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2012年09月の日記

2012年09月27日(木)
新・暗獣27
2012年09月24日(月)
新・暗獣26
2012年09月21日(金)
新・暗獣25
2012年09月20日(木)
新・暗獣24
2012年09月19日(水)
新・暗獣23
2012年09月17日(月)
兎2
2012年09月16日(日)

2012年09月15日(土)
新・暗獣22
2012年09月13日(木)
新・暗獣21
2012年09月11日(火)
新・暗獣20
2012年09月10日(月)
金魚3
2012年09月09日(日)
金魚2
2012年09月08日(土)
金魚
2012年09月05日(水)
新・暗獣19

新・暗獣27
「今日もいい天気だな」
 別荘を出て歩いていけば、やがて林が途切れて湖の畔に出る。太陽の光を反射してキラキラ光る湖面を横目に見ながら二人はボート乗り場へと歩いていった。
「ろーいっ」
 ボートが繋がれている乗り場が見えてくると、ハボックがロイの手を引っ張る。急かすハボックに歩みを小走りへと速めて、ロイはボート小屋に辿り着いた。
「あ、いらっしゃい」
 二人を覚えていたらしい係の男がハボックの手を繋いだロイを見て笑みを浮かべる。それに「やあ」と返してロイは続けた。
「今日は釣りの道具も頼むよ」
「いいですけど、ちょっと時間が遅いからあまり釣れないかもしれませんよ?」
「……ろーい」
 係の男がそう言うのを聞いてハボックが目を細めてロイを見る。寝坊を責める視線を受け流してロイは釣りの用意を頼んだ。
「竿と魚籠、それからこれにエサが入ってますから」
 男はそう言いながら小さなケースの蓋を開ける。ロイと一緒に覗き込んだハボックがピッと悲鳴を上げて飛び上がった。
「ろ〜い〜ッッ」
「ん?どうした、ハボック」
 ロイは箱の中のミミズを摘んでハボックを見る。それを見たハボックが物凄い勢いで逃げだし、五メートルほど離れた木の後ろに隠れた。
「ああ、これか」
 ロイはウニョウニョと動くミミズを見て言う。箱に戻してハボックに近づこうとすれば木の陰から顔を出したハボックがブンブンと首を振った。
「そんなに嫌がらんでもいいのに」
 ロイはため息混じりに言いながらも水道を借りて手を洗う。そうまでしてからやっと近づくロイを、木にしがみついたハボックが目をまん丸にして見上げた。
「ちゃんと洗ってきたからいいだろう?」
 そう言ってロイは手を開いて見せる。それでも自分からは出てこないハボックにため息をついて、ロイは手を伸ばすとハボックを抱き上げた。
「ろーい……」
「もうミミズはついてないよ」
 心配そうに自分を抱く手を見つめるハボックにロイは苦笑する。ボート小屋に戻れば二人の様子を見ていた係の男がクスクスと笑った。
「じゃあエサはこっちにしましょう」
 そう言って男が見せた箱の中をハボックが恐る恐る覗く。そうすれば赤いツブツブが入っているのを見て、ハボックが心配そうにロイを見た。
「これはイクラだよ、ハボック。魚の卵だ。間違ってもミミズが生まれてきたりしないから安心しろ」
 そう聞いてハボックがホッと息を吐く。ロイはハボックを下ろすと釣りの道具一式を受け取って乗り場に行った。先にボートに乗り釣り道具を置いてからハボックに手を伸ばす。係の男の手を借りて乗り込んでくるハボックの手を取るとボートの中央に座らせた。
「今の時分だと湖のあの辺りがいいと思います。あそこ、高い木が見えるでしょう?あの辺り」
「判った、ありがとう」
 体を捻って男が指差す先を確認したロイは礼を言ってオールを握る。途端に張り切り出すハボックを脚の間に座らせた。
「いってらっしゃい」
 ボートを押し出して手を振る男にハボックが嬉しそうに手を振る。ひとしきり手を振るとオールを掴もうとするハボックにロイが言った。
「ボートなら後で漕がしてやるから今は急いでポイントに向かおう」
「ろーい〜っ」
 ロイの言葉にハボックが思い切り不満そうな声を上げる。それに構わずロイはオールを漕ぎ続けた。
「早くしないと魚が釣れないぞ」
「……ろぉい」
「判った、後でリベンジさせてやるから」
 漕ぐ手を休めずにロイが言えばとりあえず納得したハボックはボートの縁に寄る。「落ちるなよ」と言うロイの言葉に頷きながらも、ハボックは小さな手を湖に浸した。
「ろーいっ」
「波が立つんだろう?面白いか?」
「ろいっ」
 にっこりと笑ってハボックは両手を浸けてみたりパンパンと水面を叩いてみたりする。楽しそうに水と戯れるハボックに笑みを浮かべたロイは、辺りを見回して言った。
「そろそろだな。ハボック、水遊びはやめてこっちにおいで」
 ロイに呼ばれてハボックが側に寄ってくる。ロイがオールを操れば、ボートはゆっくりと止まった。
「ハボック、ここからは大声でのお喋りは禁止だ、いいな」
 ロイがどこか悪戯っぽく言えば、ハボックが期待に目を輝かせてロイを見上げる。
「ろーいっ」
「さあ、釣りを始めようか」
 ピンと犬耳を立たせたハボックの金髪を撫でて、ロイはにっこりと笑った。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても励みになります。嬉しいですvv

「暗獣」です。一話で釣りを終わらせるつもりだったのに続くになっちゃった……。ちなみに釣りの知識は全くありません!いや、一応ネットで見てたんですけど既に単語がさっぱり判らんし、正しい釣りを書こうとすると書きたいシーンが書けないんで(苦笑)とりあえずミミズに飛び上がるハボックを書きたかったっていうね。ミミズ触った手で触られたくないと思うの(笑)そんなわけでもう少し釣りしますv
そうそう、PBBSに「ろーい」のハボック投稿して頂きましたvメチャクチャ可愛くて今日はそのハボック思い描いて書いてみました〜vうふふv

以下、拍手お返事です。

なおさま

ふふふ、ディアス、とんでもないヤツですね(笑)しかし、昔書いた話なので展開が早いです。今書いたらきっとディアスとのシーンもねちねちしつこそうな気が(苦笑)ともあれロイにはきっちりガッツリ誤解を解いて貰おうと思います(爆)

JOEさま

うおおおおおッッ!!お絵かきありがとうございますッッ!!ハボック、か〜わ〜いい〜〜〜ッッ!!あんなハボックに「ろーい」って言われたら抱き締めて離さないわッ!!暗獣ハボックは見た目あれくらいの年齢と思ってますv幼稚園の年少さんなイメージ?うふふふvv本当に嬉しいvvま、また描いて頂けたりするのかなぁ……。髭タン組も見てみたいけど、おっきい金魚とちっさい金魚とかも見てみたいなーッ(←リクするな!)
2012年09月27日(木)   No.255 (カプなし)

新・暗獣26
「ろーい」
「んー?……もう朝か」
 ゆさゆさと揺すられてロイは薄目を開ける。もぞもぞとブランケットに顔を半分埋めれば、ロイの上に乗っかってきたハボックが小さな指で無理矢理ロイの瞼を開けようとした。
「ろーいっ」
「判った、起きる……」
 強引に開かれた目でハボックを見上げたロイは、肘をついてゆっくりと起き上がる。ふわぁと大きな欠伸をすると膝の上にちょこんと座っているハボックを見た。
「おはよう、ハボック」
 そう言って金髪をわしわしと掻き混ぜる。嬉しそうに笑うハボックを膝から下ろして、ロイは巣から這い出た。
「あー、よく寝た……」
 うーんと伸びをすれば同じように巣から這い出してきたハボックが真似をする。金色の頭をポンポンと叩いて洗面所に行くと顔を洗い、ロイはボトムを履き替えシャツを羽織ると階下に下りた。
「今日もいい天気だな」
 窓の外は明るい陽射しに照らされている。ロイは湯を沸かすと一杯用のコーヒーとフィルターが一つになった簡易式のコーヒーフィルターをカップにセットしお湯を注いだ。ハボックには冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出しグラスに注いでやる。そうすればハボックが嫌そうな顔をした。
「仕方ないだろう、井戸水を持ってくるわけにはいかないんだから。これだって一応人気銘柄だぞ」
 そう言うロイをハボックが不満そうに見る。コーヒーのカップと水のグラスを手にロイはソファーに座ると、隣に腰掛けたハボックにグラスを渡した。
「今日はこれからどうしようか」
 結局昨日はだらだらと一日別荘で過ごしてしまった。外のハンモックでゆらゆらと風に吹かれたり、露天風呂とは別にあるジャグジーにのんびり浸かったりしてそれはそれで楽しかったのだが、今日もそれでは芸がない。昨日まったりすごし過ぎたせいで腹が空かずにコーヒーだけで朝食を済ませながらロイが聞けば、眉間に皺を寄せながらミネラルウォーターを飲んでいたハボックが答えた。
「ろーいっ」
「うん、まあ、お前に聞けば絶対そう言うとは思ったがね」
 ボートか、と呟いてロイは少し考える仕草をする。ロイの返事を待って見上げてくる空色を見下ろして言った。
「よし、それならボートに乗って釣りをしよう」
 そう言われてハボックは尋ねるように首を傾げる。ロイはカップをテーブルに置いて竿を持つ真似をした。「魚を捕まえるんだ。長い棒の先に餌をつけた糸をつけて魚を釣る。面白いぞ」
 確かボート乗り場で釣竿の貸出もしていた筈だ。ロイが竿を振る真似をすればハボックが尻尾を振った。
「じゃあ、支度をしたら出かけよう」
 ロイはそう言って立ち上がるとカップを手にキッチンへ行き最後の一口を飲んでシンクに入れる。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出し、オレンジと一緒に袋に入れた。パンにバターとマヨネーズを塗りハムとレタスを挟む。紙で包んでそれも袋に入れたロイはハボックがまだパジャマのままな事に気づいて着替えさせてやった。
「ろーい」
 いそいそと空色のカチューシャを持ってくるハボックにやれやれとため息をついて、ロイは犬耳をピンと立てたハボックの頭にカチューシャをつけてやる。
「ハボック、尻尾」
 ロイに言われてハボックが尻尾を一振りするとフサフサの尻尾がパッと消えた。
「よし、準備はいいか?」
「ろーいっ」
 ロイの言葉に答えるようにハボックがピシッと直立不動の体勢を取る。その様子にロイはクスリと笑って言った。
「じゃあ行こうか。今度は迷子になるなよ」
「ろーい〜」
 言われてぺしょんと犬耳を伏せるハボックにクスクスと笑って、ロイはハボックと手を繋ぐと湖へと出発した。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても嬉しいですv

「暗獣」です。やっとバカンスに戻りました〜(笑)東京は昨日は23度、今日は30度……そろそろ秋がやってきそうなんですけど、一応まだ暑い時分ってことでよろしくお願いします(苦笑)

あ、そうそう。お絵かき掲示板はまだ稼働してますかというお問い合わせを頂きました。管理人が絵を描けないので「おねだり」お絵かき掲示板ですが、宜しければどうぞお絵かきしてやって下さいませ。入口をテキストページに貼っておきました。描いて下さると尻尾ブンブン振って大喜びしますvvどうぞよろしくお願いします。

以下、拍手お返事です。

なおさま

「セレスタ」そんな風に言って頂けて本当に嬉しいです〜ッvえへへ、頑張る気がモリモリ湧いてきます(笑)マドラス、涙目で「無茶言うなっ」って言うかも(笑)完結した暁には是非泣いて頂けるよう、頑張りますねv長かった残暑も漸く終わりそうですね。でも、まだ「暗獣」はバカンス中(苦笑)今日もほんわかして頂けたら嬉しいですv

阿修羅さま

おお、お引っ越し、もうすぐですね!準備、進んでますか?(笑)「暗獣」ハボックで息抜きのお手伝いが出来たらと思います。頑張って下さいね〜v
2012年09月24日(月)   No.254 (カプなし)

新・暗獣25
「ん」
 プカリと意識が浮かび上がってロイは目を開ける。シェードの隙間から入り込んだ陽射しが丁度顔に当たって、もういい加減起きろと言っているようだった。
「もうこんな時間か」
 ロイは枕の下から引っ張り出した懐中時計を見て呟く。結局半日寝倒してしまったが、特に計画があるわけでなく無駄に過ごした気にはならなかった。
「腹が減った……」
 とはいえ流石に空腹を覚えてロイは体を起こす。傍らを見ればハボックがすぴすぴと鼻を鳴らして惰眠を貪っていた。その寝顔を見ればロイの顔に自然と笑みが浮かぶ。額にかかる金髪を払ってやると、ロイはハボックを起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
「んー」
 思い切り伸びをしてロイはコキコキと首を鳴らす。これだけ寝たにもかかわらず大きな欠伸をしながら階下へと下りた。
「卵でいいか」
 とりあえず空腹を満たせればなんでもいい。ロイはフライパンにベーコンを載せると油が出てきたところで卵を落とし、蓋をして蒸し焼きにする間に顔を洗った。タオルで顔を拭きながら卵の焼け具合を確認し、皿に移す。コーンフレークを皿に出し牛乳をかけると、ベーコンエッグの皿と一緒にリビングに運んだ。ロイはソファーに腰を下ろし配達を頼んでおいた新聞を読みながらコーンフレークを口に運ぶ。のんびりと昼食にも遅い食事を取っていれば、悲鳴に近い呼び声が聞こえてバンッと寝室の扉が開く音がした。
「ろーいッ!」
「ハボック?」
 パタパタと軽い足音がしたと思うと、ハボックが二階からの急な階段を駆け下りてくる。あんまり急ぎすぎてズルッと足を滑らすのを見て、ロイはギョッとして腰を浮かした。
「ハボック!」
 そのまま落ちるかと思った体はパッと黒い毛糸玉に姿を変える。ポンポンと跳ねて一階まで下りたと思うと、再び子供の姿になってロイの胸に飛び込んできた。
「ろーい〜ッ!」
「ハボック」
 ロイは飛びついてきたハボックを受け止めて浮かしていた腰をぽすんとソファーに戻す。半泣きになってしがみついてくるハボックを驚いて見下ろしたロイはクスリと笑って言った。
「どうした、私ならここにいるぞ」
 どうやら目が覚めた時にロイがいなくなっていてびっくりしたらしい。さっきはぐれて迷子になったショックがまだ尾を引いているらしいハボックの背を、ポンポンと叩いてロイは言った。
「まったく、飛び出していなくなったのはお前の方だぞ」
「ろーい〜」
 苦笑して言うロイにハボックが唇を尖らせてロイを見る。背を叩いていた手にフサフサとしたものが触れて、ハボックの背を覗き込むようにして尻尾が生えているのを見たロイはやれやれとため息をついた。
「大丈夫、ちゃんと一緒にいるだろう?」
 そう言って金色の頭を撫でてやるとハボックが安心したように目を細める。漸く落ち着いてきたらしいハボックを膝から下ろしたロイが食べかけの食事に手を伸ばせば、ハボックはソファーに寝そべってゴロゴロとロイの膝に懐いた。
「ろーい」
 甘えるように頬を擦り付けてくるハボックにロイは笑みを浮かべると、新聞を片手に食事を続けたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、嬉しいですv

最近やたら眠くて作文が遅々として進みません(苦)まあ、とりあえず明日の更新分は書き上げましたが、なんか毎度綱渡りな気が(苦笑)なんでこう眠たいんだろう……。
日記は「暗獣」です。やっとロイのところに帰ってきて甘ったれなハボック(笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

そうそう、「ろーい」に込められた気持ちはロイでないと判らないです(笑)ヒューズもそこそこ判るかな。うふふ、ポイント、似てるんですよ、きっと。嬉しいですvv

おぎわらはぎりさま

おおう、携帯、それは大変です。お仕事に使ってると困りますよね(汗)とりあえず前機種で凌いでらっしゃるようですが、確かに使いづらいだろうなぁ(苦笑)早く復活しますように!「兎」ははは、カットされた部分はまあ例によって例のごとくですよ、妄想してやって下さい(にやり)お忙しい中遊びに来て下さってありがとうございますv

JOEさま

ロイとハボック堪能して下さってますか?嬉しいです〜vそしてお絵かき掲示板!わあ、描いて下さるのですか??やったー!いやあ、自分じゃ描けないのですっかり放置状態になってましたが、描いて下さったら嬉しいですッ!どうぞよろしくお願いしますvv
2012年09月21日(金)   No.253 (カプなし)

新・暗獣24
 ろーいと叫んで抱き付いてきた小さな体をロイはしっかりと抱き締める。こうしてハボックの無事を確かめれば、全身から力が抜けるような気がした。
「まったく……っ、心配かけて」
「ろーいー」
 なみだでぐしょぐしょになったハボックの顔をロイは手のひらで拭ってやる。濡れた頬を擦り寄せてくるハボックの背を優しく撫でてやっていれば、不意に声が聞こえてロイは顔を上げた。
「ローイさん?」
 そう声をかけてくる相手をロイは見上げる。さっきハボックの事を抱きかかえていたのが目の前の少年だと気づいたロイは、その少年を以前見かけた事を思い出した。
「ロイだよ、確か駅で会ったな。そうか、君が連れてきてくれたのか」
 ロイはハボックを片手に抱いて立ち上がるともう一方の手を差し出す。
「ジョーイです。林の中で泣いてたから」
「散歩に出たんだがはぐれてしまってね。よかったよ、君が見つけてくれて。ありがとう、ジョーイ」
 ロイは差し出されたジョーイの手を感謝の気持ちを込めてギュッと握る。照れくさそうに笑ったジョーイはロイにしがみついているハボックを見て言った。
「その子、ハボックって言うんですね。名前聞いてもローイとしか答えないから」
 勝手に名前つけちゃったと笑うジョーイにロイは苦笑する。
「この子は人と接するのが苦手でね。私としか口をきかないんだ」
「そうなんですか」
 ロイが言うのを聞いて、ジョーイはあからさまにがっかりした顔をする。ロイにしがみついたきり自分の事は見向きもしないハボックをじっと見つめたが、一つため息をついて言った。
「それじゃあ俺、帰ります」
「大したものはないが、朝飯一緒に食っていくか?」
「いえ、母さんが待ってるから」
 ジョーイはそう言うとロイにぺこりとお辞儀をして背を向ける。ちょっぴり悲しいような淋しいような気持ちがしながら歩き出せばタタタと軽い足音がして、背後からシャツが引っ張られた。
「ラビ――じゃなかった、ハボック」
 振り向けばハボックが立っていて泣いてまだ少し潤んだ瞳でジョーイを見つめる。なに?と小首を傾げるジョーイに、ハボックは持っていた花を一輪ジョーイに差し出した。
「くれるの?」
 尋ねればにっこりと笑うハボックにジョーイの顔にも笑みが浮かぶ。ありがとうと花を受け取ってジョーイは言った。
「今度はゆっくり遊ぼうな、ハボック」
 ジョーイはハボックの金髪を撫でると今度こそ帰ろうと歩き出す。チラリと振り向けばロイと並んだハボックが薄の穂を振っているのが見えて、なんだか嬉しくなって大きく手を振り返したジョーイは今来た道を駆け戻っていった。

「やれやれ」
 ジョーイの姿が見えなくなるとロイは大きなため息をつく。ロイのシャツの裾を握り締めて見上げてくるハボックを見下ろして言った。
「まったく、ちょっと散歩のつもりがやけに疲れたぞ」
 ロイはハボックの側にしゃがみ込んで金髪をかき上げる。じっと見つめればすまなそうな表情を浮かべたハボックが、ごめんなさいと言うようにロイにしがみついた。
「ろーい〜」
「判ったならいい。もう一人でどっかに行くんじゃないぞ。あと、これもな」
 そう言うロイにウサギの耳を引っ張られてハボックが首を竦める。うにょんと伸びていたウサギの耳が震えたと思うと、スススと縮んでいつもの犬耳になった。ハボックの金髪をくしゃりと掻き混ぜたロイは立ち上がり玄関に向かう。脚にしがみついてくるハボックを抱き上げて玄関の鍵を開け中に入ると、ロイは言った。
「風呂に入って汗を流したら寝ないか?ホッとしたら眠たくなってきた」
「ろーい……」
 欠伸混じりにそう言えばハボックが答えて眠そうに目をこする。二人は朝の光が射す露天風呂で汗を流すと二階に上がり、シェードを下ろした寝室の巣の中で寄り添って眠ったのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

「暗獣」です。やっとジョーイくん退場です(笑)自分で書いてるのに早くハボックをロイのところに戻したくて堪りませんでしたよ(苦笑)本当はジョーイくん絡みで話を考えてたんですが、暫くは二人でまったりさせてあげたいです。

以下、拍手お返事です。

菜ノ花さま

うおおッ、うちのオリキャラを魅力的だなんて、嬉しいお言葉をありがとうございますッ!!こんなにオリキャラが出てくるサイトってないんじゃね?って感じですし、オリキャラ嫌いな方もいらっしゃるだろうなと思いつつ、どうにも話を展開させるのにオリキャラ出したくなってしまいます。そんな自分の都合で出してるオリキャラに勿体ないお言葉、う、嬉しい〜〜〜ッ(涙)これからもそう言って頂けるよう、頑張りますッ!どうぞよろしくお願いしますvv

なおさま

ふー、やっとハボック、ロイと会えました〜(笑)あはは、確かにロイのズボンもシャツも凄いことになってそうですよね。大きいハボにいつか兎尻尾付けてやろうと思いますvしかし、なおさまとは気が合うなぁというか、私も軍服の下につけててもバレないよなとか思ってましたよ〜(笑)
2012年09月20日(木)   No.252 (カプなし)

新・暗獣23
「ハボック!聞こえたら返事をしろ!」
 ロイは大声で呼びながらハボックの姿を探す。湖の畔を駆けていけば湖岸にボートが何艘も繋いであるのが見えて、ロイはボートに近づいた。
「まさか乗ろうとして湖に落ちたりしてないだろうな」
 もう一度乗りたがっていたハボックが、見つけたボートに喜んで一人で乗ろうとする姿が脳裏に浮かぶ。足を滑らせ湖に落ちたハボックが湖底に向かって沈んでいくというとんでもない想像を頭の中から締め出して、ロイは必死にボートの中を見て回った。
「くそ……ッ」
 暫く探してここにはいないようだと判ると、ロイは湖岸を離れ元来た道を戻っていく。林の中を辺りを見回して歩きながら声を張り上げた。
「ハボック!どこだ、ハボック!!」
 大声で呼んでも返る答えはない。ガサリと音がして慌てて振り向けば、野ウサギがヒクヒクと鼻を動かしながらロイを見て、叢にピョンと飛び込んで行ってしまった。
「ウサギが嫌いになりそうだ」
 大人気ない八つ当たりだと判っていてもロイはウサギが消えた方を睨みつけてそう呟く。ロイは少し迷ってからウサギの後を追うようにして、道から外れて木々の間に分け入った。
「天使の飾りを渡さない方がよかったか……?」
 今のハボックの依代である小さな天使の飾り。ハボック自身が持っていた方が自由に動けるかと持たせてしまったが、ロイが持っていれば一定の距離以上離れる事はなかったかもしれない。
「今言っても始まらん」
 ロイはため息をつくとハボックの小さい体を草や木々の間に探す。だが、幾ら探してもハボックは見つからず、時間がたつにつれてロイの中に焦りと不安が膨れ上がっていった。
「まさかまたキメラと誤解されて」
 そんな考えがふと浮かべばかつての記憶が蘇る。ハボックをロイが生み出したキメラと思い込んだ連中にもみくちゃにされて泣き叫ぶハボックの姿。屋敷の外へ連れ去られそうになった時は、小さく萎んで消えてしまいそうになった。そんな事が重なってロイはハボックを守ろうと、ハボックを一人おいて屋敷を去ることになったのだ。そして。
「あんな思いは二度とごめんだ」
 食いしばった歯の間から呻くようにロイは呟く。ロイは激しく首を振って嫌な考えを全て追い出すと、ハボックを探して駆けていった。

「あそこだ!」
 繋いだ手を握り締めて走っていたジョーイは、木々の間に見え隠れする別荘を見つけて声を上げる。間もなくして別荘の前に出れば、ラビがジョーイの手を振り払うようにして別荘の玄関に向かって走っていった。
「ろーいッ」
 ラビは玄関の扉を小さい手でドンドンと叩く。後から駆けてきたジョーイがノブを回して扉を開けようとしたが、ガチッと鍵が音を立てて扉は開かなかった。
「まだ戻ってないんだ」
 ジョーイがそう言うのを聞いているのかいないのか、ラビは別荘の周りを駆け回る。一生懸命探しても求める姿がないと判ると、ラビはゆっくりと足を止めた。
「ろーい……」
 ポロポロと泣き出すラビの側に駆け寄ってジョーイはその顔を覗き込む。
「まだ帰ってきてないんだ。きっとラビの事探してるんだよ。大丈夫、待ってれば帰ってくるから」
 ジョーイがそう言ってもラビは泣きやむ気配がない。どうしたらいいのかとジョーイは途方に暮れて、小さいラビをギュッと抱き締めた。

「クソッ!」
 はぐれた場所を中心にハボックの姿を必死に探していたロイは、いい加減疲れきって肩を落とす。林の中の道に戻ってどうするかと考えていれば、向こうから親子連れが歩いてきた。
「あのカチューシャいいなぁ。本物のウサギみたい!ねぇ、ママ。私にもあれ買って!」
 母親に手を引かれながら興奮気味に話す女の子の声が聞こえて、ロイは目を見開く。向こうが近づいてくるのが待ちきれずに駆け寄って尋ねた。
「ウサギの耳のカチューシャをつけた男の子なら少し前にすれ違いましたよ」
「ありがとうございます」
 礼を言ってロイは親子連れと離れて歩き出す。この方向なら別荘だと足を早めながらロイは眉を顰めた。
「ウサギ耳?まさかハボックのヤツ」
 ウサギを追って犬耳をうさみみに変えたのだろうと察してロイは唇を噛んだ。
「まさかその瞬間を見られて誰かに」
 捕まったりしていないだろうかと思えば不安がいや増す。別荘に向かうロイの歩みはどんどんと早まり、ついには走り出していた。木々の間に別荘が見える。全速力で最後の十数メートルを駆け抜けたロイは、別荘の前で誰かに抱え込まれている小さい姿を見つけて声を張り上げた。
「ハボックっ!」
 駆け寄りながら懐に手を入れ発火布を取り出す。それを手に嵌めたロイが指を擦り合わせる前に、ハボックが抱え込む相手の腕を振り解いてロイに向かって駆けてきた。
「ろーいッ!!」
 駆け寄るロイの胸に地面を蹴ってピョンと飛んだハボックが飛び込む。ギュッと抱き締められて、ハボックは泣きながらロイにしがみついた。
「ろーいっ、ろーい〜ッ!!」
「ハボックっ、よかった……ッ」
 両腕両脚を使って全身でしがみついてくるハボックを抱き締めて、膝をついたロイは詰めていた息をホッと吐き出した。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても嬉しいですv

昨日は更新間に合いませんでした〜ッ。覗きに来て下さった方には大変申し訳ありません(汗)家人がガッツリいる三連休明けで、息子が文化祭明けの休みで流石に書けませんでしたよ〜(苦)
日記の方は「暗獣」です。「兎」の続きを書こうかとも思ったのですが(←まだ書く気か!)いい加減ハボをロイのところに戻さないとバカンスが進まないので(苦笑)バカンス終わらないと季節を追えなくなってしまう〜。「暗獣」は季節とともに進めたいです(笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

そうそう、思う壺です(笑)実は尻尾ネタも書きたかったんですが、上手く織り込めなかったのでした(笑)あ、発情期の件は大丈夫ですよ。ネタ頂いた時は更に枝葉が増えないか、ネットで調べてみたりするんですが、バッチリ情報通りでした、ありがとうございますvコメントをネタにするのはいいものか、お気を悪くしたりしていないか時々心配になるので、嬉しいと言って頂けてこちらも嬉しいです!また何かありましたらよろしくお願い致します(笑)

ハボと楽しむためには の方

わ〜い、大佐が好きと言って頂けて嬉しいです!確かに「ハボ“と”楽しむ」というより「ハボ“で”楽しむ」かもv(笑)応援にお答えしてまたやらかすと思いますので、ご一緒にハボで楽しんで頂けたら嬉しいですv
2012年09月19日(水)   No.251 (カプなし)

兎2
ロイハボ風味(ちょっとエロ風味(笑)

「はぁ……」
 ハボックは銃を手入れしていた手を止めてため息をつく。しっとりと汗ばんだ肌に貼り付くシャツの感触が不快で、ハボックは苛立たしげにシャツの襟を引っ張ってパタパタと空気を送り込んだ。
 先日、ハボックはロイにうさみみのカチューシャをつけられてしまった。どんなに引っ張っても取ることが出来ず、外せと詰め寄るハボックにロイがにこやかに笑って告げた言葉はとんでもないものだった。
『一定以上の快楽を感じれば取れる』
 冗談じゃないと拒んだものの結局どうすることも出来ず、ロイにあんな事やらこんな事やら、口にするどころか思い出す事すら恥ずかしくてとても出来ない事を散々にされて乱れまくったハボックは、その後渾身の一発でロイを地面に沈めて以来、司令部に泊まり込んで家に戻らない日々が続いていた。今日も司令部近くの定食屋で夕飯を取った後、小隊の詰め所で銃の手入れをしていたのだが。
(なんか変だ……)
 うさみみをつけてのセックスはいつになく感じてしまった。ロイの言った通り行為の後カチューシャはまるでその役目を終えたとでもいうようにポロリと外れたのだが、行為で掻き立てられた熱が躯の奥底にずっと残っている感じなのだ。
(熱い……)
 ハボックは湿った息を吐いてモゾモゾと尻を揺らす。そうすれば双丘の狭間で小さな口が、物欲しげにヒクつくのが判った。
「……ッ」
 ハボックは緩く頭を振ると手にした銃を見る。疼く躯から意識を逸らそうとするように分解した銃を組み立てる事に集中しようとした。だが。
「あっ」
 手元が震えて小さな部品を落としてしまう。ハボックは慌てて床に這い蹲ると、落とした部品を探した。
「どこだ……?」
 四つん這いになって床の上を探る。そうやっていれば不意にベッドの上、ロイに背後から激しく突き上げられて高い嬌声と共に達してしまった光景が脳裏に浮かんだ。
「……ッ」
 ズンと腰に甘い痺れが走ってハボックは唇を噛み締める。気がつけばすっかりと楔は立ち上がって、厚い軍服の前が張り詰めていた。
「あ……」
 躯が熱くて堪らない。身の内て燻ぶる熱を持て余して、ハボックはなくした部品をそのままに立ち上がった。ヨロヨロと詰め所を出ると廊下を歩いていく。出入口で警備兵が声をかけてきたのも気づかず、ハボックは通りに出た。一歩踏み出す毎に湧き上がる熱を堪えて家へと向かう。数日ぶりに戻ってきた家に辿り着いた時には、躯の奥底で燻ぶっていた熱は全身へと回っていた。
ハボックは震える手をノブに伸ばすと鍵がかかっていない玄関の扉を開ける。中に入ったところで力尽き、ハボックはヘナヘナと座り込んでしまった。
「はぁ……っ」
 そのまま動く事が出来ずにうずくまっていると、不意に頭上に影が差す。ゆっくりと見上げればロイがカチューシャを手に立っていた。
「これが必要か?ハボック」
 ロイはそう言って手にしたカチューシャを差し出す。それをじっと見つめたハボックはおずおずと手を伸ばした。受け取ったうさみみのカチューシャをじっと見つめたハボックはそれをそっとつける。そうすればロイの手が伸びてきてハボックの頬を撫でた。
「たいさァ」
 甘えるようにその手に頬を擦り寄せるハボックにロイは目を細めた。「おいで」と囁けばハボックがロイの手に縋りつくようにして立ち上がる。ハボックの躯を抱えるようにして手近のゲストルームに入ったロイは、なだれ込むようにベッドにハボックを押し倒した。
「たいさッ」
 そうすれば待ちきれないと言うようにハボックがロイにしがみついてくる。もうすっかりと立ち上がった下肢を押し付けてくるハボックにロイはニンマリと笑った。
「知ってるか?ハボック。兎と言うのは年中発情しているそうだよ」
「な、に……?早くシてッ、欲し……ッ!」
 ロイの言葉も聞こえない程発情しきったハボックに。
「いいとも、幾らでもシてやる」
 ロイはうっとりと笑って身を沈めていった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても嬉しいですv

「兎」の続きです。ウサギって年中発情期なんですって。あんな可愛い顔しておいて、ウサギってッッ!!そんなわけで発情期なハボック。うさみみカチューシャの威力絶大(笑)

以下、拍手お返事です。

ハボロイ好きです の方

うふふ、ハボロイお好きですか?昔の作品はいま読み返すと赤面するほど恥ずかしかったりしますが、読んで下さってありがとうございますv一つでも二つでも気に入った作品がありましたら嬉しいですv

なおさま

そりゃもうロイですから!全力で取り組みますとも!(笑)ウサギって常に発情期なんですか!初めて知りましたよ。でもって早速ネタに…毎度すみません(苦笑)うちわパタパタありがとうございます!無理しない程度にゆっくり上昇してますv
2012年09月17日(月)   No.250 (ロイハボ)

ロイハボ風味

「うわっ」
 ソファーに寝転んで雑誌を読んでいたハボックは、いきなり頭に何かを嵌められて声を上げる。片腕をソファーに付いて体を起こすと、傍らに立つロイを見上げて言った。
「なにするんスか、いきなり」
 そう言いながらハボックは、手を頭にやって嵌められたものを触る。耳から耳に向かって頭の上を走る細いバンドのようなものに触れ、更にそれについているらしいフワフワと手触りのいい長いものに触れてハボックは眉を顰めた。
「なんスか、これ」
 ハボックはそう言いながらそれが何かを探り当てようと何度もフワフワのものに触れる。首を傾げるハボックにロイはにっこりと笑って言った。
「カチューシャだ」
 ロイは言って持っていた手鏡をハボックに差し出す。それを受け取って鏡を覗き込んだハボックは、映し出された物を見て目を見開いた。
「可愛いだろう?お前のために特別に誂えたんだ」
 そう言うロイをチラリと見上げ、それからもう一度鏡の中を見る。鏡の中から思い切りしょっぱい顔で見返してくるのは、長いウサギの耳がついたカチューシャをつけた男だった。
「うん、思った通りよく似合ってる」
 物凄く嬉しそうに言うロイにハボックはがっくりと肩を落とす。「ハアア」と大きなため息をついてハボックは、著名な錬金術師であり恋人でもある男を見上げた。
「オレは時々アンタの美的センスを疑いたくなるっスよ」
「どういう事だ?」
 突然そんな事を言われて、ロイは不思議そうな顔をする。
「あのね、大の男にウサギ耳のカチューシャつけて可愛いだの似合ってるだの言う奴は普通いません」
「だが、実際そうなのだから仕方ないだろう?」
 言って当然だと、全く疑問の欠片も抱いていないらしいロイにハボックは思い切りため息をつく。言うだけ無駄だとカチューシャに手を伸ばしたハボックは、外そうとしてビクともしないそれに眉を寄せた。
「あ、あれ?」
 なんとか外そうとバンドの部分を引っ張ろうとするが、頭にピッタリと貼り付いたそれは指が入る隙間すらない。髪をグチャグチャにしながら必死に外そうとして外れないカチューシャに、ハボックはロイを見上げて言った。
「どうなってるんスかっ、これ!」
「簡単には外せんよ」
「はあッ?!」
「折角似合ってるのにすぐ外してしまってはつまらんだろう?」
 そう言ってにこやかに笑うロイをハボックは呆気にとられたように見上げる。暫く呆然としていたハボックはふるふると震えたと思うと、垂れた目をキッと吊り上げて怒鳴った。
「ふざけんなッ!今すぐ外せッ!」
 今にも掴みかからんとするハボックのウサギ耳にロイは顔を寄せるとフッと息を吹きかける。そうすればビクッと震えてソファーにへたり込むハボックにロイは言った。
「やはり耳は弱いようだな」
「な、なん……」
「ちゃんと感じるように作ったんだ」
「どうやって……」
「フ……私の錬金術を甘く見て貰っては困るな」
 いかにも自信満々に言う男をハボックはポカンとして見つめる。次の瞬間ガバッと立ち上がり、ロイの襟首を掴んで怒鳴った。
「くだんない事に錬金術使ってんじゃねぇよッ!」
「くだらないとはなんだ、失礼な奴だな。可愛い恋人に可愛いカチューシャをつけたいと思って何が悪い」
「アンタね」
 全く悪びれた様子のないロイにハボックはワナワナと震える。
「とにかく外してください。このままじゃ仕事にも行けやしない」
 まさかウサギ耳のカチューシャをつけて司令部に行くわけにはいかない。
「可愛いのに」
「殺すぞ」
 ハボックは低い声で凄むとカチューシャを引っ張る。まるで頭の一部になってしまったように貼り付いてとれないカチューシャに、ハボックはふと不安になって言った。
「まさか取れないなんて事はないっスよね……?」
「そんなにとりたいのか?」
「当たり前っしょ!」
 こんなウサギ耳をつけたままなんて羞恥プレイにもほどがある。絶対外せと喚くハボックにロイはハァとため息をついた。
「外す方法がない訳じゃない」
「どうやるんですっ?」
 勿体ぶってるんじゃねぇと言えばロイがじっと見つめてくる。黒曜石の瞳でヒタと見つめられてハボックは息を飲んだ。
「……どうするんスか?」
 それでも何としても外したくてそう尋ねれば、ロイが答えた。
「一定以上の快楽を感じれば取れる」
「……え?」
「おかしくなるくらい感じてイヤラシく善がって、出すものがなくなってそれでも空イきを繰り返すくらい感じれば取れるよ、ハボック」
 にっこりと爽やか過ぎる程の笑みを浮かべて言うロイをハボックはまじまじと見つめる。とんでもない答えに身動き出来ずにいれば、ロイが言った。
「そうか、そんなに取りたいか。折角似合ってるのに残念だがそうまで言うなら協力してやろう」
 そう言うなりロイはハボックをソファーに押し倒す。ニンマリと物騒な笑みを浮かべるロイに圧し掛かられて、ハボックは慌てて押し返した。
「ちょっと待って!他に方法はっ」
「ないよ。善がりまくってイきまくる以外にはな。それともずっとカチューシャをつけているか?」
「いや、それはちょっと」
「なら、これしかないな 」
「ヒャッ!ちょ……っ、待っ……アアッ!」
 イヤラシく絡みついてくる手にウサギ耳のカチューシャを揺らして震えたハボックは、その後ウサギ耳をつける以上の羞恥プレイを味あわされる羽目になったのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手も嬉しいです。

ウサギ耳のカチューシャ、小さいハボックに似合うものは大きいハボックにも似合うってコメント頂いたのでつけてみた次第。

以下、拍手お返事です。

なおさま

いつもコメントありがとうございますv「暗獣」ロイ、多分相当必死に探していると思われます、昔の事もありますしね。多分そろそろ会える筈(苦笑)「セレスタ」ふふふ、やっとここまで来た感じです。でもまだもう暫く(苦笑)切ないと言って頂けて嬉しいです。眼帯パチンッ、痛そう!(笑)大きいハボックにもうさみみつけてみました。コメントに反応出来るくらいにはテンション上がってきたらしいです(苦笑)
2012年09月16日(日)   No.249 (ロイハボ)

新・暗獣22
 漸くちゃんとした道に出て、ジョーイはホッと息を吐く。なかなか道が見えず自分まで迷子になるかもと、一瞬不安になったことは内緒でジョーイはラビと名付けた男の子を見た。
「ほら、ちゃんと道に出ただろ?」
 別に自慢するほどの事ではないのだが、ジョーイは偉そうに言う。そうすればじっとラビに見つめられて、ジョーイは嬉しそうに鼻を鳴らした。
(でも、これからどうしょう)
 ローイを探すと言っても当てもなく歩き回るには広すぎる。どうしようかと考えていれば向こうから話し声が聞こえてきて、ジョーイは胸を撫で下ろした。
(あの人に聞いてみよう)
 この子の親を見ているかもしれない。見ていなくても何かいい方法を聞けるかもと、ジョーイは向こうから歩いてくる親子連れに近づいていった。
「おはようございます」
 自分からそう声をかければ女の子の手を引いていた女性が笑みを浮かべる。朝の挨拶を返して女性はジョーイとラビを見て言った。
「弟を連れてお散歩?お兄ちゃん、偉いのね」
「えっ?」
 そんな風に言われてジョーイは目を丸くする。女性はラビの頭を撫でて言った。
「お兄ちゃんにお散歩連れてきて貰ってよかったわね」
 女性は笑うと気をつけてねと言って行ってしまう。女の子が「あのカチューシャ欲しい!」と、興奮して言うのに答えながら歩き去る女性の背を見送って、ジョーイはだらしなく笑った。
「お兄ちゃんだって」
 弟を連れたしっかり者の兄と見られたのが嬉しくて堪らない。フフフと笑えばクイと手を引かれて、ジョーイは傍らに立つラビを見た。
「ろーい……」
「えっ、あっ……と」
 つい嬉しくて、聞くのを忘れてしまった。ジーッと見つめてくる空色に、ジョーイは誤魔化すように笑った。
「だっ、大丈夫だって!ちゃんと俺がローイのところに連れて行ってやるからッ」
 半ば自分に言い聞かせるように声を張り上げると、ラビが俯いてハアとため息をつく。そのため息が酷く胸にこたえて、ジョーイはキュッと唇を噛んだ。
「行くぞ」
 ジョーイは言って歩き出す。心配そうに見上げてくるラビの視線を感じて、ジョーイは繋いだ手をギュッと握り締めた。
(お兄ちゃん、偉いわねって言われたんだ。しっかりしなきゃ)
 さっき女性に言われた言葉に励まされるようにジョーイはどんどんと道を歩いていく。流石にこれ以上宛もなく歩いても仕方ないかもと思い始めた時、この辺りの貸別荘の案内板が立っているのが見えた。
「あれだ!あれを見ればローイがいるところが判るかも!」
 ジョーイはそう叫んで案内板に駆け寄る。地図上に書いてある別荘の番号を見て、ジョーイは言った。
「現在地がここだろ。俺の別荘が8だから、これ。ラビの別荘は何番?」
 ジョーイは地図の番号を指差しながら尋ねる。これでローイの居場所が判ると思ったジョーイは、ラビが困ったように首を傾げるのを見て肩を落とした。
「判んないか」
「ろーいー」
「大丈夫、何とかする」
 ジョーイよりもっとがっかりするラビに、ジョーイはきっぱりと言う。もう一度案内板をじっと見つめて考えた。
「現在地がここだろ?だったらラビの別荘は7か6じゃないかな」
 自分より小さいラビが幾ら道に迷ったとしてそんなに遠くから来たとは思えない。ここから近い別荘はジョーイの別荘を除けば2つだけだからどちらかにローイがいると考えるのが妥当だろう。
「どっちかなぁ」
 ジョーイは案内板を見つめて呟く。これ以上決め手になるものはなく、ジョーイが考え込んでいるとラビの小さな手が伸びてきて案内板に触れた。
「ろーいっ」
 そう言ってラビが触れたのは湖だ。見上げてくる空色にジョーイはピンときて言った。
「湖で遊んだのか?だったら6の別荘の方が湖に近いよ。こっちに行ってみよう」
 ジョーイは「よしっ」と握り拳を作ると、ラビの手を引いて駆け出した。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手もありがとうございます。

ここ数日テンションが物凄い低空飛行です。なんとか更新分は書き終えましたが相変わらずの低空飛行(苦)誰か萌えツボ、押して貰えませんか?(苦笑)

日記の方は相も変わらず「暗獣」です。いい加減ハボをロイに会わせたい(苦笑)次回には会えるといいなと思います。
2012年09月15日(土)   No.248 (カプなし)

新・暗獣21
「まずはちゃんとした道に戻ろう」
 ろーいと叫んで道から逸れていってしまった男の子を追いかけて林の中に分け入ってしまったから、今二人は木々の間に立っている。確かこっちから来た筈と、ジョーイは男の子の手を引いて歩いた。
(それにしてもすっごいリアルなカチューシャだなぁ)
 ジョーイは傍らで揺れるウサギの耳を見ながら思う。空色の生地で出来たカチューシャに生えた耳は彼の金髪とそっくりの質感で作り物には見えず、とても可愛かった。じっと見つめる視線を感じたのか、顔を上げた男の子に見つめ返されて、ジョーイは紅くなって言った。
「あっ、あのさっ、そのカチューシャ、可愛いなっ!すっごいリアルだし!」
 ジョーイがそう言うと男の子が空色の目を見開く。その瞳がニコォと笑うのを見れば、ジョーイの心臓が飛び上がった。
(かっ、可愛いッ)
 顔を真っ赤にしてジョーイは俯く。チラリと見れば見上げてくる男の子が笑いかけてきて、ジョーイは熟れたトマトのように真っ赤っかになった。
「……なあ、お前、名前なんて言うの?」
 無性に名前が知りたくなってジョーイは尋ねる。
「俺はジョーイ。お前は?」
 さっきも名乗ったがもしかして忘れてしまってるかもと、ジョーイは自分の名を繰り返して男の子を見た。名前を呼んで欲しくて名前を呼びたくて、ジョーイは足を止めて男の子からの返事を待つ。だが、男の子は困ったように俯くと手にした薄をふりふりと振った。
「……ろーい」
「ッ、だからっ、それはお前のお父さんの名前だろッ!」
 何度聞いても「ろーい」としか言わない男の子に、ジョーイはカッとなって声を張り上げてしまう。そうすれば空色の瞳に涙が盛り上がって、男の子はまた泣き出してしまった。
「あっ、ご、ごめんッ!」
 ジョーイは慌てて手を振り回す。どうしようと焦りまくったジョーイは振り回していた手で男の子をギュッと抱き締めた。
「ごめん、ローイに早く会いたいんだもんなッ!お父さんとはぐれちゃったら……不安だよな」
 ローイと言うのが父親なのか、はっきり聞いてはいないが恐らくはそうなのだろう。まだ小さくて「パパ」と呼べずに「ろーい」と呼んでいるのだと思えば、ジョーイは迷子の男の子が可哀想になって抱き締める手に力を込めた。
「ろぉいッ」
「あ、ごめん」
 力を入れすぎて苦しそうにもがく男の子にジョーイは慌てて手を緩める。ホッと息をつく男の子のウサギ耳を見てジョーイは言った。
「あのさぁ、お前のことラビって呼んでいい?」
 そう言えば男の子がキョトンとしてジョーイを見る。
「名前ないと呼びづらいしさっ、ほら、カチューシャがウサギだしっ」
 と、ジョーイは必死に言い募ったが男の子はどこか不満そうだ。
「とにかく、お前の名前はラビ!いいなっ、ラビ!」
 名前で呼ぶと何だか急に仲良くなった気がしてくる。
「よし、じゃあローイを探しに行くぞ、ラビ!」
 ジョーイは上機嫌でそう言うと、勝手にラビと名付けた男の子の手を引いて再び歩き出した。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、ありがとうございますv

「暗獣」です。ハボック、勝手に名前つけられてます。迷子の仔犬を拾った人が好きな名前で呼んでるパターン(苦笑)ちゃんとロイのところまで連れて行って貰えるんだろうか……なんかちょっぴり不安になってきましたよ(をい)

以下、拍手お返事です。

なおさま

ふふふ、詰めが甘いロイ、まあ、ここからはガッツリ詰めてディアスをとっちめてくれるかなと(笑)「暗獣」のヒュ、愛されてるなぁ、ラブコール?ありがとうございます(笑)しかし、ロイより先にヒューズがハボを確保したら、ロイのところに連れて行くより先に一緒に遊び倒しそうです。ハボック、尻尾も耳も出し放題で大変かも(苦笑)
2012年09月13日(木)   No.247 (カプなし)

新・暗獣20
「母さん、ちょっと散歩してくるね!」
「ジョーイ…?随分早起きね」
「まあね。じゃあちょっと行ってくる」
 ジョーイはまだベッドの中にいる母親にそう声をかけるとコテージを飛び出す。朝まだ早いこの時間、空気は冷たく澄んで気持ちよかった。
 つい最近九才になったばかりのジョーイは、夏休みを利用して母親と一緒に湖の畔のコテージに泊まりにきていた。普段は寝坊のジョーイだったがここへ来てからはすっかり早起きが習慣になっている。漸く明けたばかりの空の下、朝露の残る草を踏みしめて林の中を歩いたり鳥の囀りを聞いたりするのは、街中で暮らすジョーイにとって新鮮でとても楽しかった。
 今日も目覚まし代わりの朝の陽射しがシェードを縮めた天窓から射し込むのとほぼ同時に目を覚まして、ジョーイは朝の散歩に出た。途中まだ市中では見かけない開き始めた薄の穂を見つけて折り取ると、それを手に軽い足取りで歩いていく。昨日の朝はこの辺りにウサギがいたなと下生えの中を覗き込んだ時、ザザザと草が鳴る音がした。
「またウサギ?」
 今日も会えるなんてツイテる。ジョーイがそう思った時、ピョンと飛び出してきたものがジョーイに飛びついた。
「ろーいっ!」
「うわッ?」
 いきなり抱きつかれてジョーイはびっくりして尻餅をつく。目の前の長い耳がピクリと動いたと思うと、抱きついてきた相手が顔を上げた。
「お前……」
 金髪に空色の瞳の男の子はどこかで見た気がする。ジョーイがそう思った時、まん丸に見開いた空色の瞳に涙が盛り上がったと思うと、男の子はポロポロと泣き出してしまった。
「えっ?あ、あのっ」
「ろーい〜っ」
 ぺたんと地面に座り込んで泣き出す男の子にジョーイは慌ててしまう。オロオロと辺りを見回して、自分が持っている物を見ると手にした薄を男の子の目の前に差し出した。
「ほら、綺麗だろう?金色でお前の頭にちょっと似てるなっ」
 そう言って薄をふさふさと揺すれば男の子は目を丸くしてジョーイを見る。泣き止んだかなと思ったのも束の間、男の子はまた泣き出した。
「ろーい〜……」
 ヒクッとしゃくりあげながら泣くの男の子を困り果てて見ていたジョーイは、彼をどこで見たかを思い出して目を見開いた。
「そっか、お前、来る時駅で会った……」
 汽車に乗ろうとして鉢合わせた男の子。確か男と一緒だったと思い出して、ジョーイは男の子に言った。
「もしかして迷子になったのか?ローイってのはあの時一緒にいた男の人?」
 そう尋ねたが男の子は答えない。代わりに涙に濡れた瞳でじっと見つめられて、ジョーイはなんだか恥ずかしくなって目を逸らした。
「あ〜、えっと……」
 ジョーイはうろうろとあちこち見回してから視線を男の子に戻す。また泣きそうに口を歪めている男の子にジョーイは慌てて言った。
「あのさっ、俺、ジョーイって言うんだ。お前は?」
「……ろーい」
「いや、ローイじゃなくてジョーイ。お前の名前は――――」
「ろーいっ」
 名前を尋ねている最中に男の子は立ち上がると、また下生えを掻き分けて行ってしまう。ジョーイは慌ててその子の後を追いかけた。
「ろーいっ!」
 泣きながら駆ける男の子の腕を追いついたジョーイが掴む。びっくりしたように振り向く男の子にジョーイは言った。
「あのっ、あのさ!俺が探してやるから!そのローイって人、探してやる!」
 そう言えば男の子はびっくりしたようにジョーイを見る。尋ねるように男の子が首を傾げるのに合わせて揺れるウサギの耳のカチューシャを見つめて、ジョーイはニッと笑った。
「ローイを見つけてやる。ほら、これやるから、もう泣くな」
 そう言って手にした薄を差し出すと、男の子は花束を持っていない方の手で受け取る。
「……ろーい」
「だからー、ローイじゃなくて俺はジョーイ――――ま、いっか」
 ジョーイは苦笑すると男の子の涙を手のひらで拭いてやった。
「よし、じゃあローイを探しに行くぞ!」
 そう言って手を差し出せば、男の子は少し考えて花束と薄を一つに纏めて持つと空いた方の手を差し出した。ニコッと笑う男の子の手を取ってジョーイは元気よく歩き出した。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

誰だ、ジョーイって、と思われた方、すみません。一応「暗獣」です〜。やっと迷子の仔犬を探しに(苦笑)と言っても、見つけたのはロイじゃありませんでしたが(笑)「暗獣」は一人称ではありませんが、基本ハボック以外の誰かの視点で書いているので今回はジョーイ視点での話になります。なのでハボックはまだ名前が判んないっていうね。しかも仔犬じゃなくて仔ウサギになってるし(ふふふ、囁いて下さった方、ありがとうv)しかし、ハボックの場合、名前を聞いてもお家を聞いても返ってくる答えは「ろーい」だもんなぁ。絶対判んない(苦笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

えへへ、喜んで下さって嬉しいです〜vきっとこの日は司令部でやたらとカメラを手にコソコソしているのがいたのではないかと…。さぞ念入りに焼かれたことだろうなぁ(笑)でも、確かに一層どころか増えていそうな気もします(苦笑)フンに気づかないハボック、ロイもブレダも心労絶えません(笑)

おぎわらはぎりさま

金魚、続きました(笑)確かにセントラルでやったら益々混乱に拍車がかかりそうですね。髭、理性薄いのか!(笑)「よいではないか」「あれ〜」は一度やってみたい気もします。でも、帯はそのままで乱れた裾から脚が覗いたり、肌蹴た襟もとから胸が覗くのもオツですよ(爆)
2012年09月11日(火)   No.246 (カプなし)

金魚3
ロイハボ風味

 仕事前の一服と、休憩所で煙草を吸っていたブレダは、同じように煙草を吸いにやって来たハボックの姿を見てポカンとする。取り落としそうになった煙草を咥え直すと、何とか言葉を吐き出した。
「なんだよ、その格好」
 ブレダがそう聞いてしまうのも無理はない。ハボックが着ているのは普段の青い軍服ではなく、紺地に大きな椿の花を幾つもあしらった浴衣なのだ。その浴衣の裾を膝が出るまで絡げた上、腰には金魚の尻尾を思わせる紅いふわふわの帯を結び、何故か足には軍用のブーツを履いているのだった。
「だって指がいてぇんだもん」
 本能的に核心ではないところから尋ねれば、ハボックはブーツを履いている理由をそう答える。ドサリと向かいのソファーに腰を下ろし、沈み込むようにだらけた姿勢で煙草をふかすハボックに、ブレダは嫌々ながら尋ねた。
「で?なんで浴衣?」
「大佐に着ろって言われたから」
「大佐に?」
 そう聞いてブレダはハボックの格好を改めて見る。こんな肌を晒すようなもの、着るなと言うならともかく着ろというなどロイらしくなく、ブレダは眉を顰めて言った。
「大佐が着ろって言ったのか?信じらんねぇ。つか、お前、よく大人しく着てるな」
 こんなふわふわ帯の格好、絶対嫌だと拒みそうなものなのにと思って言いかけたブレダは、聞いた途端ハボックが顔を赤らめるのを見て言葉を飲み込んだ。
「いや、答えなくていいわ」
「そうさせてくれ」
 長い付き合い、言わずとも察してくれる友人の存在にハボックは礼を言う。ハアと煙混じりのため息をついたハボックは、投げ出すように伸ばしていた脚を高く組んだ。
「やんなっちまう、今日一日この格好してるってことは演習にも参加できないんだぜ?つまんねぇ」
 そう言ってずるずるとソファーに沈み込めば浴衣の裾が引っ張られて太ももが半ばまで露わになる。濃紺の浴衣から白い脚が覗くのを見たブレダは、思いっきり顔をしかめて言った。
「脚を組むのをやめろ。ちゃんと行儀よく座れ」
「えーっ、なんで?」
「いいからしゃんと座れっての」
 ブレダは空になった煙草のパッケージを丸めてハボックの剥き出しの脚に投げつける。ミニスカートで脚を組む娘の心配をする父親になった気分で、ブレダはため息をついた。
「ハボック、お前さ」
 この格好で一日過ごすのはかなりヤバい気がする。そう思ってブレダが何か言おうとする前に、壁の時計を見たハボックが立ち上がった。
「そろそろ時間だ。行こうぜ」
 そう言ったハボックは、ブレダの返事を待たずに廊下へと出ていく。ふわふわの紅い帯を金魚の尻尾のように靡かせて歩くハボックの後ろからぞろぞろと男共がついていくのを見て、ブレダはいつの間にか傍らに立っていた上官に向かって言った。
「いいんですか?アンタの大事な金魚にフンがいっぱいくっついてますけど」
「腹立たしくないと言えば嘘になるが、たまには水槽の掃除も必要だろう?餌を泳がせてフンが寄ってきたところでまとめて駆除してやるのさ」
 ニンマリと笑って言うロイをブレダはげんなりと見る。
(これはアレか?友釣りか?)
 少し違う気もするが何れにせよ明日になれば、ウエルダンに焼かれた金魚のフンがあちこちに転がっているのだろうとウンザリするブレダだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます!嬉しいですvv

ええと、迷子の仔犬は只今捜索中です〜。多分もうすぐ発見出来るかと!
と言ったところで、しつこく金魚帯ネタです(苦笑)いやもう、すっかり金魚帯の虜ですよ。その上「ハボックが金魚帯付けて軍部内ウロウロしたらいっぱい金魚のフンが着いて来そう」なんてコメントを頂いたら、そりゃもう書かずにはいられません(笑)萌えコメントに滅法弱いです(苦笑)

以下、拍手お返事です。

香深さま

うふふ、金魚な二人、楽しんで頂けて嬉しいです。そして大人版。ロイの迷惑な愛情、大好きです!(笑)ちび金魚は本当ストーカーしちゃうだろうなと思いますv香深さまが囁いて下さった金魚帯ですっかり楽しませて頂きましたvコメント頂くと嬉しくてソッコーお返事してしまいます。鬱陶しがられていないかと心配してたりしますが、素敵と言って頂いて安心しました(笑)これからもツボ押しよろしくお願い致しますv

柚木さま

お久しぶりです!ご無沙汰失礼いたしております。「暗獣」新シリーズが始まりました。どうぞよろしくお付き合い下さいv「そう言う人々」勿論、柚木さまのいいタイミングでお読みくださいませ。早く読んで頂けるよう、サクサク進めて頑張りますねvまだ日中は暑さが続くようですので、お体大切にお過ごし下さい。

なおさま

大人ハボならやっぱり帯は赤ですよね!ピシャリとハマって嬉しいですvそして金魚のフン!!も〜、思わずまた書いてしまいました(苦笑)いつも素敵なコメントをありがとうございますv
2012年09月10日(月)   No.245 (ロイハボ)

金魚2
ロイハボ風味

「なんスか?これ」
 ハボックはリビングのテーブルに置かれた大きな包みを見て言う。視線で促されて包みの端を留める短い紐の結び目を解くと、そっと開いて現れた上質な生地を手に取って、ハボックは首を傾げた。
「これは?」
「浴衣だ」
「ああ、ファルマンに写真見せて貰った事あるっス」
 以前、東の国で夏に着るものだと写真を見せて貰った事を思い出して、ハボックは答える。「へぇ、これが」と眺めるハボックにロイが言った。
「着てみないか?」
「え?」
「着てみろ、ハボック。お前の為に誂えたんだ」
 そう言って笑うロイにハボックは手にした浴衣を見る。それからもう一度ロイを見て、浴衣から手を離した。
「遠慮しときます」
「ッ?!なんでだッ?!」
 了承の答えが返ってくるとばかり思っていたのに、思いもかけない言葉を聞いてロイは目を剥く。そんなロイをハボックは胡散臭そうに見て言った。
「アンタがこういう変わったもん持ってくる時は絶対何かあるんだから」
 警戒心丸出しでハボックは言うと浴衣を元に戻す。視線を感じて目を上げれば、ロイが昏い表情でハボックを見ていた。
「大佐?」
「折角お前に喜んで貰おうと誂えたのに、私の気持ちは受け取って貰えんのだな」
「えっ?いや、そう言う訳じゃ」
「私がやる事はいつだってお前には迷惑なばかりなんだな」
 ハアとため息をついてロイは浴衣を取り上げるとそれを手にリビングを出て行こうとする。しょんぼりと肩を落とす姿にハボックは慌てて言った。
「待って、大佐っ!迷惑だなんて、そんな……。えと、きっ、着てみたいなぁッ、浴衣!」
 そう叫べばロイがピタリと足を止める。肩越しに昏い顔で振り向くロイにハボックが言った。
「着てみたいっス!あー、でもオレ、着方判んないっスけど」
 どうしよう、と苦笑したハボックが頭を掻けば、ロイが物凄い勢いで戻ってきた。
「そうか、着てくれるかっ!大丈夫だ、安心しろ。着付けなら私がやってやる!」
 脱げ脱げと急かすロイに失敗したかもと思いつつ、ハボックはシャツに手をかける。潔く服を脱ぎ捨てると下着一枚になってロイに向き合った。
「浴衣の着付けまで出来るなんて、アンタってホント無駄な知識豊富っスよね」
「褒め言葉と思っておこう」
「ぐえッ!大佐っ、キツすぎッ!」
 着せられるまま浴衣を身にまといながら呆れたように言えばロイに思い切り腰紐をグッと絞められて、ハボックが悲鳴を上げる。フンと鼻を鳴らしてロイが紐を弛めればホッと息を吐いたハボックは、ロイが次に手を伸ばしたものを見て眉を寄せた。
「なんスか、それ」
「なにって、帯に決まってるだろう」
 ロイはそう言って紅い帯を手にする。そのふわふわした生地を見てハボックは言った。
「嘘、前にファルマンが見せてくれた写真はそんなふわふわの帯じゃなかったっスよ」
「そうだろうな、これは子供用の帯だから」
「はあっ?」
 ロイが言うのに素っ頓狂な声を上げるハボックにロイはにっこりと笑った。
「お前に似合うと思ってな。このふわふわした感じ。結ぶと金魚みたいでカワイイぞ」
 ほら、と手にした帯を巻こうとするロイの腕をハボックが掴む。
「嫌っスよ」
「なんでだ?」
「そんな帯、大の男に似合うわけないっしょ!」
 子供が巻けば可愛らしい金魚の尻尾の帯も、大の男、しかもこんなにデカくてゴツい男が巻いて似合うとは到底思えない。気持ち悪いだけだとハボックが言えば、ロイが答えた。
「そんな事ないぞ、絶対似合うから」
「嫌っス」
「折角お前の為に用意したんだぞ」
「例えそうでも嫌って言ったら嫌っス!そんな金魚の帯、巻きたくありません」
 頑として嫌と言い張るハボックにロイはムゥと唇を突き出す。そのまま暫し見つめ合っていた二人だったが、やがてロイがボソリと言った。
「どうしてもこの帯を巻くのは嫌か?」
「嫌っス」
「どうしても?」
「嫌って言ったら嫌っス」
 ここで甘い顔をすればあの紅い帯を巻かなくてはならなくなる。そんな恥ずかしい事は絶対に避けなければと思いながらハボックが言えば、ロイは大きなため息をついた。
「判った」
「大佐」
 ロイの言葉にハボックはホッと息を吐く。別に浴衣を着ること自体が嫌な訳ではなかったからちゃんとした大人用の帯を用意してくれとハボックが言おうとするより一瞬早く、ロイが口を開いた。
「お前の気持ちはよく判った。だが、折角お前の為に用意した帯、このままにするのは勿体無い」
 そう言ったロイの唇の端がスッと持ち上がるのを見た瞬間、ハボックはパッと身を翻して逃げようとする。だが、一歩も踏み出さないうちにシュルンと手首に巻きついた帯に引き戻された。
「うわッ!」
 グイと引っ張られハボックは背後に倒れ込む。気がついた時には両手首を紅い帯で後ろ手に縛られて、ソファーに俯せに押さえ込まれていた。
「大佐っ?」
「腰に巻くのは嫌なんだろう?それならお前が喜びそうな巻き方をしてやろう」
 ロイは言って帯の端をグイと引く。浴衣の裾を捲って脚に触れてくる手に、ハボックはロイがしようとしていることを察して必死にもがいた。
「大佐っ!帯、やっぱりそれ巻きますッ!金魚の尻尾みたいにふわふわに巻いて欲しいなッ!」
「安心しろ。ちゃんと可愛らしい金魚にしてやる」
 ここでな、と尻に触れてロイが囁く。結局その後ハボックは、普通に帯を金魚に結ぶよりももっと恥ずかしい巻き方をされる羽目になったのだった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます。拍手、やる気の元です、嬉しいです〜v

ええと、可愛らしい続きかと思われた方にはすみません。いやあ、「大人ハボが金魚帯してても可愛いかも」っていうコメント頂いたものでつい(苦笑)帯の使い方が違うと言われそうですが(笑)折角「巻く」ので青い帯ではなく紅いのにしてみました。やはり紅い方が肌に映えて綺麗かな、と(殴)相変わらず腐っててすみません(汗)いい加減迷子の仔犬を探しに行けと言われそうですね(苦笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

あはは、マドラスに応援ありがとうございます(笑)ふふふ、衰え知らず!物は言い様ですね(笑)まだ暫くはハラハラドキドキしていただきたいなと思っていますので、よろしくお願いしますv金魚帯のチビたちに癒されて頂けましたか?嬉しいですーvそして、大人ハボにも金魚帯してみました、可愛いですか?(殴)って、しょうもない話に使ってしまってすみません。笑って見逃してくださると助かります(苦笑)次回こそ迷子の仔犬を探しに行くつもりですので〜。

JOEさま

おお、金魚な二人に癒されて頂けましたか?よかったです〜vふふふ、もう絶対可愛いですよね、おチビ金魚vいっぱい想像して下さったのなら嬉しいですv
2012年09月09日(日)   No.244 (ロイハボ)

金魚
「ジャーン」
 玄関の方から聞こえた声に腰に巻かれるふわふわの青い帯を見つめていたハボックはパッと顔を上げる。肩越しに振り向き、背後で帯をチョウチョの形に結んでいる母親に言った。
「ロイお兄ちゃん来たっ、ママ、早くッ」
 今すぐにも飛び出したいのに流石に動く事が出来ず、ハボックはドンドンと足踏みした。
「じっとしてないと結べないわよ」
「う〜っ」
 母親に苦笑混じりに言われて、ハボックは足を止めてじっとする。それでもそわそわと体を揺らす息子に母親はクスクスと笑って帯をポンと叩いた。
「はい、おしまい」
 その声にハボックは弾かれたように部屋を飛び出る。階段を駆け下り玄関の扉をバンッと開ければ、外で待っていたロイが振り向いた。
「用意できたか?」
 そう言うロイをハボックはまじまじと見つめる。唇をムゥと尖らせたと思うと大声を張り上げた。
「ずるいッ、俺も赤い帯が良かったッ!」
「え?」
 顔を見るなりそんな事を言われ、ロイは目を丸くして自分が締めているふわふわの赤い帯を見下ろした。
 今日は年に一度の秋祭りだ。いつもは大人達に連れて行って貰う二人だったが、ロイが十になった今年は二人だけで出かける事になっていた。
「赤い帯、金魚みたいでカワイイ。オレも赤い帯がいい!」
 ロイは紺地に幾つもの花火が花開いた浴衣に赤い帯を締めている。羨ましそうに地団駄を踏んで涙ぐむハボックを見て、ロイは言った。
「でも、ジャンの帯だってふわふわの雲みたいだ。それにお前の瞳と同じ色でとっても似合ってる」
 そう言われてハボックは自分の姿を見下ろす。白地に沢山のトンボが飛んでいる浴衣に締められた青い帯に触れてハボックは言った。
「ふわふわの雲みたい?」
「うん」
「オレの目と同じ色?」
「うん。よく似合ってるよ」
 大好きなロイお兄ちゃんにニコッと笑って言われれば、ハボックの顔にも笑みが浮かぶ。小さな手でゴシゴシと目をこすってにっこりと笑った。
「それならいいや」
 ハボックは言いながらクルクルと回って見せる。そうすれば結んだ帯がハボックの動きを追いかけて、青い雲のようふわふわとなびいた。
「ジャン、忘れ物よ。これを持っていかないと」
 その時、母親が小さなポシェットを手に出てくる。ハボックの側に跪いてポシェットを斜めにかけてやると、今一度帯を整えて言った。
「中にハンカチとティッシュとお財布が入ってるから。無駄遣いするんじゃないのよ?ロイくんの言うことちゃんと聞いてね」
「大丈夫だよ!オレ、もう五才だもんっ」
 つい最近五才になったハボックは自慢げに片手を広げて見せる。そんな息子の金髪を笑って撫でてやると、母親はロイを見て言った。
「それじゃあロイくん、よろしくお願いね」
「はい、行ってきます。ジャン、行こうか」
 ロイは母親に頷いてハボックを促す。元気よく頷くハボックに手を差し出してロイは言った。
「手を繋いで行こう。迷子になったら困る」
「えーっ」
「私の言うことを聞く約束だろう?」
 不服そうに頬を膨らませるハボックにロイが言う。ほら、と差し出した手を振られればハボックは仕方なしにその手を取った。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「はーい」
 笑って見送る母親に、二人は手を振って答える。手を繋いだロイとハボックは、ふわふわの金魚の尻尾をなびかせてお祭りへと出かけていった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいです〜v


今日は迷子の迷子の仔犬ちゃんの「暗獣」をお届けするつもりでしたが、予定を変更してふわふわ金魚のチビたち二人です。いや、ね「ふわふわ帯のこと、金魚帯と呼んでるんですが、子ハボ子ロイで金魚帯だとタマらんです」ってコメントを頂きまして。金魚帯ってなんて可愛い表現だろうって思ったら堪らなく書きたくなってしまって(笑)どうということのない話ですが、ふわふわ金魚帯のおチビ二人を想像して頂けたらなと思いますvしかし、こんなのが二人手を繋いで歩いてたらほんとタマランですよね!屋台のオッチャン達がオマケしまくってくれそうです。商売あがったり(笑)射的の景品やら綿飴やらやたらと持ち帰って親に心配されたりね(苦笑)いいなぁ、ふわふわ金魚帯v


以下、拍手お返事です。

阿修羅さま

いえいえ、着物着る方からしたら気になりますよね。一応知らないことはチェックしてから書くようにはしてるのですが、やはり色々漏れが(苦笑)おお、阿修羅さまの正装!妖艶美女なイメージです!(をい)

香深さま

お名前ありませんでしたが香深ですよね?(笑)うふふ、犬耳カチューシャ、しっかり使わせて頂きましたvこの後ギャラリーも登場する予定ですので(笑)迷子のハボック、どうなるかお楽しみにv意外と参加要望のあるヒュです、髭、人気者(苦笑)ロイならそんな風に言いそうです(笑)セレスタ、ハボック、そういう風に見えているのなら嬉しいです。まだ暫く香深さまにはご心配おかけする展開かと思いますが、どうぞ見守ってやってください。それから迷惑だなんてとんでもない!是非妄想話お聞かせ下さい!ネタにしちゃってもよければですが(爆)でもって、金魚帯、さっさとネタにしてしまいました、ごめんなさい(汗)でも、とっても可愛い表現だったんですもの!金魚帯の二人が頭に浮かんだらもう我慢出来ませんでした(苦笑)こちらこそいつもコメントありがとうございます!香深さまのコメントって物凄く私の萌えツボというか、「あ、そこそこ、気持ちイイ〜っ」って言うくらいツボなんですよ。これからもお声を聞かせて下さるととっても嬉しいですv

やーんハボックが迷子になっちゃうw の方

うふふ、ハボック迷子ですよv 是非ドキドキハラハラしながら続きをお待ちいただけたらと思います(笑)
2012年09月08日(土)   No.243 (カプなし)

新・暗獣19
「しまった……」
 ロイは夜明けに少し遅れて明るくなった部屋の寝床の中で呟く。傍らのハボックが枕に顔を埋めて不満の声を上げた。
「ろーい〜」
「そう言えばお前も朝は苦手だったな」
 視線だけ向けてロイが言えばハボックがふぁさりと尻尾を振った。
「星空を見上げて寝るのもいいが、やはり寝坊したいしな」
 ロイはそう言って斜めの屋根に取り付けられた天窓を見上げる。シェードを縮めたままの窓からは、朝の陽射しが燦々と降り注いでいた。
「今夜からはシェードは降ろして寝よう」
 星空を見上げていてもどうせすぐ眠ってしまうのだ。ロマンチックな夜よりもだらだらと二度寝、三度寝する朝がいい。ロイがそう言えばハボックが同意するように尻尾を振った。とはいえ、こう明るくてはとてももう一度眠る気にはなれない。ロイは体を起こすとウーンと伸びをした。
「ハボック、折角早く目が覚めたんだ。散歩に行かないか?」
 ロイはそう言うと立ち上がり寝床から出る。顔を洗って着替えて戻ってくると、ハボックが漸くもそもそと起き上がったところだった。ふああと大きな欠伸をするハボックの髪が寝癖でピンピンと跳ねているのを見て、ロイはクスリと笑う。ロイが戻ってきた事に気づいたハボックが這うようにしてロイに寄ってきた。
「ろーいー」
「凄い髪だな」
 ロイは言って金色の髪を撫でつけてやる。眠そうに小さな手で目をこするハボックを笑いながら抱き上げてロイが言った。
「顔を洗っておいで。目が覚める」
「ろーい……」
 ぽすんとハボックは眠そうにロイの胸に顔を埋める。ロイはクスクスと笑ってハボックを洗面所に連れて行った。
「さっさと洗わないとおいていくぞ」
「ろーいっ」
 その言葉にハボックがパッと顔を上げる。ロイに体を支えられてパシャパシャと顔を洗ったハボックは、プルプルと首を振った。
「こら、タオルで拭け」
 水を跳ねかけられてロイが顔をしかめる。ハボックはロイの腕からピョンと飛び降りると階段に向かって走った。
「ろーい!」
 早く行こうとばかりにロイを呼んでハボックは先に降りていってしまう。やれやれとため息をついて着替えを手に階段を降りれば、ハボックがロイが来るのを待ってウロウロしていた。
「ろーいっ」
「ハボック、尻尾と耳!」
 ロイが降りてきたのを見てすぐにも飛び出していきそうなハボックにロイの声が飛ぶ。足を止め目を見開いて見上げてくるハボックに、ロイは繰り返した。
「尻尾と耳。隠しておくようにと言っているだろう?」
 手を腰に当てて言うロイをハボックが上目遣いに見る。ハァとため息をついたハボックのふさふさの尻尾がポンッと音をたてて消えた。だが、犬耳はそのままでハボックは困ったように視線を上に向ける。
「ろーいー」
「どうした?前はちゃんと隠せただろう?」
 ロイが首を傾げて言えばハボックがウーンと唸る。なかなか引っ込まない犬耳に、早く外に行きたいハボックは唸りながらウロウロと走り回った。
「ろーいっ」
「落ち着け。慌てるから上手くいかないんじゃないか?」
 ロイがそう言ったが犬耳を引っ込められないハボックは、遂には不貞腐れたように床に座り込んでしまった。
「ハボック」
 しょんぼりと小さな背中を丸めるハボックにロイがため息をつく。部屋の隅に置いておいたトランクを開けると荷物の中から取り出した物を手にハボックを呼んだ。
「おいで、ハボック」
 呼ぶ声にハボックは顔を上げる。四つん這いでロイのところまで寄ってくるとロイの顔を見上げた。
「仕方ないからこれをつけておきなさい」
 ロイは言って手にしたものをハボックの頭につける。それはワンピースとお揃いのカチューシャだった。
「ろーい!!」
 お気に入りのカチューシャをつけて貰ってハボックは大喜びだ。カチューシャを嬉しそうに触るハボックにロイは言った。
「言っておくがハボック、その格好はここでだけだ。いいな?」
 それを聞いたハボックがショックを受けたように目を見開く。うるうると目を潤ませるのを見れば物凄く意地悪を言っている気になったが、ロイはなんとかそんな考えを頭から押し出して言った。
「それが約束出来ないならカチューシャは外して耳は引っ込めろ。どうする?」
 厳しい顔でじっと見つめるロイを、見つめ返していたハボックがコクンと頷く。そうすればロイが笑みを浮かべた。
「よし。じゃあ行こうか」
 そう言ってロイはハボックのパジャマを脱がせ着替えさせる。
「そうだ、これはお前がつけておいた方がいいな」
 ロイは子供の服のポケットに天使の飾りを入れてやるとポケットの上からポンポンと叩いた。立ち上がって手を差し出せば笑ってロイの手を取るハボックと二人、連れ立ってコテージの外へと出た。
 日中は暑いこの辺りも陽が出て間もない今の時分は随分と涼しい。鳥の囀りが聞こえる林の中を歩いていけばあちこちに花が咲いているのを見て、ハボックが繋いだロイの手を引っ張った。
「ろーいっ」
 ハボックはロイの手を引いて花に近づくと近くにしゃがみ込む。朝露を載せた花弁を指先でツンツンとつついてロイを見た。
「ああ、綺麗だな」
 ロイが頷けばハボックはロイの手を離し花を摘み始める。小さな花束を作ると再びロイの手を取り歩き出した。並んで歩く二人の前に何やら茶色の塊がピョンと飛び出してくる。びっくりしたハボックがロイにしがみつくようにして足を止めれば、飛び出してきたそれが長い耳をピンと立てた。
「ウサギだ、ハボック」
 笑いを含んだロイの声にハボックは、視線を茶色の塊に向ける。ウサギとハボックはまん丸の瞳で暫し互いを見つめ合っていたが、つぎの瞬間ウサギはピョンと跳ねて近くの木々の間に飛び込んだ。
「ろーい!」
 逃げたウサギを追ってハボックが走り出す。
「ハボック!」
 ウサギについて道を外れて駆けていくハボックをロイが慌てて追った。
「ろーいーっ」
「待て、ハボック!迷子になるぞ!」
 小さな姿を追いかけてロイは叫ぶ。木々の間に見え隠れする金髪を追って下生えを飛び越えたロイは、不意に開けた視界に目を見開いた。
 唐突に林が途切れた先に広がるのは朝日を受けてキラキラと輝く湖。その眩しさに腕を翳して目を細めたロイは、ハッとして辺りを見回した。
「ハボックっ?」
 名を叫んで辺りを見回したがハボックの姿はない。
「ハボック!!」
 朝日に輝く湖の上をハボックを呼ぶロイの声が流れていった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、モチベーションあがります、嬉しいですv

日記ではお久しぶりです(苦笑)ポチポチ携帯で打っていたんですが、なかなか集中して書けませんでした。更新の方は書き溜めていたので問題なかったんですがね。そういや昔は随分書き溜めてたんだよなぁ、更新も週三回だったし日記は結構あちこちから拾ったネタで毎日書いてたし……。ふ。
ともあれ「暗獣」です。あれれ?ハボック、迷子になっちゃったよ!本当は二人で朝日に輝く湖見て終わる筈だったんですが(汗)ウサギめ〜!(苦笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

ボートリベンジ、考えてみたらハボの小さい身体で一人で漕ぐのは無理ですよねぇ(苦笑)でも、何とかリベンジさせてあげられたらいいなと思います(笑)ハボックがぷかぷかしてても多分腰から下は湯の中じゃないかと思われます、薄暗いから見えてないかなぁと。ロイがやったら……確かにちょっと危険ですね(爆)「セレスタ」ふふふ、腐れ外道エロオヤジは褒め言葉と思ってますよ(爆)ブラハボが長かったのでハッピーエンドなロイハボまではおそらくまだ暫くかかると思いますが、どうぞよろしくお付き合いくださいねv

JOEさま

えへへ、楽しく通って頂けてますか?嬉しいです〜vちょっとお久しぶりの「暗獣」も楽しんでくださると嬉しいですv

おぎわらはぎりさま

はぼっくが泳げるか……それはおそらくもう少し先で判るかと思います。犬かきなのかどうかも(笑)いきなり「髭」が現れたらビックリするだろうなぁ(苦笑)拍手リク、いやいや焦ってるわけではないですが、やはり折角なら夏にお届けしたいなぁと思いまして。冬場に浴衣じゃねぇ(苦笑)やたらほのぼのな話になってしまいましたが後篇もお楽しみ頂けてましたら嬉しいですvパソ不調、大丈夫ですか??コメントは全然構いませんが、パソの不調は嫌ですよね……。早く復活しますように。

阿修羅さま

「君のいる夏」ほんわか、ありがとうございます。浴衣、チェック厳しいですね(苦笑)ロイが着ているのは女物です。というか「ロイは女物」という思い込みで書いていたもので、読み返してみるとちょっと判り辛いかもとはっきり女物と書き直しておきました。ハボックのは勿論男物ですよ。ハボックは恐らくちゃんと帯を結んだと思われ……。要はイチャイチャ着付けしてるのが書きたかっただけなのであまり細かく帯をどうしたと書いても仕方ないので書いてませんが(というより、ハボック、帯結んだっていう描写もないよ(苦笑)柄はああいう柄の女物と男物を通販サイトで売ってたのを着せてます。流石に子供もののふわふわ帯だとアレかなぁと(苦笑)まあ、色々ツッコミどころはあるかと思いますが、ぬるく見守ってやって下さい〜(笑)
2012年09月05日(水)   No.242 (カプなし)

No. PASS
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  Photo by 空色地図

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