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2011年02月の日記

2011年02月24日(木)
金剛石10
2011年02月22日(火)
222
2011年02月21日(月)
椅子
2011年02月19日(土)

2011年02月18日(金)
名前
2011年02月16日(水)
金剛石9
2011年02月15日(火)
金剛石8
2011年02月14日(月)
本命義理チョコ
2011年02月11日(金)
金剛石7
2011年02月08日(火)
金剛石6
2011年02月06日(日)
金剛石5
2011年02月03日(木)
金剛石4
2011年02月01日(火)
金剛石3

金剛石10
 司令室の扉を開け中にロイを突き飛ばすと、ハボックはそのまま踵(きびす)を返して射撃場へ向かう。空いているブースに入り耳当てを嵌め、的に向けて銃を構えた。
 落成式に出席するロイに気が進まぬまま同行した美術館の前で起きた事故。もしあの時偶然入口を行き過ぎずに真っ直ぐ乗り入れていたら、確実に巻き込まれていた。死者を出した惨事を目の前にして、ハボックは冷静ではいられなかった。事故の様子を確かめると言うロイを強引に車に押し込み逃げるようにその場を後にした。司令部に着く間にも再び事故が起きるのではと不安で堪らず、ロイを司令室の扉の向こうに突き飛ばした時は本当にホッとしたのだ。
 ハボックは的に向けて構えた銃の引き金を引く。ど真ん中を撃ち抜いた同じ場所へ二発、三発と寸分狂わず撃ち込んだハボックだったが、不意に目の前に浮かんだ幻影に次の一発は大きく的を外れてしまった。
「くそッ」
 ハボックは思い切り舌打ちして手のひらで目を覆う。そうすれば幻影は尚一層くっきりとハボックの目の前に浮かび上がった。
 飛び散る鮮血の赤。二度とは動かぬ体。
 鈍く光る注射針の銀。生臭い匂いを放つ柔らかい体。
 まるで蒼い瞳に刻み込まれたかのように鮮明に浮かび上がるそれにハボックは歯を食いしばる。追い払おうと激しく首を振って、ハボックは指の間から宙を見つめた。
「ずっと思い出さなかったのに……ッ」
 一人きりで生きていく為には囚われているわけにはいかなかった。心の奥深くに閉じこめて堅く鍵をかけていた筈の記憶がこうも簡単に顔を出すとは、もう囚われていないと思っていただけで本当はずっと抜け出せずにいたのかもしれない。そんな考えが浮かんで、ハボックは慌ててそれを打ち消した。
「オレはもう大丈夫なんだ。でも、あの人が……」
 真っ直ぐに見つめてくるロイの瞳が怖かった。己の中に入り込んでこようとするそれが、いつか己が呼び寄せる災いに飲み込まれてしまうのではと思うと不安で堪らない。だが、不安に思う一方で、ハボックは何故自分がそんなに不安に思うのか全く判らなかった。
「なんでこんなに気にしてるんだ、オレは……あの人がどうなろうと関係ないだろう?」
 これまでくだらない見栄と驕りでハボックを手元に置こうとした輩は、一人残らずハボックの前から消えていった。それが失脚という形だろうが死という形だろうがハボックは気にしたことなどなかったし、いい加減学んだ軍部の連中に特務に押し込まれた時にはいっそ清々したとさえ思っていたのだ。それなのにどうしてロイだけがこんなにも気にかかって仕方ないのだろう。
「オレに構うな……ッ」
 他の誰とも違う、強く真っ直ぐな瞳を飲み込もうとして近づく闇を追い払うように、ハボックは目の前の的に銃弾を叩き込み続けた。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手もポチリと嬉しいですv

「金剛石」です。やっとアップしたよ(笑)温めてる間に11も書いたしな(苦笑)続きも頑張ろうっと。

以下、拍手お返事です。

蒼さま

そろそろコンプリも力つきそうですが(苦笑)名無しでも口調?で判るかと。ちょっと、その妄想、もう思わずニタニタしながら読んじゃいましたよ(爆)夜中のコメは楽しいですv

naoさま

いやもう、毎度の事ながら勝手にネタにしてしまってごめんなさいです。少しでもお楽しみ頂けてたら嬉しいですが(苦笑)私もまだまだハボ熱冷めてませんから、長く長くおつきあい頂けたらと思いますvv暖かくなったり寒くなったり、気候の変動が激しいですが、どうぞお体大切になさってくださいね。

摩依夢さま

こちらこそありがとうございました!あんな感じのリンクで良かったでしょうか。ここ2、3回の連載はいつどうやってリンクさせるか、そればっかり考えて書いてました(笑)次は前に書いているとおっしゃってたお話ですよねっ!楽しみに待ってますからvv確かにアレでケジメが付いたと思うのはハボだけだろうなぁ、ブレダお気の毒(爆)

111&222、パラレルワールドだったら の方

うふふ、ハボを囲んで三竦みの図ですね。もの凄く楽しそうです(笑)こちらこそ、いつも読んでくださってありがとうございますvこれからも頑張りますのでよろしくお願いしますv
2011年02月24日(木)   No.24 (カプなし)

222
「お前、本当にどこでもついてくるな」
 大佐に寄り添う俺を見下ろしてハボックが言う。あからさまに嫌そうな声音に大佐が苦笑して言った。
「いいだろう、ちゃんと行儀よくしてるんだから」
 そう言いながら俺の頭を撫でる大佐の手に鼻をすり付けてペロリと焔を生み出す指先を舐めれば、ハボックが思い切り舌打ちするのが聞こえた。
(どうだ、羨ましいか)
 そう思いながらハボックをチラリと見れば空色の瞳が忌々しそうに俺を見下ろす。
「うわー、なんかムカつく!」
「ジャクリーンは何もしてないだろう?」
「目つきがオレを馬鹿にしてるっス」
 駄犬とはいえ犬は犬同士、考えていることが判るらしい。ハボックと睨みあうように視線を交わしていれば大佐が言った。
「とはいえ、流石に会議にお前を同席させたらぐちゃぐちゃ煩いのがいそうだな。悪いが、ジャクリーン。今日は待っていてくれ」
 えっ、そんな?俺、ちゃんといい子にしてるのに!
 そう思いながら俺は大佐の裾を引いたが大佐は「いい子にな」と言って会議室に入ってしまう。振り向けばハボックがニヤニヤと笑って俺を見下ろしていた。
「犬は犬らしく外で待ってな」
 ハボックはそう言うと大佐の後を追って会議室に入る。無情にもパタンと目の前で閉まった扉に俺は低く唸って扉の前に座り込んだ。
 俺の名はジャクリーン、誇り高きシェパードだ。二ヶ月ほど前から大佐の部下として働いている。その働きはハボックに勝るとも劣らないと自負しているのにこの扱いはどういう事だ。ほんの少し大佐に腹を立てて、手の上に顎を載せて廊下を行き交う軍人たちの足下を見ていた俺は、するすると足の間を縫って歩く黒い塊に目を見開いた。
(あれ?)
 俺は立ち上がるとその黒い塊を追う。そうすればその塊が足を止めて俺を振り向いた。
「なんだ?」
 と、ソイツは俺を見つめて言う。よく見ればそれは頭のてっぺんから尻尾の先まで真っ黒な猫だった。
「なんだって……ここで何をしてるんだ?」
 猫にしては珍しい真っ黒な瞳でじっと見つめられて、俺はドギマギしながらそう尋ねる。黒猫はフンと鼻を鳴らして言った。
「私が自分の縄張りでなにをしていようが勝手だろう?」
「縄張り?」
 黒猫はそう言うとさっさと歩きだしてしまう。俺は慌てて追いかけると黒猫の後ろから言った。
「縄張りって、アンタ、ここに住み着いてるのか?」
 誰かが猫を飼ってるなんて聞いたことがない。俺は行き交う軍人を右に左によけながら黒猫を追ったが、追いつこうと焦るあまり軍人の足にぶつかってしまった。
「キャウンッ!」
 思い切り鼻先をぶつけて俺は悲鳴を上げて蹲る。こんなみっともないところ大佐にもハボックにも見られなくてよかったと思いながら鼻を撫でていれば、すぐ側からクスクスと笑う声が聞こえた。
「意外とドジだな」
 気がつけば黒猫が俺の側に座ってその黒い瞳を俺に向けている。俺は少し恥ずかしくなって顔を背けて答えた。
「ちょっとよけるタイミングを間違えただけだ」
「ふぅん」
 俺の言葉に黒猫が肩を竦める。呆れられたのかとなんだかがっくりして目を閉じれば、いきなり鼻に濡れたものが触って俺はびっくりして目を開けた。
「動くなよ」
 開いたすぐ目の前に黒猫の顔。痛めた鼻先を舐められているのだと気づいて、俺は心臓が飛び出そうになった。
 制止の言葉をかけた黒猫はペロペロと俺の鼻を舐める。少しして舐めるのをやめると、俺の顔を覗き込むようにして言った。
「どうだ、痛くなくなっただろう?」
「あ、あ、あ、ありがとうっ」
 どもりながら礼を言えば黒猫がクスリと笑う。その綺麗な笑みにドキンと心臓を跳ね上げる俺をそのままに、黒猫は近くの窓に軽々と飛び移った。
「気をつけて歩くんだな」
 黒猫は言ってそのまま外へ出ていこうとする。俺は慌てて身を起こすと窓枠に足を掛けた。
「待って!俺はジャクリーン、アンタの名前はッ?」
 黒猫はすぐには答えずピョンと外へと降りる。肩越しに振り向いて窓から顔を出す俺を見上げて言った。
「ロイ」
「ロイ……、あ、待って!」
 ロイはそれだけ言うとさっさと歩きだしてしまう。俺はこのまま別れてしまうのが嫌で、必死に窓枠を乗り越えたがバランスを崩して外へと落ちてしまった。
「キャンッ!」
 怪我こそしなかったものの肩を強かに打ちつけて痛みに顔を歪める。すぐには動けずにいれば、すぐ側で呆れたような声が聞こえた。
「ホントにドジだな、お前」
「ロイ……」
 ロイは呆れたような面白がるような光を黒い目にたたえて俺を見る。俺は恥ずかしさを誤魔化すように歯を向いて答えた。
「だって、待ってって言ったのに、アンタ行っちまうから」
 待ってくれればあのくらいの高さの窓、ちゃんと乗り越えられたのに。そう言う俺にロイは笑って言った。
「ここは私の縄張りだと言っただろう?慌てて追ってこなくても戻ってくる」
「あ」
 言われて俺は顔を赤らめる。そんな俺をロイはじっと見つめていたが、クルリと背を向けた。あっ、と思った瞬間、ロイが肩越しに振り向いて言う。
「一緒に来るか?」
「っ!行きます!」
 言って慌てて立ち上がればクスリと笑うロイに、俺は急いで追いつくと並んで歩いていったのだった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!

猫の日と言うことで、以前書いた「111」の続きです。というか、コレを書きたかったので遅れても「111」をアップしたのでした。ロイは誰が飼ってるんでしょうね。意外と誰かの飼い猫というより、ハボックやら部下やらが適当に餌あげてそうな気もします。そんなわけでシェパードのジャクリーンと黒猫ロイの話でした。

以下、拍手お返事です。

蒼さま

確かに言われてみれば一つ目のコメにはお名前ありませんでした。でも、完全に蒼さんからのだと思って読んでましたよ(笑)おお、無事戻ってきましたか。よかったです。うちのはぼっきゅもいい加減ボロくなってきたので新しい子が欲しいなぁと思いつつ、やはり買うなら青がいいよなぁとなかなか踏み切れません(苦笑)アイスティーサワー、ほろよいっスね!それ、CMで見て飲んでみたいと思いつつ、まだ買ってない。飲みやすいんだ、よし、買ってこよう!(笑)ホテル選びにコンビニも入るんですねー、考えたことなかったなぁ。確かに数年経つと閉鎖・ジャンル変更ありますよね。いいかも、と思って行ってみてもうなかったりするとがっかりしますよ。日記CP要素なし……そういや続いてますね。お題も書くのに時間がかかるものでなかなか取りかかれず(苦笑)しかし、コック×経営者やらなにやら……パラレルも色々あるものです(笑)まぁ、神とまでは行きませんがやはりあちらのハボックは大好きですねー。可愛くて死にそうvv(笑)傷薬、ハボによっく塗り込んであげてくださいねっv手つきがいやらしくなりませんように(笑)三代目は男狙いですか。小隊の部下達が大喜びしそうです(笑)生唾もののハボックですか!……すみません、今日も生唾ゴクン出来そうにないです(苦笑)お題、ロイハボだけは書きあがってるんだけど……片カプだけでも出すべき?(笑)

摩依夢さま

確かに勘の鋭い中尉なら気づくかもしれませんね、少なくともハボが呼ばれた時点で踏み込みそうです(笑)「金剛石」楽しみにして頂いてるのにすみません、今日もまた別ネタという(汗)でも今日は猫の日だから!「バラード」もいよいよ大詰め。最後は大人な雰囲気でまとめられればと思っております。頑張りますねv
2011年02月22日(火)   No.23 (カプなし)

椅子
「どうも!お届け物です!」
 司令室の扉をノックする音にハボックが扉を開けてやれば、運送会社の男が被っていた帽子を取って頭を下げる。司令室に届け物って誰に?とハボックが瞬間キョトンと目を瞠る間に、執務室の扉が開いてロイが顔を出した。
「こっちだ、こっちに運んでくれ」
「あ、はい!」
 男はロイの言葉に頷いて同僚の男に合図すると二人掛かりで大きな荷物を持ち上げる。ロイが手で押さえている大きく開いた扉から執務室の中に荷物を運び込むと、「失礼します」と言って引き上げていった。
「ハボック、ちょっと手伝ってくれ」
 ロイは扉を押さえていた手を離してそう言うと執務室の中に消えてしまう。ハボックは執務室に入ると梱包材に包まれた大きな荷物を見て首を傾げた。
「なんスか、これ」
「開けるの、手伝ってくれ」
 ロイは答える代わりにそう言う。ハボックはロイと一緒にベリベリと包みを剥がすと中から大きな黒い塊を取り出した。
「椅子?」
 出てきたのは革張りのオフィスチェアだ。背もたれと肘掛けがついた大振りのそれは確かに座りやすそうではあったが、わざわざ家具屋に頼んでまで執務室用の椅子を買う理由がハボックには判らなかった。
「これはただの椅子ではないのだ」
 疑問符が顔に浮かんでいたのだろう。ロイがニヤリと笑って言う。言われてしげしげと椅子を見つめたものの特に変わったところは見受けられず、ハボックは益々首を傾げた。
「これのどこが特別なんスか?」
「見ていろ」
 ロイは言うと椅子の下に手を入れるとそこから引っ張りだした細長い板を延ばした。
「フットレスト?」
「ああ」
 ハボックの言葉に頷いたロイは背もたれに手を伸ばす。レバーを弄ると背もたれは簡単に倒れて座面とほぼ同じ高さになった。
「どうだ、これで快適に寝られる」
 ロイは言いながらほぼ真っ平らになった椅子に横になる。仰向けになった腹の上に手を組んで言った。
「というわけで、私はこれから一眠りするから」
「ちょっと」
 言って目を瞑るロイにハボックは慌てて声をかける。
「何言ってるんスか、この書類の山を前にして寝ないで下さいよ」
「不良品だと困るからな、ちゃんと試さないと」
「とか言って、ただ単に寝たいだけっしょ?」
 もっともらしい事を言うロイにハボックが目を吊り上げる。だが、ロイはそれに構わずハボックに背を向けると言った。
「ぐちゃぐちゃ言うな。私は寝る。もう用はないから行っていいぞ」
 ロイの言いようにハボックはムッとして目を細める。ロイの背を見下ろしてボソリと言った。
「起きないと襲いますよ」
「襲えるもんなら襲ってみろ」
 背を向けたままそう返されてハボックのこめかみがピクピクと震える。ハボックは唇の端を上げて笑うと言った。
「へぇ、そうっスか」
 言うと同時にハボックは椅子に手をかける。ギシリと椅子が鳴るのを聞いて、ロイが慌てて振り向いた。
「おい」
「襲ってみろって言ったのはアンタっしょ」
「どけ、馬鹿っ、お前が乗ったら椅子がっ」
「今更なに言っても───え?」
 ハボックが床から脚を上げて椅子に全体重をかけた途端椅子がミシミシッと鳴る。次の瞬間、背もたれがバキッと音を立てて繋ぎ目から外れた。
「うわッ?!」
「わあッ!!」
外れた背もたれから滑り落ちるようにハボックとロイは床にドウと落ちる。打ちつけた肩を顔を歪めてさすりながらロイが怒鳴った。
「馬鹿がッ!ベッドじゃないんだぞ、大の男が二人も乗ったら壊れるに決まってるだろうがッ!」
「だってアンタが襲えるもんなら襲えって!」
「だからって本気で乗る奴がいるかッ!」
 ロイは背もたれの折れた買ったばかりの椅子を見て言う。
「弁償しろ。五万センズ」
「ごっ……冗談ッ!」
「お前が壊したんだろうっ、弁償して当然だ」
「高給取りのクセして薄給の部下から毟りとる気っスか?そもそもこんなとこで寝るアンタがいけないんでしょうがッ!」
 壊したのは悪いと思いつつ、流石に五万センズは懐に痛すぎる。それにそもそもの原因はどっちにあるかと言えばロイにあるとしか思えなかった。だが。
「妙な気起こしたお前が悪い」
「はあっ?!何言って……ッ」
「そんなにシたいか。昼寝より始末におえんな」
 フンと鼻を鳴らして言うロイにハボックがふるふると震える。ムッと唇を突き出すと低い声で言った。
「判りました。それじゃあどっちが悪いのか、公平に判断して貰いましょ」
 ハボックは言うなり扉に歩み寄るとそれを開けて大部屋に向かって声を張り上げた。
「中尉ぃ!ちょっと聞いてくださいよッ!」
「あっ、こらッ!ハボック!」
「少尉?……大佐」
 ドカドカと歩み寄ってくるハボックとそれを止めようとするロイに目を丸くしたホークアイが、二人に特大の雷を落としたのはそれから数分後の事だった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手もたくさんに嬉しいですv

NHKの「まちかど情報室」で快適に仮眠をとるグッズっていうのを紹介してたんですが、ロイならもっといいソファーベッドとか入れちゃうかなと思いつつ(苦笑)パソの椅子がコレだったら眠くなったらすぐ寝られていいなぁ、ってどんだけパソ前で寝てるんだか(苦笑)
2011年02月21日(月)   No.22 (カプなし)

「あんな言い方しなくたっていいじゃん……ッ」
 ハボックは夜道を一人歩きながらそう呟く。たった今し方別れたロイとの会話を思い出すとムカムカと腹が立った。喧嘩の原因はハボックの住まいの事だ。付き合い始めて半年が経ち、広い家に独りで住むロイが『部屋なら幾らでも余っているから引っ越してこい』というのを、ハボックはずっと断り続けているのだった。
「だって……一緒に住んだらそれこそ朝から晩まで大佐一色じゃん」
 今ですらロイの強烈なパワーに生活も考え方も己の九割方が持って行かれているような状況なのだ。これ以上ロイで塗りつぶされたら自分がなくなってしまいそうで、それだけは避けたいというのが口には出来ない理由だった。
 ハボックは足音も荒くアパートの階段を駆け上る。三階の部屋の前に来るとポケットから出した鍵を差し込みガチャガチャと回した。
「……ッ!?あれ?」
 開錠して鍵を引き抜こうとするが何故だか鍵が抜けない。ガチガチと乱暴に鍵を揺すって抜こうとしていると、背後から声が聞こえた。
「なにしてるんだ、お前」
 言われて振り向けばロイが怪訝そうな顔をして立っている。ハボックは喧嘩をしていたのも忘れて言った。
「鍵が抜けないんス」
 ハボックは言いながらもガチガチと鍵を揺する。その乱暴な仕草にロイは眉を顰めて言った。
「そんなに乱暴にしたら鍵が歪むぞ。少しずつそっと抜いてみろ」
「少しずつそっと……」
 言われた通り力を入れずに少しずつ抜けば多少の抵抗と共になんとか鍵が抜ける。ハボックはホッと息を吐くとロイを振り向いて言った。
「よかった、抜けなかったらどうしようかと思ったっスよ」
「よかったな」
 鍵を差しっぱなしって訳に行かないしと言うハボックにロイが言う。そのまま無言で向き合っていた二人だったが、やがてロイがポツリと言った。
「さっきは言い過ぎた。悪かったな」
「え?や、オレの方こそ」
 珍しく素直に謝罪するロイにハボックも慌てて首を振る。そのまま見つめ合っていると自然と笑いがこみ上げて二人はクスクスと笑った。
「コーヒーでも飲んでいきます?」
「そうだな、喚きすぎて喉が乾いた」
「自業自得っしょ。って、オレもだけど」
 言いながらハボックはドアを開けて中に入る。続いて入ってきたロイに座っているように言って、手早くコーヒーを入れるとダイニングに戻った。
「どうぞ」
 言ってロイの前にカップを置き椅子に腰を下ろす。コーヒーを啜ってため息混じりに言った。
「鍵、どうしちゃったのかな。あの調子じゃ困るんスけど」
 朝家を出るまではなんともなかった。特に鍵を挿したまま力をいれた覚えもないが、理由が判らないとはいえあのままでは不便極まりない。とは言え、仕事が目白押しの現況で鍵屋を頼む時間が惜しいのも本当だった。
「鉛筆を持っているか?」
 フウフウとコーヒーに息を吹きかけながらロイが言う。唐突な言葉にハボックはキョトンとしながらも答えた。
「ありますけど」
 ハボックは立ち上がって引き出しから鉛筆を持ってくる。テーブルの上に置けばロイが言った。
「それとナイフ」
 ポケットからジャックナイフを取り出してハボックは鉛筆の隣に置く。
「鍵も」
 続いて言われてハボックは怪訝そうにロイを見た。
「なんスか、一体」
「いいから出せ」
 言われてハボックは仕方なしに鍵を出す。そうすればロイがティッシュボックスから一枚ティッシュを出して鍵を載せた。
「鉛筆の芯を削って鍵にまぶせ」
「はあ?」
 ロイが言っている意味が判らずハボックは目を丸くする。だが、ロイが説明する気がないのを察して鉛筆を手に取るとナイフで削って鍵に芯の粉をまぶした。
「やりましたけど」
「それを鍵穴に差し込んで中に粉を馴染ませてから抜いてみろ」
「はあ」
 それがなんの意味があるのだろうと思いながらハボックはまぶした粉を落とさないよう、鍵をそっと持って出て行く。ロイがカップを手に待っていればハボックがバタバタと戻ってきた。
「鍵っ、抜けるようななったっス!」
「だろう?」
「うそっ、なんでッ?!」
 ハボックはバンッとテーブルに手をついてロイの顔を覗き込む。ロイはコーヒーを啜りながら答えた。
「詳しい事は知らん。だが鍵穴の油切れにはこれが効くんだ」
「油切れ……」
「先人の知恵だよ」
 ニヤリと笑って言うロイにハボックはため息をつく。
「相変わらず無駄な知識が豊富っスね」
「無駄とはなんだ、無駄とは。役にたっただろうが」
 折角知恵を授けてやったのに随分な言い草にロイがムッとして唇を尖らせる。ハボックはストンと椅子に腰を下ろして言った。
「や、ホントに助かったっス。あのままだったら鍵開け閉めする度苛々しそうだから大佐んとこ泊めて貰おうかと思ったんスけど」
「えっ?」
(しまった、その手があったか……ッ!!)
 ニコニコしながらよかった、よかったと連発するハボックを前に内心「バカバカバカ―――ッ!!」と己を罵るロイだった。


いつも遊びにきて下さってありがとうございます!拍手励みになってます、嬉しいですv

「金剛石」も書き終わってるんですが、今日も別口で(笑)
玄関の鍵がいきなり抜けなくなってしまいました。差し込んで回るんだけど、その後が抜けない。特に何かした記憶はなく(だって買い物に行く前は普通に抜けたから)なんでッ??という感じだったんですが、とにかくこのままでは困る。と言うので家買ったとこのメンテナンスに電話してみたところ「試してみてください」と言われたのが上の方法でした。こんなんで効くの?と思いつつ鉛筆を引っ張り出してカッターで芯を削って、まぶってんのかないのかよく判らん状態で鍵穴に。数度ガチャガチャやって抜いてみたら、これが嘘のように簡単に抜けるんですよ!いやもうビックリ!魔法のようでした(笑)これでダメだったらそれこそ鍵ごと交換だったかもしれないのでよかったー。しかし、鉛筆の芯で抜けるようになるとは……。なんでだろう。ちなみにクレ5○6とかは使っちゃダメだそうですよ。滅多にない事態とはいえ、もしこんな事になりました際にはどうぞ試してみてください。って、ホントに無駄な知識になりそうですが(笑)


以下、拍手お返事です。

柚木さま

アドバイスありがとうございます!なるほど、そういう事が考えられるんですね。全く思い至りませんでした!特にパソ関係は自分がやってる事に全く自信がないもので、またどっかで阿呆をやっているのではと(苦笑)ご指摘の方法でやってみます、ありがとうございました!
2011年02月19日(土)   No.21 (カプなし)

名前
「ローイー」
 階下から聞こえた可愛らしい呼び声にロイはノートを書いていた手を止める。窓を開けて下を覗けばジャンが小さな顔を仰向けて立っていた。
「ジャン」
 ロイは軽く手を振って答えると一度中に引っ込み急いで下に降りる。玄関を開けるとジャンがニコニコとしながら立っていた。
 蜂蜜色の金髪に空を切り取ったような瞳をしたジャンはロイの隣の家に住む五歳の男の子だ。一人っ子のロイはジャンの事が可愛くて仕方なく、ジャンもまたロイに懐いていてよく遊びにくるのだった。
「どうした?ジャン」
 ロイは言ってジャンを抱き上げる。腕に腰掛けるように抱き上げればジャンの空色の瞳がロイの目と同じ高さになって、ロイは綺麗なそれをうっとりと見つめた。
「あのね、オレ、弟の名前を一生懸命考えてるんだけど、なかなかママに気に入って貰えないの」
 ジャンの母親は息子と同じ金髪に空色の瞳をした美しい女性だ。彼女は今お腹に赤ん坊がいて、あとふた月もしないうちにジャンはお兄ちゃんになる予定だった。
「赤ちゃんは男の子だったな。どんな名前を考えてるんだ?」
 この間の検査でお腹の赤ん坊は男の子と判っている。ロイが尋ねればジャンが元気よく答えた。
「プーさん!」
 ジャンは大好きな熊の名前を口にする。クリスマスにロイに貰った自分と大きさの変わらない大きな熊のぬいぐるみをジャンは毎晩抱いて寝ていた。
「プーさんねぇ」
 熊のぬいぐるみとしては可愛いが、人間には不向きであろうその名前にロイは苦笑する。
「他にも考えている名前があるかい?」
 流石にその名前には無理があるだろうと思いながらロイが促せば、ジャンは小さな手のひらを広げて言った。
「あるよ、いっぱい考えたもん」
 ジャンは広げた手の指を一本ずつ折り曲げて数えながら言う。
「エースでしょ、レンジでしょ、ナルトでしょ、ムクロでしょ、それからねぇ……クウガ!!」
 ジャンが上げた名前はどこかで聞いたことがあるものばかりだ。どうやら自分が好きなマンガのキャラクターを上げているようで、これではジャンの母親もさぞ困っていることだろうとロイは思った。
「……いい名前、ない?」
 ロイの表情を見て、どうやら気に入って貰えないらしいと察したジャンがロイに聞く。口をへの字にして泣きそうになっているジャンに、ロイは慌てて言った。
「どれもいいとは思うけど……そうだな、マンガじゃなくて、ジャンが本当に好きな名前はないかい?」
「本当に好きな名前?」
「うん、そう。好きな人とか尊敬する人とか」
 少なくともマンガよりはまともな名前が出てくるだろうとロイが言えば「うーん」と首を捻ったジャンはパッと顔を輝かせて言った。
「ロイ!」
「え?」
「一番好きな名前!ロイ!」
「……え?」
 ジャンは目をきらきらとさせて言うとロイの腕から飛び降りた。
「ママに言ってみる!ありがとう、ロイ!」
 嬉しそうにそう言うとあっと言う間に走り去ってしまう。その背をポカンとして見送っていたロイは、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
「一番好きな名前……?」
 そう口にすれば思わず頬が弛む。その時足音がして、親友のヒューズが現れた。
「ロイ、そろそろ出かける時間……お前、なにやってんの?」
 地面にヘタリ込んでいる友人に声をかければロイが顔を上げる。そのあまりに弛んだ顔に、ヒューズはビクリとして思わず後ずさった。
「……はは、一番好きな名前だって」
「は?」
 言ってへらへらと笑うロイを、ヒューズは気味の悪いものを見るかのように見つめていたのだった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手もポチポチありがとうです、元気貰ってますv

レス不要でメールくださったNさま。お返事したらご迷惑かなぁと悩みつつ、レスどころか勝手にネタにしちゃいましたー!でも、あんまり可愛くてvvもうすぐやってくる可愛い天使へのお祝いの気持ちってことでご勘弁を(汗)

というわけで、今回は頂いたメールをネタに書いてます。子供ってホント、可愛いですよね。思わず心が和みます。子育ては大変な事もあるけど、ちょっとしたことで頑張れるんだなぁと思います。

以下、拍手お返事です。そう言えば、相変わらず前のサーバーから拍手を頂いてます。日記とtitleページとテキストトップ以外に拍手ボタン見かけたら、教えてやってくださいー(←こら)

蒼さま

日記、たびたびの引っ越しでごめんなさい(汗)元々そんなに高いとこは使ってなかったんだけど、13GBもいらないし変えたら半額以下なんだもんー。これで暫くはない筈なのでよろしくお願いします(ぺこり)宿泊費は安いに越したことはないですよー。あんまりぼろ汚いのでは困りますが(苦笑)ブリのアルバム、それは確かに区別をつけるのが難しそうです(苦)でも、せっかくだったら良品欲しいですよね!頑張れ、蒼さん!TVシリーズはビデオ録画で追ってるんですが未だに二ヶ月遅れくらいですよ(爆)うちのはぼくの待ち受けは処方箋になってます、腐腐腐v

摩依夢さま

お子さんの具合は如何ですか?それにしても本当にそんな症状が出るんですね!話には聞いたことがあっても実際目の当たりにしたらさぞご心配だった事でしょう。とりあえずそちらは治まったようでよかったですv「バラード」気持ちが通じあってからはどういう方向にするか、幾つかパターンがあったわけですが、コラボに向けてこんなカンジで進んでます(笑)上手く繋げればいいんですが……頑張ります!そう、次のリクは「霧屋」なんですよー。ふふ、大好物と言って頂けて益々頑張る気が沸いてきます。萌えを満たすにはやはりピラニア並みの食いつきが大事かと(笑)
2011年02月18日(金)   No.20 (カプなし)

金剛石9
「事故で落成式は延期ですか」
「ああ、美術館の中に被害はなかったが、流石にあの状況で落成式をやる訳にはいかんだろう」
 美術館前で起きた事故は車を運転していた男性と、到着して美術館の中に入ろうとしていた来賓の一人が巻き込まれて死亡した。落成式は延期となり、ロイはそのまま引き返して司令部に戻ってきたのだった。
「大変でしたね。でも、大佐に怪我がなくてよかったです、亡くなった方には申し訳ないけど」
 危うく巻き込まれるところだったのだと聞いたブレダが言う。それに頷きながらロイは主のいない机に視線をやった。
 事故で騒然とする現場からハボックは、事故の様子を確認をしようとするロイを半ば強引に引きずるようにして司令部に戻ってしまった。もっともあの時点でロイに出来ることはなかったからハボックの判断に間違いはなかったものの、帰りの車の中で不満を口にするロイに対しハボックは一言も口をきかなかった。そうしてロイを司令室に送り届けると自分は何も言わずにどこかへ姿を消してしまったのだった。
「今度の事故は自分があそこにいたせいだと思っているのか?」
 ロイは誰もいない席を見つめたままそう口にする。主語のない問いかけの意味を間違う事なく理解して、ブレダは答えた。
「そうだと思います」
「実際のところどうなんだ?少尉は士官学校の時からのつきあいなんだろう?」
 ロイは視線をブレダに移して尋ねる。噂などあてにならないものだろうと言うロイにブレダは首を竦めて答えた。
「そうですね、確かにアイツの周りで事故やら事件やらが頻発してたのは確かです。でも、それがアイツの瞳のせいだなんてどうして言えるんです?俺はそうは思わないですね」
 ある意味ハボックに好意的とも言える言葉にロイは僅かに目を瞠る。挑むように見つめてくるブレダを面白そうに見返してロイは言った。
「士官学校からのつきあいで、少尉は身に危険を感じたりした事はなかったのか?」
「んー、どうなんでしょう」
 聞かれてブレダは首を傾げる。
「単に鈍感だっただけなのかもしれませんね」
「なるほど」
 ニヤリと笑って言うブレダにロイもまた唇の端を上げて笑った。
「悪い奴じゃないんです。むしろとても純粋で真っ直ぐなんだと思います。ただ、俺もよくは知らないんですが色々あったみたいで」
 そう言って空の席を見るブレダにつられてロイもまた視線を向ける。そこに座る背の高い姿が見えるとでも言うように見つめながら、ロイはハボックの事をもっと知りたいと思った。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます!拍手もムフフと嬉しいですvv

拍手と言えば昨日日記を新しいサーバーのにした時に拍手も新サーバーのものに貼り替えたんですが、確認したら前の拍手の方にも拍手を頂いてました。……あれ?変だなぁ。日記以外にtitleページとテキストのトップページのも代えた筈なんですがちゃんとアップ出来てなかったのかしらん。もしアドレスが“bleu.nikita”でなく“yeux-de-bleu.lovepop”の拍手を見かけましたら教えてやって下さいませー。

さて、改めまして「金剛石」です。なるべく短くと思いつつ気がつけばもう「9」だよ(苦笑)マメに「金剛石」を更新しているので現状「バラード」と「パナケイア」と三本連載している感じですが、一番書きやすいのが「金剛石」だったりします。というのも普段の更新分はポメラの文字数で2200〜3200字くらいを目処に書いてますが、日記だと900字くらいでもイケるから。ちなみに今日のは1028字。楽です(笑)日記でずっと同じ話もなんかなと思わないではないですが、色々やってるとまた放置になりかねないので、とにかく書きたいものがある時は別として一気に「金剛石」を攻めたいと思いますので、よろしくおつきあい下さいませv
しかし、2200〜3200字っていうと400字詰めの原稿用紙で5〜8枚?しかも2本だから×2。改めて考えてみると凄いな。よく書くもんだ、自分(苦笑)

以下、拍手お返事です。

摩依夢さま

バレンタイン話、楽しんで頂けて嬉しいですーvふふふ、ハボがくれるチョコならもう何だっていいですよね、たとえ失敗作であろうと!(笑)このお話のロイ、やっぱりロイハボのロイっぽいですか?いや、書きながらちょっとそんな気がしなくもなくはなかった(←ややこしい)のですが(苦笑)ハボロイハボで書かれる書き手さんもいらっしゃいますが、うちの場合どうしても攻めロイと受けロイで大きく違うものでなるべくカプなしで書こうと思うと苦労します。これくらいなら許容範囲って事で何とか(笑)とりあえずオトコマエと言って頂けたからいいかな、と思っております。積雪は本当に久しぶりでしたね。やはり一日で殆ど溶けてしまいました。今シーズンはもう降らないのかしら。お子さん、インフルじゃないといいですね、と言おうと思っていたらインフルでしたか!それは大変、ご心配ですね。早く元気になりますように!

チョコの日記、楽しかったです♪ の方

わーい、楽しんで頂けて嬉しいですvきっとブレさんは思いがけずキューピットなんてやってしまった事を、後々ものすごーく後悔すると思います(笑)何年両片想い……3年くらい?(笑)さっさと言えばいいものをって感じですよね。

阿修羅さま

リク、ありがとうございます。それでは45万と1リクで(笑)「霧屋2」お受け致しました。今書いてるハボロイが終わりましたら取りかからせて頂きますね。……って、霧屋かぁ!いや、この話、自分としても結構好きな話なんですがここでリクが来るとは思いませんでした(笑)頑張って書かせて頂きますので、今少しお待ちくださいませ。

450000万打おめでとうございます♪ の方

ありがとうございます!ここまで来られましたのもこうしてコメントお寄せ頂いたりして元気を貰ってるのが大きいと思います、本当にありがとうございますv「金剛石」ふふふ、確かにいつものハボとは感じが違うかもですね。頑張りますのでよろしくおつきあいのほど、お願い致します。
2011年02月16日(水)   No.19 (カプなし)

金剛石8
「ハボック」
 執務室の扉が開いてロイが顔を出す。そのまま司令室を出ていこうとする背に、ハボックが座ったまま声をかけた。
「大佐、護衛はブレダに頼んでくれって言ったっしょ?」
 言って睨んでくる蒼い瞳を見返してロイは言う。
「誰に何をさせるか決めるのは私だ。意見は聞くが指図は受けん。行くぞ、時間に遅れる」
「大佐ッ」
 ロイはきっぱりと言って出ていってしまう。チッと舌打ちしてハボックは椅子を蹴立てて立ち上がると急いでロイの後を追った。
「大佐」
「急いで車を回せ。落成式に遅れる」
 今日はイーストシティの中心部に出来た美術館の落成式だ。イーストシティだけでなく広く内外から所蔵品を集めたそれは完成前からかなりの話題を集めていて、今日の落成式には美術関係者だけでなく軍や経済界からも多数の来賓が招かれていた。
「どうせ行くなら来賓なぞじゃなくプライベートで行きたいものだな」
 車の後部座席でシートに身を沈めてロイが言う。チラリと視線をやったミラーの中でロイの黒い瞳と目があって、ハボックは慌てて目を逸らすと言った。
「だったら行かなきゃいいっしょ。いつもはこんなの絶対行かないくせに」
「今日だけ公開される美術品がある」
 ハボックの言葉にロイが答える。
「せっかく行くんだ、お前も見るといい」
「……興味ねぇっス」
 楽しそうなロイの声にハボックは吐き捨てるように答えた。チラリとミラーに投げた視線を正面に戻してハボックはハンドルを握り締める。
(何考えてんだ、この人。あんなに護衛はブレダにしてくれって言ったのに。オレの噂、怖くねぇの?)
 落成式に護衛として同行しろと言われた時、ハボックは即座に拒否した。上官の命令を理由もなく拒否するなど軍の中で許される筈がない事は判っていたが、ハボックはとにかくロイの側にいたくなかった。
(なんで、そんな目で見るんだ……オレの事、見るなっ)
 ロイの黒曜石に秘められた強い光がどんな時でも感じられてハボックを落ち着かなくさせる。蒼い瞳を歪ませて唇を噛み締めたハボックに背後からロイの声がかかった。
「おい、通り過ぎたぞ」
「……え?」
 言われて慌てて横に視線を向ければ美術館の入口が景色の中に流れていく。考えに沈んでうっかり目的地を通り過ぎてしまったことに気づいて、ハボックが忌々しげに舌打ちして引き返そうとした時。耳障りなブレーキの音に続いて大きなクラッシュ音が後方から響いて、ハボックは慌ててブレーキを踏んだ。運転席から降りて後ろを見れば、たった今通り過ぎた美術館の入口に車が突っ込んでいた。
「通り過ぎずに車から降りていたら巻き込まれていたな」
 聞こえた声にハッとして振り向けば、いつの間にか車から降りていたロイがすぐ側に立っていた。ハボックは込み上がる不安に浅い呼吸を繰り返しながら、騒然とする事故現場を見つめていた。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!おかげさまで45万打を回りました〜。いつもながらに皆様のおかげと感謝しておりますvv正直なもので、やはり頂く拍手やコメントが本当に励みになってます。それがなかったらここまで続けてこられなかったと思います。これからも楽しく書いていけたらと思っておりますので、よろしくおつきあいのほど、お願い致しますm(_ _)m

それから、再びの日記お引っ越しでお手数おかけしてごめんなさい。実は、サーバーのお引っ越しをする予定しておりまして。だって13GBも容量いらないし(苦笑)サイトの方は引っ越しに辺りぐちゃぐちゃな中身を少し整理しようとしているのでもう少し時間がかかりますが、日記と拍手だけ先にお引っ越ししました。というのも日記はログ全部コピペで移さなきゃならないので溜まれば溜まるだけ大変っていう……。そんなわけで、度々のお引っ越しとなりましたが、よろしくお願い致します。
でもってまた今回もМさんに助けて貰いまくりでしたさー!永遠の初心者の私を見捨てないでくれてありがとうぅっ!

改めまして「金剛石」です。忍び寄ってくる呪いってことで(笑)さあ、サクサク進めるぞー!

以下、拍手お返事です。

阿修羅さま

こんにちは、お久しぶりです!うわ、45万と1!恐ろしいほどにニアピンですね(笑)多分45万打キリリクはなさそうなのでよろしければリクどうぞ。ただ、ハボロイだと間をおかずにかかれますが、ロイハボだと……かなり先?あと、女体は書けませんので。そんなんでよろしければ(苦笑)
2011年02月15日(火)   No.18 (カプなし)

本命義理チョコ
「おはよう、みなさん!今年も日々の感謝を込めて、ジャン・ハボックが甘い幸せをお届けにやって参りましたぁ!」
 ガチャリと司令室の扉が開くのと同時にハボックの元気な声が響き渡る。その声を聞けば今日が何の日か、否応なしに思い出された。
「今年ももうそんな季節か?」
「なんだか一年がすごく早い気がします」
「そう感じるのは年をとった証拠だという説もありますが」
 口々にそんな事を言いながらブレダたちがハボックの周りに集まってくる。ハボックは机の上に置いた袋の中から箱を取り出して皆に配った。
「毎年毎年義理チョコ配り、ご苦労なこって」
 ブレダはそう言いながらも配られたチョコをしっかりとしまい込む。礼を言って受け取ったフュリーが言った。
「ハボック少尉のチョコ、美味しいんですよね」
「毎回楽しみにさせて貰ってます」
 ファルマンがそう言えばハボックは嬉しそうに笑った。
「言っとくけどちゃんと日頃の感謝を込めて配ってるんだからな」
 ハボックはそう言うと袋の中から一つ取り出し執務室に向かう。コンコンと叩きながら扉を開けて中へ入った。
「おはようございます、大佐」
 ノックに答える前に部屋に入ってきた部下をロイはジロリと見たが、ハボックが手にした箱に気づいて言いかけた言葉を飲み込む。ハボックはにっこりと笑って箱をロイの机に置いた。
「はい、大佐、これいつもの」
 ハボックがそう言えばロイはいそいそと箱の包みを開いた。
「お前の手作りチョコは旨いから毎年楽しみだ」
「そんな事言って。大佐なら幾らでも女の子たちから旨いチョコ貰ってるじゃないっスか」
「お前ほど旨いのはなかなかないよ」
 ロイはそう言いながら箱の蓋を開ける。途端にフワリと広がる甘い匂いにロイは嬉しそうに目を細めた。
 今日は2月14日、所謂バレンタインデーという奴だ。ハボックは毎年この日になるとロイを始めとする司令部の面々に手作りのチョコを配っているのであった。
「もっともこれだけは頂けんが」
 ロイは言って甘く香るチョコの表面を見る。僅かに眉を寄せるロイにハボックは笑って言った。
「だって義理チョコに“義理”って書いたら如何にもじゃないっスか。それにその方が面白いっしょ?」
 ハボックはそれだけ言うと「演習に行ってきます」と執務室を出ていく。その背の高い後ろ姿を見送っていたロイは、おそらく演習を口実に部下達にもチョコレートをばらまくのだろうと思いながら上げていた視線をチョコに戻した。
「面白いからって……これはないだろう?」
 苦笑混じりに言うロイの視線の先には綺麗に詰め合わされた幾つものハート型のチョコレート。その中の真ん中の少し大きめのものに白字で“本命”と書いてあるのだった。
『これ、義理チョコっスから』
 初めてハボックがロイにチョコをくれた時言った台詞だ。その時からハボックが義理だと言ってくれるチョコには必ず“本命”と書いてあった。
「まったくな……」
 ロイはそう呟きながらチョコレートを一つ摘んで口に放り込む。甘さと共に広がる微かな苦みにロイは顔を顰めた。
 部下であるハボックに心惹かれていると気づいたのは何時の頃だったろう。気づいて、さてどうするかと悩んでいた時ハボックから貰った“本命”と書いた義理チョコに、結局打ち明けるタイミングを逸したまま今日まで来ている。
「自分がここまで女々しい男だとは思わなかったんだが」
 向こうにその気がないのに打ち明けて、今のこの気のおけない上司と部下という関係を壊したくないと思う。例え実らない想いと判っていても、側にいてハボックの笑顔を見ていたいと思うのだ。
「…………」
 ロイは一つため息をついて席を立つ。口に残る微かな苦みを消したくてコーヒーを飲もうと執務室の扉を開けた。
「……と、演習中だったな」
 常日頃頼む相手は不在だと気づいてロイはそう呟く。その呟きに気づいたブレダが書いていた書類から顔を上げて言った。
「コーヒーですか?淹れてきましょう」
「すまんな」
「俺も丁度一息入れたいと思ってたところですから」
 そう言って立ち上がったブレダは給湯室へ行こうと司令室を出る。すぐ後からついてくる足音に気づいて振り向けば、ロイが一緒についてきていた。
「あれ?」
「気分転換だ」
 ロイはそう言って結局給湯室までついてくる。ブレダが手際よく二人分のコーヒーを淹れるのを、壁に寄りかかって見ていたロイはため息混じりにポツリと言った。
「ハボックは毎年ああやって義理チョコを配り歩いてるんだな」
「ああ、まあアイツなりの気配りじゃないですか?小隊の部下達にも配ってるから相当の量だと思いますけどね」
 俺にはとても真似できないと、ブレダが苦笑しながら言う。それを聞いてロイは眉間に皺を寄せて言った。
「部下達にもばらまいてるのか。それにも“本命”って書いたら誤解する奴がいるんじゃないか?」
 ハボック小隊の隊員達の隊長への崇拝は若干度を過ぎていると思えるほどだ。そんなところへ幾ら義理だと注釈付きとはいえ“本命”などと書いたチョコをばらまいたら誤解されるのではとロイが言えば、ブレダが不思議そうに首を傾げた。
「アイツが配ってるのはデカデカと“義理”って書いてあるチョコですよ」
 ブレダは言って丁度入ったコーヒーのカップを手にロイを促す。連れだって司令室まで戻るとカップを机に置き、抽斗の中からハボックから貰ったチョコの箱を取り出した。
「ほらこれ。みんな一緒だと思いますけど」
 そう言ってブレダが蓋を開けた箱の中にはロイが貰ったのと同じハート型のチョコが綺麗に詰められていた。たった一つ違うのは真ん中の大きめのチョコに書かれた文字。
「大佐が言うように前にマジで誤解した奴がいて、それ以来ちゃんと書くようになったんですよ、アイツ」
 ブレダは言って真ん中のチョコをつつく。そこに書かれた“義理”と言う文字にロイは大きく目を見開いた。
「でも、私が貰ったチョコには」
『これ、義理チョコっスから』
 不意にロイの頭に響くハボックの声。
『だって義理チョコに“義理”って書いたら如何にもじゃないっスか。それにその方が面白いっしょ?』
 そう言ったハボックの表情に何か隠されてはいなかったか。
 ロイは執務室に飛び込むと机の上の箱を取り上げる。蓋を開けて中にしまわれた文字を見つめていれば、背後から声が聞こえた。
「それ、本命チョコですね」
「ブレダ少尉」
 振り向けばブレダがロイの肩越しにチョコを見つめている。ロイはブレダを睨むようにして言った。
「だが、ハボックはこれは義理チョコだと言ったぞ」
「そう言う奴ですから」
 ロイの言葉にブレダが答えた。
「大佐みたいにモテる男に告白するにゃ、冗談に紛れさせるしかなかったんでしょう」
 そう言って肩を竦めるブレダをまじまじと見つめたロイは手元のチョコに目を落とす。“本命”という文字をじっと見つめて吐き出すように言った。
「バカか、アイツは。はっきり言わなきゃ判らんだろうが」
「そりゃ相手が大佐ですから」
 そう言うブレダをロイは忌々しげに睨む。その視線に全く動じずに受け止めてブレダは言った。
「で?どうするんです?」
 聞かれてロイは瞬間目を瞠る。それからニヤリと笑って答えた。
「遠慮する必要がないと判ったなら後は決まってる」
 ロイは言ってチョコの箱を手に執務室を飛び出していく。
「大佐!返事は一ヶ月後のホワイトデーに……って、言っても無駄か」
 その背を見送ってブレダはやれやれとため息をついた。
「まあ、ハボ的にはよかったって事なんだろうけど」
 二人が両想いになったとなればショックを受ける人間は少なくない筈だ。そのバカップルぶりを見せつけられるであろう事が想像に難くない事を思えば被害は更に大きくなるだろう。
「明日からが思いやられる」
 ブレダはうんざりとそう呟いて“義理”と書かれたチョコを口に放り込んだのだった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手もパチパチとっても嬉しいですv

そういやバレンタインデーだったよね、ってもうそんなときめきも感じなくなってはや幾とせ。なんとかバレンタイン話を捻り出しましたよ(笑)きっとこの後は演習場に飛び込んできたロイが、部下達の目の前でハボックの唇を奪うに違いないと思います。部下の怨み買いまくり(笑)

以下、拍手お返事です。

摩依夢さま

わーん、何はともあれ摩依夢さまに一番喜んで頂きたい話ですので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!でも、一話から読み直すときっとものっ凄いボロが出ると思うので、その辺は是非ともスルーしていただけると(滝汗)後はコラボとエチvもう少し続きますので最後までよろしくおつきあいくださいませv

蒼さま

ふふふ、あの日は夜の11時58分位に日記アップしましたから!殆ど翌日なんじゃっていう(苦笑)頂いたリクを書くと、毎度イメージぶち壊してるんだろうなって思います、「そんな話リクしたんじゃないよ!」って思われているだろうと(苦笑)ハボロイは今月中に終わる……かな。エチが長引けば微妙ですが、流石にそろそろエンドが見えている感じです。でも、ロイハボは終わんないと思います(苦笑)本当、無理がきかない年になりましたよー。スケブ行脚でイベントに行きたいですが、今年はどうなることか……。できるだけ行きたいんですが(苦)
2011年02月14日(月)   No.17 (カプなし)

金剛石7
 ガチャリとアパートの鍵を開けてハボックは中へと入る。真っ直ぐにキッチンに向かうと冷蔵庫の中からビールを取り出し、リビング兼ダイニングの小さなソファーにドサリと腰を下ろした。
 ロイの指揮の下テロリスト掃討作戦は予定より早く、人的被害も殆どなく決着した。途中テロリストの一人が爆弾を爆破させはしたもののロイの咄嗟の錬金術で事なきを得、かえってロイの能力の高さを示す結果とさえなった。そんな中。
『大佐っ』
 一瞬見失ったロイのオーラに思わずその姿を探してしまった。怪我がないと判って安堵した己を意外そうに見つめる黒い瞳に気づいて慌ててその場を離れたものの、その後ロイから向けられた視線を思えばその時の己の行動に腹が立つしかない。
「くそ……ッ」
 ハボックは手にしたビールを呷ってそう呟く。ビールを持つ手と反対の手でクシャリと髪を掻き回して、ハボックはその手に顔を埋めた。
「あんな目で見るから……ッ」
 特務から司令室に異動して以来、己に向けられるロイの視線がハボックの心をざわつかせる。もうずっと誰かに心を動かされる事などなかったし、これからもそれは変わらないと思っていただけに、その事実はハボックを酷く動揺させた。
「…………」
 顔を埋めた手のひらの中でハボックは目を見開く。その視線は見ている筈の己の手のひらも、指の間から見える己の脚もその先にある部屋の床も見てはいなかった。ハボックの蒼い瞳が見ていたのは。
 優しく笑う二人の男女。そしてその更に奥に別の二人の男と女に手を取られて歩く己の姿。
「……ッ!!」
 ハボックは浮かぶ姿を消し去ろうとするかのようにギュッと目を閉じる。いつの間にか浅く忙しなくなっていた呼吸をハボックは必死に押さえ込んだ。
 プシュッと音がしてハボックは目を開ける。いつの間にか強く握り締めていた手の中で缶が潰れ、残っていたビールが手を濡らしていた。ハボックは無表情でビールに濡れた手を見つめていたが、やがて立ち上がると潰れた缶をゴミ箱に放り込み浴室に向かう。手を洗おうとしてハボックは鏡に映る己の瞳をじっと見つめた。
 蒼い、見るものを引きずり込まずにはいられない底知れぬ蒼い瞳。
 ハボックは己を見つめ返してくる蒼い瞳をガンッと思い切り拳で殴った。
「平気だ、オレは、もう」
 ハボックはそう呟いて水道を捻ると、流れる水の下に頭を突っ込む。金色の髪を色濃く変えて流れてくる水に顔を濡らして、ハボックはそっと目を閉じた。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手もたくさんありがとうですv

「金剛石」です。結局これが続いてるな。ネタが熱いうちに書いた方が早いのは確かなもんで、つい(苦笑)

以下、拍手お返事です。

蒼さま

ははは、真面目に更新。嬉しいと言って頂けると頑張る気持ちになります、ありがとうございますv放置プレイもの、いや、判ってはいるんですが、どれもこれも最初から読み返さないと展開をすっかり忘れちゃってるもんで(爆)ついつい手近なところから手を着けちゃうっていう。「恋闇」春コミまでに……無理!(殴)でもまあ、なるべく早く手を着けたいと思いますー(苦)蒼さん好みの歌詞は作文にするの難しそうだからなぁ(笑)聞かないが身のためかしら(苦笑)腐の証明はお互いさまなのでオッケーってことで!

摩依夢さま

うふふ、通勤時間の息抜きになれば嬉しいです。今のところさほど背後注意でもないことですし?(笑)ニブいハボ、確かに知恵熱出しそうですね。考えるより行動するのが得意そうです(笑)どっちが主導権握るか……どっちになるかでエチの雰囲気も変わりそうです、どっちにしようかな(笑)
2011年02月11日(金)   No.16 (カプなし)

金剛石6
「大佐、拘束したテロリスト達の護送を始めます」
「ああ、十分注意するように」
 報告に来た隊員にロイが頷けばピッと敬礼を返して持ち場に帰っていく。占拠した建物の一角、テロリストの掃討作戦を終えてその事後処理の為次々とやってくる部下達に指示を与えながら、ロイはガラスの壊れた窓から外を見つめるハボックの姿に目をやった。
 もうこれまでと自暴自棄に陥ったテロリストの一人が爆弾を爆破させようとした。幸い一瞬早く気づいたロイが錬金術を使って防いだ為に大きな爆発には至らなかったが、建物のガラスが十数枚吹き飛び天井や壁の一部が崩れた。幸い大怪我をした者はいなかったものの、その大きな音に一瞬動揺が走ったのは確かだった。それでも一気に崩れたテロリスト達に反してロイの的確な指示の下、東方司令部の部隊は一気に攻勢を強め、結果として計画より早くテロリスト達を押さえ込むことに成功した。そんな中。

『大佐ッ』
 瞬間混乱した現場の中、隊員達をかき分けるようにして姿を現したハボックは、信じられない程青褪めていた。
『どっか怪我して……ッ』
 そう言いながらロイの腕を掴んでその身に怪我のない事を確かめホッと息を吐く。青かったハボックの顔に安堵の色が広がるのを信じられない思いで見つめたロイは、ハボックに向かって言った。
『もしかして心配してくれたのか?』
 おそらくハボックがいた場所からは爆発があった事しか判らなかったのだろう。爆発に巻き込まれて怪我をしたのではと心配して飛んできてくれたのだと思えば、ロイが浮かんでくる笑みを堪えきれずにそう尋ねればハボックはハッとしてロイの腕を離した。
『べっ、別に心配なんてしてねぇっス!アンタがどうなろうとオレの知った事じゃないしッ!』
 ハボックはさっきまで青かった顔を赤らめてそう怒鳴ると持ち場に戻ってしまった。

(少しは気にしてくれているんだろうか)
 窓の外を見つめるハボックの横顔を見ながらロイは思う。ほんの僅かずつでもいい、ハボックとの距離を縮めて彼を手に入れる事が出来るなら。
(ハボック)
 ロイは少しでも早くその日が訪れる事を祈って、ハボックの横顔を見つめ続けたのだった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手も嬉しいですv励みになってますvv

「金剛石」です。先日Mさんに「金剛石でこんなネタ使おうと思ってるんだ」と話をしたら、その後すっかり盛り上がり萌えネタもりもり貰ってきました。おかげで今やすっかり頭が「金剛石」になってます(笑)しかし、あれだけのネタを盛り込んだらまた長くなっちゃいそうな……(汗)まあ、なるべくコンパクトに纏められたらと思っています。

今週末の更新、三連休の真っ直中だで難しいかなぁと思っていたら、結局今日、調子に乗って「バラード」二回分書けたので何とかなりそうです。ああよかった(笑)しかし「バラード」ももう大詰め。後数回で終わりそうですが、終わったら次はどうしよう。ハボロイ、休みだとアレだよねぇ。何か「こんなの読みたい」ってのあります?(笑)

以下、拍手お返事です。

摩依夢さま

おお、電車の中!背後は大丈夫ですか(笑)楽しんで頂けてとっても嬉しいです。でも、アクションシーンが苦手なので、どれだけこの頭の中の妄想が伝わっているか、若干心配なのですが(苦笑)「バラード」も大詰めですが、頑張りますので最後までおつき合いのほどお願いしますねv息子、変なところが遺伝してなきゃよいのですが(笑)晴れた空に白い雲、妄想は果てしなく広がりそうです(笑)
2011年02月08日(火)   No.15 (カプなし)

金剛石5
「隊長っ、全員配置につきました!」
「ああ」
 緊張した面持ちで僅かにハボックから視線を逸らして隊員がそう告げる。それにおざなりの返事を返したハボックは通りの向こう、ブレダ達の隊がいる方を見やった。忙しく歩き回る隊員達の中、漆黒の髪が見える。あそこにロイがいるのだと垣間見える黒髪で確認したハボックは、例え姿が見えなくともロイの所在が判ると気づいた。
(すっげぇオーラ)
 ロイという個だけが持つ色鮮やかな深紅のオーラがハボックの目には見える。人間誰しもそれぞれに固有のオーラを持っているが、あそこまでくっきりと感じられる人間は稀であり、ロイが希有の才能を持っている事を示していた。
(そんな人がなんでオレに拘んの?)
 命令にもろくに耳を傾けず傲慢な態度を崩さず、増してや呪われていると誰もが怖れる瞳を持つ自分を、どうして側に置きたがるのだろう。
 ハボックは苛々として爪を噛む。その時腕の時計が微かに振動し、作戦開始の時間を告げた。
「……行くぞ」
 自分がいいと思った通りにしか動かないとは言ったものの、確かに現状ではロイの立てた作戦が最善であり不本意ながらもその通りに動くしかない。
 ハボックを先頭に隊員達が滑るようにテロリストが立てこもる建物へと近づいていく。作戦開始から五分後、全ての出入口を押さえた隊員達が次の行動に入るべく一斉に建物へと侵入した。途端に響き渡る発砲音と怒声。訓練されつくされた隊員達がロイの立てた作戦に従い、無駄のない動きでテロリスト達の力を確実に殺ぎ落とし奪っていく様を目の端に捉えながら、ハボックはロイの姿を探した。
(あそこ……よかった、無事だ)
 ふとそう思って、ハボックはそんな事を考えてしまった己に舌打ちする。
(あの人がどうなろうと知ったことか)
 ハボックがそう思った瞬間。
 ドオオンッッ!!
 大きな爆音が響いて建物全体が揺れる。咄嗟につい今し方ロイの姿を確認した方向へと目をやったハボックは、その姿が忽然と消えている事に気づいて目を見開いた。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!パチパチ拍手も嬉しいです。励みになってますv

「金剛石」です。お題が書き上がらないんでとりあえずこっちで(苦笑)出来ればこれは長くしないでサクサク話を展開させようと思うんですがどうなるかな(笑)

以下、拍手お返事です。

小人さん(笑)

先日は本当にお世話になりました。おかげさまで順調に稼働してますvタグ……たぶんここに挿れりゃいいのかなってところに突っ込んでみました(爆)窓は……判んない。教えて、小人さんッ(殴)

摩依夢さま

うふふ、確かに嵌ったのはハボの方かもしれませんね(笑)子供の感性って大人とは違いますねぇ。雲がないと淋しいなんて、ちょっと思いつきません。うちでは先日息子と歩いているとき「ハボ空〜v」とニマニマしてたらそれを聞いた息子がため息混じりに「ハボは煙草吸ってんだから雲がないとハボ空じゃないんじゃない?」と言ってました。もっともその後「イイコト言うねぇ」と言ったら「俺としたことがーッ!!」と苦悶してましたが(笑)「淋しいお空」の目の色が淋しくなくなる日がくるのか、お楽しみ頂けたらと思いますv

蒼さま

うお!ハボに流れ弾!!可哀想にと思いつつ、そこに傷だと座位はシンドイと腐った事を考えてしまいました(殴)しもやけかぁ。子供の頃はなりましたけどねー。冬になると足の指とかパンパンころころになっちゃって痛痒いの(苦笑)早く治るといいですね。しもやけの指でパッチンするロイの図、めちゃくちゃ可愛いというか、上手くいかなくてますます無能呼ばわりされそうです(笑)「バラード」やっとここまで来ましたよ。長編にするクセ……昔は長くてもせいぜい六章くらいだったのに、いつからこんなになったんだか。最近じゃ書けば書くだけ枝葉がワサワサと生い茂っちゃって長くなるばっかりです(苦)やっぱ読み手としては短い方がいいのかなーと思いつつ「僕の悪いクセ」(右京さん風)はなかなか治りそうにないかもです(苦笑)
2011年02月06日(日)   No.14 (カプなし)

金剛石4
「作戦は以上だ。各自配置についてくれ」
「「イエッサー!」」
 ロイの言葉に応えて皆が一斉に敬礼を返す。己のやるべき事をこなす為、次々と執務室を出ていく部下達の中から一際高い後ろ姿にロイは声をかけた。
「ハボック」
 そう呼べばハボックが足を止めて振り向く。ロイは立ち上がるとハボックを真っ直ぐに見つめて言った。
「判っているな?」
「何をです?」
 ロイの言いたい事などよく判っているくせにそう返してくるハボックをロイは睨みつける。誰もが怯む眼光を軽く受け止めてハボックは言った。
「ちゃんと言って貰わないと、間違って怒られんのは嫌っスから」
 まるで士官学校を出たてのペーペーのような事をハボックは口にする。それでいて表情には失敗を恐れるような不安など欠片もなく、その言葉が単にロイに対する当てつけに過ぎないと察せられた。
「作戦通りに動け。判ったな、ハボック」
「オレはオレがいいと思った通りに動くって言わなかったっスか?」
「だったら今ここでこの作戦以上にいいと思うお前の考えとやらを聞かせてみろ」
 言い返した言葉にそう返されてハボックは目を見開く。悔しそうに歪む蒼い瞳を見つめてロイは言った。
「作戦はさっき言った通りだ」
 ロイは言ってハボックの横を通り過ぎ執務室を出ていく。その背を視線で追ってハボックは言った。
「アンタも行くんスか?」
「待ってるのは好きでないんでな」
「後悔する事になるかもしれないっスよ?」
 ハボックの言いたい事を察してロイは足を止める。振り向いたロイは見つめてくる蒼い瞳を見返してニヤリと笑った。
「私の作戦通りにすれば、後悔するような事にはなりはしないさ」
「ッ?!」
 そう言うとロイはハボックの返事を待たずに行ってしまう。ハボックは目を見開いたまま凍り付いたように立ち尽くしていたが、クシャリと顔を歪めた。
「一度痛い目に会えばいいんだ」
 そうすれば自分がどれほどの危険を抱え込んでいるのか嫌でも判るだろう。
 ハボックは吐き捨てるように言って足音も荒く執務室を出ていった。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます!拍手も連打も嬉しいですv

「金剛石」です。いや、書くならいっそ続けて書いてしまおうかと(苦笑)まあお題も他のも書きたいのでこればかりにはならないだろうと思いますが。

以下、2日拍手のお返事です。

蒼さま

活動期に入ったかどうかは判りませんが(苦笑)三連コンボにするのと小出しにするのとどっちがいいのだろうと思わないでもないのですが、まあ出せるときにだそうかな、と。私も日付は見ても西暦までは見てなかったのですが、やはり気づいてしまうと気になるもので(苦笑)ところでクイズですが来てないかも。というか、「送りました」メールもパソメールに来てました。「何故2通?」と思ったのですが、アレは携帯宛だったんですね(苦笑)しかし、パソだと来ないなんて事あるのかしら……。お時間ありましたらまた送ってみてください。バナナのケーキは美味しいですよね。あの匂いがいかにもバナナって感じでいいと思うんですが(苦笑)ロイしめじ欲しいですーv走り回るブラハもいいなぁ。もの凄い作業の邪魔そうだけど(笑)
2011年02月03日(木)   No.13 (カプなし)

金剛石3
 カッカッと靴の音を響かせハボックは大股に廊下を歩いていく。角を曲がった先にある休憩所に入れば、ソファーにのんびりと座って談笑していた男たちが慌てて立ち上がった。
「おい、そろそろ行こうぜ」
「ああ……あの書類、どうしたっけな」
 男達はとってつけたような言葉を口々に言いながらそそくさと休憩所を出ていく。ハボックは目を眇めて男達を見送るとフンと鼻を鳴らしてソファーにドサリと腰を下ろした。
 ああやってあからさまな態度をとられるのにももう慣れた。用事もないのにハボックに話しかけてくるのは士官学校時代から腐れ縁の太った男くらいなもので、それすらハボックが極力避けている現状では一日中ろくに口をきかない事も珍しくなかった。
 ハボックは懐から煙草を取り出し火を点ける。吸い込んだ煙をプハァと吐き出しソファーに背を預けて天井を見上げた。
(なに考えてるんだ、あの人)
 ハボックは天井に出来た染みを見つめながらそう思う。ハボックの脳裏には真っ直ぐに見つめてくる黒曜石の瞳が浮かんでいた。あんな風に自分を見つめてくる人間に会うのはどれだけぶりだろう。蒼い瞳に込められた呪いから逃れようとするように、誰もがハボックの瞳から目を逸らした。それが普通だったからあんな風に見つめられると戸惑ってしまう。
『戻す気はない』
 まるで閉じ込めるように特務という特殊な部署に追いやられていた自分を手元に引き取ったばかりか、人の忠告も聞き入れず戻す気はないと言う。
(オレの目が紅くなるのも見たのに)
 ハボックの白い顔の中で蒼い瞳が紅く染まるのを見た者はこれまで例外もなくその禍々しさに畏れをなしたものだ。
『後悔などするものか』
 そう言いきった時のロイの瞳を思い出してハボックは咥えた煙草をギリと噛み潰した。
「オレはちゃんと忠告したんだ、後になって後悔したって知るもんか」
 ハボックは吐き捨てるようにそう呟き、頭を振って脳裏に浮かんだロイの瞳を追い出す。そのままの勢いでソファーから立ち上がるとハボックは逃げ出すようにその場を後にした。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます!拍手もたくさん嬉しいです、元気貰ってますv

今日は一日中眠くて眠くて更新間に合わないかと思いましたが、何とか夕方までに書き終わりましたのでアップ出来そうです。ああ、よかった(苦笑)

そんなところで「金剛石3」です。戸惑うはぼっきゅvブレダはきっと適度な距離感持ってハボに接してるんじゃないかと(笑)

以下、31日拍手のお返事です。

摩依夢さま

ふふふ、ロイよりですか?(笑)いい加減鈍いにもほどがあると言われそうです(苦笑)でもそろそろラストスパートかなぁ。ファン心理なんて嬉しいお言葉ありがとうございます。いやいや、流石にチェリーはヤバいかと(笑)リンクして尚且つご期待に添えるよう、頑張りますね!「金剛石」もボチボチと続いております。やはり「続きを」と言われると嬉しくてつい(苦笑)あ、やっぱりハッピーエンド希望ですか?(笑)基本ハッピーエンド志向ですが、どうなるかな。
2011年02月01日(火)   No.12 (カプなし)

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