babble babble


2022年08月の日記

2022年08月06日(土)
いつか

いつか
ハボロイ風味

「えっと、後は……」
 毎度ありがとうございますという声を背中に聞きながら古書店から出てきたロイは、この後の予定を考えながら空を仰ぐ。晴れ渡った夏の空を見れば、その空と同じ色の瞳を持つ男の事が頭に浮かんだ。
(そういえばハボックがいつも買ってくるコーヒーの店、この辺りにあるんだったな)
 毎度自分が終わりのない書類仕事に嫌気がさして全部ぶん投げて逃亡してやろうかと本気で思い始めるその矢先、まるでロイの心の動きを察しているかのようにコーヒーを差し出してくるハボック。
『そろそろ飽きた頃だと思って』
 面白がるように笑いながら出されるミルクと砂糖がたっぷりと入ったコーヒーとハボックの他愛のない軽口は、疲れたロイの心と体にじんわりと広がって気がつけばまたうんざりとするような日々の仕事に向き合う気力が戻っているのだった。そうしてそんな風に毎日を過ごしていれば、いつしかハボックという存在がロイにとって欠かすことのできない存在へとゆっくりと変化していったのも不思議はなかった。
(コーヒー、買って帰るか)
 休みの日には飲めないハボックのコーヒーが不意に飲みたくなって、ロイはずっしりと重い本が詰まった袋を揺すり上げて歩き出す。久しぶりの休みについつい買いすぎてしまった本は大きな袋二つ分にもなって、ロイは肩にかかる重みを感じながらゆっくりと歩を進めた。
(確かこの辺りだったはずだが)
 ロイはうろ覚えの記憶を頼りにコーヒーショップを探して辺りを見回す。そうすればビルの二階へ続く階段の手前に店の看板が立ててあることに気づいた。
「あそこか」
 呟いてロイは階段の入口に立つ。二階だという記憶はなくて、この荷物を抱えて階段を上がることに一瞬悩んだものの、ロイは軽く口を引き結んで段差に足をかけ階段を登り始めた。が、その途端。
「お、重い……っ」
 ズシッと肩にかけた袋の重さが増して足が階段にめり込む気がする。これが重力というものかなどとくだらない考えが頭を掠めたものの、一歩、また一歩と階段を登った。
「重……っ、だが今更降りるのも……」
 折角登った分を降りるのがなんだか悔しくて、ロイはずっしりと重い本の袋を肩に食い込ませながら階段を上る。一段上がるごとに本の重みが増しているんじゃないかと思い始めたその時。
「なにやってるんスか、アンタ」
 不意に声が聞こえたと思うと肩にかかっていた重みがなくなる。振り向けばロイが担いでいた本の袋を手にしたハボックが呆れた顔をして立っていた。
「ハボック」
「こんな重い袋抱えて階段上ることないでしょうに」
 そう言いながらハボックは袋をまとめて片手に持つとひょいと肩に担ぐ。突然のことに黒曜石の瞳を丸くして見上げるロイにハボックが言った。
「コーヒー、買うんスか?」
「あ、ああ、急に飲みたくなったんで」
 もごもごと答えるロイに頷いて、ハボックは先に立って階段を上がっていく。慌ててその後を追えばさっさと店の中に入ったハボックがロイを振り向いて言った。
「いつものやつでいいっスか?」
 そう言うのにコクコクと頷くロイに笑って、ハボックは店員に豆を注文する。金を払って豆の袋を受け取るとロイに差し出した。
「はい、豆」
「すまん、今金を────」
「いいっスよ、オレのおごり」
 ニッと笑うハボックにドキドキと心臓が鳴り出すのを押さえながらロイは袋を受け取る。「ありがとう」と呟くロイに頷いて、ハボックは扉を押して店の外へと出た。そのまま階段を降りていくハボックを急いで追ったロイは、店の看板の前で立ち止まったハボックを見上げて言った。
「助かったよ、ハボック。本の重みで階段にめり込むんじゃないかと思ったから」
「はは、なに言ってんスか」
 ロイの言葉に楽しそうに笑うハボックにドキリとしながら、ロイは手を差し出した。
「本、ありがとう」
 言って袋を受け取ろうとするロイに構わず、ハボックは片手で袋を肩にしょいながら歩き出す。
「送りますよ」
「いや、でも、なにか用事があるんじゃないのか?」
 なかなか休みがとれないのはハボックとて同じだ。貴重な休日、何かやることがあるんだろうとロイが言えば、ハボックが肩を竦めて答えた。
「まぁ今は大佐の荷物持ちっスかね」
 言ってプカリと煙を吐き出す煙草を咥えた口元を、ロイは僅かに目を見開いて見つめる。開いた瞳を嬉しそうに細めて、ロイはクスリと笑った。
「ありがとう」
 言えば優しく笑う空色に、ドキドキと高鳴る胸を隠して、ロイはハボックと並んで家への道を歩きだした。

「これで全部済んだかな」
 ハボックは今日中にすべき事を書き込んだメモに目を落として呟く。あまり上手いとは言えない自分の字を見れば、不意に流麗な上司の字が思い浮かんだ。
「あの人、書くの早いくせに字が綺麗だよな」
 そう呟けばふとロイとのやりとりが頭に蘇る。一時期、ブレダに電話のメモが読めないからもっと綺麗に、せめて丁寧に書けと言われて、自分の書いたものを人に見せるのが嫌になった事があった、そんな時。
『報告書に名前がなかったぞ、ハボック。字を見てお前だと判ったが』
 そう言ってロイが差し出した自分の報告書。慌てて受け取り名前を認めながら、字が汚くてすみませんねと半ば自嘲気味に言ったハボックにロイが目を丸くして答えた。
『汚い?確かに上手くはないが丁寧に読みやすく書いてあるじゃないか。それにお前の字は汚いんじゃなくて味があると言うんだ』
 ただの気休め、その場しのぎの言葉だろうと思いながら見上げたロイの表情から、それが本心からの言葉だと察せられてハボックは口を噤む。無言のまま差し出した書類を受け取ったロイの笑顔にドキリとしたのは押し隠して、サッと確認のサインをした書類をハボックに返して司令室を出ていくロイの背中を見送った。
「いつだってそうだよな……、あの人、否定しないんだ」
 自分ではそんなつもりはないものの、どうにも自分の緩い性格がついた上司の不興を買うのが常だった。ロイの護衛官になったもののどうせすぐ追い出されるだろうと思っていたハボックを、だがロイは決して否定しなかった。
『助かる、ハボック』
 ほんの些細なことにもそう言って返されれば、もっともっとロイの助けになりたくて。その凛とした姿を追いかける気持ちが恋へと代わっていくのに時間はかからなかった。
「今日は大佐も休日だから、家で本でも読んでるのかな」
 忙しすぎて本を読む暇がないと嘆いていたロイの言葉を思い出す。せめて少しでも疲れがとれればと、ロイにコーヒーを淹れてあげたいなどと思えば知らずコーヒーショップへと足が向いていた。
「あれ?大佐?」
 数メートル先、コーヒーショップの看板の前に立つロイの姿に気づいてハボックは足を止める。二階へと続く階段を睨むように見上げていたロイが、両肩に重そうな袋を下げたまま階段を登っていくのを見て、ハボックは慌ててロイを追った。上がり口に立ち先を行くロイを見上げる。一歩一歩階段を踏みしめるように登っていくロイの姿に、思わず吹き出しそうになるのをこらえて荷物に手を伸ばし声をかけた。
「なにやってるんスか、アンタ」
「ハボック」
 驚いたように振り向いたロイの色素の薄い唇が自分の名を形作るのを見てドキリとする。その動揺を押し隠してハボックは荷物を手にロイを追い越して店の扉を押し開いた。
「いつものやつでいいっスか?」
 という問いかけにコクコクと子供のように頷くロイに代わって豆を注文する。いつもの、と、自分が選んで淹れているコーヒーを買いにきてくれたと思えば知らず知らず顔が弛むのを押さえて、店員から豆の袋を受け取るとロイに差し出した。
「はい、豆」
「すまん、今金を────」
「いいっスよ、オレのおごり」
 いつもロイの為に心を込めて淹れている豆を選んでくれたことが嬉しくてそう言えば、ロイが礼の言葉と共に豆を受け取る。それだけのことで心が弾む自分をおかしく思いながらハボックは店を出ると階段を降りロイが来るのを待った。
「助かったよ、ハボック。本の重みで階段にめり込むんじゃないかと思ったから」
「はは、なに言ってんスか」
 科学者らしからぬ事を言うロイが可愛くて思わず笑ってしまう。「ありがとう」と本の袋を受け取ろうとする手をさりげなくかわして、ハボックは片手で本の袋をしょって歩き出した。
「送りますよ」
「いや、でも、なにか用事があるんじゃないのか?」
 送ると言えば遠慮の言葉を口にするロイにほんの少し寂しさが沸く。少しでも一緒にいたいと思うのは自分だけかもしれないと思いながらも、ことさら軽い調子で言った。
「まぁ今は大佐の荷物持ちっスかね」
 そう言ってロイの反応を伺う。これで拒絶されたらちょっぴりへこむと思いつつロイを見れば、黒曜石の瞳が軽くみひらかれ、そうして。
「ありがとう」
 嬉しそうに笑みに細められる瞳にハボックの胸がドキリと高鳴った。

 いつか。
 いつの日か。
 この想いを伝える時がくるだろうか。
 ────ハボックに。
 ────ロイに。
 いつか。
 いつかきっと。
 その時が来たら伝えるから。

「ねぇ、大佐」
「なんだ、ハボック?」

 今はまだ、並んで道を歩く小さな幸せを噛みしめながら。

「コーヒー……、淹れましょうか?」
「ッ、────ああ、頼むよ」

 交わす言葉に微笑みあって歩いていくハボックとロイだった。


いつも遊びにきてくださってありがとうございます。ボチボチ拍手も、本当にありがたいです〜、嬉しいですv

ハボロイの日ですね!なんかこう、一話にまとめようとすると説明っぽくなっちゃうなぁと思いつつ、こんな話になりました。これ、最初はフツーにただのハボロイネタにするつもりだったんですが、ハボロイの日ネタが思い浮かばなかったので流用しました(笑)いやね、買い物行ったとき、重い荷物を肩に背負って階段上ったらマジで地面にめり込むんじゃないかと思ったんですよ。重力感じるって(笑)日々、しょうもないことにネタをみつけている次第です、ふふ。

ところで、ハガモバ!ついに配信始まりましたね!早速インストールしてやってみてます。実はゲームの内容、全く見てなかったですが、これタクティクスRPGだったんですね〜。……嫌いなんだよね、タクティクスRPG(苦)いやまぁ、やるけどさ、ハガレンだし!と始めたハガモバ。同じく始めた息子にやり方聞きながらやってます(笑)チュートリアルガチャ、SRハボック確定なんだ!わーいv と喜んでいたら、息子が「なんでハボック?微妙じゃね?」とか言うので「さすがに最初から大佐出すわけにはいかないんじゃない?」と言ったら「SRなんだから大佐でもいいじゃん。まぁブレダよりましか」……って、アンタね!ハボックとブレダに謝んなさい!たく、もう!
でも、その後引いた初心者ガチャでもハボック二枚来ました。あとRのファルマンとフュリーが来た。ブレダはでなかったな〜。早くマスタン組でパーティ組めるといいなっ。そうそう、SSRはラストでした。うーん、オリビエ欲しかったっス〜。普段私も息子も無課金派ですが、リンかランファン来たら考えるわと言っていた息子、早速SSRランファン来てたので課金してました(笑)私もランファンなら欲しいかも……なんか微妙に課金しやすい金額設定なんですよね(苦笑)
まぁ、そんなこんなでハガモバ、ボチボチやってます。まじめにストーリー読んでると結構時間かかりますね、これ。まだストーリー2ー4までしかやってないよ。早く進めないと出来ないことが多すぎる。がんばろう(笑)
2022年08月06日(土)   No.530 (ハボロイ)

No. PASS
 OR AND
スペースで区切って複数指定可能
  Photo by 空色地図

[Admin] [TOP]
shiromuku(fs4)DIARY version 3.50