「……いい香りがする」 ベッドの上でゆっくりと目を開けてロイは呟く。傍らを見れば働き者の男はもうとっくに起き出しているようで、シーツにも温もりは残っていなかった。 「んー……」 思い切り伸びをしてロイはベッドに身を起こす。やれやれと首を数度コキコキと鳴らすとベッドから降りた。欠伸をしながら洗面所に向かい冷たい水で顔を洗う。水の冷たさに漸く目が覚めて、ロイは服に着替えると階下に降りた。下に降りれば微かだった匂いがずっと強く感じられる。バターに甘酸っぱい香りが混じるそれに誘われるように、ロイはキッチンに入っていった。 「おはよう、ハボック」 「おはようございます。そろそろお越しにいこうかと思ってたところっスよ」 キッチンにいるハボックに声をかけたロイはコンロの前に立つ長身に近づく。フライパンでなにやら焼いているその手元を背後から覗き込んで言った。 「いい匂いだな、なにを焼いてるんだ?」 「リンゴっスよ」 そう答えてハボックはフライパンを揺する。フライパンの中には銀杏に切ったリンゴがバターで焼かれていい色になっていた。 「紅玉貰ったんスけど、アンタ、酸っぱいリンゴ苦手っしょ?だから」 と言いながらハボックは火を止めて軽くグラニュー糖を振りかける。皿に注ぎ分けそれを手にダイニングに行くハボックの後ろからついていきながら、ロイは言った。 「別に酸っぱいリンゴが苦手な訳じゃないぞ。甘味系のリンゴが好きなだけだ」 「はいはい」 なんだか子供扱いされたように感じてそう言えば、なんとも気のない返事が返ってくる。なんだ、その態度はと後ろから耳を引っ張ると、痛い痛いと顔を顰めながらハボックがテーブルに皿を置いた。 「火が通ると甘くなるっスよ。きっと大佐も食べられます」 「だから別に苦手じゃないと言うのに」 あくまでそう言い張って、ロイはハボックの向かいに腰を下ろす。温めたパンを千切って口に放り込み、サラダをワシャワシャと食べ、とろとろのオムレツに舌鼓を打って、ロイはリンゴの皿を引き寄せた。フォークでつつけば甘い香りが広がる。フウフウと息をかけてから口に入れれば広がる爽やかな甘みにロイは目を瞠った。 「旨い」 「そっスか?ならよかった」 率直な賛辞にハボックは嬉しそうに笑う。ロイは突き刺したリンゴを見つめて言った。 「子供の頃、母が作ってくれた焼きリンゴを思い出したよ」 あの頃、酸っぱいリンゴが苦手なロイの為、芯をくり貫いたリンゴにバターやレーズンを詰めて作ってくれたのだ。 「懐かしいな」 「今朝は時間がなかったからフライパンで簡単に焼いちまいましたけど、おやつに作りましょうか?焼きリンゴ」 「いいのか?」 そう言えば途端にパッと顔を輝かせるロイにハボックはクスリと笑う。 「いいっスよ、沢山貰ったし。そうだ、折角だから一緒に作りましょうよ」 「ふむ」 誘われてロイは頷くと勢いよく立ち上がった。 「よし、それなら早速作ろう。善は急げだ」 「えーっ、先に洗濯したいんスけど」 「なんだ、出鼻を挫くようなことを言うな」 「じゃあ、オレが洗濯物干してる間にリンゴくり貫いておいてくださいよ」 「仕方ないな、いいだろう。私が完璧にくり貫いておいてやる」 リンゴの芯をくり貫くのに完璧もなにもないだろうと思いつつ、ハボックはよろしくお願いしますと頭を下げる。 その後、洗濯を終えて戻ってきたハボックは穴を開けすぎて割れそうになったリンゴや芯が抜け切れていないリンゴに笑いながら、バターやレーズンを詰めて焼きあげてロイと一緒に甘酸っぱいティータイムを楽しんだのだった。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、コメント、本当に励みになります!ありがとうございますvv
いやね、朝からバターで紅玉焼いて食べたら美味しかったってだけの話なんですけど(笑)リンゴはやっぱり甘味系のが好きです〜。シナノスイートとかシナノゴールドとか好き。王林も好きかな〜。酸味系のはやっぱり煮るとかしたくなります。アップルパイとか美味しいですよね。焼きリンゴも久しぶりに作りたいな〜。
以下、拍手お返事です。
なおさま
セレスタ、ふふふ、焦らした後の続きは如何でしたでしょうか。やっと眠り姫が目覚めましたがまだまだハッピーエンドには時間がかかりそうです(苦笑)うわぁ、ダースベイダーブラッドレイ!(笑)うう、益々長くなっちゃうよ(爆)メンテナンス、そんなハボックなら是非出張してきて欲しいです(爆)ムスコをメンテナンス、ドツボにハマって貰えて嬉しい〜(笑)久遠、あはは、悪代官ですもんねぇ。もう確実に後ろ暗い過去がてんこ盛りですよ、きっと(苦笑)
阿修羅さま
メンテナンス、楽しんで頂けて嬉しいですーvなんて言ってついてきて貰ったか……。やっぱり「ブレダ〜。一緒にマスタングさんのムスコのメンテナンスに行ってくんない?」じゃないでしょうか(笑)
相変わらずティワズがかっこいいv の方
うお、ありがとうございますーッvvえへへ、そう言って頂けるとやる気がモリモリ湧いてきますv「若」と呼ばせたくてティワズを出したので、これからも「若」「ティ」と呼び合って貰いますよ!是非そんな二人を見守ってやってくださいねv
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