「大佐、これ。ボタンとれかかってたの、付け直しといたっスよ」 「ああ、すまんな。ありがとう」 上着を示してそう言うハボックにロイが答えれば、空色の瞳がニコリと笑う。ハボックはロイの上着を玄関のクローゼットにしまうと、ロイがリビングに散らかした本やら書類やらを片づけ始めた。それが済むとキッチンでロイの好きなハーブティーを淹れ、ソファーで本を読むロイの前に置いた。 「ちょっと買い物行ってきます。何か用事あるっスか?」 そう尋ねられてロイはちょっと考える。それから「ああ」と思いついて言った。 「万年筆の先が痛んでるんだ」 「書斎のペン立てに立ってる奴っスね。修理に出しておきます」 最後まで言わないうちにハボックが引き継いで言う。それにロイが頷くとハボックはジャンパーに腕を通しながら言った。 「晩メシはこの間から食べたいって言ってたポトフにしますね。ああ、そうそう」 出ていこうとしたハボックは戻ってくると椅子にかけてあった膝掛けを取る。ソファーに寝ころんで本を広げているロイの足下に膝掛けをフワリとかけた。 「今日はこの秋一番の冷え込みなんですって。アンタ、すぐ風邪引くんだから気をつけてくださいね」 ハボックはそれだけ言って「じゃあ」と出かけていってしまう。その背を見送って、ロイはもぞもぞとソファーの上に身を起こした。 「マメだなぁ……」 今日は久しぶりに二人揃って休みだ。寝坊した上のんびりブランチを済ませた後はダラダラと本を読んでいたロイとは対照的に、ハボックは朝早くから起きて細々としたことをやっていた。今日に限らずハボックはよく働く。階級が下であるからロイのような対外的な業務はないものの、ロイの護衛やそれ以外の業務を考えれば忙しさとしては二人にそれほど差があるとは思えない中、ハボックは家に戻ってくるとくるくると手際よく動いては、ロイが快適に過ごせるよう家の中を整えてくれていた。 「アイツ、自分の事はどうしてるんだ?」 必要なことは勿論だが、ロイが本を読んだりするようにハボックは自分のやりたいことをやっているのだろうか。うーん、と日々のハボックの様子を思い浮かべてロイは、眉間に深い皺を寄せた。 「……やってないんじゃないか?いつだって私の世話ばっかりで」 あまりの居心地の良さについつい甘えてしまっていたが、よく考えれば自分とハボックは対等の立場でここにいるのだ。このままハボックにばかり負担をかける訳にはいかない。 「よし」 暫く考えていたロイは、思いついた考えに頷いた。
「え?今日、メシいらないんスか?」 「ああ。お前の手料理もいいが、偶には外で食べたいからな」 ロイは買い込んだ食材の紙袋を手にしたハボックに言う。コートに手を通すロイにハボックはちょっと困ったように言った。 「ええと、安売りになってたの、今日中に食った方がいいからオレは家で食おうと思うっスけど」 「そうか?まあ、私はいないから適当にしてくれ」 ロイはそう言ってそそくさと出ていこうとする。玄関までついてきたハボックに思い出したようにロイは言った。 「これからは出来るだけ外で食べるつもりだ。ああ、それから。私のシャツ、クリーニングに出してくれ。家で洗わなくていいから」 「え?でも」 「じゃあな、行ってくる」 言いかけたハボックの言葉を遮って言うと、ロイは飛び出すように家を出る。バタンと扉を閉じて、ロイは満足そうに笑った。 「よし。これでハボックも少しは楽できるだろう」 そう呟いたロイの顔にピュウと冷たい風が吹き付ける。一瞬家に戻ってハボックの温かい手料理を食べたい気持ちになったが、ロイは首を振ってその気持ちを追いやると冷たい空気の中首を竦めて出かけていった。
「もう少し旨い店だと思っていたが」 ロイは久しぶりに行ったレストランからの帰り道、がっかりとした様子で呟く。ハボックと一緒に暮らすようになってからすっかりご無沙汰していたレストランの料理は、以前食べたときの半分も美味しいとは思えず、ロイはろくに手をつけないまま店を出てしまった。 「ハボックの料理が旨すぎるんだ」 元々上手ではあるのだろうが、ロイ好みにレシピをアレンジしたハボックの料理は本当に旨い。そのせいですっかり家で食べる習慣がついてしまって、今もやっぱり家で食べればよかったと思い始めた自分を、ロイは慌てて叱りとばした。 「せっかくハボックに自由な時間を作ってやろうとしてるんだ。我慢我慢」 そうロイが呟いたとき、目の前にサッとチラシが差し出される。思わず受け取ってしまったそれを見るロイにチラシ配りの男が言った。 「スパ、本日開店だよ!寒いからあったまっていきなよ」 男はそう言うと通行人にせっせとチラシを配って歩く。宣伝する男を見送ったロイは手元に視線を戻すと、広告をしげしげと見つめた。
「ただいま」 「お帰んなさい。結構遅かったっスね」 玄関の扉を開けて中に入ればハボックが顔を出して言う。ロイのコートを受け取ってハンガーに掛けながら、ハボックが言った。 「風呂、沸いてますよ。寒かったっしょ?アンタの好きなラベンダーの入浴剤入れてある───」 「風呂なら入ってきた」 ハボックの言葉を遮って言うロイにハボックが目を丸くする。 「入ってきたってどこで?」 「本日開店のスパの広告を貰ったんだ。試しに行ってみた。広くて綺麗で気持ちよかったぞ」 ロイはそう言いながらリビングに入った。 「風呂、沸かしたんなら入ってこい。ゆっくり入ってきていいぞ、お前、いっつも烏の行水だからな」 そう言ってロイはソファーに腰を下ろす。膝掛けを引っ張って足下にかけた時、ハボックがボソリと言った。 「オレのしてる事、大佐には迷惑っスか?」 「え?」 突然の言葉にロイは驚いて顔を上げる。そうすれば俯いて立っていたハボックが続けた。 「メシも家じゃ食わないっていうし、クリーニングもしなくていいって。オレのメシじゃ大佐の口に合わない?オレが洗濯したんじゃ袖、通せない?」 「そう言う訳じゃ───」 「風呂も、オレ、大佐が気持ちよく入れるようにって毎日一生懸命磨いてたつもりだったんスけど、気に入りませんでした?あ、もしかしてオレが同じ風呂使うの、気持ち悪かった?」 「そう言う訳じゃないッ!!」 ロイは思わず大声で叫んで立ち上がる。そうすればハボックが俯いたまま言った。 「じゃあ、なんで?」 「それは」 なんと説明したらいいのだろう。ロイが言葉を探していると、ハボックがため息をついた。 「迷惑なら迷惑って言ってくれたらオレ……」 「だからそうじゃない!私はただお前に負担をかけたくないと思っただけだ!いつだって私の面倒ばかり見てて、お前、自分のやりたいこと一つも出来てないだろう?私は好き勝手にやってるのに、お前ときたらいつだって……ッ」 本当はもっとスマートにハボックに自由な時間を作ってやりたいと思っていたのに、こんな風に説明する羽目になって、ロイは内心舌打ちする。それでもせめてハボックにもっと好きなように過ごして欲しいと言おうとすれば、ハボックが顔を上げて言った。 「オレは大佐にいろいろしてあげたいんス。大佐のためにメシ作ってあげたいし、気持ちよく仕事に出られるようにシャツにアイロンかけてあげたい。一日働いて疲れて帰ってきたら、のんびり風呂に入って欲しい。オレ、やりたいことやってるっス」 「ハボック」 「オレは大佐の世話焼くのが好きなんス」 そう言って見つめてくるハボックにロイはぽすんとソファーに腰を落とす。ハアとため息をついて言った。 「私はてっきりお前の負担になっているとばっかり」 「そんなことねぇっス。大体負担になってんだったらこんな事やってないっスよ」 ハボックはそう言ってロイの前に跪く。ロイの手を取って言った。 「だから、これからも大佐の世話焼いてもいい?」 「…………だったらメシ、食わせてくれ。あそこのレストラン、味が落ちててろくに食べられなかったんだ」 「はいっ」 そう言われてハボックが元気よく立ち上がる。 「結局二人分、作ったんスよ。すぐ用意しますから。あ、風呂、入ってきてもいいっスよ?」 「ラベンダー風呂だったな。じゃあ入ってくる」 「のんびり浸かってきていいっスよ」 「出たら、この間買った杏酒飲みたい」 用意しておけよ、と言ってリビングから出ていくロイを見つめて、ハボックが嬉しそうに笑った。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、もー、いっつも励まされてますッ!嬉しいですvv
今日は「いい夫婦」の日ですね。そんなわけでこんな話ー。きっとハボはロイの世話を焼くのが好きなんだろうなぁと。ああ、私も世話焼いて欲しいぜ、ハボになら!!
全然話違いますが、先日息子にくっついてメイトに行ってきましたら鋼のラバーストラップ売ってるの見つけましてね。おお、これは例の久しぶりにハボックが入ってるってやつジャン!!ってわけで、早速3個購入→店の階段の隅っこで開けてみる。一個目、リザ、二個目、アル、三個目、オリビエ。…………更に2個購入→再び階段の隅っこで開ける。一個目、ヒューズ、二個目、オリビエ。…………さて、ここまで2,500円つぎ込んでハボどころかロイもゲットできてません。売り場に残っているストラップは残り3個。ここで買わずに帰ったら絶対後悔しそう、でも買ってみてウィンリー、ウィンリー、オリビエとかだったら泣く、どうしよう、どうするか、こうやって悩んでる間にも誰か買っちゃうかも!どうする、自分!?どうするよ??…………チーン。残り3個購入。この後は店で見ても家で見ても追加購入は出来ないのでとりあえず帰宅。リビングのカーペットに正座していざ開封〜。一個目、アームストロング少佐……いらねーし!二個目、エド……エドかぁ。いつもならいいけど、今は出てきて欲しくなかったよ……。三個目……。これでウィンリーだったらどうしよう。開けた途端ドラ○エの呪われた防具をつけた時のように「デロデロデロデロデーン」って曲が頭に流れたら……ッ!!頼む、ファンファーレ鳴ってくれ!!頼むーッッ!!―――開封。…………ハボックキターーーーッッ!!やったーッ!!バンザーイ!!バンザーイ!!うーれーしーいいいvv鋼の神様、ありがとうぅっ!!ロイが出なかったのは残念ですが、ハボックが来たからもうそれだけでッッvv……って、妙な実況中継でスミマセン(汗)ハボックゲットで嬉しかったもんでー(苦笑)でも、8個買ってダブりが1個って、実は結構いい成績かもしれない(笑)
以下、拍手お返事です。
やっぱり みつき様のハボックが の方
うわ〜ん、ありがとうございます!!時に「うちのハボって相当妄想入ってるよね」と思う事もあるので、そんな風に言って頂けると泣きそうなほど嬉しいですvvこれからも愛おしんで頂けるよう、愛を込めて書きたいと思いますv
490000万打おめでとうございます♪ の方
いつもいつもありがとうございます!!そう言って頂けるたび、続けてきてよかったーvと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたしますねv
|