ロイハボ風味
「できたっ」 覗き込んでいたプリンターの吐き出し口から出てきた写真を待ちきれないとばかりに半ば引っ張るように取り出して、ハボックは嬉しそうな声を上げる。ロイと二人並んで写った写真を見て、満面の笑みを浮かべた。 ロイと二人秋祭りに出かけた帰り、射的の景品でとった写真たてに入れる写真が欲しいと言うロイのために、家の前で写真を撮った。本当はその場ですぐに印刷して渡したかったのだが、運の悪いことにプリンターのインクが切れていて印刷できなかったのだ。母親にブウブウ文句を言ったハボックは、学校帰りに文房具屋でインクを買ってきて早速印刷したところだった。 「先輩、やっぱりカッコいいや……」 ハボックは写真の中で笑みを浮かべるロイを見つめてホゥとため息をつく。頬を染めた自分の肩をさりげなく抱いて微笑むロイは、ハボックの目には大人っぽくてとてもかっこよく写った。 「先輩、喜んでくれるかな」 自分の写真を渡すのは恥ずかしいが、喜んでくれるなら嬉しい。ハボックは二枚印刷した写真のうち一枚をインクと一緒に買ってきた写真たてに入れて机の上に飾る。そうしてもう一枚を封筒に大切にしまった。 「よし、明日学校で渡そう」 昼休みなら渡す時間もあるだろう。ハボックは喜んでくれるロイの顔を思い浮かべながら封筒を学校用の鞄の中へそっとしまった。
「先輩、何処にいるんだろ…」 昼休み、写真を入れた封筒を手に大学の建物へとやってきたハボックはキョロキョロとあたりを見回して呟く。目立つロイの事だからすぐ見つかるかと思ったが、流石に昼休み学生達で賑わう中目指す姿はなかなか見つからず、ハボックはロイがいそうな場所を早足で探して回った。 「早くしないと昼休み終わっちゃう……わッ?!」 学生達の中にロイの姿を探しながら呟いた時、突然背後から抱きつかれてハボックは悲鳴を上げる。びっくりして振り向けば目と鼻の先に女子大生の顔があって、ハボックは目を丸くした。 「キミ、前にマスタング君のところに来た子だよね!」 「は、はいッ、マスタング先輩何処にいるか知りませんか?」 ギュッと抱きついてくる女子大生にドギマギしながらハボックは尋ねる。 「マスタング君より私とおしゃべりしない?お昼おごるよ?」 「いいいいいですッ!お昼食べたからッ!しっ、失礼しますッ!」 ニコニコと笑う女子大生に掴まれた腕をハボックはなんとか振り解く。逃げ出すように駆け出せば、背後から女子大生の声がきこえた。 「マスタング君なら多分図書館の方のカフェテリアだよ!」 その声に驚いて振り向けば女子大生がニコッと笑ってウィンクする。「いつでも遊びにおいでねーっ」と手を振る女子大生にペコリと頭を下げてハボックはその場を後にした。 「図書館の方のカフェテリアかぁ」 メインのカフェテリアを覗き図書館も見てみたのだが、近くにカフェテリアがあるのは知らなかった。ハボックは昼休みが終わってしまう前にと足早に図書館へと向かう。図書館の入口から書架とは逆の方へ行けば、窓から陽射しの差し込む明るいカフェテリアがあった。 「マスタング先輩……?────いたっ!」 カフェテリアの中をグルリと見回したハボックは、奥の一角にロイの姿を見つける。パッと顔を輝かせて近づこうとしたハボックは、ヒューズと顔をつき合わせて話していたロイが仰け反るようにして爆笑する姿を見て目を丸くして足を止めた。 「ヒューズ、おまえ……ッ!何言って……っ」 「えーっ、なんでそんな笑うんだよっ、ロイくんってばひどいッ!」 ヒューズが情けなく髭面を歪めればロイが腹を抱えて笑う。そんなロイをエイエイと小突いたヒューズが顔を上げた拍子に、カフェテラスの入口で立ち止まったハボックと目があった。 「あ、ハボックじゃねぇか」 「えっ?ハボック?」 ヒューズの声に顔を上げたロイの顔がスッと表情を変え見慣れた涼しげな笑みを浮かべる。 「ハボック」 と、笑みを浮かべて呼びかけてくるロイを見た瞬間、ハボックはクルリと背を向けて走り出していた。 「えっ?おいっ、ハボックっ?」 なにも言わず駆けだしていってしまったハボックを、驚いたロイの声が追いかけてくる。だが、それに構わずハボックは図書館の入口を飛び出していった。飛び出した勢いのままハボックは大学の構内を駆けていく。驚く大学生の間を駆け抜けて、ハボックは幾つか角を曲がったところで漸くスピードを緩めてゆっくりと足を止めた。 「……先輩のあんな顔、初めて見た」 ハボックが知っているロイはいつでも涼しげな笑みを浮かべていた。いつだって大人っぽく微笑んで、ハボックの憧れであったのだが。 「あんな風に楽しそうに笑うんだ……」 ヒューズの話に爆笑するロイはいつもの大人っぽく澄ましたロイとはまるで雰囲気が違った。だが、ずっと生き生きして自分といる時よりずっとずっと楽しそうにハボックの目に映ったのだ。 「マスタング先輩……」 ハボックは手にした封筒の中からロイと一緒に撮った写真を引っ張り出す。自分の肩を抱いて笑みを浮かべるロイの顔を見てキュッと唇を噛んだ、その時。 「ハボック!」 「ッ!」 呼ぶ声と共に後ろからグイと腕を引かれてハボックは振り向く。そうすれば軽く息を弾ませたロイの顔が間近にあった。 「ハボック、どうしたんだ?私に会いに来たんじゃないのか?」 不思議そうに問いかけてくるロイの顔をハボックはじっと見つめる。そのロイの背後にやはりハボックを追いかけてきたらしいヒューズの姿を見つけて、ハボックはギュッと唇を引き結んで俯いた。 「ハボック?」 答えないハボックの顔をロイが眉を寄せて覗き込む。「どうした?」と頬に触れてくるロイの手をハボックはパンッと振り払った。 「ハボ────?!」 「先輩、オレといて楽しいっスか?」 「えっ?」 手を振り払われ唐突に尋ねられてロイは驚きに目を見開く。そんなロイの顔を睨みつけるように見上げてハボックは言った。 「さっきの先輩、すごく楽しそうに笑ってた。オレと一緒の時はあんな風に笑ったことないのに」 ハボックは言って手の中の写真をロイの胸に押しつける。 「オレといる時の先輩はいつだって澄ました顔して、あんな風に楽しそうに笑ったりしない。それって、オレといても楽しくないってことじゃないんスかッ?」 声を荒げて見上げてくる空色をロイは驚いて見つめた。咄嗟に言葉を返せずにいれば、ハボックが顔を歪めてロイの胸をドンと押した。 「オレと一緒にいても楽しくないなら無理に誘ってくれなくてもいいっスッ!」 「な……ッ、おいっ、ハボック!」 言ってクルリと背を向けたハボックの手から写真が落ちる。走りだそうとするハボックの腕をロイが慌てて掴んだ。 「なに言ってるんだッ!楽しくないわけがないだろうッ!楽しいから、一緒にいたいから誘うんだッ!」 「でも先輩、あんな風に楽しそうに笑わないっしょッ!」 「ッ、それは……」 張り上げた声にそれ以上に激しい口調で返されてロイは思わず口ごもる。睨んでくる空色にうっすらと涙が浮かぶのを見て、ロイは何とか言葉を紡ごうとして何度も口を開いては閉じた。 「もういいっス……ッ」 それでもなにも言わないロイにハボックは震える声で言うとロイの手を振り払おうとする。そうさせまいと腕を掴む手に力を込めるロイと振り解こうとするハボックと、無言のままやりあう二人の足下から写真を拾い上げたヒューズがやれやれとため息をついた。 「ロイ、本当のこと、言ってやれよ」 「えッ?!」 ため息混じりにそう言われて、ロイがギクリとする。いや、そのっ、と珍しく歯切れの悪いロイの様子にハボックがくしゃくしゃと顔をしかめた。 「やっぱオレの事、本当は好きでもなんでもないんだッ」 「違……ッ!ハボックッ!」 声を張り上げたハボックの瞳からポロリと涙が零れるのを見てロイが慌ててハボックを引き寄せようとする。抱き締められまいともがくハボックにヒューズが手にした写真をひらひらと振りながら言った。 「違う違う、逆だって。お前さんの目にどう映ってようと結局のところロイ君も単なる恋する男ってことよ」 「ヒューズ!」 ヒューズの言葉にロイが慌てたように声を張り上げる。目配せしてくるロイに構わずヒューズが言った。 「ロイ君はねぇ、お前さんにクールでカッコいい男と思われたいわけ。大口あけてバカ笑いしたり友達とワイ談したり、女の子の脚見て鼻の下伸ばしたりしてるなんて知られたくないわけよ」 「……え?」 「ヒューズッッ!!」 ヒューズの言葉にハボックが目を丸くし、ロイが顔を赤くする。 「貴様ッ、それ以上言ったら燃やすぞッ」 「恋の焔で?」 「ッッ!!」 脅し文句にニヤリと笑って返されて、ロイが言葉を返せずにいる間にヒューズは空色の瞳をまん丸にしているハボックを見て言った。 「お前の事が好きじゃないどころか好きで好きで堪んなくて、ちょっとでもカッコいいって思われたくて必死な訳。だからその辺判ってやってくれよ」 な?とウィンクするヒューズをハボックはじっと見つめる。それから見たこともないほど慌てふためくロイに視線を移した。 「先輩」 「な、なんだ?」」 「オレ、先輩のカッコいいとこ、大好きっス。でも」 「でも……?」 言って言葉を区切るハボックをロイが心配そうに見つめる。そんなロイの顔を見て、ハボックはそっと視線を落として言った。 「でも、カッコいい先輩ばかりじゃなくて、大口開けて笑う先輩もみたいっス。オレの前でもあんな風に笑って欲しい……ダメ?」 「ハボック」 上目遣いにロイを見てハボックが小さく問う。強請る視線に煽られてロイはハボックを乱暴に引き寄せ噛みつくように口づけた。 「んっ?!ンンーッ!」 突然の口づけにハボックが目を見開き逃れようともがく。だが、逃れようともがけばもがくほどきつく抱き締められ深く口づけられて、ハボックの体から次第に力が抜けていった。 「ふぁ……せんぱぁい……」 激しく長い口づけから漸く解放されて、ハボックはくったりとロイの腕に身を預ける。とろんと蕩けた表情で見上げてくる空色の瞳に堪らずもう一度口づけようとするロイの肩をヒューズがポンポンと叩いた。 「あー、ロイ君、その辺にしておこうね」 「────あ」 ヒューズの声にロイが顔を赤らめて抱き締める腕を緩める。照れたように視線をさまよわせるロイにやれやれと肩を竦めてヒューズが言った。 「判ったろ?ロイの気持ち」 「あ……はい」 言われてハボックがコクンと頷く。チラリとロイを見遣るハボックと恥ずかしげに見返すロイを見てヒューズが笑いながら言った。 「よかったな、ロイ。無理にカッコつけなくていいってさ。大口開けて笑おうがワイ談しようがガッカリしないって。な、ハボック」 「うん。あ、でも女の子の脚見て鼻の下伸ばすのはヤだけど」 「だったらお前の脚見せとけば大丈夫!」 「ヒューズ!黙って聞いてればお前さっきからなに勝手なこと言ってるんだッ!」 「カッコつけてるだのワイ談だのなんだのと!」と、目を吊り上げるロイと「まあまあ」とそれをいなすヒューズの様子を見てハボックがクスリと笑う。制服のボトムを見下ろして言った。 「オレの脚でよければ幾らでも見せるっスけど……今度会う時ハーフパンツはいてく?ちょっと寒いけど」 「それはダメだッッ!!」 「へ?なんで?やっぱりオレの脚より女の子の脚の方がいいってこと……?」 「いや、そう言う事じゃなくてだなッ」 折角の提案を即座に否定されてハボックがしょんぼりする。そんな二人にヒューズがプッと吹き出した。 「恋する男ってのは厄介だなぁ、ロイ」 「ヒューズ!」 「え?なに?ヒューズ先輩、オレ、どうすればいいんスか?」 ゲラゲラと笑うヒューズにロイが目を吊り上げハボックが目を丸くする。そんな二人の様子にヒューズの笑い声が更に大きくなって響きわたった。
いつも遊びに来てくださってありがとうございます。すっかりサボってますのに拍手、本当にありがとうございますっ!!
松の内の間に日記書こうと思ってたのに、もう20日だよ(苦)今更ですが今年もどうぞよろしくお願いいたしますーっ! でもって、漸くアップしました秋祭りの続きの姫ハボです。あはははは、いつの話だよ、秋祭り(殴)えっと、ヒューズの前では自分の前とは全然違う表情を見せるロイに自分の前でもそう言う顔を見せて欲しいっていうコメントをだいぶ前に頂きましてね。使わせて頂きました〜!きっとコメントくださった方ももうお忘れじゃないかと思われますが、ありがとうございますーっ! 最近脳内で妄想するばかりでちっとも文章になってません。昨日もはぼっくで雪ネタとか書きたかったんですがね。ホント脳内の妄想を文章にする機械が欲しいです。
そういや去年の今頃はバレンタインネタを募集したりしてたなぁとふと思ったり。書きたい気持ちはあれど更新さえまともにできてないこの体たらくで募集しても書けるか判らんしなぁ……でも折角の季節ネタ、書きたい……。 そんなわけで「書けたら書いてみれば〜」くらいな感じでネタ囁いて頂けたらって(おい)もし、そんな優しい方がいらっしゃいましたら一週間くらいこっそり募集しますんで、よろしくお願いいたしますっ!
以下、拍手お返事です。
なおさま
暗獣、ヒューズサンタにこれじゃない感の顔をするはぼっく!!絶対そうですよねっ!!いやもう、頭にはっきり浮かんでオオウケしちゃいました。クリスマスはトナカイさんだったんですね。はぼっくが通りかかったら目をキラキラさせてその場を動かなくなっちゃいそうです(笑)キラキラ満載の福袋もハボック、抱えて離さそうですよね。すっかり遅くなってしまいましたが、今年もどうぞどうぞよろしくお願いいたしますvv
市川さま
お正月からお仕事だったのですね、お疲れさまです!雪景色を眺めるロイを後ろから暖めるハボック〜v市川さまのコメント見ると改めてハボロイもいいなーと思いますvゆるゆる更新に暖かいお言葉ありがとうございますっ!こんなサイトですが、今年もどうぞよろしくお願いいたしますvv
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