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2012年02月の日記

2012年02月29日(水)
暗獣46
2012年02月27日(月)
暗獣45
2012年02月23日(木)
合成獣14
2012年02月21日(火)
蒼焔7
2012年02月18日(土)
蒼空
2012年02月14日(火)
チョコっとバレンタイン

暗獣46
「明日からもう三月だっていうのに」
 窓の向こう、綿のような雪が空から次々と降ってくるのを見て、ロイはため息混じりに呟く。見ていても寒いばかりだし少しでも冷気を防ごうと鎧戸を閉めようとしたロイは、ハボックが庭に出ているのを見つけて目を見開いた。
「ハボック?なにをしてるんだ?」
 この雪の中、なにをしているんだろう。上から見下ろしたのではただ白いばかりでよく判らない。ロイは急いで窓を閉めると階段を下りコートを羽織って庭へと出る。家の角を曲がって二階から見下ろした辺りに足を踏み入れたロイは、飛び込んできた風景に目を丸くした。
「……すごいな」
 一体いつから作っていたのだろう、庭の桃の木の前から始まってたくさんの小さな雪だるまが一列に並んでいる。まるで木の根本から出てきた雪だるまが行進しながら進んでいるようで、ハボックはその先頭に新しく作った雪だるまを置いているところだった。
「ずいぶん沢山作ったな、ハボック」
 歩み寄ってそう声をかけると、しゃがみ込んで次の団子を作っていたハボックが顔を上げる。ころころと雪の上を転がせば小さな雪の団子はすぐに大きな雪玉になった。ロイは手で掬った雪を丸めて小さな雪玉を作るとハボックが作った雪玉の上にのせる。そうすれば雪玉はたちまち可愛らしい雪だるまになった。
「ろーい」
 にっこりと笑ってハボックはできた雪だるまを先頭に並べる。ハボックが作った大きな雪玉の上にロイが小さな雪玉をのせればそれは瞬く間に雪だるまの命を吹き込まれて、次々と庭の中に並んだ。
「ハボック、お前の方が雪だるまになりそうだぞ」
 夢中で雪だるまを作っているハボックの金色の頭に降り積もった雪を手ではたいてロイが言う。見上げれば雪は灰色の空から次から次へと舞い落ちて、一向にやむ気配がなかった。
「そろそろ中に戻ろう。いい加減寒くなってきた」
 ハボックと一緒に雪だるまの行列を延ばしてきたロイは、体に染み入る寒さに流石に音を上げる。行こうと手を差し出せば、最後の一個を先頭に置いたハボックがその手を握った。
「冷えきってるじゃないか」
 小さな手は長いこと雪玉を作っていたせいで氷のようになっている。温もりを分け与えるように大きな手で包み込めば、ハボックがロイを見上げてにっこりと笑った。
 家の中に戻ってロイが雪のついたコートをはたいてかけている間に、ハボックは暖炉の前に座り込む。暖炉に背を向け雪で濡れた尻尾を乾かす姿にロイはクスリと笑った。
「気をつけないと焦げるぞ」
 暖かさにホウと脱力した様子で尻尾を炙るハボックにロイが言えば、ハボックが慌てて後ろを振り向く。焦がさないようパタパタと尻尾を揺らすハボックを、暖炉の前のラグに座り込んだロイが膝の上に抱き上げた。
「ろーい」
「ふふ、手がジンジンするな」
 冷えきった手を暖炉に翳せばジンジンとむず痒いような痛みが湧いてくる。ハボックと見つめる焔は、かつて己が生み出したものとは全く違って、とても暖かく優しくロイの目に映った。
「ろーい」
 膝の上でもぞもぞと身じろいでハボックがロイの顔を覗き込む。その空色に揺らめく焔を見て、ロイはにっこりと笑った。
「明日は晴れるかな、ハボック」
「ろーい」
「晴れたら今度は大きな雪だるまを作ろうな」
「ろーいっ」
 並んだ小さな雪だるまたちが最後の冬を連れ去って、明るい春を連れてくるのだろう。
 パチンと爆ぜる焔を見つめながら、ロイとハボックは過ぎゆく冬の一日を過ごしたのだった。


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東京、朝から雪ですよー。明日はもう三月だっていうのに。昼には雨に変わるらしいのでそんなに積もる事はないでしょうが、如何せん寒い!買い物行こうと思ってたけど今日はもそもそ家で過ごしますー。お勤めの方、学生さんごめんなさい(苦笑)
そんなわけで冬の「暗獣」がもう一個増えました。相変わらずまったりで変わり映えせずすみません(汗)春になったら花見三昧かなぁ。それが済んだらそろそろゴールも見えてくるかと。





2012年02月29日(水)   No.161 (カプなし)

暗獣45
「新聞……またあっちか」
 朝刊を取りに玄関の扉を細く開けたロイは、玄関ポーチに新聞が投げ込まれていないのに気づいて眉を顰める。最近配達員が変わったせいか、前はポーチに投げ込まれていた新聞がたびたび門扉に挟まれているようになった。
「まったく、一度言っておかないと」
 ロイはそう呟いて扉をグッと押す。大きく開いた扉から途端に冷たい空気が大量に入り込んでロイは「うっ」と首を竦めた。その時、クイと袖を引かれて下を向けば見上げてくるハボックと目が合う。ロイは丁度よいとばかりににっこりと笑ってハボックに言った。
「すまんが、ハボック。新聞を取ってきてくれないか?」
 さして距離はないとはいえ、防寒着も着ていない部屋着で新聞を取りに出るのは寒い。ニコニコと過剰なまでに笑みを浮かべて見つめるロイをハボックはじっと見ていたと思うと、玄関の外へと出た。タタタと走って黒い門扉のところまで行くと挟まれている新聞をとって戻ってくる。ホッとしてロイが感謝の言葉と共に迎えようとすれば、ハボックは気になることがあったのか、横に逸れて門のすぐ脇に植わっている大木の方へ行ってしまった。
「おい、ハボック!」
 せめて新聞を渡してからにして欲しいと呼んでみたがハボックは戻ってこない。薄くとはいえ扉を開けていれば開けているだけ冷たい空気が入り込んで、ロイはブルリと体を震わせた。閉めてしまえばいいのかもしれないが、流石にそれは気が引けてロイは何度もハボックを呼ぶ。だが、ハボックは木の下に佇んでじっと地面を見つめたきり動こうとしなかった。
「なにがあるんだ?」
 特別変わったものがあるとも思えずロイは眉を寄せる。いい加減待ちくたびれてロイは仕方なしに扉を押し開け外に出るとハボックの側に歩み寄った。
「おい、ハボック。どうして戻ってこないんだ」
 ちょっぴり責める口調で言うロイをハボックが見上げる。その視線が答えるように地面に向かうのを追いかけたロイは、黒い土にびっしりと霜柱が立っている事に気づいた。
「ああ、霜柱か」
 今日は格別冷え込んでいるからだろう。霜柱は見事なまでに立ち上がって土を持ち上げている。ロイがルームシューズを履いた足でグッと地面を踏めば、ザクッと音を立てて霜柱が潰れた。その音を聞いてハボックがパッと顔を輝かせる。ロイを真似て小さな足で踏んでみたが、軽くて小さなハボックの足では思ったような音は出なかった。
「軽いからな、お前は」
 ロイは言ってもう一度霜柱を踏む。そうすればハボックももう一度踏んだがやはり結果は変わらなかった。
「ろーいー」
 ムゥとハボックが不満げに頬を膨らませる。何度もゲシゲシと地面を踏んで泣きそうな顔で見上げられれば、流石にロイも可哀想になってきた。
「うーん、私が踏んだんじゃ駄目なんだよな」
 あくまで自分で音を立てたいのだ。首を捻って考えたロイは浮かんだ考えに笑みを浮かべてハボックの脇に手を差し込んだ。
「ろーい?」
 グイと持ち上げられてハボックは不思議そうにロイを見る。ロイは目の高さまで持ち上げたハボックを支える手をパッと離した。
「ッッ?!」
 突然支えをなくしてハボックの体が真下にストンと落ちる。びっくり眼で落ちたハボックの足下の霜柱が、ザクッと良い音と共に潰れた。
「ろーい!」
 目をまん丸にして自分の足下を見たハボックが、パアッと顔を輝かせてロイを見る。ハボックは差し出した両腕を急かすように振った。
「ろーいーっ」
「判った判った」
 思ったよりずっと上手くいって、ロイは内心「よしっ」と拳を握り締めながらハボックを抱き上げる。持ち上げてストンと落とせばザクッと霜柱が鳴って、ハボックは大喜びで笑った。ザクザクザクとそこいら中の霜柱を粗方潰してハボックが満足げにため息をつく。そろそろくたびれてきたロイがもういいだろうとハボックを中へと促した。だが。
「拙いぞ、ハボック。ルームシューズのままだった」
 そもそも外に出るつもりではなかったから靴に履き変えていなかった。ふと気づけばなんとなく湿って冷たくなったルームシューズはすっかりと泥塗れで、とても中に入れる状態ではなかった。
「仕方ない」
 普段は家の中では直接床のラグに座り込んだりすることも考えて、土足でなしにルームシューズを履いているのだが冷たい床を裸足で歩く気にはなれない。ハボックのルームシューズを脱がせて抱き上げると、ロイは自分は靴に履き変えて風呂場に向かった。足を洗って予備のシューズに履き変え泥だらけのシューズを洗う。
「やれやれ、新聞を取るだけのつもりがとんでもないことになった」
 これなら寒いなどと言っていないで自分で取りに出た方が余程手間にならなかった。それでも。
「ろーいー」
 洗ったシューズを持ってリビングに行けば先に戻っていたハボックが飛びついてくる。ロイの手に掴まって飛び跳ねては霜柱を踏む真似をするのを見れば、ロイの顔にも笑顔が浮かんだ。
「まあ、いいか」
 霜柱を踏んだのなんて一体いつ以来だったか。思いがけず童心に戻って楽しかったのもハボックが霜柱を見つけてくれたからに他ならない。
 その日は一日暖炉の前に、二人分のルームシューズが仲良く並んで湯気を上げていたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、更新の励みです、嬉しいです〜vv

「暗獣」です。冬ネタ、これでおしまいかなぁ。もっと書きたいものがあったと思うのですが、うっかりしてたら2月もそろそろ終わりです。もう今年も二ヶ月経っちゃった、早いな(汗)
2012年02月27日(月)   No.160 (カプなし)

合成獣14
ロイハボ前提 ジャクハボ(CP:R15)

「食事だ、ジャン」
 食器を載せたトレイを手にジャクは寝室の扉を開ける。そうすればつけられた首輪から伸びる鎖でベッドに繋がれたハボックがジャクを睨みつけた。
「ここから出して、ジャク」
 ベッドサイドのテーブルにトレイを置く兄の横顔を睨んでハボックが言う。ジャクは椅子を引いてくると両手両足をそれぞれ手錠で拘束されている弟の側に腰を下ろした。
「ほら、口を開けろ」
 食事の時ですら手錠を外してはやらず、ジャクは皿を手に切り分けた肉をフォークに刺してハボックの口元に差し出す。ハボックは差し出された肉に見向きもせず怒鳴った。
「これ外せよッ!!」
「外せばここから逃げようとするだろう?」
「ジャクがオレを自由にさせてくれるなら逃げない。ジャクが大佐を守るのに手を貸さないっていうならオレ一人でやるから。だから────」
「駄目だ」
 精一杯の譲歩を見せるハボックの提案をジャクは言下に退ける。ピシリと拒絶されてハボックは目を大きく見開いてワナワナと震えた。
「なんでッ?なんでオレの邪魔すんだよッ!!ジャクになんの権利があるのさッ!!」
 大声で喚く弟をジャクは昏い瞳で見つめる。ハボックは己を拘束する手錠や鎖を引きちぎろうと、闇雲に暴れた。
「チキショウッ!!大佐ッ、大佐ッ、たいさァッッ!!」
 どうやっても外れない拘束に、ハボックがベッドの上で泣き叫ぶ。傷ついた獣の遠吠えに似た切ない声に耐えきれず、ジャクは皿を放り出すようにテーブルに置くと寝室を飛び出した。

 夜になってそっと寝室の扉を開けたジャクの目に、ベッドの上に横たわるハボックの姿が映る。泣き叫び続けて疲れて眠ってしまったのだろう、辛そうに眉を寄せて眠るハボックの頬に残る涙の跡をジャクは指先でそっと拭った。ハボックの首に視線をやれば無理矢理外そうともがいたせいで皮膚がすれて血が滲んでいる。同じように手首にも足首にも血が滲んでいるのを見て、ジャクは眉を顰めた。
「馬鹿が」
 ジャクは低く呟いて拘束を解くと血の滲む肌に顔を寄せる。舌を差しだしペロペロと擦れた皮膚を舐めた。何度も何度も舌を這わせれば、ハボックがむずかるような声を漏らしてゆっくりと目を開けた。
「ジャク」
 傷を癒そうとするように肌に舌を這わせる兄をハボックはじっと見つめる。視線を感じて顔を上げたジャクは、横たわるハボックにゆっくりと圧し掛かった。見つめてくる空色を見返しながらハボックのボトムに手をかける。下着ごと引きずり下ろすと奥まった蕾に取り出した己を押し当てた。そのままグイと押し込めばハボックの顔が歪んだ。
「ジャ、ク……っ」
 ゆるゆると金髪を打ち振る弟の顔をじっと見つめてジャクは躯を進める。苦痛に涙を滲ませるハボックの瞳をペロリと舐めた舌を、ジャクは傷ついた首筋へと移した。そうしてペロペロと舌を這わせながらゆっくりと律動を始める。
 窓から射し込む月明かりの下、同じ姿形を持った二頭の獣が心の隙間を埋めようとするかのように、まぐわい続けていたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですv

日記連載再開第二弾は「合成獣」です。2010年5月以来ですね(苦笑)それにしてもどうしてこう日記に連載してるのって薄暗い話が多いんだろう。「恋猫」やら「パワー!」やらを書けばいいのか。読み返すのが少しでも少ないのは「パワー!」だな。って事で次は多分「パワー!」です(笑)あ、でもその前に「暗獣」も書かなきゃだなー、冬が終わってしまう(苦笑)

以下、拍手お返事です。

はたかぜさま

わーん、そう言って頂けると再開する気力が湧きます!いや、書いてる本人が内容忘れてますから、筋を覚えて頂いただけでも大感謝です。毎度手間のかかるサイトでスミマセン(苦笑)うお、他にも再開をお待ち頂いてるのってなんでしょう。あまりに放置が多すぎて判らな……(殴)3月のトップはちょっぴり春らしく花にしたいと思ってますvこのまま春になるのかしらと思えばまた冬に逆戻り。お体大切にお過ごし下さいね。
2012年02月23日(木)   No.159 (ロイハボ)

蒼焔7
ロイハボ風味

 空を吹きわたる風の音に目を覚ましたハボックはゆっくりとベッドから足を下ろす。バルコニーに続く窓を開くとその先に広がる昏い森を眺めた。
 いつもならこの呪われた屋敷から逃げ出すように森が抱える湖に足を運び、そこでロイの事を待って過ごす筈だった。だが、夕べ湖に飛び込んだせいでずぶ濡れになったロイの冷えきった体を暖めてやるためとはいえ、ロイをこの屋敷に連れてきてしまったことを、ハボックは今では激しく後悔していた。そしてその後悔の念がハボックの足が湖に向かうのを引き留める。
「もっと早くこうしなければいけなかったんだ」
 輝く黒曜石の瞳、聡明な顔立ち、なにより彼と過ごす優しい時間が愛おしくて湖に行くことをやめられなかった。だが、所詮彼は過ぎゆく季節と共に成長する温かい肉体と熱く流れる血を持った人間なのだ。淀んだ闇の中でしか生きていけない己とは真逆の光の中を歩む存在。どんなに恋い焦がれたところで一緒に歩むことなど望むべくもない。
「さようなら、ロイ」
 ハボックはそう呟くと静かに窓を閉めた。

「今日も来ないつもりか」
 たった一度ハボックの家を訪れてから、ロイはハボックの姿を求めて毎日のように湖に通っていたが、その後一度も彼に会うことはかなわなかった。湖の周りを歩いてハボックの家に続く道を探してみたものの、ロイの住む街に続く道以外道は見当たらず、ロイは為す術もなく湖のほとりに佇むしかなかった。
「赦さない、こんなの絶対に」
 そう呻くように言ってみても何か変わる訳でもない。いっそもう一度湖に飛び込んだらハボックが来てくれるのではないかと、ロイは思い詰めたように湖を睨みつけた。

 そうしてゆっくりと季節は過ぎハボックに会うこともないまま時間だけが過ぎていく。冬になって時折街を薄く化粧する雪が森の中では厚く積もり、ロイが湖に近づくことを拒んでいるようだった。
「ただいま」
 学校から戻って、ロイは機械的にそう口にする。そうすれば(たまたま)玄関先にいた叔母が驚いたようにロイを見た。
「あら、早かったのね」
「病欠が多くて学校が休みになった」
 この冬、街には流感が蔓延していた。重症化して死亡する患者も出始め、多くの学校が少しでも病気の広がりを押さえようと休校して生徒を自宅待機させるようになっており、ロイが通う学校も例外ではなかった。
「アンタはどうなの?」
 自室へ向かう階段を上がりかけたロイの耳に叔母の声が聞こえる。それはロイの体調を気遣うものではなく、むしろ悪くなることを期待しているような響きを帯びていた。
「別にどうも」
 ロイは肩越しに振り向いてそう答える。冷たい黒曜石に見つめられて叔母は決まり悪そうに目を逸らすとそそくさとその場を離れていった。
「フン」
 そんな叔母を軽蔑するようにロイは鼻を鳴らして階段を上がる。自室に入りカーテンを開けると街の向こうに広がる森を見つめた。
「探しに行ってみようか」
 雪が降るようになってからは思うように行くことが出来なくなっていたが、今から行けば暗くなる前に何とか行って帰ってくることが出来るかもしれない。そう考えたロイは脱いだばかりのコートの袖に手を通し、自室を飛び出した。そのまま行く先も告げず家を出て森へと向かう。森の入口にたどり着いたロイは、思った以上に雪が道を閉ざしているのを見て唇をギュッと噛んだ。
「行こう」
 ハボックに会えなくなって胸の内には想いばかりがどんどんと降り積もっている。それはこんな雪などとは比べものもないほど深くて、このまま時間が過ぎていけばロイの全てを飲み込んでしまいそうだった。
「ハボック」
 絶対見つけだしてこの酷い仕打ちの責任をとらせてやるのだ。ロイはそう決めると森の中へと踏み込んでいった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

もう忘れ去られていそうですが「蒼焔」です。前回の更新は2010年10月でした(苦笑)いや、先日50万打リクを募った時に「菫青石の恋2の続き」というコメントを頂いたので、前使ってたポメラからデータを引っ張ってくるついでに放置状態の日記連載も拾ってきたんですよ。どれも読み返さないとさっぱり内容覚えてない状態で一番読み返すのが短くて済んだのが「蒼焔」だったのでこれから手をつけてみたという(苦笑)「菫青石の恋2」も最初から読み返すという羞恥プレイを終えたので、とりあえず今回これも2010年10月以来の更新してみました。書いてる本人が内容覚えてないんだからきっと誰も覚えてないんじゃと思いつつ、よろしければ読んでやって下さい。一応「菫青石の恋2」は不定期更新で余裕がある時にボチボチ書いていくつもりです。でも間開けるとまた忘れるのであんまり開けずに書きたいと思いつつどうなる事やら。他の日記連載も読み返したら順次再開したいなーと思ってます。でも、ロイハボばっかりなんだよなぁ。どうしましょう(苦笑)
2012年02月21日(火)   No.158 (ロイハボ)

蒼空
 ふと気がつけば轟音や悲鳴が響き渡っていた戦場は、シンと不気味に静まり返っている。動く者がいなくなった焼け野原を、乾ききった目を瞬かせてロイがゆっくりと見回した時、悲鳴のような鳥の声が聞こえた。その声に引かれるようにロイは空へと目を向ける。見上げた空には歪な夕日がロイを飲み込もうとするように大きく口を開き、空を、大地を、そしてロイ自身をも真っ赤に染め上げていた。幾万の小さな人間たちが流した血そのもののように、歪な夕日は全てを朱に染める。真っ赤に染まる両の手を握り締めたロイは、その日以来空を見上げるのをやめた。
 そうして数年が経ち。
「大佐ぁ、またこんなところで寝て。風邪ひくっスよ?」
 頭上から降ってくる声にロイはゆっくりと目を開ける。そうすれば真っ青な空を背負ったハボックが、空を映した瞳でロイを見下ろしていた。そのあまりに澄んだ色にロイは言葉をなくす。見開く黒曜石に一瞬首を傾げたハボックは、にっこりと笑って手を差し出した。
「ほら、行きますよ。中尉が角出して待ってるっスから」
 そう言って差し出された手をロイはじっと見つめる。その手を握れば己の手を染める赤で汚してしまいそうで、ロイには手を出すことは出来なかった。だが。
「もう、なにやってるんスか」
 ロイの胸の内など知らないハボックは、大きな暖かい手でロイの手を掴んで引っ張る。立ち上がらせたロイの、冷えきった手を両手で包み込んでハアと息を吹きかけた。
「こんな冷たくなっちゃって。戻ったらホットココア淹れたげますね」
 そう言って笑うハボックの背後に広がる綺麗な青。記憶の中の空を飲み込んで静かにロイの内を焼く焔を消していく。
「空はこんなに青かったんだな」
 無意識にロイの唇から零れた言葉にハボックは一瞬目を見開き、それから空の色の目を細めた。
「そっスよ。今日も明日も明後日も、どんなに分厚く雲がかかってたって、その向こうは青い空っス」
 そう言ってハボックは、行きましょうとロイの手を引く。見つめれば優しく笑う空色が、もう二度とロイに空の色を忘れさせる事はなかった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですv

見上げた空がハボ色だなぁと思った、ただそれだけ。

以下、拍手お返事です。

香深さま

わあ、ありがとうございます!本当にいつもタイトルを決める時は悩みに悩むので、そう言って頂けると恥ずかしいけど滅茶苦茶嬉しいです///いやもう、ひとつでも気に入って読んで頂けましたら、それだけで幸せですからv今回のロイは珍しく素直なのでそこが愛らしく映るのかもしれません。バイオリンを奏でるハボックを上手く書けるかどうかが最大の難関ではあるのですが、少しでも魅力的に書けるよう頑張ります!
2012年02月18日(土)   No.157 (カプなし)

チョコっとバレンタイン
「バター、と……。しまった、もう少し早く冷蔵庫から出しとくんだった」
 キッチンからそう声が聞こえて、ダイニングテーブルで新聞を読んでいたロイは顔を上げる。ダイニングから続きになっているキッチンでボウルに入れたバターを木べらで練っているハボックをロイはじっと見つめた。
 ハボックはバターをクリーム状になるまでよく練ると、数度に分けて砂糖を加えながら泡立て器ですり混ぜる。それに卵黄を入れて混ぜ、予め湯煎で溶かしてあったチョコレートと牛乳、バニラオイルを加えた。
「明日用のケーキか?」
「バレンタインっスからね」
 ロイが尋ねればそう答えが返ってくる。手際よくザッハトルテを作っていくハボックを見ていたロイは、一つため息をついて言った。
「お前、最近手、抜いてないか?」
「は?」
 ロイがなにに対して手を抜いていると言ってきたのか判らず、ハボックはキョトンとする。“なんスか、突然”と尋ねればロイが答えた。
「バレンタインだ。いっつもみんなまとめてチョコレートケーキじゃないか」
「ああ」
 以前は司令室の人数分、トリュフやらアマンドショコラやら様々なチョコレートを作っていたハボックだったが、ある時持っていったザッハトルテが好評で、それ以来バレンタインというと大きなザッハトルテを作って司令部のみんなで分けて食べるのが恒例となっていた。
「私の分も一緒だし」
 どうやらロイとしては友人、同僚と大本命であるところの恋人の自分とが一緒の扱いであることが気に入らないらしい。そう察してハボックはケーキを作る手を止めるとロイの顔が見えるところまで出てきた。
「でも、大佐の分は切り分けてからデコレーションしてあげてるじゃないっスか」
 大きなホールケーキ、司令部最強のホークアイに渡す分ですら切り分けたケーキはチョコレートコーティングしただけのツルンとした状態で渡している。だが、ロイの分だけは切り分けた後、司令部の給湯室で生クリームやフルーツでデコレーションしてから出しているのだ。
「それっぽっちじゃ気持ちが感じられないな。大体去年はブレダ少尉の分にも生クリームが載ってたぞ」
 去年は分量を間違って生クリームが余ってしまった。捨てるなら俺のに載せろと騒ぐブレダの分のケーキに、ササッと生クリームでデコレーションしたのがロイの気に障ったようだ。
「私への気持ちも昔ほどではないと言うことじゃないのか?」
「あのね」
 しょうがない事で絡んでくるロイにハボックはムッとする。
「大佐がそんなこと言うならオレも言わせて貰いますけど、大佐だってオレのことどう思ってるんです?」
「なんだと?」
「いっつもバレンタインでチョコあげるのはオレの方。でも、別にオレからあげなきゃいけないってこと、ないっスよね?オレたち男同士だし、どっちがバレンタインにチョコあげようが構わないのにいっつもオレがチョコあげて大佐がホワイトデーにお返ししてくる。それって、オレがあげるから仕方なしに返してくるんじゃねぇの?オレがあげなきゃ大佐から渡そうなんて気、ないんじゃねぇんスか?」
 一気にまくし立てられてロイは目を丸くする。なにも言い返してこないロイにハボックは大きなため息をついて続けた。
「別にチョコをくれるかくれないかで気持ち量る気はねぇっスけど、それってあんまりじゃねぇ?」
 ハボックはそう言うとエプロンを外し、ダイニングテーブルに叩きつけるように置いて出ていってしまう。その背を目を丸くして見送ったロイは、ムッと顔を歪めると読んでいた新聞を丸めてキッチンに放り込み、靴音も荒くダイニングから出ていった。

「別にあんなに怒らなくたっていいじゃないか」
 ロイは書斎の椅子にドサリと腰を下ろしてそう呟く。ロイとしてはハボックが作った手作りケーキを自分以外の誰かが食べるのが面白くなかっただけなのだ。大好きなハボックが作った大好きなチョコレートケーキを独り占めしたかっただけなのだが、素直にそうと言えずに言った言葉が妙な誤解を与えてハボックを怒らせてしまった。
 ロイは椅子の背に頭を預けて寄りかかるとグルリと椅子を回転させる。クルリクルと回転させて書斎の天井を見上げながらロイはハボックが言った言葉を思い出した。
『いっつもオレがチョコあげて大佐がホワイトデーにお返ししてくる』
「そんなこと言ったって私にチョコレートケーキは焼けないんだから仕方ないじゃないか」
 ホワイトデーに返すクッキーだって気に入りの洋菓子店で買っているのだから、バレンタインのチョコだって買ったものを渡したところで問題はないはずだ。だが、ずっとハボックが手作りの品をバレンタインに渡してくれるのが続いていることで、バレンタインデーに渡す菓子のハードルが高くなっている印象は否めなかった。
『別にチョコをくれるかくれないかで気持ち量る気はねぇっスけど、それってあんまりじゃねぇ?』
「……どうしろというんだ」
 手作りケーキは作れないが既製品を渡すのもイヤだ。妙な見栄と意地が先に立って、ロイはムゥと唇を歪めて天井を睨みつけた。

「おおお、愛しのザッハトルテちゃんっ」
「ブレダ、いつもありがとな」
 目の前に切り分けたケーキを置かれて喜ぶブレダにハボックが言う。司令室の面々に手作りのケーキを配ったハボックは、執務室の扉に目をやった。
「大佐は……会議中、か」
 バレンタインデーの今日、ロイはほぼ一日会議会議で今も執務室にその姿はなかった。
「旨いなぁ、やっぱりお前のザッハトルテがアメストリス一だ、ハボック」
「ホント、少尉のザッハトルテは最高ですね」
「はは、サンキュ」
 配られたケーキを頬張りながら口々に旨いを連発するブレダたちに答えながら、ハボックはそっとため息をついた。

「あんな事、言うんじゃなかったなぁ」
 皆が帰った後の司令室で、ハボックは椅子にふんぞり返ってそう呟く。結局ロイはあの後一度も戻ってこず、そのままホークアイと一緒に会議を兼ねた会食へと出ていってしまっていた。
 ロイに気持ちが足りないというようなことを言われて、思わずムッとして言い返してしまった。本当の事を言えば、別にロイからチョコが欲しいわけではなく自分があげたいからせっせと作ってあげているに過ぎないのだ。
「大佐がつまんないこと言うから」
 こんなにロイが好きなのに気持ちを疑うようなことを言われてカッとなってしまった。ハアアと大きなため息をついて目を閉じたハボックがズルズルと椅子に沈み込んだ時、コトリと言う音と共に甘い香りが鼻を擽った。
「悪かったな、つまらないことを言って」
「えっ?大佐っ?」
 聞こえた声にガバリと身を起こして目を開ければトレイを手にしたロイが立っている。てっきり会食に出かけたとばかり思っていたロイがいることに、ハボックは目を丸くして言った。
「なんでここに?会食は?」
「早めに切り上げてきた」
「よく中尉が許してくれましたね」
「まあな」
 あのホークアイがよく帰してくれたものだと意外に思いながら言えばロイが言葉を濁して答える。どうやら何かしら取引があったらしいと察したハボックにロイが言った。
「飲め」
「えっ?────あ」
 言われて机の上を見ればホットチョコレートが入ったカップが置かれている。さっきからしていた甘い香りはこれだったのかと漸く気づいたハボックが言った。
「ええと、もしかして大佐が淹れてくれたんスか?」
「ザッハトルテは作れんからな」
 フンと顔を背けて言うロイをじっと見つめていたハボックは、そっとカップに手を伸ばす。いただきますと呟いてカップに口を付け一口飲んだ。
「甘い……」
 フワリと口に広がる甘さにハボックの顔に自然と笑みが浮かぶ。もう一口とカップに口をつけたハボックの耳にロイの声が聞こえた。
「昨日はすまなかったな」
「え?」
「お前の気持ちを疑うような事を言って」
 そう言うロイをハボックはまじまじと見つめる。ハボックの視線を頬に感じながら、ロイはハボックを見ずに続けた。
「お前が作ったケーキをみんなも食べるのが悔しかったんだ」
 珍しく素直にそう気持ちを口にするロイにハボックは目を見開く。ロイはハボックに向き直ると見開く空色を見つめて笑った。
「おかげで今年はお前のケーキを食べ損ねた」
 独り占めするどころか食べられなかったと笑うロイをハボックは目を細めて見つめる。手にしていたカップを置くとガタンと乱暴に立ち上がった。
「ちょっと待ってて、大佐」
「ハボック?」
 そう言ってバタバタと司令室を出ていくハボックにロイは目を丸くする。待っていれば少ししてハボックが小さな箱を手に戻ってきた。
「よかった、無駄にならずに済んで」
 ハボックはそう言いながら手にした箱をロイに差し出す。反射的に受け取ってしまってから尋ねるように見れば頷くハボックに、ロイは箱を机に置いて蓋を外した。
「ハボック、これは……」
「ザッハトルテ。大佐専用っスよ」
 箱の中に入っていたのは直径12センチ程の小さなザッハトルテ。生クリームやフルーツで可愛らしくデコレーションされたそれは、どこも欠ける事なく綺麗な円を描いていた。
「丸ごと全部、独り占めして食ってください」
 オレの気持ち全部、と照れたように笑うハボックをロイはじっと見つめる。それからケーキを見つめて言った。
「幾ら何でも一人じゃ多過ぎるよ」
「大佐」
 ロイの言葉に一瞬がっかりと肩を落とすハボックを見てロイが言う。
「一緒に食べよう、ハボック」
 そう言って笑うロイにハボックもパッと顔を輝かせて笑った。
「じゃあ、ホットチョコレートも一緒に飲みましょう」
「チョコだらけだな」
「……ちょっと甘すぎるか」
 オレ、甘いの苦手だったと眉を下げるハボックにロイが言った。
「いいじゃないか、一年に一回だ」
「そっスね」
 そう言って笑いあうと二人はフォークを持ってきてケーキをつつく。絡んだ視線に引き寄せられてケーキ越しに交わしたキスは、ケーキよりもホットチョコレートよりもずっとずっと甘かった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手も嬉しいですv

日記ではご無沙汰しておりました。なんかちょっと日記までこなす気力がありませんで(苦)
そんなわけで久々の日記はバレンタインネタです。イベントネタはいい加減書くことが思いつかない(苦笑)しょうもない話でスミマセン。
そうそう、毎年バレンタインには母からダンナと息子に加えて私にもオマケでチョコを送ってくるんですが、今年のチョコはとっても可愛かった。食べるの可哀想〜とか思いつつ、既に一匹食べましたけども(笑)





以下、拍手お返事です。

柚木さま

「グラプスヴィズ」そんなご意見もあるかなぁとは思ってました(笑)いつもならもっと気持ちが寄り添うまで書いてると思うんですが、ただねぇ、今回のリク、恋愛要素はあんまりいらないのかなぁとも思えたんですよね。私自身はやはり「好き」な気持ちがあって欲しいのでロイがハボックを好きで誘惑した形にしましたけど、もしかしたらそう言う要素は全くなしで話を書いた方がよりリクに近かったのかも、と思ったりしたものでなんだか中途半端な結末になってしまいました(苦笑)また機会があればその後の二人なぞも書けたらいいかもと思っております。

ぬおっΣ(´Д`)なんとそんな… の方

えへへ、クラサメ隊長の時の気持ちが蘇ってきたなんて、嬉しいですー(笑)そうそう、ロイバージョンもあるのですよ。やはり書くならそれぞれのサイドがあっていいかなと。でもって、漸くクリアしましたよー。もう最後の方はティッシュ握り締めて泣きっぱなしでした。その後も家事しながら「うっ」ときたりして(苦笑)いやホント切なすぎます……。実はエミナのイベントをサボっていたおかげでカヅサのイベントが最後まで見られなかったので、しょうがないからもう一周やろうかなぁとノロノロと二週目に取り掛かってます(苦笑)おかげでエミナがもういなくなってしまったにも関わらずトキトがエミナの事を語ってたりで妙な事になってます(苦笑)

いつも素敵な話をありがとうございます。 の方

こちらこそいつも読んで下さってありがとうございます!わーん、ホットチョコレート嬉しいですvvあんまり嬉しかったので、最初はロイにヘタクソなトリュフでも作らせようかと思っていたのをホットチョコレートにしてしまいました(笑)ハボックと一緒に温まってくださったら嬉しいですv
2012年02月14日(火)   No.156 (カプなし)

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