「ウガアアアッッ！！」
私に牙を立てようと開いた銀色の犬の口から絶叫が迸る。見上げた視線の先、彼の牙が銀色の犬の首筋に深々と突き刺さっていた。
「ガアッッ！！」
「ッッ！！」
銀色の犬は激しく首を振り回し、首元に噛みついた彼の体が弾き飛ばされて私の背後の壁に叩きつけられる。飛びつくようにして倒れた体を庇って、私は銀色の犬を睨みつけた。
「何故……ッ？」
深々と噛みつかれて酷い傷を負った首筋から、シュウシュウと煙のようにその体の一部を溶け出させながら銀色の犬が呻く。さっきまでは怒りと憎悪の光をたたえていた瞳に傷ついた色を浮かべて、銀色の犬は彼を見つめた。
「どうして？お前は……っ」
「────ごめん」
恐らくは体以上に心を傷つけてしまったであろう相手に彼は言う。庇う私の腕の中、彼はゆっくりと身を起こした。
「ごめん、でも、オレはやっぱりこの人といたい」
「傷つくのがッ、悲しむのが判っているのに────」
「それでも」
カッと声を荒げた銀色の犬の言葉を彼の静かな声が遮る。
「一緒にいたいんだ」
「────ッ！！」
静かだが、きっぱりと告げられた言葉に銀色の犬が息を飲んだ。氷のように澄み切った水色の瞳で彼を見つめた妖は低く呻くように言った。
「好きにすればいい。ちっぽけな人間に肩入れして、独りぼっちで傷ついてボロボロになればいい。お前など、もう二度と────ッ」
叫ぶように言った妖は仰け反らせた喉から高い遠吠えを響かせる。聞く者の胸を抉る悲しい響きを乗せた遠吠えを残して、銀色の犬はかき消すようにその姿を消した。
「待っ……」
言いかけて足を踏み出した彼はもう誰もいなくなった部屋の中をぼんやりと見つめる。その体が淡く輝いて揺らいだと思うと、見慣れた人の姿になった。
「ごめんなさい、オレのせいでこんな怪我を……っ」
彼は私が受けた傷を見て言う。恐る恐る傷に伸ばしてくる手を、私はギュッと掴んで言った。
「いいのか？アイツはお前のことを……」
あの妖に名を返すつもりはないが、それでも奴の気持ちも痛いほど判る。何より彼が奴を大事に思っていることは一緒にいた間にも強く感じられて、私は奴への妬心を押し殺して尋ねた。
「いいんです、もう」
私の問いに彼は静かに首を振る。彼の手を握る私の手をもう一方の手で優しく撫でる彼をじっと見つめていると、彼はゆっくりと話し始めた。
「あの日アンタのところから逃げて、オレはアイツの所に帰ったっス。アイツはもうアンタの事は忘れろって……オレも忘れてしまおうと思った。名前を預けたままだからそれを遣われたら戻るしかないけど、アンタは絶対名前を遣ったりしないって判ってたから────でも」
彼は言葉を切って空色の瞳で私を見つめる。
「忘れられなかったっス。アイツはいつも人間をちっぽけな存在だって言う。オレたちが一眠りする間も生きられない、ちっぽけなとるに足らない存在だって。でも、そうじゃない。ほんの短い間の生だからこそその輝きは強烈だ。強烈で美しい────アンタの命が上げる焔はとても美しくて、オレは目が離せなくて……」
優しく私の手を撫でていた彼の手が、いつの間にか私の手をギュッと握り締めていた。
「迷惑なのは判ってるっス。それでも、オレはアンタと一緒にいたい。例え短い間でも、オレはアンタと……ッ」
痛いほどに手を握り締めて見つめてくる空色を私は食い入るように見つめる。彼の言葉に胸が熱くなってくるのを感じながら答えた。
「いいのか？私にとっては長い時間でもお前にとっては本当に一瞬だろう。どんなに願ったところで時の流れは残酷だ。私には幸せな一生でもお前にとっては辛い思い出にしかならないかもしれない。その上で私はお前の言う“あの人”と同じように、死んでなおお前を側にと望むぞ」
古い家の軒に隠された名を記した札。それを隠した人物の願いを今我が物として私は言う。彼にしてみれば本当に一瞬の、星の瞬き一つも生きられぬ人間の何という傲慢。それでも求めずにはいられなくて。
「言ったっしょ？それはオレの望みでもあるんスよ？だから」
と、彼はその空色の瞳で私を真っ直ぐに見る。
「オレの名前、呼んで？」
美しい妖がその想いを乗せて切々と告げる言葉に。
「ハボック」
その名を唇に乗せれば彼が幸せそうに笑った。
いつも遊びに来てくださってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv
「妖」これにて最終話です。本当はまったりのんびり「私」と「彼」の話を書くつもりだったのですが、ついうっかり「私」が手を出してしまったもので思いがけずこんな展開になりました。もっともこれでひと段落つけて、また新たに書いてもいいかなとか思っているあたり、結構気に入っているシリーズだったりします。ともあれここまでお楽しみ頂けていましたら嬉しいです。
そして！
おかげさまを持ちまして、本日で無事八周年を迎えました！ありがとうございますvvこうしてまた一年の節目を迎えることが出来まして、本当に嬉しいです。これも一緒にハボックを愛でて下さる皆さまのおかげと感謝に耐えません。やっぱり一緒に愛でて下さる方々がいるのは本当に幸せなことだと思います。一人じゃつまんない…(笑)そんなわけで、これからも一緒にハボックラブを叫んで頂けましたらとってもとっても幸せです。楽しく元気に続けていけたらいいなと思っておりますので、どうぞこれからもよろしくお願い致しますv
といったところで、日頃の感謝を込めまして今年も無料配布本を企画致しました。ここ数日続けてアップしておりましたのでご察しの方もいらっしゃるかと思いますが、今年の無配本は「妖」になりますーvうちのサイトにしては短いシリーズでしたのでちょっとペラい本になりますが、愛だけは詰まっておりますので！詳細は下記の通りです。お読み頂いた上、ご興味ありましたらサイトのトップページにリンク貼ってあります申し込みフォームよりお申し込み下さい。ご面倒でも拍手ではなく申し込みフォームよりお願い致します。一応申し込み締め切りは６月２０日位を考えております。申し込み少なかったらその前に締め切っちゃうかもですが(苦笑)
�〆２鵑量鞠柬椶蓮嵳邸廖嵳� 青の巻」「妖 朱の巻」の三種類になります。「妖」は日記に掲載したものの再録で修正以外の加筆はありません。「妖 青の巻」(ハボロイ)「妖 朱の巻」(ロイハボ)は「妖」から続きの書き下ろしエチ(カプ別で内容的にはほぼ同じ)一話ととっても短いお話が二話収録されております。二話のうち一話は青、朱同じもの、もう一話は同じテーマでカプ仕様の話となっています。
�◆嵳� 青の巻」「妖 朱の巻」」はＲ指定本になりますので、年齢に達していない方にはお申し込み頂けません。申し込みフォームのAge check欄に必ずチェックを入れて下さい。年齢制限のある本、ない本がある為、Age check欄が必須になっておりません。チェックを入れなくても申し込みフォームが送信出来てしまいますが、年齢制限のある本をお申し込みの場合Age checkは必須です。
�Ｈ�送はメール便を予定しており無料です。発送者名はサイト名で発送します。メール便以外、個人名での発送を希望される場合、メッセージ欄にお書き添え下さい。出来る範囲でお答えしたいと考えております。
�い泙拭∈Ｇ�の無配本受付期間に限り、昨年までに配布いたしました無配本を再配布いたします。申し込みフォームの選択欄からお選び下さい。こちらの本もＲ指定本をご希望の場合はAge check欄にチェックが必須です。尚、今年の無配本をお申し込み頂かなくても過去の無配本のみの申し込みも可能ですので、「今年のはいらないけど昔のが欲しいわ」と言う場合もお気軽にどうぞv再配布する無配本は下記の通りです。
１）2013年七周年記念配本(2013年5月発行)
「霧屋」「霧屋２」(ハボロイ、ＷＥＢ再録、加筆なし)
「八雷神」(ロイハボ・R20、ＷＥＢ再録、加筆なし)
「八雷神２」(ロイハボ・R20、書き下ろし)
「俺様な皇帝と恥ずかしがり屋の騎士の話」
(ヒュハボ・R20、2013/5掲載分迄のＷＥＢ再録、加筆なし)
２）2012年六周年記念配本(2012年5月発行)
「暗獣上・下」
日記掲載したものの再録、修正以外の加筆なし
「暗獣 毛糸玉の記」(書き下ろし)
ハボがロイと出会う前後とロイが去る前後がメイン
日記に掲載した数話も加えハボック視点で書いた話
「暗獣番外編」(書き下ろし、ロイハボ・R18)
ロイハボぺら本。子ハボではありません。
３）2011年五周年記念配本(2011年5月発行)
「金剛石総集編」
日記掲載したものの再録、修正以外の加筆なし
「続・金剛石(ハボロイバージョン・R20)」
「続・金剛石(ロイハボバージョン・R20)」(2013年改訂)
ＷＥＢからの続きの書き下ろし。
カプリングの違い以外内容的には同じ
子ハボ時代のその手の話あり。苦手な方はご注意。
ロイハボ版のみ日記掲載の「記念日編」を再録。
４）2010年四周年記念配本(2010年5月発行)
「鈍感な騎士と待ちきれない姫君の話」(ハボロイ・R20)
ＷＥＢ掲載再録＋書き下ろしエピローグ
「ワガママな王様と純情な騎士の話」（ロイハボ・R20)
ＷＥＢ掲載再録＋書き下ろしエピローグ
「小さな暴君とお人好しの騎士の話」(エドハボ)ＷＥＢ再録
「小さな暴君とお人好しの騎士の話」(エドハボ・R20)
ＷＥＢ掲載再録＋書き下ろし
「王騎士」同時収録の「豆騎士」の続き
2013年改訂版になります。内容は
2013年4月迄の日記掲載分と「初空月編４」(書き下ろしR20)
５）2009年三周年記念配本(2009年5月発行、2011年10月改訂の際、数話収録増)
「babble babble emerald」(カプなし・R18)
「babble babble diamond」(ハボロイ・R18)
「babble babble pearl」(ロイハボ・R18)
2006〜2009年に日記掲載されたssの再録で加筆なし。
尚、再配布をご希望された場合、メール便が二つに分かれるもしくはＡ４サイズになる可能性がありますので、ご了承下さい。
……こんなところでしょうか。無配本の書き下ろしに関しましてはＷＥＢに再掲の予定はありませんので、ご興味ありましたら是非お手にとって頂けると嬉しいです〜。
尚、素人が手作業で作っておりますので多少の不格好は多めにみて下さいますように(苦笑)本なんて立派なもんじゃなくコピー本もどきです、でも愛はたっぷり込めてます(笑)お申し込み心よりお待ちしております。
あっ、それから、今日の更新はお休みですー。流石にここ数日、怒涛の無配本執筆＆作業でした。そしてついにプリンターが寿命となったもんで、これアップしたら新しいプリンター接続作業っス。何とも慌ただしい(苦笑)
以下、拍手お返事です。
なおさま
深夜のご来訪ありがとうございますｖｖそうなんですよ、ジャクも願っている事は同じなのです。そして今日ので最終回ですよー、如何でしたでしょうか。いつも覗いて下さってありがとうございますｖおかげさまで頑張れますｖｖ
香深さま
おお、ありがとうございます！日記に出す前にお祝、嬉しいですーッｖｖえへへ、こちらこそ本当にお世話になっております。これからもどうぞよろしく、萌えを囁いてやって下さいねｖ
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