「明日からもう三月だっていうのに」 窓の向こう、綿のような雪が空から次々と降ってくるのを見て、ロイはため息混じりに呟く。見ていても寒いばかりだし少しでも冷気を防ごうと鎧戸を閉めようとしたロイは、ハボックが庭に出ているのを見つけて目を見開いた。 「ハボック?なにをしてるんだ?」 この雪の中、なにをしているんだろう。上から見下ろしたのではただ白いばかりでよく判らない。ロイは急いで窓を閉めると階段を下りコートを羽織って庭へと出る。家の角を曲がって二階から見下ろした辺りに足を踏み入れたロイは、飛び込んできた風景に目を丸くした。 「……すごいな」 一体いつから作っていたのだろう、庭の桃の木の前から始まってたくさんの小さな雪だるまが一列に並んでいる。まるで木の根本から出てきた雪だるまが行進しながら進んでいるようで、ハボックはその先頭に新しく作った雪だるまを置いているところだった。 「ずいぶん沢山作ったな、ハボック」 歩み寄ってそう声をかけると、しゃがみ込んで次の団子を作っていたハボックが顔を上げる。ころころと雪の上を転がせば小さな雪の団子はすぐに大きな雪玉になった。ロイは手で掬った雪を丸めて小さな雪玉を作るとハボックが作った雪玉の上にのせる。そうすれば雪玉はたちまち可愛らしい雪だるまになった。 「ろーい」 にっこりと笑ってハボックはできた雪だるまを先頭に並べる。ハボックが作った大きな雪玉の上にロイが小さな雪玉をのせればそれは瞬く間に雪だるまの命を吹き込まれて、次々と庭の中に並んだ。 「ハボック、お前の方が雪だるまになりそうだぞ」 夢中で雪だるまを作っているハボックの金色の頭に降り積もった雪を手ではたいてロイが言う。見上げれば雪は灰色の空から次から次へと舞い落ちて、一向にやむ気配がなかった。 「そろそろ中に戻ろう。いい加減寒くなってきた」 ハボックと一緒に雪だるまの行列を延ばしてきたロイは、体に染み入る寒さに流石に音を上げる。行こうと手を差し出せば、最後の一個を先頭に置いたハボックがその手を握った。 「冷えきってるじゃないか」 小さな手は長いこと雪玉を作っていたせいで氷のようになっている。温もりを分け与えるように大きな手で包み込めば、ハボックがロイを見上げてにっこりと笑った。 家の中に戻ってロイが雪のついたコートをはたいてかけている間に、ハボックは暖炉の前に座り込む。暖炉に背を向け雪で濡れた尻尾を乾かす姿にロイはクスリと笑った。 「気をつけないと焦げるぞ」 暖かさにホウと脱力した様子で尻尾を炙るハボックにロイが言えば、ハボックが慌てて後ろを振り向く。焦がさないようパタパタと尻尾を揺らすハボックを、暖炉の前のラグに座り込んだロイが膝の上に抱き上げた。 「ろーい」 「ふふ、手がジンジンするな」 冷えきった手を暖炉に翳せばジンジンとむず痒いような痛みが湧いてくる。ハボックと見つめる焔は、かつて己が生み出したものとは全く違って、とても暖かく優しくロイの目に映った。 「ろーい」 膝の上でもぞもぞと身じろいでハボックがロイの顔を覗き込む。その空色に揺らめく焔を見て、ロイはにっこりと笑った。 「明日は晴れるかな、ハボック」 「ろーい」 「晴れたら今度は大きな雪だるまを作ろうな」 「ろーいっ」 並んだ小さな雪だるまたちが最後の冬を連れ去って、明るい春を連れてくるのだろう。 パチンと爆ぜる焔を見つめながら、ロイとハボックは過ぎゆく冬の一日を過ごしたのだった。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気の素です、ありがとうございますv
東京、朝から雪ですよー。明日はもう三月だっていうのに。昼には雨に変わるらしいのでそんなに積もる事はないでしょうが、如何せん寒い!買い物行こうと思ってたけど今日はもそもそ家で過ごしますー。お勤めの方、学生さんごめんなさい(苦笑) そんなわけで冬の「暗獣」がもう一個増えました。相変わらずまったりで変わり映えせずすみません(汗)春になったら花見三昧かなぁ。それが済んだらそろそろゴールも見えてくるかと。
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