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【秋の夜長 〜 HR ver.〜】

「大佐、コーヒーどうぞ」
 ハボックは窓辺の椅子に腰掛けて本を読むロイの前にコーヒーのカップを置く。だが例によって本の世界に没頭しているロイはハボックの言葉に答える事はない。それでも暫く眺めていれば、コーヒーの香りに誘われたように目は本の内容を追いながらもコーヒーのカップに伸びた手が探しだした柄を掴んで口元に運ぶのを見て、ハボックはクスリと笑った。
 テーブルを挟んでロイの向かい、ハボックはコーヒーを手に窓に寄りかかるようにして夜空を見上げる。時折コーヒーを口に運びながらぽっかりと浮かぶ月を眺めているハボックの耳にロイの声が聞こえた。
「なんだ?」
「え?」
 問いかけの意味が判らずハボックは首を傾げてロイを見る。そうすればロイが本から目を上げずに言った。
「さっき笑ったろう?」
 『なんなんだ』と微かに不機嫌さを滲ませる声音にハボックはクスクスと笑う。そんなハボックを漸く本から離れた黒曜石が睨んできた。
「一応は聞こえてたんスね」
「ちゃんと聞いてたさ」
「十分も前の事なんスけど」
「たかが十分だろう」
「普通は十分もたってからききませんよ」
「普通なんて誰が決めるんだ」
 ああ言えばこう言うロイにやれやれとため息をつけば黒曜石が宿す光が剣呑さを増す。ジロリと睨んでくるロイにハボックは答えた。
「別に変な意味はないっスよ。ただ、そういうアンタを見ると秋が来たなぁと思って」
 ハボックが言うのを聞いてロイは「ああ」と肩を竦める。
「陽が沈めば涼しくなって読書には最適だからな」
「夜も長くなりますしね」
「その通りだ」
 それだけ言うとロイは本に視線を戻す。夜空の星を宿す黒曜石が再び自分ではなく本に戻ってしまったのが不満で、ハボックはコーヒーのカップをテーブルに置いてロイの方へと近づいた。
「秋の夜長は読書の為だけっスか?」
「どういう意味だ?」
 かろうじて本の世界に閉じこもる前に捕まえる事が出来て、返る言葉にハボックはホッと息を吐く。それでも本から上がらぬ視線を捉えようと、ハボックはロイの顎を掬ってその黒曜石を正面から覗き込んだ。
「他にも使い道があるっしょ?」
「例えば?」
 そう答える間にも本への未練を覗かせて逸れかかる視線を逃すまいと、ハボックは自分以外視界に入らないところまで顔を近づけた。
「例えば――――こんな風に」
 ハボックは言ってロイに口づける。反射的に押し返そうとするロイの手から本を取り上げて、ハボックは深く唇を合わせた。
「――――おい」
 思うまま口内を味わって唇を離せば黒曜石の瞳が睨んでくる。その美しく強い光をたたえた瞳にうっとりと笑みを浮かべて、ハボックは言った。
「独りで過ごすには秋の夜は長いんスよ。だから」
 つき合って?とのしかかってくるハボックに。
「――――仕方のない犬だ」
 ロイは笑みを浮かべて金髪に指を絡めるとハボックを引き寄せた。


2014/09/15

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

暑い夏が過ぎて夜もすごしやすくなったなら、秋の夜長にすることは読書じゃないよね、って(笑)
もうひとつロイハボバージョンもあります。



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