『ヒューズさん、まだかなぁ』 お気に入りのラグに寝そべっていると、隣からため息混じりの声が聞こえる。前足に顎を乗せたまま目を開けて横目に見れば、ハボックがべったりとラグにへたり混んでいる姿が目に入った。 『腹減って死にそう……』 『死ぬほど食ってない訳じゃないだろう』 朝仕事に行く前、ヒューズが出してくれた食事をハボックも食べていた。そう言えばハボックが不満げに唸る。 『でも腹減ったんスもん。昼間いっぱい遊んだし。暑かったからすっごい疲れてすっごい腹減った』 『暑いからやめておけと言ったのにいつまでたっても帰ってこなかったのはお前だろう、自業自得だ』 ここ数日、春とは思えないような陽気が続いていた。庭先と言っても結構な暑さで、陽射しを浴びながら蝶を追いかけ回したり、生け垣の隙間に鼻を突っ込んで通りを歩く人々に話しかけたりと、ずっと外に出ずっぱりのハボックに、私は何度も暑いのだからいい加減にしておけと忠告してやった。だが、その忠告にも耳を貸さず暑い中遊び疲れて腹が減ったと嘆いたところで、それは自業自得と言わずしてなんというのだろう。 『だって、大佐、構ってくんないし』 だが、ハボックは私の意見に賛同するどころか、そもそもの原因は私であるかのように言って恨めしげな視線を送ってくる。その視線にムッとして、私がそんな奴は知らんとそっぽを向いたとき、ガチャガチャと鍵を開ける音がしてヒューズが帰ってきた。 「ただいま、ロイ、ハボック。買い物に寄ってたら遅くなっちまった。腹減っただろう」 『ヒューズさんッ!遅いっスよ!オレもうおなかペコペコッ!!』 ヒューズの足音が聞こえた途端飛び起きたハボックが、リビングに入ってきたヒューズに駆け寄りその足下にまとわりつく。そんなハボックの頭をわしわしと乱暴に撫でたヒューズが持っていた荷物をテーブルの上に置けば、ハボックがいそいそと自分と私の皿をヒューズの前に持ってきた。 「ちょっと待ってな」 だが、ヒューズは期待して皿の前にきちんと足をそろえて座るハボックの前を素通りしてキッチンへと行ってしまう。その背を目で追いながら、ハボックは空っぽの皿に鼻を突っ込んだ。 『ヒューズさぁん、まだぁ?』 『少しは待てんのか』 アオーンと情けない声を上げるハボックにため息をついて、私はやれやれとラグから立ち上がる。一体なにをしているのだろうとキッチンを覗こうとした時、ヒューズがトレイにワインのボトルとグラスにつまみを乗せて戻ってきた。 『ヒューズさん?』 何となくいつもと違う様子にハボックが首を傾げる。なんだと尋ねる視線を向ける私とハボックの顔を見て、ヒューズがにっこりと笑った。 「今日はハボックがこの家に来た日だからな。お祝いだ」 ヒューズはそう言うとテーブルにおいた袋の中から大きな肉の塊を取り出す。ドンと皿からはみ出るほどの肉を私とハボック、それぞれの皿に置いて、ヒューズはソファーに腰を下ろした。 「正直ロイと上手くやっていけるかと思ったけど、全然そんな心配必要なかったな。むしろお前が来てくれて俺がいないときでもロイが独りぼっちじゃなくなったし、俺も楽しいし、ありがとな、ハボック」 ヒューズはそう言ってニヤリと笑うとワインを注いだグラスを掲げる。それを見たハボックがパッと顔を輝かせて肉を咥えた。 「お、乾杯するか?よし、カンパーイ!」 ヒューズは楽しそうに言ってグラスをハボックが咥えた肉に当てるフリをする。そうすればハボックが嬉しそうに唸って尻尾をブンブンと振った。 『ありがとうッ、ヒューズさんッ!すっげぇ嬉しいッ』 ハボックは咥えていた肉を皿に置いてワンワンと吠える。 『オレ、中尉に一緒に住めなくなったって言われた時、すっごい悲しくて、これからどうなっちゃうんだろうって思って。でも、ヒューズさんが迎えに来てくれてここに連れてきてくれて、本当に嬉しかった。大佐にも会えて一緒に遊んだり散歩に行ったり、ここに来て本当にほんとうに良かった。オレ、大佐に会えて本当に嬉しいっス!』 「おお、そうかそうか。ここに来てよかったか。俺も嬉しいよ、ハボック。お前もそうだろう?ロイ」 ハボックの言っていることが判ったのかヒューズが言いながらハボックの頭をわしわしと撫でる。頷くのが当然と言うようなヒューズの問いに、私は顔をしかめた。 『別に私は嬉しくなんて』 そう言いかけてハボックを見れば視線が合う。キラキラと嬉しそうに輝く空色の瞳を見れば、私の脳裏にこれまでのことが思い浮かんだ。 冬の寒い朝、霜柱を踏んだこと。 雪が降り積もった庭で駆け回って遊んだこと。 春の公園のドッグランで思い切り走ったこと。 綺麗な満月に向かって一緒に吠えたこと。 他にも他にも思い出は尽きることがなく、それはきっと私一人では決して経験できるものではなくて。 『────まぁ、悪くはなかったがな』 フンとそっぽを向いて呟けばハボックがにぱぁと笑う。 『おかげで旨い肉も食えるしな』 照れ隠しに素っ気なく言う私にハボックが嬉しそうに大きな体ですり寄ってきた。 『これからもいっぱい遊びましょうね、大佐ッ』 『────食わんのか?食わないならもらうぞ』 『えっ?食うッ、食うっスよッ!』 ハボックの皿に顔を突っ込むフリをすればハボックが慌てて肉にかぶりつく。その様子にクスリと笑って、私も自分の肉に食いついた。
遊びに来て下さった方には、本当にありがとうございますv すっかりご無沙汰してしまいました。気づけばサイトのお誕生日だったので浮上してきました(笑)今年はワンコネタ。いや、つい最近読み返したもんで(苦笑)本当は他に書こうと思ってた話もあったんですが、間に合いそうになかったのでこんな話に(苦笑)ハボックが中尉に引き取られたときの話ってのも実は考えてありまして、書きたいと思いつつなかなか書くタイミングがなくて。他にも書きたい日記ネタあるんだよー。まぁボチボチと書いていきたいと思っています。 それにしても今年で13年?あんまり稼働してないので何年目というのもアレですが、それでもまったりと続けてこられたのも遊びに来て下さる方がいるからかなと思っております。本当にありがとうございます。ちっとも更新してないのにポチッと拍手して下さったりすると、呼んで下さる方がいるんだなぁって嬉しくなりますv なんだかんだ言ってもやっぱりハボックが一番好きなので、多分この先もまったりと愛を綴っていきたいと思っています。時々でいいので遊びにきてくださったら嬉しいです。どうぞよろしくお願いしますv 一応、毎お誕生日恒例なので無料配布本ページ開けておきます。もし、欲しいと仰ってくださる方がいらっしゃいましたら下記リンク貼っておきますのでそちらからどうぞ。新刊はありません。本代、送料とも無料になっております。
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以下、拍手お返事です(今更な感、満載なんですが(汗)
三年ぶりくらいに の方 うわー、二時間もかけて探して来て下さったなんて!!本当にありがとうございます!!本当に本当に嬉しいです!!一応閉鎖はこの先もしないつもりですので、またふらりと立ち寄って下さったら嬉しいです。いつでもお待ちしておりますv
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