「今日は冷えるっスね」 カタンという音と共に聞こえた声に振り向けば、彼が窓に寄りかかるようにして外を見ている。締め切った上に暖炉に火をくべているにもかかわらず底冷えのする部屋の空気に、私は思い切り顔をしかめた。 「冷えるなんてもんじゃないぞ。凍り付きそうだ」 私はそう言ってぶるりと体を震わせる。そんな私を見て、彼はクスリと笑った。 「そんな大袈裟な」 「大袈裟なもんか」 実際今日は真冬に戻ったような寒さだ。漸く暖かくなって少しは動こうかと思えるようになったのに。そう私がボヤくのを聞いて、彼がクスクスと笑った。 「どこまで寒がりなんスか。もしかしてアンタ変温動物?」 そう言ってニヤリと笑う彼を私は睨む。すると彼は笑いながら「ごめんなさい」と言って視線を外に戻してしまった。それが何だか残念で、何が彼の気を引いているのかが気になって、私は立ち上がると彼の側にいく。並んで窓の外を見れば、満開に咲き誇る庭の桜が見えた。 「花冷えっていうのは上手い言葉っスね」 「そうか?」 「冬の寒い時とは違うっていうか……、冬、寒い時は空気がキンと張り詰めた感じっスけど、花冷えはもっと柔らかい感じ?」 「どっちにしろ寒い事には変わらんだろう?」 彼の言葉にそう答えれば傍らで苦笑する気配がする。風情が判らない奴だとでも言うかと思ったが、彼は外を見ながら言った。 「花見に行きませんか?川沿いの桜、満開でしたよ」 「この寒いのに?」 「陽射しはあるっスよ」 そうは言ってもあまりに弱々しい光だ。渋る私を見つめて彼は言った。 「くっついてりゃ寒くないっスよ。なんなら犬になりましょうか?」 彼はそう言って私の腕に己のそれを絡めてくる。間近に迫る悪戯っぽく笑う空色にドキリとしたのを押し隠して私は答えた。 「いや、そのままがいい」 そんな風に答えれば彼が意外そうに目を見張る。 「犬になったら飲めんだろう?折角花見するのに」 「ああ、そうっスね」 一瞬目を見開いて、彼はふわりと笑った。 「選んでいいっスか?」 酒のボトルが並んだ戸棚を指差して言う彼に私は頷く。 花冷えを口実に身を寄せようと考える邪な心を押し隠して、私は彼と連れ立って冷たくも柔らかい空気の中に出かけていった。
いつも遊びにきて下さってありがとうございます。拍手、とっても励みになってますv
今日は東京、寒かったですーっ!日中は10度なかった、朝出たら吐く息が白かったですよ。ここんとこ暖かかったからこたえる(苦)まあ、おかげで桜は少しもつかもしれませんが(笑)
以下、拍手お返事です。
なおさま
こちらこそいつも楽しいネタをありがとうございます。これからもヨロシクお願いします(笑)そうそう、己の欲に忠実な人ばかり。愛されてる実感は感じられる…のか?(笑)わーい、長編読み返して頂けてるなんて嬉しいですvvでもボロが出そうな気も(爆)その辺は目を瞑って下さいね(苦笑)ヒューズ、手術に行く途中、ばったりハボと出会ったり。「どこ行くんスか?中佐」「いや、ちょっとそこまで…」で、ハボがついて来ちゃって結局行けないという悲劇(爆)
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