ドンドンと乱暴に玄関の扉を叩く音が聞こえて、ロイは眉をしかめる。犬耳をピンと立てたハボックが玄関へと出て行こうとするのを押し留めて、ロイは言った。 「ここで待っていろ、ハボック」 「ろーい」 言ってリビングから出て行くロイを、ハボックは追いかけてリビングのドアから顔を出し玄関を伺う。ロイがガチャリと鍵を回した途端、表から扉が開いて陽気な声が飛び込んできた。 「ハボックちゃあん!お星さまの願い事を叶えて貰いに来たよッ!」 「ヒューズ!」 満面の笑みを浮かべる髭面を目にして、ロイは慌てて玄関を閉めようとする。だがヒューズはドンと体当たりで家の中に飛び込むと手にした紙袋を掲げた。 「可愛い服、いっぱい持ってきたよ!」 「ろーいっ!」 ヒューズの言葉にハボックが目を輝かせる。だが、ハボックがヒューズに駆け寄るより早くロイが二人の間に立ちはだかった。 「何がお星さまの願い事だッ!帰れ、馬鹿者ッ!」 キッと目を吊り上げてロイが怒鳴ったが、ヒューズは慣れたもので動じもしない。にーっこりと笑みを浮かべる髭面に一瞬ロイが怯んだ隙を見逃さず、ヒューズはハボックに向かって叫んだ。 「今だっ、ハボックちゃんッ!」 「ろいっ」 「あっ、こらッ!ハボック!」 ヒューズの合図に頷くと同時にハボックがロイの脇をすり抜ける。ロイが伸ばす手をかいくぐったハボックは、ヒューズが開けた扉から客間に飛び込んだ。 「あっ!」 ハボックに続いて部屋に飛び込んだヒューズがガチッと中から鍵を掛ける。一瞬の差で閉じられた扉に飛びついて、ロイは鍵のかかったドアノブをガチャガチャと回した。 「こらッ、出て来なさいっ、ハボック!」 ロイは中に向かって叫ぶ。 「大体いつもは知らん顔なのにどうしてこういう時だけ連携プレーなんだッ」 「ろーい〜」 ガチャガチャとドアノブを回すロイにすまなそうなハボックの声が聞こえたが、その後はロイが何を言おうとキャッキャッと楽しげな笑い声が聞こえるばかりだ。いい加減苛々を募らせたロイが扉を燃やしてやろうかと発火布を取り出した時、ガチャリと扉が開いた。 「ろーいっ」 パタパタと飛び出してきたハボックがロイにしがみつく。ハボックはロイの顔を見上げると自慢そうに腕を広げて着ているものを見せた。 「ろーいっ」 嬉しそうに笑うハボックが着ているのは紺地に赤やピンクの朝顔が咲いた浴衣だ。ハボックがクルリと回れば腰に巻いた赤いフワフワの帯が金魚の尻尾のようにふわりと靡いた。 「どーよ、可愛いだろ?」 黒曜石の瞳を見開いてハボックの浴衣姿を見つめていたロイは聞こえた声に視線を上げる。そうすればこれまた浴衣姿のヒューズに、ロイは益々目を見開いた。 「この間たまたま見つけてな、ハボックちゃんに絶対似合うと思ったんだ。この季節にピッタリだろ?」 「だからってなんでお前まで浴衣なんだッ?」 「えー、そりゃあハボックちゃんと一緒に色々楽しみたいじゃないっ?」 スイカ割りとかー、花火とかー、としなを作る髭の男にロイは思いきり顔をしかめる。 「いい加減にしろ、付き合ってられるか!ハボック、脱ぎなさい、そんなもの」 「ろい」 ヒューズを睨んだロイが言ったが、嫌と言うように短く答えてハボックはヒューズの後ろに隠れる。そんなハボックにムッと唇を歪めるロイにヒューズが言った。 「実はお前の分もあるんだよ」 「えっ?」 思いもしなかった言葉にロイが驚いて声を上げる。一瞬嬉しそうに笑みを浮かべかけてしまった顔を慌てて引き締めるロイに、ヒューズが続けた。 「一緒に遊びたいだろ〜?」 「だっ誰がッ!遊びたい訳なかろうッ!」 「あ、そう。だったら二人で遊ぼうか、ハボックちゃん」 「ろいっ」 「えっ?」 首を振ればあっさりと言ってハボックと手を繋ぐヒューズに、ロイが慌てたように手を伸ばす。自分の行動にロイがハッとしたのと、庭に出て行こうとしたヒューズが振り向いてニヤリと笑うのがほぼ同時だった。 「今からでも遅くないぜ?仲間外れは嫌だろう?」 「わ、私は別にだなッ」 「そっかー、じゃあ行こっか、ハボックちゃん」 「おいッ!あ、いや、そうじゃなくっ」 慌てて手を伸ばしてはワタワタとするロイをヒューズとハボックが肩越しに振り向いて見る。じとーッと見つめてくる二対の瞳にウッとたじろいだロイだったが、観念したように言った。 「判った、浴衣を寄越せッ!ったく、今回だけだからなッ!」 夏の楽しいイベントの魅力に負けたロイが悔しそうに舌打ちする。ニヤニヤとしながらヒューズが差し出した浴衣を引ったくるロイにハボックが笑って抱きついた。 「ろーいっ」 「よし、じゃあスイカの準備をするよ、ハボックちゃん!」 「ろーい!」 袋を抱えて中庭に出て行くヒューズを追いかけて、ハボックが金魚の尻尾を靡かせて出て行く。その背をやれやれと見送ったロイは自分も手早く浴衣に着替えて庭に出た。 そうして暑い空気を吹き飛ばすように、三人の楽しげな笑い声が夏の空に吸い込まれていったのだった。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですvv
「暗獣」お留守番編はどうなったと思いつつ、しつこく七夕編続きです。もうあんまり七夕関係なくなってるけど(苦笑)いやだって、「ふわふわ金魚帯の季節ですね」ってコメント頂いたら、はぼっくに着せたくて堪らなくなってしまって!も〜〜〜、ヒューズじゃないけど絶対可愛いと思います(笑)
ええと、それから一応お知らせを。キリバン決めて受け付けておりますキリリクですが、今後ハボロイネタの受付を休止しようと思っております。理由は前にもチラホラ書きましたが、拙宅でのハボロイ需要が減っていると感じる事と、あとはこの先リクを頂いても私自身が書ききれるか自信がないと言う事です。ハボロイに関してはリク頂いて書くよりも、自分が書きたい時にまったりペースで書いた方が続くような気がするので…。まあ、もしかしたら気が変わってリク再開するかもしれませんが(苦笑)そんなわけで、ハボロイリクはとりあえず受付終了ということになります。これまでリク頂きました事、本当にありがとうございました。
以下、拍手お返事です。
香深さま
こちらこそウフフなコメントをいつもありがとうございます!コメントに刺激されて思わず金魚なはぼっくを書いてしまいました(苦笑)お仕事、お忙しいんですね。体調くずされませんよう、お気をつけ下さい。お時間出来たら本の感想もお待ちしておりますvセレスタ、楽しんで頂けてますでしょうか。ハボックが幸せになれるよう、頑張りますので引き続きお付き合い下さいねv
なおさま
「ここっス、大佐」 そう言ってハボックに案内されたアパートをロイは訝しげに見上げる。上に上がる階段を上がっていくハボックを追いかけて、ロイは言った。 「こんなところで食事って、どういうことだ?ハボック」 そう問いかけてもハボックは笑みを浮かべるばかりで答えない。仕方なしにハボックについて階段を上がったロイは、なんの変哲もないアパートの扉を前に眉を寄せた。ブブーッと中で呼び鈴の音が聞こえて人が出てくる気配がする。ガチャリと開いた扉から現れた姿に、ロイはあんぐりと口を開けた。 「いらっしゃい」 「こんちは、リザ」 Tシャツにジーンズを穿いてエプロンをつけたホークアイは二人の顔を見て笑みを浮かべる。中へと促されても呆然と固まっていたロイは、ハボックがさっさと中へと入ってしまった事に気づいて慌てて後を追った。 「おい、一体これはどういう――――」 「手、洗わせて貰うね、リザ」 ロイの言葉には答えずハボックはホークアイに向かって声をかけると、洗面所に向かう。勝手知ったるその様子に目を見開いて立ちつくすロイに、手を洗って戻ってきたハボックが言った。 「大佐も手、洗ってきて。リザに怒られるっスよ」 「――――」 ホークアイの事をごく自然に「リザ」と呼ぶハボックをじっと見つめたロイは何も言わずに洗面所に向かう。内心「もしかして二人はデキているのか、いやまさか」と大混乱しているのを微塵も出さずに手を洗い終えると、ロイは勧められるままダイニングの椅子に腰を下ろした。旨そうな手作りの料理の数々が並ぶテーブルを挟んでホークアイが向かいに座り、ハボックがロイの隣に腰を下ろす。無表情でホークアイを見つめるロイにハボックが言った。 「じゃあ、改めて紹介するっスね。姉のリザです」 「弟がいつもお世話になっております」 「――――へ?」 軽く頭を下げるホークアイをロイは間の抜けた顔で見つめる。 「あね?」 ぽつりと自分が呟いた声にハッとして、ロイはハボックを見た。 「うん、姉っス」 「え?」 「弟のジャンがとってもお世話になってるようで、大佐」 「えっ?」 棘のある声に振り向けば飛び色の瞳がジッとロイを見つめている。 「――――えええええええッッ!!」 突然付きつけられた真実に、ロイの悲鳴がアパートに響き渡った。 ********* って、思わず紹介されたとこを書いてみました(笑)きっとこの後ロイは背中に嫌な汗を掻きまくりだったかと(笑)「ジャンを泣かせたら赦しませんから」と言われて「勿論ですッ、姉上ッ」とか叫んで「あなたの姉になった記憶はありません」と銃口向けられるんですよね!……すみません、暴走しました(汗)ともあれ、いつも楽しい妄想をありがとうございます!そして「セレスタ」こっちでもホークアイ大変です(笑)まだまだ最大の難関ハボックハードルが待ってますので、ロイには是非頑張って貰いたいものです(苦笑)
|