る。縋るように見つめてくる空色にほんの少し罪悪感を覚えながらロイは言った。 「教えを乞いたいならちゃんとその筋を通してこい。なんの身元の保証もない奴をホイホイと弟子に出来るか」 ロイはきっぱりと言って門を開けて中に入ろうとする。だが、ついてくると思ったヒューズの声が背後に聞こえて、ロイは足を止めた。 「お前さん、なんで錬金術師になんてなろうと思ったんだ?」 「えっ?それはその……オレが住んでる所はすげぇ田舎で、禄なもんないし壊れた物を直すにしてもすぐには部品も手に入らないし大変なんスよ。ところがこの間旅の錬金術師が来て、パンッて拍手一つで何でも直したり作り替えたり……。だからオレも錬金術師になったらみんなの役にたてるかなぁって思って……。だからっ!」 と男はロイを見る。 「オレを錬金術師にしてくださいッ!お願いしますッ!」 男はそう言ってもう一度ロイに深々と頭を下げる。ロイはそんな男を見てため息をついた。 「幾ら頼まれても無理なものは無理だ。諦めて帰れ」 何度頭を下げても頷いてはくれないロイに男は顔を歪める。ロイはこれ以上罪悪感を感じていたくなくて、今度こそと背を向けて歩き出す。するとヒューズが立ち去ろうとするロイの背に向かって言った。 「いいじゃないか、弟子にしてやれよ。オレが後見人になってやるから」 「は?何を言い出すんだ、ヒューズ」 「故郷のみんなの為なんて今時健気じゃねぇか。なぁに、コイツが何か悪さしようとしたらオレがコイツで始末してやるから」 と、ヒューズは目にも留まらぬ速さでダガーをハボックの喉元に押し当てる。ギョッとして見開く空色の目元にチュッとキスを落として言った。 「それともなにか?お前、コイツを錬金術師にしてやれるほどの腕はないってか?焔の錬金術師も大したことねぇな」 ヒューズは肩を竦めると紅くなってキスされた目元をゴシゴシとこすっている男に言った。 「残念だったな、お前を錬金術師にしてやるほどの腕はないってさ。悪いが田舎に帰りな」 「そんな……」 すまなそうにヒューズに言われて男はがっくりと肩を落とす。 「……そっか、腕がないなら仕方ないっスね……」 そう呟くとしょんぼりと項垂れて二人に背を向け歩き出そうとする男にロイが声を張り上げた。 「ちょっと待てッ!私に錬金術を教える腕がないだと?聞き捨てならんな」 「え?だってこの人が――」 「いいだろう、教えてやる。そんなに錬金術師になりたいと言うならな」 「本当っスかッ?」 ロイの言葉に男がパッと顔を輝かせる。ロイはフンと鼻を鳴らして答えた。 「ああ、その代わり私の修行は厳しいぞ。途中で泣き言言っても聞かんからな」 「泣き言なんて言わないっス!」 男は満面の笑みを浮かべて叫ぶ。 「頑張ります!よろしくお願いしますッ!」 叫んで深々と頭を下げる男にヒューズが言った。 「よかったなぁ。で?お前、名前なんて言うんだ?」 「ハボックっス、ジャン・ハボック!どうぞよろしくお願いしますッ、マスタング大佐!」 「――――あ、ああ。しっかり気張れよ」 「はいっ」 空色の瞳をキラキラと輝かせて答えるハボックに、ロイはドキリと跳ねた心臓を誤魔化すようにぶっきらぼうに答えた。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、二年半ぶりに更新しましたーッ!ポチっとして下さった方、ありがとうございます、嬉しいですv
「舞妓はレディ」を見てきました。予想に違わず楽しい映画でした。しかし、方言って全然判りませんね(苦笑)私の母は両親が長崎の出なのでリズムは覚えがあるけれど名詞が全然違うのでやっぱり判らないと言ってました(笑) そんなわけで「舞妓になりたい」ならぬ「錬金術師になりたい」ハボックでしたー。いや、舞妓でもよかったんですけどね(笑) でもって、今日は「蜩の記」の試写会に行ってきました。これはこれでいい映画でしたよ。ちょっと寝ちゃったけど(爆)んで、遊んでばっかりいたら更新がね……。先週もサボったので今週は書くつもりだったんですけど、すみません、またハボロイお休みですー(苦)来週こそは何とかー(汗)
以下、拍手お返事です。
なおさま
黒スグリ、ええ、きっと効果ないと思います(笑)ふふふ、妄想大暴走大歓迎ですよ!前屈みのロイ、イイ男なだけに痛いですね(笑)セレスタ、なかなかすぐに手を取り合ってとはいかないようです…。肌をツヤツヤさせたブラッドレイ!想像すると笑えます(苦笑)風、うわ、ブラッドレイと仲よしこよしのロイ!い〜や〜〜ッ(爆)秋の、確かにハボックなら幾らでも食べられそうですv
阿修羅さま
風の行く先、うふふ、楽しんで下さって嬉しいですvドS大歓迎ですよッvvおお、避難勧告!本当に最近の天候不順は怖いですね。大きな災害にならない事を祈るばかりです。
ちいさーい声で言わせてください の方
あはは、いやあ、確かに言われてみるとその通りかも!(笑)いい加減にしないとハボックに見捨てられちゃうのでその辺にしておけと言ってやろうと思います(笑)
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