ハボロイ風味
「暑くなってきたな」 ロイはそう言いながらだいぶ伸びてきた髪をかき上げる。最近よくしているように黒髪を一つに纏めて高い位置で括った。 ハボックはそんなロイの姿を背後から見つめる。髪を括ったロイの揺れる長い髪から白い項が覗いているのが見えて、ハボックは慌てて目を逸らした。 「どうかしたか?」 ロイは言いながら執務机の上の書類を取り上げる。不思議そうに見上げてくる黒曜石にハボックはぎこちなく咥えた煙草に手をやりながら答えた。 「や、別に……」 「おかしな奴だな」 言葉とは裏腹のハボックの態度にロイはクスリと笑って執務室の扉を開ける。会議のため部屋を出ていくロイの後に付いていきながら、ハボックは黒髪の間から覗く白い項に目を細めた。 (目のやり場に困るっての) ハボックは司令部の廊下を歩きながら胸の内でそっと呟く。今すぐ抱き締めて口づけたくなる衝動を頭を振って追いやったハボックは、その拍子にすれ違う軍人たちがチラチラとロイに視線をやっていることに気づいた。 「────ッ、チッ」 不埒な視線を送ってくる輩からロイを庇うように間に立ってジロリと鋭い視線を投げれば、相手は慌てて目を逸らして歩き去る。会議室へのさほど長くはない距離の間に、片手の指では足りない不埒者を視線で追いやったハボックはムスッとしながらたどり着いた会議室の扉を開けた。 「すまない、遅くなった」 すでに着席して後は会議を始めるばかりとなっていた面々にロイはそう言いながら一つ開いていた席に腰を下ろす。軽く首を振ってまとわりつく黒髪を払ったロイが会議の開始を促せば、ロイの事をじっと見つめていた軍人たちが慌てて資料をめくる音が会議室のあちこちから聞こえた。 (見てんじゃねぇよ) そんな様子にハボックの眉間の皺が深まり、目つきが険しくなる。ロイの背後に控えるハボックが纏う空気がグッと冷え込んで、近くの軍人たちがビクビクとした様子でハボックをちらりと伺えば、途端に空色の瞳に睨まれて慌てて書類に視線を落とした。 (大佐が髪伸ばしてからこんな奴ばっかだ) 以前からその端麗な容姿で女性だけでなく男からも注目を浴びるロイではあったが、その艶やかな黒髪を伸ばし始めてからは、その数が五割増しで増えた気がする。おかげでハボックはロイの身近で警護に当たっているときは勿論、訓練や所用で側を離れている時もロイの身辺が気になって仕方ない日々が続いていた。 (大佐はちっとも気づいてねぇし) 他人から見られる事に慣れているせいか、不埒な視線に晒されていてもとんとお構いなしのロイにハボックは内心穏やかでない。いい加減気づいて何とかして欲しいと思いながら、ハボックは眉間の皺を深めて会議室の中を見回した。
「ああ、疲れた……」 長い会議や書類と格闘する時間を終えて、漸く帰宅したロイはため息混じりに言葉を吐き出しながらソファにドサリと腰を下ろす。結い上げた髪を縛る紐を解けばはらりと肩に落ちる黒髪をかき上げるロイに、ハボックは冷蔵庫から取り出したハーブティーを注いだグラスをロイに差し出した。 「ありがとう」 ロイは笑みを浮かべてグラスを受け取ると喉を反らして冷たいハーブティーを一気に飲み干した。 「もう一杯要ります?」 「ああ、頼むよ」 頷くロイの手からグラスを受け取って、ハボックはハーブティーを注いでロイに返す。今度はゆっくりとハーブティーを飲みながら、ロイは窓辺に立つハボックを見上げて言った。 「最近機嫌が悪いな」 「────別にそんなことないっス」 「本当に?」 プカリを煙を吐き出しながら答えれば即座に尋ねられて、ハボックは言葉に詰まる。じっと見つめてくる黒曜石に、ひとつため息を零して応えた。 「アンタが髪の毛、結うから」 「は?」 「イヤラシい目で見やがる奴ばっか」 思いがけない言葉に目を丸くしたロイは、次の瞬間プッと吹き出す。クスクスと笑うロイをムッとして見つめてくるハボックに、ロイはなんとか笑いをこらえて言った。 「何を言うかと思えば」 「嫌なんスよ、アンタがああいう視線に晒されんの」 「別に気にするほどのことでもないだろう?見られたからと言ってどうこうされるわけじゃなし」 「されたら堪りませんよ」 もしそんな奴がいたら即座にくびり殺しそうな目つきでそういうハボックにロイは笑みを零す。その途端じろりと睨まれて、首を竦めてハーブティーを飲み干したロイはグラスをテーブルに置いて言った。 「で?お前はどうして欲しいんだ?」 「どうして、って」 唐突にどうしたいのだと尋ねられてハボックは口ごもる。視線を彷徨わせて数秒悩んでからロイに視線を戻して答えた。 「項、晒すのやめてくれませんか?」 「項?要するに髪を上げるなということか?」 「まぁ……そうっスね」 不貞腐れた様子で頷く年下の恋人に、ロイは笑みを深める。ふむ、と考えて言った。 「じゃあ髪を切ってくれるか?」 「えっ?」 「結わないと暑いんでな」 「いや、でも」 「結って欲しくないんだろう?ほら、さっさと鋏とケープを持ってこい」 思いがけない展開に躊躇うハボックをせっついて、ロイはダイニングの椅子を引っ張ってくる。腰掛けて待てば鋏とケープを持って戻ってきたハボックの手からケープを取り上げ、自分で首に巻いた。 「ほら、切ってくれ」 促されてハボックは鋏を手にロイの背後に立つ。艶やかな髪を片手で持ち上げたハボックが、いつまでたっても鋏を入れようとしないことに、ロイは不思議そうにハボックを見上げた。 「どうした?切らないのか?」 促すように尋ねられてハボックは手にした鋏を握り直す。いざ鋏を入れようとしたハボックが、唸るように声を張り上げた。 「ダメだ、切れない……ッ!」 「は?」 「勿体なくてッ!こんなに綺麗なのにッ!」 天井を見上げてそんなことを言い出すハボックをポカンとして見つめたロイは次の瞬間プッと吹き出す。クスクスと笑いながらハボックを見た。 「お前なぁ」 「だって仕方ないっしょ!」 呆れたようなロイの声にハボックは顔を赤らめて言う。睨んでくる空色を見返してロイが言った。 「でも、私が髪を結うのは嫌なんだな?」 「それはまぁ……」 言われてハボックは不貞腐れたように唇を尖らせる。そんなハボックにやれやれとため息をついてロイは言った。 「判った、暑くても髪を結うのは我慢する」 「えっ?でも」 「暑いのとお前の不機嫌とどっちを我慢出来るかと言ったら暑い方だからな」 そう言うロイをハボックは目を見開いて見つめる。ロイは手を伸ばして空色の目元に触れながら続けた。 「でも、二人の時は上げるぞ。見てるのがお前だけならいいだろう?────お前だけのトクベツだ」 「大佐……」 言って笑うロイを驚いたように見つめてくるハボックにロイは笑みを深める。 「不満か?」 「────まさか」 尋ねてくる黒曜石に笑みを返して、ハボックは白い項に唇を寄せていった。
遊びに来てくださる皆さまにはありがとうございます。ポチポチ拍手もとっても嬉しいですv お久しぶりです。ハボロイの日ですねッv ロイハボの続きを書こう書こうと思いつつ、ついつい「あつ森」やら「ミストオーバー」やらちょっと懐かしい「ルルアのアトリエ」やらゲームに更ける日々を送っております(笑) いやもう、七月後半からハボロイーッ、ネタネタネタと考えておりました。そのわりにどってことない話ですみません(苦笑)そういや髪の長いロイって書いたことないなぁと思っていたらこんな話に(笑)いいですよね、シーツに広がる長い黒髪v でもエチの続きはないんですが(苦笑) とりあえずハボロイノルマを達成したので次はロイハボの続き……ガンバロウ。でもルルアもミストオーバーも終わり近いんですよね。ルルアは息子にトロコンしといてと言われたので、なにが出来てないんだろうと調べたら、結構面倒なのが残ってる。いや、面倒だから残ってるのか。つか、ふつうにやってたら出てこないよ、このイベント。一つは鍛冶屋ですべての武器防具を作成するとゲット出来るレシピでシンボルを作る……って、ルルアの最強武器の素材、どこにあるか判らないからやってなかったんだがなぁ。もう一つはカレーイベントを最後まで見る。必要なルルルカレー極のレシピ、ドンケルカレーとぬしカレーと賢者カレーそれぞれ品質999の物を作るとゲット出来る。……めっちゃめんどくさいんだけどッ!と思いつつ、ここまでくるとやらいでかってなるっていうね(笑)そんなわけで、とりあぜずカレーを作る前段階の素材各種を高品質にすべく錬成しまくる毎日です。いや、ロイハボ書けよ、自分(笑)
以下、拍手お返事です
大佐乱入からの の方
お清めセッ……!ステキ!いいなぁ、お清めv(笑)そうですね、一刻も早く大佐にお清めしてもらわないと!続きがんばりますねv 差し入れもありがとうございましたv 本当イベントでお会いできていたらモリモリもりあがれましたのにねぇ。今やそのイベントすら思うままに開催できない厳しい世の中ではありますが、いっとき楽しい時間を提供出来たらなぁと思っておりますv
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