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2011年12月の日記

2011年12月31日(土)

2011年12月29日(木)
暗獣40
2011年12月28日(水)
睡魔
2011年12月25日(日)
聖誕祭
2011年12月23日(金)
暗獣39
2011年12月21日(水)
暗獣38
2011年12月19日(月)
暗獣37
2011年12月15日(木)
暗獣36
2011年12月14日(水)
暗獣35
2011年12月12日(月)
恋猫24
2011年12月09日(金)
暗獣34
2011年12月05日(月)
予約受付中
2011年12月01日(木)
暗獣33

「ハボック、これ、どこに捨てたら───」
 そう言いながらガチャッと扉を開ければ、床に座り込んだハボックが手にした紙を慌てて懐にしまうのが見えて、ロイは目を細める。ロイが入ってきたのが判っていながら振り向かないハボックの背後に立って、ロイはいつもは見えない金髪のてっぺんを見下ろした。
「ハボック、今隠した物を見せろ」
 低い声で言えばハボックがゆっくりと振り向く。思い切り“嫌”と顔に書いてあるのを完全に無視してロイは繰り返した。
「見せろ、ハボ───」
「嫌っス」
 遮るように拒絶の言葉を被せられてロイは器用に片眉を跳ね上げる。拒否されることなど全く考えてないらしいロイに向かってハボックは言った。
「恥ずかしいからヤダ」
 そう言うハボックの目元が刷毛で刷いたように薄赤く染まっていることに気づいて、ロイは軽く目を瞠る。ロイを見ずにうろうろと視線をさまよわせるのを見ればロイの口元に笑みが浮かんだ。
「ハボック」
「ッ、絶対見せませんから───ウヒャヒャッ!!」
 スッと側にしゃがみ込んできたロイに、ギクリとして言うハボックの唇から悲鳴混じりの笑い声が飛び出る。コチョコチョと脇腹をくすぐる指から逃れようと身を捩りながらハボックは言った。
「ちょ……ッ、やめ……そこ、ダメだってばッ!!」
 弱い脇腹を攻められて涙ぐんでウヒャウヒャと笑いながらハボックが喚く。だが、結局ロイに隠した紙を奪い取られて、ハボックはハアハアと息を弾ませながら恨めしげにロイを見た。
「汚ねぇ……オレが脇腹弱いの知ってるくせに」
「敵の弱点を攻めるのは兵法の基本だ」
 ロイはしれっとして言いながら奪い取った紙を広げる。ロイの目が紙面に向かうのを見て、ハボックは往生際悪く言った。
「頼むから見ないでくださいよぅ」
 哀れな声も綺麗さっぱり無視して奪い取った紙を見たロイが目を見開く。
「なんだ、これは?」
 紙面から目をハボックに移して尋ねるロイにハボックが答えた。
「小学校の時に書いた作文っスよ。将来の夢を書くっていうので書いた奴。この間お袋が見つけたの、面白がって送ってきたんスよ」
 捨ててくれりゃいいのに、とぼやくハボックの声を聞きながらロイは再び手にした紙に目を戻す。決して上手とは言えない、だが伸び伸びとした子供の字で書かれたそれには“僕の夢”と題して幼いハボックの夢が記されていた。
「僕の夢は大きくなったら軍人さんになって家族やみんなを守ることです。細かいこと考えるのは面倒だから、ブレダみたいな頭のいい人の部下になって、いっぱい活躍したいです」
「ちょっと!声出して読まないで下さいってばッ!!」
 よく通る声で音読されて、ハボックは顔を真っ赤にして喚く。返して、と伸ばしてくる手をかわしてロイは言った。
「なんだ、このブレダみたいな頭のいい人っていうのは」
「ブレダはクラスじゃ一番頭の切れる奴だったんスよ」
 その言葉にロイは見た目に反して頭脳派の部下の顔を思い出す。自分が知らない幼いハボックを知っている男に微かな嫉妬を感じながらロイは言った。
「考えるのが面倒ってお前、子供の頃から本能任せの無精者だったんだな」
「ほっといて下さい」
 からかうように言われてハボックはツンとそっぽを向く。ハボックの隣に腰を下ろして、ロイはハボックの顔を覗き込んだ。
「それで?夢は叶ったか?」
 そう聞かれてハボックは振り向いてロイを見る。見つめてくる黒曜石を見返して笑みを浮かべた。
「そうっスね、叶った、のかな」
 ハボックの答えにロイが満足そうに目を細める。そんなロイにハボックは尋ねた。
「アンタの夢は?やっぱ大総統になること?子供の頃なら錬金術師とかっスか?」
「いや」
「じゃあなに?」
「犬を飼うこと」
 ロイの答えにハボックが目をパチクリとさせる。期待していたであろうものとは全く違う答えにどう返すか考えるハボックにロイは続けた。
「金色の毛並みのデカイ犬。私だけの言うことを聞く犬だ」
「……で?アンタの夢は叶ったんスか?」
「どうかな」
 楽しげに答えるロイの唇に。
「叶ったっしょ?」
 ハボックは囁いてチュッと口づけた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手もたくさん、とっても嬉しいですvv

今年も今日で最後ですね。いやあ、一年ホント早かったな。色々やりたい事あった筈だけど、結局気づけば時間ばかり過ぎて行った気がします。来年ものんびりまったり自分ペースでやっていけたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。来年がみなさまにとって良い年でありますようにv

以下、30日拍手のお返事です。

りんさま

おお、りんさまも同じことを?わはは、監督!いや、まさにそうですよね〜。監督してくれる人がいてくれないとヤバいです(笑)こちらこそ、今年は遊びに来て下さったばかりかリクやコメント頂いたり、本当に幸せでありがとうございましたv来年も引き続きよろしくお願い致しますvどうぞ良いお年をお迎え下さいねv
2011年12月31日(土)   No.145 (カプなし)

暗獣40
「今年もあと三日か……」
 朝食を食べながら新聞を広げていたロイはそう呟く。今年一年の大きな出来事をピックアップする記事に目を通しながら、ロイは自分にとってこの一年はどうだったのだろうとふと考えた。
 軍に退役願いを提出し、その足で不動産屋に飛び込んだ。今までの自分と決別出来るならどこでも構わないと、幽霊が出ると噂のあるこの家を買い取って、そして。
 ロイは新聞から目を上げるとダイニングの中を見回す。ロイの様子を伺うように家具の陰から覗いていたハボックの存在に気づいたのはここに越してからすぐだった。なかなか姿を現してくれないハボックのためにクッキーをそっと置いたのは、まだたった半年ほど前のことでしかないのだ。
 その時、パタパタと軽い足音が聞こえて漸く起きたらしいハボックがダイニングに入ってくる。金色のふさふさの尻尾を揺らして走ってきたハボックがロイの膝にぱふんと飛び込むようにしがみついてきた。
「ろーい」
 ハボックはそう呼んでロイの顔を見上げる。真っ直ぐに見つめてくる澄んだ空色に、ロイは笑みを浮かべた。
「ハボック、大掃除しよう」
 そう言えばハボックが不思議そうに首を傾げる。ロイはハボックの小さな体をヒョイと抱き上げ立ち上がった。
「あと三日で新年だからな。家中の埃を落として新しい年を迎えよう」
 ロイはそう言ってハボックを連れてダイニングを出る。物入れからバケツと雑巾を取り出し、洗濯場で水を張った。
「まずはやっぱり二階からか」
 水を張ったバケツと雑巾を手にロイは二階に上がる。階段を上がったところで左右の部屋を見たロイは、後から階段を上がってきたハボックを見下ろして言った。
「家中は無謀だから使っている部屋だけ綺麗にしよう」
 始める前から早々に目標を低く下げて、ロイはバケツを手に寝室へと入る。一人住まいの気楽さでついつい散らかしっぱなしにしていた服や小物をしまうべき場所にしまい、いらない物をゴミ箱に放り込んだ。なんでもかんでもしまい込んでいるクローゼットを開け、捨てないまでも判りやすいようにしまい直す。小さな箱を引っ張りだしたロイは、中身は何だったかと蓋を開けて目を僅かに見開いた。
「ここに入れてたのか」
 平たい箱の中は細かく仕切られて、その中に様々な種類の鉱物が入れてあった。
「ろーい?」
 箱を持ったままじっと中身を見ているロイの袖をハボックが引く。ロイは引かれるまま身を屈めてハボックに箱の中身を見せてやった。
「錬金術の材料にと集めていたものなんだ。こんなところにしまったのを忘れて───」
 そこまで言ってロイはハボックがキラキラと目を輝かせて箱の中を見ていることに気づく。ハボックは顔を上げるとキラキラの目でロイを見た。
「ろーいっ」
「あー……まあ、いいか」
 ロイは箱の中から比較的希少価値の低い物を取り出しハボックに渡してやる。そうすれば両手で大事そうに握り締めたハボックは、部屋の片隅のビロード張りのトランクの方へ走っていきトランクと並べて置いてある宝箱の蓋を開けて、そっと中へしまった。ロイはハボックの側に歩み寄り小さな箱の中を覗く。今では色んな物が入っている箱を見て、ロイは言った。
「ハボック、お前も少しその箱の中身整理したらどうだ?そのクッキーなんてもう───」
 そう言いかけてロイはハボックがじーっと己を見ていることに気づく。その空色の瞳に浮かぶ非難の色にロイは慌てて両手を顔の前で振った。
「いや、別に捨てろと言ってる訳じゃなくてだな、クッキーなんて湿気てるだろう?新しいのをやるからそれと取り替えたらどうだ?」
 ロイの言葉を黙って聞いていたハボックは、口をへの字に結ぶとプイとロイに背を向ける。一つずつしまってあるものを箱の外に取り出し並べていった。
「ハボック」
 ハボックの肩越しにロイは床に並べられた物を見下ろす。ロイが最初にあげたクッキーから始まって金平糖やドングリや、それはどれもこれもがロイと一緒にハボックが一つ一つ集めていったものだった。ハボックが二つに割れたクッキーをそっと並べるのを見てロイは目を瞠る。ロイが踏んで割ってしまったそれですら、ハボックは捨てずに大事にとっておいていた。
「すまん、ハボック」
 ロイがそう言えばハボックがロイを見上げる。その空色を見下ろしてロイは言った。
「取り替えてしまったら意味がないんだな。すまなかった、酷いことを言った」
 ロイの言葉をじっと聞いていたハボックは、ニコッと笑う。立ち上がって手を伸ばしてくるハボックを抱き締めて、ロイは金色の髪に顔を埋めた。
「ろーい」
 そう呼んでくる小さな体をひとしきり抱き締め、ロイは体を離す。金の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜ、ロイは言った。
「よし、掃除するぞ。ハボック、手伝ってくれ」
 ロイはバケツの水で雑巾を絞ると窓を拭き始める。それを見たハボックがパッと顔を輝かせ、小さな手で雑巾を絞ると床をゴシゴシと拭いた。
「ハボック、もう少ししっかり絞らないと」
 絞りきれずに水気の多い雑巾で拭くのを見てロイが言う。ハボックの手から雑巾を取り絞り直すとハボックに返した。
「よし、これで頼む」
 ロイの言葉にハボックは頷き床を拭く。寝室、ダイニング、リビング、キッチンと、協力して磨き上げれば一日はあっと言う間に過ぎていった。最後に玄関の扉を拭き終えて、ロイは満足げに頷く。はー、と聞こえたため息に見下ろせば、ハボックが疲れきった様子で座り込んでいた。
「お疲れさま、ハボック」
 そう言うとパッと顔を上げて見上げてくる空色にロイは疲れも吹き飛ぶ気がして、ハボックの体を抱き上げる。
「ありがとう、ハボック……来年もよろしくな」
 出会って半年、ハボックがくれた優しい時間に心の底からありがとうと囁くロイに。
「ろーい」
 ハボックが笑ってキュッと抱きついた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励まされてます、嬉しいですv

「暗獣」です。大掃除のシーズンって事で。「暗獣」書き始めたのって6月ですよ。半年で40……。よく書いたな(笑)
今年もあと三日ですが、何が嫌いって片付けと掃除が一番嫌いなもんで、この時期は本当に苦痛です。人間埃じゃ死なねぇよ、少なくとも私は!でも、そうとばかり言ってもいられないので、クローゼットの扉の前にモリモリ置いてあった袋類を片付けようと中身を出したら、どっさり同人誌が出てきて焦りました(苦笑)いや、商業誌が置いてあるのは判ってたんだけど、え?こんなに同人誌置いておいたっけ?慌てて新しい袋にきちんとまとめ直しましたよ〜。我が家は扉の開け方がハボックなので(ノックをしないorノックと同時に扉を開ける)広げてる最中に家人に入ってこられると相当ヤバいっス(苦笑)とりあえず急いでまとめて普段あまり使ってないクローゼットに押し込んだけど、ああ、あの同人誌、ここにあったのか!探してもなかったはずだよ、後でこっそり読もう。……掃除もたまにはいいかもしれないと思ったり。って、普段どんだけ片付けてないんだって話ですね(苦笑)

追記:
玄関の模様替えをしました〜。あ、今日29日じゃん、まあ、いっか(苦笑)よし、これで新年迎える準備オッケv
出来れば年内にもう一回くらい日記を書きたいですが、何とも判らないのでご挨拶申し上げます。一年間遊びに来て下さったり、お声掛けしてくださったりと本当にありがとうございました。来年もハボックラブラブで頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお付き合いのほどお願いいたします。寒い日が続きますが、ハボックで身も心もあったまって良いお年をお迎え下さいませ〜vv
2011年12月29日(木)   No.144 (カプなし)

睡魔
「ふあああ……」
 リビングのソファーに座って本を読んでいたロイは、聞こえてきた大きな欠伸に顔を上げる。その後もフガフガと連続して聞こえてきた眠そうな声に、思わず本を閉じて立ち上がるとロイはダイニングへと足を向けた。そこから見えるキッチンでは食事の支度をしようとしているらしいハボックが立っていた。
「ハボック」
 顔を俯けて立っているハボックの様子がどうにも普通と違って見えて、ロイはハボックに声をかける。だが、ハボックは返事をするどころか顔も上げず、そして。
 不意にハボックの長身がゆらゆらと揺れたかと思うとフラ〜ッと背後に倒れそうになった。
「ハボックっ?!」
 ギョッとして大声を上げたロイが駆け寄ろうとすれば、ハボックがハッと目を開いて足を引く。すんでのところで倒れるのを免れたハボックは二度三度頭を振った。
「大丈夫かっ?どこか具合が悪いのかっ?」
 驚いたロイがそう尋ねるとハボックはボリボリと頭を掻く。
「あー、一瞬寝てました……」
「はあ?寝てた?」
「ここんとこ忙しくて寝不足だったから」
 そう言いながらカプカプと欠伸をしたハボックは眠そうな顔でロイを見て笑った。
「すんません、今メシ作っちゃいますから」
 そう言ってハボックはカウンターにまな板を置いて包丁を手に取る。シンクの中に洗って転がしておいたジャガイモを取り剥こうとした。だが。
 トロンと眠そうな顔で包丁を構えたハボックの体がまたふらふらと揺れ出す。それを見ていたロイは、慌ててハボックの手から包丁を取り上げた。
「……大佐ぁ?なにするんスかぁ、包丁返してくださいよぉ」
「頼むからその状態で包丁を使うのはやめてくれ。メシは作らなくていい、デリバリーを頼もう」
「えー、でもー」
「いいからっ」
 ロイの言葉に間延びした口調で反論するハボックを黙らせて、ロイはピザを頼む。少しして届いたピザやサラダを前にテーブルについたロイは、椅子に腰掛けた途端ギクリとしてハボックを見た。
 完全に目を閉じたハボックの上半身がゆらゆらと揺れている。だんだんとその揺れが大きくなったと思うと、テーブルに倒れ込んできた。
「危な……ッ」
 ガタンと椅子を蹴立てて立ち上がり、ロイは両手を伸ばす。ピザの上に倒れ込んできた顔を両手で受け止め、ロイはホッと息を吐いた。
「おい、ハボック!眠いならベッドに行け、ベッドに!」
 ロイは手のひらの上のハボックの顔を揺すりながら言う。そうすればハボックが少しだけ顔を上げてロイを見た。
「やだ……食う」
 ハボックはそう言うとピザを摘み端を一口齧る。もぐもぐと噛んでいた口の動きが遅くなったと思うとまたゆらゆらと揺れだした。
「ハボック!!」
「あ」
 ロイの声にハボックが目を開けロイを見る。テーブルの上を見渡し、ロイを見て言った。
「寝てたっスか?オレ……」
「寝てた。お前、本当に寝てこい。そのうち怪我するぞ」
 目を吊り上げて言うロイをハボックがぼーっと見つめる。それからフラリと立ち上がるとよろよろと歩きだした。
「風呂入ってきます」
「えっ?!」
 てっきりベッドに行くのかと思いきやそんな事を言うハボックにロイはギョッとする。今のハボックを風呂に入らせたら絶対に溺れると、妙な確信が持ててロイは慌ててハボックを追った。
「待てっ、そんな状態で風呂に入ったら溺れるぞッ」
「だぁいじょうぶっスよぉ……風呂で溺れるわぁけないっしょぉ?」
 そう答えるハボックを見れば絶対に溺れると確信出来る。ロイはため息をつくとハボックに言った。
「判った、洗ってやるから」
「わあ、大佐のえっち」
「お前なぁッ」
 心配して言ってやっているのにとロイはムッとしてハボックを睨む。だが、ロイの眼力も今のハボックには全く効き目がなかった。
「いいから入るならさっさとしろッ」
 ロイはそう言ってハボックを引きずるようにして浴室に行く。ふらふらしているハボックの服を剥ぎ取り、自分も服を脱ぐと半分寝ているハボックを洗ってやった。
「ほら、風呂も入ったし、もう寝ろ」
 着せかえ人形のようなハボックにパジャマを着せて、ロイは二階への階段を指さす。だが、ハボックはロイをじっと見て言った。
「大佐はまだ起きてるんしょ?」
「あ?ああ、やっと本を読む時間が出来たからな」
 ここのところ本当に忙しくて本を開く暇すらなかった。漸く出来たこの時間、一秒だって多く本を読んでいたいのだ。
「じゃあオレも起きてる」
「ハボック」
「コーヒー飲めば大丈夫っスよ……」
 そう言ってハボックはキッチンに入っていく。ロイがハラハラしながら見ている先で二人分のコーヒーを淹れたハボックは、ロイと一緒にソファーに腰を下ろした。カップを両手で包み込んでズズッとコーヒーを啜るハボックを横目で見ながら、ロイは本を開く。そのまま暫く本を読んでいたロイは、チラリとハボックを見た途端慌てて手を伸ばした。
「ハボック、寝るなッ!零れてるッ!!」
「え?」
 気がつけばカップを持つ手から力が抜けて、傾いたカップから零れたコーヒーがハボックの膝を濡らしている。「あれ?」という顔をするハボックにロイは目を吊り上げた。
「もう、寝ろッ!!今すぐベッドにいけッ!!」
 ハボックの手からカップを取り上げ、テッシュでコーヒーを拭いながら怒鳴るロイをハボックはじっと見る。それからボソリと言った。
「だって大佐と一緒にいたいんスもん……ずっと……忙しくて顔もろくに見られなかったから……」
 ハボックがボソボソとそういうのを聞いてロイは目を瞠る。ハボックはそんなロイを見つめて続けた。
「久しぶりに時間出来たから……大佐の好きなメシ作って……大佐と一緒に……た……さと……」
 最後の方はもごもごと口の中で何か言って、ハボックはポスンとロイの膝に突っ伏す。そのままスウスウと完全に眠ってしまったハボックを目を見開いて見つめていたロイは、やれやれとため息をついた。
「まったくもう……」
 ロイは呟いてハボックの髪を指先で梳く。
 片手で本をめくりもう片方の手で膝の上のハボックの髪を優しく梳きながら、ロイは笑みを浮かべて久しぶりの穏やかな時間を過ごしたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

夜8時を過ぎると基本的に使い物になりませんが、眠い時は冗談抜きで立ったまま寝ます。ハボックがやった事、実は全部やってたり。あ、風呂には自分で入りますが(苦笑)先日はソファーに座ってコーヒー飲んでたら寝た!(爆)隣に座ってた息子が「寝そうだし、危ないなぁって思ったんだよね」って。思ったんなら起すなりカップを取るなりしろよ!!ダンナからも「頼むからそう言う時に包丁持つのはやめてくれ」って言われます。食器拭きながら寝たしなぁ……。ホント、どこの赤ん坊だよ。リボ○ンだってここまで寝ないと思うんだが(苦笑)睡魔に負けない体が欲しいです、いや、ホントにorz

以下、拍手お返事です。

素敵で笑えるお話を の方

こちらこそ読んで下さってありがとうございますvうふふ、笑って貰えて嬉しいですーvそう言って頂けるのが私にとってのクリスマスプレゼントですよ、ありがとうございますv
2011年12月28日(水)   No.143 (カプなし)

聖誕祭
クリスマスですね。と言うわけで、昨日の更新に引き続きクリスマスネタ二本です。お好きな方、もしくは両方ドンと来いな方は是非両方にお進み下さいませ。

「見毛相犬 聖誕祭編」(ハボロイ)
http://bleu.nikita.jp/jean/dump_renew/kenmou_souken_xmas.html

「パワー! 聖誕祭編」(ロイハボ)
http://bleu.nikita.jp/jean/dump_renew/power-xmas.html


……というわけで、本日はシリーズもののクリスマス編です。実は昨日の更新、ハボロイは「見毛相犬」のつもりでした。でも、せっかくクリスマスなんだしもっとラブラブなのがいいかしらと、慌てて外出先からの往復の電車の中で携帯ポチポチして打ったのが「Snowy Christmas」だという(笑)とはいえ、せっかく書いたのをアップしないのは勿体ないという貧乏性で、またまた携帯で打ったのがお久しぶりの「パワー!」だったり(苦笑)もう、私の携帯、一番メール打つ相手は私のパソメールですよ。何のための携帯なんだか(苦笑)しかし、今年は忙しい忙しいと言いつつクリスマスネタを4つも書いてしまいました。少しでもお楽しみ頂けましたら嬉しいですv
でもって、今年の更新はこの間の土曜が最後になりそうです。今度の火曜は流石に厳しいかなぁ。年明けは早くて10日、遅いと14日になりそう。実家で書ければいいんですが、毎度そう言ってて書けないからなぁ。とりあえず日記だけは少しでも書こうと思っております。あと、年内に玄関は変えないと!そんな感じでお願い致しますv

以下、拍手のお返事です。

水瀬さん

ふふふ、ハボ可愛いと言ってくれてありがとうv私も最初はツリーに飾るジンジャークッキーを書く予定だったんだけど、レシピがどう見ても食用で、美味しそうだったものでつい(苦笑)それでも水瀬さんが妄想つついてくれたから続きを書けましたよvいつもいつも楽しい妄想をありがとうvv
2011年12月25日(日)   No.142 (カプなし)

暗獣39
「ふむ。やっぱりこれしかないな」
 ロイはリビングのツリーを前に頷く。ツリーの下で宝箱の中身を並べているハボックを見下ろして、ロイは言った。
「ハボック、おいで。いいものを作ろう」
 呼ばれてハボックは不思議そうにロイを見る。ロイがキッチンへ行くのを見て、ハボックは急いで出したものを宝箱にしまうとロイを追ってキッチンへと向かった。
「ろーい?」
「お、来たか」
 パタパタと走ってきたハボックにシャツの袖を引かれてロイが言う。ロイは棚からハボックと一緒に作ったジンジャークッキーを取り出した。
「あのな、ハボック。ツリーの下の方、オーナメントがなくて淋しいだろう?」
 ロイがそう言えばハボックがじーっとロイを見る。その表情からハボックが言いたい事を察して、ロイは笑った。
「別にオーナメントを返せと言ってる訳じゃないから安心しろ」
 そう言うのを聞いて、ハボックがホッとしたような顔をする。そんなハボックにクスクスと笑ってロイは言った。
「それでな、オーナメントの代わりにこの間作ったジンジャークッキーを飾ろうと思うんだ」
 ロイはそう言って棚から出したクッキーをハボックに見せる。
「一応クッキーを作るときにリボンを通せるよう穴をあけておいたんだ。だから今日はアイシングで飾りをつけよう」
 ロイはボウルに粉砂糖を入れると水を少量垂らして椅子の上に乗ったハボックに渡した。
「ツヤが出るまでよく練ってくれ」
 そう言われてハボックはボウルを抱え込むようにして粉砂糖を練る。その間にロイはクッキーに通すためのリボンを取ってきた。
「ろーい」
「ん?出来たか?」
 ハボックが差し出したボウルの中をロイは覗き込む。粉砂糖に綺麗な銀のツヤが出来ているのを見て、ロイは「うん」と頷いた。
「いい具合だぞ、ハボック」
 そう言われてハボックが笑う。ロイはハボックが作ったアイシングを小さめのビニール袋に入れ、角をちょっとだけ切り落とすと皿の端に試しに絞り出してみた。
「うん、固さも丁度いいみたいだ。いいか?ハボック」
 ロイはアイシングの袋を手にハボックを見る。真剣な表情で見つめてくるハボックの前で、ロイはアイシングを絞り出してクッキーの頭部に目と口を描いた。
「こうやって顔を描くんだ。それからこうやると……服のボタンみたいだろう?」
 言いながら胴体部分にポツポツと三粒ほど落とせば、服の丸いボタンのように見えた。
「ほら、お前もやってみろ」
 ロイはアイシングの袋をハボックに差し出して言う。小さな手で袋を受け取ったハボックは、クッキーの上に絞り口を翳してロイを見た。
「ろーい」
「大丈夫、多少失敗してもいいからやってみろ」
 心配そうに言うハボックを励ますようにロイが頷く。ハボックはクッキーの顔の上で絞り袋を握る手にギュッと力を込めた。すると先端から絞り出たアイシングが大きな丸い粒になる。ロイが試し描きしたものよりだいぶ大きいそれを目を見開いて見つめたハボックは、泣きそうな顔でロイを見た。
「ろーい〜〜ッ」
「大丈夫、大丈夫。もう一つ同じくらいの大きさで絞り出してごらん」
 ロイは宥めるように言って続けるように促す。ハボックは口をへの字にしながらもクッキーの顔にもう一粒アイシングを絞り出した。
「ほら、目がパッチリの男の子になったぞ」
 ロイの言うとおり見本のジンジャーマンより目が大きいものの、これはこれで可愛らしい。ホッとしたように笑うとハボックは目の下に口を描いた。
「うまいぞ、ハボック。その調子だ」
 わしわしと金色の頭をかき混ぜられてハボックが嬉しそうに笑う。次々と少しずつ違う顔をクッキーに描き込めば、表情を得たジンジャーマン達が楽しそうにハボックを見返した。
「ろーい」
「ふふ、色んなジンジャーマンが出来たな」
 顔を輝かせて見上げてくるハボックにロイが言う。一通り顔を描いたところで、ロイは用意したリボンを取り上げた。
「よし、そうしたら今度はこのリボンを適当な長さに切って穴に通すんだ」
 そう言うとロイは長さの見当をつけてリボンを切る。それをクッキーの穴に通し輪になるよう端を結んだ。
「ほら、こんな感じ」
 ロイがやることをじっと見ていたハボックは、ロイから受け取ったはさみでリボンを切る。それを穴に通して端を結んだハボックは目をきらきらさせて出来上がったジンジャーマンのクッキーを高く翳した。
「ろーい!」
「ほら、どんどん作るぞ。これ全部ツリーに飾るんだからな」
 そう言われてハボックは頷いてリボンを切る。二人して次々とリボンをクッキーに通し、ツリーに飾れるように仕上げた。
「さあ、ハボック。次はツリーだ」
 ロイの言葉にハボックはピョンと椅子から飛び降りる。クッキーを載せたトレイを持つロイにじゃれるようにしながらリビングに行くと、ハボックは待ちきれないというようにリボンに手を伸ばした。ハボックがオーナメントを取ってしまって淋しくなったツリーの枝に、二人はジンジャーマンをくくりつける。少しするとツリーは大勢のジンジャーマンで賑やかになった。
「ろーい」
「うん、いい出来だ」
 ロイの言葉にハボックはピョンピョンと飛び跳ねる。嬉しそうにツリーの周りを駆け回るハボックにロイが言った。
「ハボック、おいで」
 呼ばれてハボックは駆け回るのをやめてロイのところにやってくる。小首を傾げて見上げてくるハボックに、ロイはトレイに一個だけ残してあったジンジャーマンを差し出した。
「これはお前のだ、ハボック。宝箱に入れておけ」
 言われてハボックは空色の目を見開く。受け取ったジンジャーマンとロイとを嬉しそうに交互に見つめた。
「ろーい」
 礼を言うようにハボックはロイの手に柔らかい頬をすり寄せる。そんなハボックの頭を撫でて、ロイはにっこりと笑った。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、嬉しいです、励みになってますv

「暗獣」ばっかり続いてすみません(汗)もともとジンジャーマンで書きたかったのはこっちだったのですが、レシピが食べる為のものだったので前の二作を書きましたところ、Мさんからやっぱり妄想つつかれまして(苦笑)そんなわけでしつこくジンジャークッキーネタです。

以下、22日拍手お返事です。

クッキーの香りが の方

わあ、ありがとうございます!ハボックが作ったと思うと一層美味しそうな気がしますよね(笑)香りだけでも是非味わっていただければv
2011年12月23日(金)   No.141 (カプなし)

暗獣38
 家に入った途端、ヒューズは真っ直ぐにキッチンに向かう。ガサガサと手にした袋からヒューズが材料を取り出すのを見ながらロイが言った。
「お前、わざわざ材料までもってきたのか?」
「お前んちにベーキングパウダーやらジンジャーパウダーやらがあるとは思えんからな」
 確かにヒューズが言うとおりそういったものの類はロイの家にはない。たとえ使うのが小さじに一杯としても必要と言われれば一瓶買うしかなく、繰り返し作る気のないロイには残りを無駄にすること請け合いだった。
「よし、じゃあまず分量を量るぞ」
 洗った手を拭きながらヒューズが言う。ヒューズはワクワクとした顔で見上げてくるハボックに笑いかけて言った。
「ハボックちゃん、粉と黒糖を計ってくれるかい?ロイ、秤あるか、秤」
「実験に使うんでよければな」
 ロイはそう言いながらキッチンから出ると小さな秤を持ってくる。ロイがキッチンのカウンターに置いたそれを見て、ヒューズは眉を顰めた。
「ヘンなもんくっついてないだろうな」
「ヘンなもんってなんだ、ヘンなもんって」
「だって薬計ったりするんだろう、これ?」
 心配そうに言うヒューズをロイは睨む。
「煩い、うちにある秤はこれだけだ。文句があるならセントラルから持ってこい」
「仕方ねぇなぁ」
 ヒューズは渋々ながら言うとシンクの下の戸棚からボウルを取り出した。
「薄力粉が140、黒糖が100だよ」
「ろーい」
 ヒューズに袋を渡されたハボックが助けを求めるようにロイを呼ぶ。ロイはダイニングから椅子を持ってくるとそれにハボックを立たせ、小さな手に己の手を添えるようにして袋の薄力粉をボウルに出した。
「この目盛りまでだ、ハボック」
 微妙に量を調整しながらロイが言う。真剣な表情で目盛りを見つめていたハボックは、ぴったり140のところで袋から粉を振り出すのを止めた。その後も蜂蜜やバターを計って必要な材料を揃える。そうすればヒューズがハボックに言った。
「ハボックちゃん、粉とベーキングパウダーと黒糖は合わせて振るわなければならないんだ。それをお願い出来るかな?」
 そう尋ねられてハボックが真剣な表情で頷く。それに頷き返してヒューズはロイに言った。
「ロイ、粉ふるい」
「そんなもんあるか」
「えっ、ないの?」
 普段、わざわざ粉をふるうような料理などするわけない。ロイの答えにヒューズはやれやれとため息をついて言った。
「仕方ねぇなぁ、じゃあザルでいいや。ザルならあるだろ?」
 言われてロイが出したザルにヒューズが計った薄力粉とベーキングパウダー、黒糖を入れる。ザルを持ち上げ左右に細かく振れば、さらさらとふるいにかけられた粉が落ちた。
「こうやるんだよ、ハボックちゃん」
 ヒューズはそう言いながらハボックにザルを渡す。ハボックは受け取ったザルを両手で持って左右に大きく振った。
「ハボック、もう少し優しく振ってみろ」
 カウンターに敷いた紙から粉が零れてしまうのを見てロイが言う。言われて小さく優しく振れば、粉は紙の上に降り積もった。
「ろーい」
「うん、上手い上手い」
 これでいいかと言うように見上げてくるハボックの頭をロイはぽんぽんと叩く。そうすればハボックは嬉しそうに笑って、粉をふるった。
「じゃあ次。バターと蜂蜜を混ぜてよく練り合わせたら、卵とジンジャーパウダーを入れて混ぜる」
 言われたとおりボウルにバターと蜂蜜を入れてハボックはへらでかき混ぜようとするが上手くいかない。見かねてロイがハボックを背後から抱き込むようにして手を添えかき混ぜるのを手伝ってやった。
「粉を入れて混ぜたら生地を休ませるからね」
 二人がかりで混ぜているボウルの中にヒューズが粉を振り入れながら言う。出来た生地をビニール袋に入れて平らにし、冷蔵庫に入れた。
「どれくらいだ?」
「一時間だって」
「じゃあコーヒーくらい飲めるな」
 ロイはそう言うと二人分のコーヒーを入れ、ヒューズと一緒にダイニングの椅子に腰を下ろす。冷蔵庫の前にじっと立っているハボックを見て、ロイは笑いながら言った。
「ハボック、そんなところで待ってないでこっちにおいで」
 だが、ハボックはチラリとロイを見たもののその場から動こうとしない。冷蔵庫の扉をじっと見つめて待っているハボックの姿にロイとヒューズは顔を見合わせてクスクスと笑った。
 最後の10分は待ちきれないハボックが何度も冷蔵庫を開けては覗くを繰り返す。それを見たヒューズが“もういいだろう”と五分早く切り上げて生地を冷蔵庫から出した。
「ロイ、お前こういうもの、持ってないだろう」
「クッキー型か、盲点だったな」
 ヒューズが自慢げに言うのにロイが小さく唸る。ヒューズは男の子の形をしたクッキー型を取り上げるとハボックに見せた。
「ハボックちゃん、これで人形の形にクッキーを抜くんだよ」
 ヒューズはそう言って型を生地に押しつけて男の子の形に抜く。
「ほら、こんな感じ」
 ひと形にくり貫いた生地をヒューズが見せればハボックが目を見開いた。ヒューズから型を受け取ったハボックは、全体重をかけるようにして生地から人形を抜き取った。
「ロイ、オーブン温めておいてくれよ」
「どうやって温めるんだったかな、久しぶりすぎて忘れたぞ」
「おい」
 オーブンの前で腕組みしているロイにヒューズが顔を顰める。二人して古いオーブンの予熱を何とかセットしていると、椅子の上からハボックの声がした。
「ろーいー」
「なんだ?ハボック」
 呼ばれてハボックのところへいけば、いくつも型を抜き取った生地は穴だらけでもう抜く場所がない。泣きそうな顔をして見つめられて、ロイは困ったように首を傾げた。
「どうすりゃいいんだ、もう抜く場所がないぞ。小さい型を使ったらいいんじゃないのか?」
 そう言うロイの声を聞いて、ヒューズが呆れたような顔をする。
「もう一度生地をまとめて伸ばせばいいだろう?」
 ヒューズはそう言って穴だらけの生地をまとめてもう一度綺麗に伸ばした。
「ほら、ハボックちゃん、これでまた抜けるよ」
 そう言うヒューズをハボックが尊敬の眼差しで見つめれば、ヒューズが自慢げな顔でロイを見た。
「ふふふ、これでまたポイントが上がったな」
「フン、言ってろ」
 ニヤニヤと笑うヒューズをロイが悔しそうに睨む。何度か生地を伸ばし直して型抜きし、最後に型で抜けない分はナイフで適当に切って、三人はクッキーをオーブン皿に並べた。
「よし、後は15分焼けば出来上がりだ」
 バンッとオーブンの扉を閉めてヒューズが言う。慣れない作業にやれやれと椅子に腰を下ろしたロイとヒューズに対して、ハボックはオーブンの前に立って焼きあがるのを待った。そうして。
 15分後、チーンという音がキッチンに響き渡る。鍋掴みを手にはめてオーブン皿を引っ張り出すロイに、ハボックが尻尾を振りながらまとわりついた。
「ハボック、あんまりくっつくと危ないぞ」
「ろーいー」
「待て待て、今見せてやるから」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねてオーブン皿を覗こうとするハボックにロイが笑って言う。焼き上がったクッキーを皿に移して、ロイはハボックに差し出した。
「ほら、どうだ?ハボック」
 そう言ってロイが差し出した皿にはこんがりと色よく焼けたクッキーが並んでいる。そっと手を伸ばして触れた熱さに一瞬手を引っ込めて、もう一度手を伸ばしたハボックが小さな手で焼き上がったクッキーを取った。
「……ろーい」
「うん」
「ろーい!」
「上手に焼けたな」
 パアッと顔を輝かせてハボックはロイとクッキーを交互に見る。ヒューズが摘んだクッキーを口に放り込んで言った。
「うん、すっごく旨い。ハボックちゃん、バッチリだよ」
 そう言って眼鏡の奥の瞳がウィンクすれば、ハボックは嬉しそうに笑って手にしたクッキーをロイに差し出した。
「くれるのか」
 ハボックの犬耳が頷くように動くのを見て、ロイはクッキーを受け取り口に放り込む。クッキーはサクサクと口当たりがよくショウガのよい香りが仄かにした。
「本当だ、とっても旨い。こんなに旨いクッキーを食べたのは生まれて初めてだよ、ハボック」
 そう言って笑うロイに。
「ろーい」
 ハボックが笑ってギュッと抱きついた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですv

「暗獣」です。ジンジャークッキー作りの続き。どうしてこうなんでもない話なのにやたらと長いんだか(苦)まあ、男二人で可愛い子供とクッキー作りな話ってことで。
2011年12月21日(水)   No.140 (カプなし)

暗獣37
「なんだ?ハボック」
 ソファーで読書をしていたロイは、本を持つ手にしがみつくようにして覗き込んでくるハボックに尋ねる。その空色の視線が見つめる先を見たロイは、クッキーの広告を指差して言った。
「これか?」
 そう聞けばハボックの犬耳がピクピクと動く。ロイが広げているのはいつも読んでいるような小難しい本とは違い珍しくもこのあたりのタウン誌で、シーズン商品の宣伝でジンジャークッキーの広告が載っているのだった。
「ろーい」
 ハボックが顔を覗き込むようにしてロイを呼ぶ。ロイがそのページを破って渡してやればハボックは嬉しそうに笑って受け取った。
「ジンジャークッキーか」
 そう呟けばもう忘れかけていた幼い時の記憶が蘇る。クリスマスと言えば母がジンジャークッキーとクリスマスケーキを焼いてくれるのが常だった。
「作ったら喜ぶんだろうな」
 ハボック自身クッキーを食べる事はないが作るだけでもきっと大喜びするだろう。ロイは膝の上に上がってクッキーの写真を見ているハボックの耳が、ピクピクと楽しそうに動いているのを見つめた。
「とは言え作り方が判らんぞ」
 母がクッキーを作るのを側で見ていた覚えはある。もしかしたら型抜きくらいは手伝ったかもしれない。だが、残念ながらそれ以外の記憶は全くなかった。
「うーん」
 頭上で唸るロイにハボックが振り向いてロイを見る。その綺麗な空色が喜びに輝くのを見たいという気持ちが湧き上がって、ロイは「よし」と頷いた。
「ちょっと待っていろ、ハボック」
 ロイはそう言って膝の上からハボックを下ろす。ソファーから立ち上がったロイはリビングの隅にある電話を取り空で番号を回した。
『はい』
 少しして聞き慣れた声が受話器から聞こえる。ロイはメモを引き寄せペンを手に取って言った。
「ヒューズ?私だ。グレイシアはいるか?」
『グレイシアへの用は俺に言え』
 途端に険しい声が返ってきたが、ロイは全く気にせず言う。
「お前に用はない。グレイシアと代われ」
『なんだとッ、お前、俺の大事な妻に妙な気を起こしているんじゃなかろうな?!』
「あのな」
 ギャアギャアと騒ぎ出すヒューズにロイはげんなりとため息をつく。煩い!と怒鳴ってヒューズを黙らせると、一瞬口を噤んだヒューズが再び騒ぎ出す前に言った。
「ハボックとジンジャークッキーを造りたいんだ。材料と作り方を聞きたくてな。だからグレイシアと代わってくれ」
「駄目だ」
「ヒューズ、お前な」
 ちゃんと理由を言ったにもかかわらず代わろうとしない男にロイが目を吊り上げる。ロイの纏う空気が変わったのに気づいたハボックが、ソファーの上から心配そうに見ている事に気づいてロイが何でもないと笑みを浮かべて手を振った時、ヒューズの声が聞こえた。
「生憎グレイシアは出かけてるんだ。だから無理」
「なんだ、それならそうと最初から言え」
 またくだらないヤキモチで言っているのかと思えば真っ当な理由に、ロイは帰ったら連絡をくれるよう言って電話を切った。

 その夜。
「どうしてお前がここにいるんだ」
 チャイムの音に玄関をあければ満面の笑みを浮かべて立っている髭面に、ロイは思い切り顔を顰める。そうすればヒューズがうきうきと楽しそうに言った。
「決まってるだろう、ハボックちゃんにジンジャークッキーの作り方を教えに来たんじゃないか」
「私はグレイシアに電話で作り方を教えてくれと言ったはずだが」
 いつまでたっても連絡がないのをおかしいと思っていれば、突然現れた友人にロイは不機嫌に言う。だが、ヒューズはそんなロイの様子など全く気にせず中に向かって声をかけた。
「ハボックちゃん、マースくんですよぅ!一緒にジンジャークッキー作りにきたよ!」
 マースは言いながら手にした紙袋を掲げてみせる。ヒューズが持ってくる袋にはいつも楽しいものが入っていると知っているハボックは、期待に顔を輝かせてパタパタと駆け寄ってきた。
「ほら、ハボックちゃんだって期待してんだろ。さっさと中に入れろ」
「ハボック」
 勝ち誇った様子のヒューズにロイはため息混じりにハボックを見る。だが、キラキラとした目で見返されれば、元々ハボックにクッキーを作らせてやりたいと思っていただけに反対する事も出来なかった。


いつも遊びにきてくださってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

「暗獣」です。どこまで書いても終わらないので途中でぶった切りました。だって日記の長さじゃないんだもん(苦笑)眠くてポメラ抱えて寝ちゃうので、続きはまた明日書きます〜。

以下、拍手お返事です。

ミサさま

いつも遊びに来て下さってありがとうございますv「初回衝撃」は13日にpearlに第一話をアップしておりますが、如何でしょうか〜(笑)ふふふ、ミサさまは大佐ファンのロイハボ派なのですね。純度100%のロイハボ、了解致しました。また何かリクエストありましたら連載途中でも構いませんのでお知らせ下さい。反映出来るかお約束はできませんが、できるだけご希望に添えればと思っております。年明け連載開始予定の拍手リクは「ブラハボから始まるロイハボ」でおそらくは限りなくオリキャラに近い大総統×ハボックから入って行くことになると思いますが、よろしければお付き合い頂けたら嬉しいですv
2011年12月19日(月)   No.139 (カプなし)

暗獣36
 一緒にツリーを飾ってからというもの、キラキラと色とりどりに輝くツリーを眺めるというのがハボックの日課になっていた。たくさんのオーナメントが飾り付けられたツリーをうっとりとした顔で飽きることなく見上げていたハボックだったのだが。

「また減ってる」
 リビングに入ってきたロイはツリーを見てため息をつく。ハボックと一緒にたくさんのオーナメントを飾ったツリーは、その下の方の飾りが少しずつ減ってきていた。
「まったくもう」
 ロイはやれやれと肩を落とすとリビングを出て二階に上がる。部屋の扉を開ければ部屋の隅で宝物を入れている小さな箱を開けているハボックの背中が見えた。
「ハボック」
 近づきながら声をかければハボックが振り向く。ハボックの側までやってきたロイは、ハボックが弄っている宝箱の中を見て眉を下げた。
「ハボック、気に入ってくれたのは嬉しいが、オーナメントは飾って楽しむものだぞ」
 ロイはそう言って宝箱の中から赤いガラスの玉を摘み上げる。そうすればハボックが慌てて手を伸ばしてきた。
「ろーいー」
 ハボックはロイの手からオーナメントのガラス玉を奪い返すと宝箱の中に大事そうにしまう。よく見れば宝箱の中にはツリーに飾ってあった筈の金色のベルやらしましまのステッキやらがしまってあるのだった。
「ハボック」
 窘めるようにロイはハボックを呼んだが、ハボックは宝箱の蓋を閉めると小さな手でしっかりと蓋を押さえる。つーんと顔をそっぽに向けて絶対返さないという態度のハボックに、ロイはやれやれとため息をついた。
「まあ、気に入ってくれたと思うしかないか」
 もともとハボックを喜ばせるために用意したツリーだ。どんな形であれハボックが気に入ってくれているなら良しとするしかないのかもしれない。それに綺麗なものが好きなハボックならいずれこうなることは判っていた筈だ。ロイはとりあえずそう考えるしかないかと自分を納得させることにした。

 その夜。
 一度ベッドに入ったあと喉の乾きで目を覚ましたロイは、悩んだものの仕方なしに起きあがると水を飲みにベッドから降りる。寒さに身を縮こまらせて階段を下りかけたロイは、リビングの方からした気配に眉を顰めた。
(なんだ?誰かいるのか?)
 戸締まりはしっかりしたし、古い屋敷は泥棒の目を引くものでもない筈だ。足音を忍ばせてリビングの扉に近づいたロイは、そっと扉を開けてその隙間から中を伺った。そうすれば。
 大きなツリーのてっぺんにふさふさの尻尾が見える。ガサガサと枝に足をかけたハボックが輝く星に手を伸ばそうとしているのが見えて、ロイは大きく目を見開いた。
「ハボック!なにしてるんだっ?」
 思わず大声を上げれば、驚いたハボックが枝を踏み外した。
「ハボック!」
 ザザザとツリーの枝をこすってハボックが床に落ちる。慌てて駆け寄れば仰向けに倒れたハボックがロイを見上げた。
「ろーいー」
 呼んで手を伸ばしてくるハボックをロイは抱き上げる。軽い体が幸いして怪我こそしなかったものの、落ちてビックリしたのだろう、ハボックはロイに(ひし)としがみついてきた。
「ろーいーー」
「まったくお前は」
 しがみついてくる背をポンポンと叩いてロイはため息をつく。体を少し離してロイは空色の瞳を覗き込んだ。
「星が欲しかったのか」
 綺麗なものが好きなハボックから見たら、ロイと一緒に飾ったあの星は最高の宝物なのだろう。ツリーのてっぺんを飾る星を見て、ロイは言った。
「だが、あれまで取ってしまったら流石にツリーとしてどうかと思うぞ」
 そう言えばハボックがショボンと項垂れる。そんなハボックを見てうーんと唸ったロイは、思いついた考えにハボックを下ろして棚に近づいた。抽斗をあけて金色のリボンを取り出す。それは以前買ったクッキーについていたもので、なんとはなしにとっておいたものだった。
「こんなところで役に立つとはな」
 ロイはそう言ってツリーの星を外して代わりにリボンを飾り付ける。外した星をロイがする事を見ていたハボックに差し出した。
「ほら、ハボック。だがもうこれで最後だぞ、いいな?」
 その言葉に頷いてハボックは星を受け取る。キュッと大事そうに抱き締めてロイを見上げた。
「ろーい」
「いいさ、お前が喜んでくれるならそれで」
 ロイはそう言ってハボックの頭を撫でる。
 それからというもの、ツリーの下でハボックは宝箱からオーナメントを出しては並べて眺めるのが、ロイはそんなハボックの隣に運び込んだクッションに寝ころんで本を読むのが、冬の間の日課になったのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございますv拍手嬉しいですー、頑張れますv

「暗獣」です。昨日の続き?ツリーを飾らせたのはいいけれど、綺麗なもの、可愛いもの好きのハボックなら絶対オーナメント欲しくなるよねぇと思ったもので(苦笑)

以下、拍手お返事です。

最近ハガレン熱が再燃し の方

わーい、ハボロイ同志が増えて嬉しいですvvやたら数ばかりあるサイトですが、ひとつでもお気に召した話があれば幸いです。拍手リク再開の暁には是非リクしてやって下さいvこれからもどうぞお付き合いのほど、お願い致しますv
2011年12月15日(木)   No.138 (カプなし)

暗獣35
「そうか、もうそんな季節なんだ」
 古書店からの帰り道、ロイは通りに並ぶ店先を見て呟く。12月に入って店の店頭や内装にはそれぞれに趣向を凝らしたクリスマスの飾り付けがなされていた。ふと通りに植えられた木々を見ればイルミネーションの小さな電球が幾つもいくつもついている。夜ともなれば一斉に点された電球がきっと幻想的で美しい風景を作り出すのだろう。
「ハボックが外に出られるなら見せてやれるのに」
 ロイはこんな時ハボックが外に出られないのを残念に思う。綺麗なもの可愛いものが大好きなハボックが見たら絶対に喜ぶだろうと思うものがあっても、見せてやることは出来ないからだ。
「写真に撮ったところでなぁ」
 実際に見なければこの心がウキウキとする楽しさは伝わらない。がっかりとため息をついたロイは、通りに出ている露店に気づいて足を止める。この時期限定で出ている露店の店先に並ぶものを見て、ロイは笑みを浮かべた。
「そうか、この手があった」
 ロイはそう呟くと露店に近づいていく。幾つもあるものの中から気に入ったものを選ぶと、超特急で配達してくれるよう頼んで雑貨屋に向かった。そうしてクリスマスカラー一色の店内で目当てのものを買うと、ハボックが待つ家に急いで帰った。

「ハボック」
 家の扉を開けるなりロイは中に向かって呼びかける。そうすればハボックがリビングの扉からひょっこりと顔を出した。
「ろーい」
 一人留守番をしていたハボックは、ロイの姿を見ると嬉しそうに笑って駆けてくる。ぱふんとぶつかるようにしがみついてきたハボックの金髪をわしわしと掻き混ぜてロイは言った。
「今日はいいものを買ってきたんだ」
 ロイがそう言うのを聞いてハボックが期待に目を輝かせる。ハボックを連れてリビングに入るとロイはテーブルの側に膝をついた。
「おいで」
 そう言ってロイはつい今し方雑貨店で買い求めたものをテーブルに広げようする。すると丁度その時、玄関のベルが鳴り響いた。
「お、本当に超特急で来たな」
  品物の金額に上乗せして金を払っただけあっての配達の速さに、ロイは満足そうに言って立ち上がる。ベルに答えるため出ていくロイにくっついて玄関まで行ったハボックは、配達員の男が抱えているものを見て空色の瞳を見開いた。
「急かして悪かったな」
「いいえぇ、こんな可愛いお子さんがいたら早く見せてやりたいですよね」
 男はそう言ってハボックを見る。
「よかったなぁ、こんな立派なの買って貰えて」
 そう言う男が運んできたのはロイの背丈ほどもある大きなツリーだった。
「すまんが中まで運んでくれるか?」
「いいですよ、どちらです?」
「こっちだ」
 ロイに案内されて男はリビングへとツリーを運び込む。一緒に持ってきた大きな鉢に慣れた手つきでツリーを植え込むと、まん丸に目を見開いているハボックの頭をポンポンと叩いて帰っていった。
「どうだ?いいツリーだろう?クリスマスだからな、買ってきたんだ」
 ロイが通りで見つけたのはこの時期限定でツリーを売っている露店だった。外にクリスマス一色の街を見に行けなくても、これならハボックも楽しめると思ったのだ。
「ほら、オーナメントもいっぱい買ってきたぞ。一緒に飾ろう」
 ロイはそう言ってさっき出しかけたオーナメントを机の上に広げる。金色のベルや小さな靴下、しましまのステッキに可愛いリボンがついたプレゼントの箱。色とりどりのオーナメントにハボックは空色の目を見開いて顔を輝かせた。
「ろーい!」
 嬉しくて嬉しくて堪らないというようにハボックはオーナメントを手にリビングをスキップする。赤いガラスの玉を灯りに翳して見るハボックにロイは笑いながら言った。
「ほら、ツリーに飾るぞ」
 そう言えばハボックがオーナメントを手に駆け寄ってくる。ツリーの下の方をハボックが、上の方をロイが担当して次々と飾り付けていった。
「よし、最後はこの星だ」
 ロイは言ってハボックに金色に輝く星を渡す。目をキラキラさせてそれを受け取ったハボックをロイは抱え上げた。
「ツリーのてっぺんにつけてくれ、ハボック」
 そう言ってロイはハボックが星をつけやすいように支えてやる。ハボックは手を伸ばしてツリーの一番上に大きな星を飾り付けた。
「よし、完成だ」
 ロイはハボックを抱いたままツリーから少し離れる。そうして全体のバランスを見て満足げに笑った。
「いい出来だ。どうだ、ハボック、綺麗だろう?」
 ロイの言うとおり緑の葉陰にたくさんの色とりどりのオーナメントを飾ったツリーは賑やかで可愛くてとても綺麗だった。
「ろーいー」
 ロイの腕の中で背伸びするようにツリーを見ていたハボックがキュッとロイの首にしがみつく。金色の尻尾をふさふさと振ったハボックにチュッと頬にキスされて、ロイは嬉しそうに笑ったのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございますv拍手、とっても励みになります、嬉しいですv

「暗獣」です。ハボックとクリスマス!冬ネタは絶対コレだと思っておりました(笑)何を書くかまでは具体的に考えてなかったのですが、書き始めたら色々書きたくなってきました。というわけでもう少しクリスマスネタが続きます〜(笑)
2011年12月14日(水)   No.137 (カプなし)

恋猫24
ハボロイ風味

 ゴソゴソと動く気配がしてブランケットの中に冷気が入り込む。寄り添っていた温もりが離れて、ロイは薄闇の中うっすらと目を開けた。そうすれば「うーん」と大きく伸びをするハボックの大きな背中が見える。伸びをしたハボックはついでにコキコキと首を鳴らすと静かに部屋を出ていった。
 ハボックのアパートに住むようになって、ロイはハボックのベッドで一緒に寝起きしていた。来た当初、ソファーで寝ると言い張ったロイにハボックが「狭いベッドだけどロイは小さいから一緒に寝たって平気っスよ」と騒ぐロイを抱き抱えてベッドに潜ってしまったからだ。疲れていたのだろう、瞬く間に眠ってしまったハボックの腕から抜け出そうとしたロイは、出ようとする度眠っている筈のハボックの腕に引き戻され、フガフガと気持ちよさそうに抱き締めてくるハボックに根負けして、結局一緒に眠る事にしたのだった。
 ロイはあと五分だけとハボックの温もりの残るブランケットを体に巻き付ける。今ではこのベッドで眠るのがロイにとって一番落ち着く時間になっていた。
(ハボックの匂いがする……)
 目元まで潜り込めば微かに煙草の匂いがしてロイは目を閉じて深く息を吸い込む。そうすればハボックに優しく抱き締められているようで、ロイはうとうとと眠りの淵をさまよった。

「ローイ、メシ、出来たっスよ」
 そう声が聞こえてロイはうっすらと目を開ける。そうすれば綺麗な空色が間近に見えてロイはうっとりと笑った。
「ロイ、起きて!そろそろメシ食わないと遅刻する」
 言うと同時にハボックがロイの猫耳をツンツンと引っ張る。その刺激にロイはハッとしてガバリと起きあがった。
「ごめんっ、二度寝したッ!!」
 あと五分のつもりが残るぬくもりに安心してしっかり眠ってしまったらしい。慌てて飛び起きるロイにハボックが笑って言った。
「いいっスよ。ロイ、寒いの苦手っしょ」
「……ごめん」
 寒くなってからというものロイはなかなか朝起きれないでいる。前はちゃんと起きてハボックが朝食の準備をするのを手伝っていたというのに、最近はからきしで今日のようにハボックに起こされるのがしょっちゅうだった。
「はあ……」
 ため息をついて悄気返るロイの頭をハボックがわしゃわしゃと掻き混ぜる。そうされて顔を上げるロイを見てハボックがにっこりと笑った。
「おはよう、ロイ。よく眠れたっスか?」
「おはよう、ハボック。寝すぎたくらいだ」
 ロイが答えればハボックが笑みを深める。一人寝坊するのは悪いと思うものの、こうやって起こして貰う時間が待ち遠しいのも本当だった。
「さ、メシにしましょ。ちゃんとあったかくして、ロイ」
「うん」
 答えて腕を伸ばせば抱き締めてくれる暖かい胸に頬を寄せて、ロイはそっと目を閉じた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、更新の励みです、嬉しいですv

「恋猫」です。なんとか続いてますね(苦笑)そろそろ話を展開させないとなぁと思いつつ、こういう話の筋にあまり関係ないだらだらとした話を書くのが好きでつい枝葉が多くなってしまいます(苦)スッキリした話が書きたいと思いつつ、でも好きなんだよなぁ、困ったもんだ(苦笑)

ところで、先週でパタパタとロイハボの連載が終わってしまったので新しい話に入らないといけないわけですが。以前ロイハボの拍手リクを募った時に「pearlの“初回衝撃”を読みたい」というリクを頂いたんですよね。なので連載の一個はそれを書こうかなと思っております。で、もうひとつの方。拍手リクで一個残ってる「ブラハボから始まるロイハボ」なんですけど、ふと考えてみると私、大総統って書いた事がないので口調が判らないっていう(苦笑)なのでちょっくら原作読んで勉強してきますー。多分今回の大総統はホムンクルス設定なしの最高権力者になると思われます。まあ、もしかして設定ありの方がよくなったら後付けでつけるかもしれませんが(苦笑)年明けに連載始められたらいいなッ!それまでは単発物を書ければと思ってます。とりあえずロイハボ連載はそんな感じでいく予定なので、よろしくお付き合い下さいませーv
2011年12月12日(月)   No.136 (ハボロイ)

暗獣34
「朝か……」
 けたたましく鳴り響く目覚まし時計をブランケットの中に引きずり込んでロイは呟く。もぞもぞと起き上がりかけたロイは、逃げていく温もりを惜しんでブランケットを体に巻き付けた。
「寒い……起きるなと言ってるのと同じだな」
 冬の朝、鎧戸をおろした薄暗い部屋の中で勝手な事を呟けば起きるのが億劫になってくる。それでも今日は古書店に頼んでいた本を取りにいく約束をしているのを思い出して、ロイは名残惜しそうにブランケットから抜け出した。
「うう、寒いっ」
 夜の間に暖めた空気が逃げ去って、だいぶ冷え込んだ部屋の中、ロイはブルリと震える。急いで服を着替えるとやれやれと一息ついて窓に近づいた。
「ハボック、窓を開けるぞ───ハボック?」
 いつものように声をかけたロイはハボックの寝床になっているビロード張りのトランクに向けた目を大きく見開いた。
「いない……どこに行ったんだ?」
 ロイは決して早起きではないし、夜遅くまで本を読んでいたりすれば益々起きるのは遅くなる。それでも大抵ハボックはそんなロイに合わせて寝ているのが常だった。
 ハボックがいないのなら遠慮する事はないと、ロイは鎧戸をガラリと開く。そうしてふと見下ろせば、ハボックが庭を歩いているのが目に入った。
「ハボック」
 そんなところにいたのかと、ロイは二階の窓からハボックに声をかける。だが、ハボックはチラリとロイを見上げただけでそのまま歩いていってしまった。
「なんなんだ?」
 何となく面白くなくてロイは眉を顰める。窓を閉めると急いで階下に降り、上着を羽織って庭に出た。
「ハボック」
 呼びながらロイはハボックが消えた方に向かって歩く。家の周りを回るようにして行けば、小さな池の側にしゃがみ込むハボックの後ろ姿が見えた。
「ハボック、なにをしてるんだ?」
 近づきながら声をかければハボックが肩越しにロイを見上げる。ロイはハボックが木の枝でつついている池の表面が薄く凍っていることに気づいた。
「凍っているのか?もうそんなに寒いんだな」
 寒い寒いと思ってはいたが、薄いとはいえ池に氷が張っているのを見れば益々寒く感じる。ツンツンと氷をつつくハボックにつき合って暫くの間一緒にしゃがみ込んでいたロイだったが、足下から上ってくる冷気にブルリと身を震わせて立ち上がった。
「寒い。もう戻ろう、ハボック」
 ロイは言ったがハボックは立ち上がる気配がない。仕方なく先に戻るぞと言いおいて家に戻ろうと歩きだしたロイは、ふと振り返って目を見開いた。
「ハボックっ?」
 見れば立ち上がったハボックが氷の上に足をおろそうとしている。氷が張ったとはいえまだそれはごく薄く、乗ればたちまち割れてしまうと思えた。
「やめろっ、危ないぞッ」
 ロイは叫んで駆け戻る。だが、ロイが止める前にハボックは氷の上に乗ってしまった。
「危な───」
 割れる、と身を竦ませたロイの目の前で、だがハボックの体はスーッと氷の上を滑っていった。
「え?……あ」
 スーッと何事もないように氷の上を滑るハボックに、ロイは目を見開く。それから漸く合点がいったというように作った拳でもう一方の手のひらを叩いた。
「そうか、お前、元は毛糸玉だったな」
 小さな子供の見た目に反して、その体は驚くほど軽い。そのことをすっかり失念していた事に気づいてロイはやれやれと池の側に腰を下ろした。
「まったく、びっくりさせるな」
 ため息をつくロイの前でハボックはスーイスイと氷の上を滑る。ロイの方を見るとにっこりと笑って手を伸ばした。
「ろーい」
「私は無理だよ、ハボック」
 毛糸玉のハボックと違ってロイは人間の大人だ。足を乗せただけで薄い氷はたちまち割れてしまうだろう。
「ろーい?」
「お前と違って私は重いからな。氷が割れてしまうんだ」
 そう説明すればハボックが寂しそうな顔をする。ロイは笑みを浮かべてハボックの金髪をわしわしと掻き混ぜた。
「私は乗れないから、その分お前が滑って見せてくれ。な?ハボック」
 ロイが言えばハボックが目を輝かせて池の上を滑り出す。スーイスーイと身軽に滑る姿にロイは手を叩いて喝采を送った。
「上手いぞ、ハボック!」
 そう言った途端、ハボックがステンと転ぶ。尻をついたままくるくると回るハボックにロイが笑い声を上げた。
「ろーいー」
 そのまま少し滑ったハボックがロイのところに戻ってくる。手を伸ばしてくるその体を抱き上げれば、尻尾とお尻が濡れて冷たくなっていた。
「戻ろうか、ハボック」
 そう言うロイの首にハボックがキュッとしがみついてくる。ハボックを抱いたまま家に戻ったロイは濡れた尻尾をよく拭いてズボンを変えてやった。もう一度外に行こうとするハボックを引き留めてロイは朝食をすませる。ロイがコーヒーを飲み終えるか終えないうちに、ハボックはロイの腕をグイグイと引っ張って外へと促した。
「陽は上ってきたがまだ寒いぞ」
 もう一度外に出るのが億劫でロイは言ったが強請るように見つめられれば嫌とも言えない。走っていくハボックの後についてゆっくりと庭を歩いていったロイは、池の側に立つハボックを見て言った。
「どうした?滑らないのか」
「ろーいー」
 ロイの言葉にハボックが泣きそうな声で言ってしがみついてくる。どうしたのかと池を見たロイは、さっきまで張っていた氷が溶けてしまっているのに気づいた。
「ろーい」
「気温が上がってきたからな」
 ロイはしがみついてくるハボックを抱き上げて言う。口をへの字にしているハボックに笑みを浮かべて続けた。
「明日になったらまた凍るさ。まだまだこれからどんどん寒くなるから、好きなだけ滑れるよ、ハボック」
「ろーい」
「判った、ちゃんと早起きしてつき合うから」
 そう言えば嬉しそうに笑って抱きついてくる小さな体をロイは抱き返す。そうして家に戻るとハボックと一緒に明日のためにマフラーと手袋を用意したのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですv

どうも最近頭がゲームになってまして(苦笑)拍手の続きを書いてみたり。どうも気に入ったゲームがあると思考がググーッとそっちに向くので困りもの。FF13の時もそうだったしなー。ちょっと思考を引き戻さなくっちゃ!

と言うわけで、思考を引っ張り戻して「暗獣」です。やっと冬ネタに入れて嬉しいけれど、いい気になって書くとネタ切れするので少しずつ(笑)ハボックなら庭の小さな池でもスケートオッケーっス(笑)

以下、拍手お返事です。

阿修羅さま

おお、「お値段決めったー」やって頂けましたか!って、それ、0多すぎて判りませんよ!凄い(笑)それでまたご本名が(笑)結構これ、笑えますよね、楽しんで頂けたようで嬉しいですvお風邪ですか?今流行ってますね、かく言う私も咳がとれません(苦笑)阿修羅さまも大事になさって早く治して下さいね。

パナケイア脱稿おめでとうございます の方

こちらこそ最後までお付き合い頂いてありがとうございます!やたらと長い話になってしまいましたが、お楽しみ頂けて嬉しいです。最後にぽかりと浮かんだラストは空を見ていたロイがハボックを引き寄せてチュウするシーンだったので、そんな風に言って頂けて本当に嬉しいですーvありがとうございますvv
2011年12月09日(金)   No.135 (カプなし)

予約受付中
 司令室に向かって廊下を歩いていたロイは、足下にひらりと舞い落ちた紙に気づいて足を止める。何気なく拾って紙面を見たロイは驚愕に目を見開いた。
「なんだ、これわッッ!!」
 ロイがそう叫んで睨みつけた紙面には大きな文字で【予約受付中】と書いてあった。問題はその予約の内容だ。
『ジャン・ハボックと二人きりのクリスマスデート お値段1,225センズ(プレゼント・お食事付き、エッチ込み)ご予約はお早めに!』
「ハボックとのクリスマスデートだとッ?しかもエッチ込みって……それでこの値段じゃ安すぎるだろうッッ!!」
 ツッコミどころはそこじゃないだろうと、ブレダあたりが聞いたら言いそうなことを叫んでロイは手にしたビラを握り締める。そのままドカドカともの凄い勢いで廊下を歩くと、司令室の扉をバンッと開いた。
「ハボックッッ!!」
「わあ、来たッ!!」
 開けると同時に中に向かって怒鳴れば、ハボックが悲鳴を上げてブレダの後ろに隠れる。鬼の形相で近づいてくるロイと怯えるハボックの間に立たされて、ブレダはまあまあとロイを宥めた。
「誰かがイタズラでビラをばらまいたみたいなんですよ。こいつ自身すっごい迷惑被ってるんで怒らないでやって下さい」
 ブレダにそう言われてロイはジロリとハボックを見る。「そうなのか?」と尋ねればハボックがうんうんと頷いた。
「もう、朝からビラ見たって奴らが電話だったり直接だったり申し込みしたいって凄くて」
ハボックは引き寄せた椅子に腰掛けながらゲンナリと言う。ハアアとため息をついて疲れきった様子のハボックに、ロイも流石にそれ以上言うことが出来ず、手にしたビラをもう一度見た。
「誰かお前を恨んでる奴の仕業じゃないのか?フラレて逆恨みしたとか」
「アンタじゃあるまいし」
 思わずそう言ってしまったハボックの襟首をロイがグイと掴む。「ギブギブ」と叫ぶハボックと容赦なく締めるロイとをため息混じりに見ながらブレダが言った。
「まあ、申し込みに来た奴には事情を説明してお引き取り頂くしかないでしょうね」
「そんなので大丈夫なのか?」
 漸くハボックから手を離してロイが言えばブレダが答える。
「常識的に考えたらすぐ判ることでしょう」
「確かにそうだな」
 ロイは頷いてやれやれとため息をついて、事態はそれで収まったと思われた。だが。

 翌日。
 ロイとハボックが通りを歩いていると向こうから男が一人近づいてくる。大きな薔薇の花束を抱えた男は、ハボックの前で立ち止まると満面の笑みを浮かべて言った。
「ハボックさん、是非、このクリスマスデートを予約したいんだけど」
「えっ?」
 そう言って男がビラを差し出してくるのにハボックはギョッとして顔を顰める。昨日のビラがまだ出回っていたのかと紙面を見たハボックは、そこに書いてある数字を見て目を見開いた。
「え……?お値段3,500万センズ……?」
「勿論即金で支払うよ。受け付けて貰えるだろう?」
「えっと」
 ニコニコと笑いながら薔薇の花束を差し出してくる男にハボックはひきつった笑みを浮かべる。そんなハボックと男の間にズイと立ちはだかってロイが言った。
「お引き取り願おう。ハボックは私のものだ」
「えっ?もう先約がっ?」
 ロイの言葉に男が驚いて言う。だが、引き下がるかと思った男は、ハボックを見つめて言った。
「だったら俺は3,600万払うッ!だから是非俺とッ!」
「はあっ?なにをふざけたことをッ?!」
 男の申し出にロイが目を吊り上げる。男はロイを押し退けるようにして更に言った。
「3,600万で足りないなら3,700万……いや、3,800万払おうッ!!」
「貴様ッ、ふざけるなッ!!」
「煩いな、俺はハボックさんと交渉してるんだッ」
 とんでもない事を言い出す男の肩をロイがグイと掴めば、男がキッとロイを睨む。それからハボックを見て言った。
「ハボックさんっ、いいだろう?是非俺とッ」
「ふざけるなッ、だったら私は4,000万出すぞッ」
 ロイを押しやるようにして言う男に負けじとロイが叫ぶ。そうすれば男が更に言った。
「だったら4,100万出すッ!」
「なにをっ、それなら私は4,200万だッ!」
「4,250ッ!!」
「4,275ッ!!」
「ええと」
 ギャアギャアと細かく金額を競り上げながら言い合う二人を目を丸くして見つめながら。
(オークションするのもいいかもしんない)
 ついうっかりそんなことを考えてしまったハボックだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。入れ替えた拍手、読んで下さってありがとうございます。とっても嬉しいですvv

「あなたと二人きりでクリスマスデート お値段を決めったー」っていうのを見つけましてね。早速ジャン・ハボックでやってみたところ1,225円って。安ッ!!(笑)これなら私でも予約出来るわ〜vと、ロイでもやってみたら500円!!(爆)いやあ、これなら二人まとめて予約させて頂きますよ(笑)食事、プレゼント、エッチつき、凄いね(爆)ちなみにみつきでやってみたら700円。本名でやってみたらなんと3,500万円でした。3,500万あげるって言っても予約入らなそう(苦笑)ちなみにこれ、日替わりなので明日になったらすっごく高くなってるかもです。本日限り!お買い得ッッ!!(爆)

あ、そうそう。更新記録に載せ忘れましたが“ギャラリー「玄関」”なる部屋を作りました。要はこれまでに拙宅の入口を飾っていた素敵素材としょぼい四行詩を集めた部屋です。いや、最初のうちは保存してなかったんですが、ふと保存しておかないと同じ素材を使用する&同じような詩を書くって事をやりかねない事に気づきましてね。でも、しょっちゅう保存するのを忘れそうになるので、まあ備忘録みたいなもんです(苦笑)そんなわけですので、最初の頃のはありませんし最近も保存し忘れたりで抜けてるっていう中途半端なギャラリーですが、こそばゆいハボックラブを感じたい時などご覧いただければ(苦笑)こっそりpearl/diamondから入れます。

以下、拍手お返事です。

文字だけなのに の方

わあ、ありがとうございます!!書いてる本人もハボックは「ろーい」しか言わないし、殆どロイが一人喋ってる状態でこんなのでいいのかなと思わないでもないのですが、ハボックかわいいと言って頂けて、とってもとっても嬉しいですーーvvこれからも可愛らしさが伝わるよう、精一杯書いていきますので、よろしくお付き合い下さいませv

いつも楽しく拝見しています の方

いつも遊びに来て下さってありがとうございますvあはは、バレましたか?ご察しの通りそのゲームでございます(笑)あの設定って凄いですよねぇ。発売日に買っていまだに第五章の辺りをうろうろしているので最後どうなるのか判ってないのですが、イザナの死が今後も関係してくるのかなぁと期待しながらやってます。でも、せっかく14人もキャラがいるのに使いまわせずエースばかりレベルが上がるっていう(苦笑)これからもゲームネタなぞ出てくるかもしれませんが、引き続きお付き合いのほど、お願いいたしますv
2011年12月05日(月)   No.134 (カプなし)

暗獣33
「今日は冷えるなぁ」
 ロイはキッチンで熱いジンジャーティーを淹れるとそのカップを両手で包み込むようにして持つ。フウフウと一口啜るとカップを手に二階へと上がった。
「ハボック」
 扉を開けて部屋に入れば、ハボックが窓枠に掴まるようにして窓から外を眺めている。カップを手に近づくと、ハボックが窓枠に掴まったまま外へ向けていた目をロイへと向けた。
「何か見えるのか?」
 ロイはカップの熱でほんの少し暖まった手でハボックの金髪を撫でる。そうすれば擽ったそうに首を竦めて、ハボックは再び外へと目を向けた。
 窓の外に広がる空はどんよりと曇っている。モノトーンの空の下で、地上も色をなくして寒々しく見えた。
「見てるだけで寒くなるような空だな」
 ロイは空を見上げて言うと手にしたカップに口をつける。こんな日は家にこもって本でも読んでいるのが一番と、ロイが椅子に腰を下ろそうとした時。
 不意に窓枠に掴まっていたハボックが振り向いたと思うと、カップを持つロイの袖を引く。熱い茶を零しそうになって、ロイは慌ててカップを持つ手を上に上げた。
「こら、ハボック。危ないだろう?」
 零れたりしたらロイよりハボックにかかりかねない。メッと目を吊り上げるロイに、だがハボックはもう一度ロイの袖を引く。どうやらカップを置けと言いたいらしい事を察して、ロイはテーブルにカップを置いた。
「どうしたんだ、ハボック……って、おいっ?」
 何だと尋ねるロイの手をハボックが引っ張る。それに引かれるように足を出せばハボックはロイを部屋の外へと連れ出した。そのまま階段を下りたハボックが自分を家の外へと連れていこうとしていることに気づいてロイは顔を顰める。思った通りハボックが庭に出る扉に手をかけるのを見て、ロイは言った。
「ハボック、この寒いのに外は勘弁してくれ。何かあるなら口で説明───というわけにはいかんか」
 言いかけた言葉を自分で否定するうちにハボックは扉を開けてしまう。その途端ピュウと吹き付ける冷たい風にロイは首を竦めた。
「寒ッ」
 中から見ていた以上に外は寒い。それでも構わずハボックはロイの手を引いて庭へと出た。
「寒いっ、せめて上着を」
 急速に奪われる熱にロイは往生際悪くそう訴える。それでも中へ戻らせてくれそうにないハボックに、ロイは手を伸ばすとその小さな体を抱き抱えた。
「寒いぞ、ハボック。一体何なんだ?頼むから早く教えてくれっ」
 ロイは少しでも暖をとろうとハボックの体をギュッと抱き締める。ハボックはそんなロイの片手を掴むと手のひらを上にして差し出させた。
「ハボック?」
 意味が判らずロイがハボックを呼んだ、丁度その時。
 ひらり。
 ロイの手の上に小さな雪片が舞い落ちる。手の熱であっと言う間に水滴に変わってしまったそれに目を瞠ったロイは、灰色に広がる空を見上げた。
「雪」
 一面グレーの空から剥がれ落ちるように雪が降ってくる。落ちてくるそれを目で追えば、ロイの手の上に落ちてスッと溶けて水滴になった。
「ろーい」
 呼ぶ声にハッとして腕の中のハボックを見れば小首を傾げてロイを見ている。じっと見つめてくる空色にロイの顔に笑みが浮かんだ。
「雪が降るのを教えてくれたのか」
 その年最初の雪を手にすると幸せになれるという古い言い伝え。ハボックがそれを知っているのか確かめる術はなかったが、それでもロイの胸はほんわりと暖かくなった。
「ほら、ハボック。手を出せ」
 言われて不思議そうに差し出された小さな手のひらに、ロイは溶けた雪の滴を移す。
「お裾分けだ」
 そう言えばハボックが嬉しそうに笑って手を握り締めた。
 寄り添う体から伝わる温もりを分けあって、二人はひらりひらりと舞い落ちてくる雪を見上げていたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

「暗獣」です。早速冬ネタ〜。12月に入ってきっちり寒くなりました。日中、一人の部屋にエアコンつけるのは気が引けるので小さい電気ストーブ使ってるんですが、今までは半分だけつけてたのを今日は流石に二本ともつけてます、寒い!(苦笑)しかし、この気温の乱高下、ホント勘弁して欲しいです。今日明日は最高気温7〜8度だけど、土曜日はまた19度くらいになるんだと。まったく体がついていかないっての。ああ、鼻が垂れる……。

ところで、11月中の更新、近年では珍しく一度もお休みしませんでした、おお!理由は四本立てになったから。サボると間が二週間あくなぁと思うとなんとなく書かずにいられないというか、まあ、あいても気にする方はいらっしゃらないでしょうが(苦笑)でも流石に12月はやりたくないけどやらなきゃいけない事が多々あるので後半特にお休みすると思いますー。大掃除とかね、年賀状とかね、正月準備とかね、ああ、ヤダヤダ(苦)家の庭木にクリスマスで電飾巻かなきゃだしな。一年で一番嫌いな月ですよ、普段ぐーたらなもんでしわ寄せが半端ないんだもん。って、自業自得と言われそうですね(苦笑)
2011年12月01日(木)   No.133 (カプなし)

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  Photo by 空色地図

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