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2016年07月の日記

2016年07月07日(木)
黒スグリ姫 七夕編

黒スグリ姫 七夕編
とりあえず七夕に滑り込み(苦笑)後程追記予定

ロイハボ風味

「よ、ロイ」
「ヒューズ」
 校門をくぐったところで背後から肩を叩かれて振り向くと、ヒューズが肩を叩いた手を挙げてニッと笑う。それに笑い返したロイが一瞬止めた足を踏み出して歩き出せば、並んで歩き出しながらヒューズが言った。
「見たか?ホールの笹。今年もでっかいのが飾ってあったぜ」
「そう言えばそんな季節だったな」
 ヒューズの言葉にロイは学園のホールに飾り付けられた笹を思い浮かべる。毎年この時期になるとアメストリス学園の入口のホールには巨大な笹が飾られるのが常だった。
「で?ロイ君は何かお星さまにお願いしたのかな?」
「は?何を言ってるんだ、お前は」
 ニヤニヤと笑って覗き込んでくる髭面に、ロイは思い切り顔を顰める。馬鹿馬鹿しいとばかりにため息をつくロイにヒューズが笑って言った。
「でも、毎年あの大笹を埋め尽くすくらい短冊が飾られるだろ?」
「飾っているのはもっぱら初等部の低学年の子たちじゃないのか?」
 小学生でも高学年にもなれば星に願いをかけることもないだろうと言うロイにヒューズはチッチッと指を振った。
「なにを仰いますやら。あの笹にはガキんちょ達より女子高生やら女子大生の方が短冊飾るんだぜ。お前、知らないのか?学園の七夕伝説」
「学園の七夕伝説?なんだ、それ」
「相変わらずそう言う方面にはとんと興味がないのな、お前」
 キョトンとするロイにヒューズは苦笑して肩を落とす。それでもヒューズはそう言った事には疎い友人の為に説明してやった。
「あのホールの笹の一番高いところにつけた短冊の願い事は百パー叶うって言われてんの。聞いたことないか?」
「初めて聞いたぞ、そんなの」
 この学園には初等部の頃から通っているが、そんな噂を耳にしたことはこれまでなかった。だが、確かに毎年短冊は取り付けやすい下の方よりも高いところの方に沢山つけられていて、ロイはずっとその事を不思議に感じていたのだ。
「まあ、一番高いところつけると叶うって言っても実際つけるのは大変だからな。踏み台持ってきて届く範囲につけるのが精々ってところだろうけど」
 いくら叶えたい願い事があっても無理は出来ない。同じような高さに仲良く並んでつけられた短冊の願い事を星はどれも贔屓せずにちょっとだけ叶えてやるんだろうと言うヒューズに、ロイは「だろうな」と笑って頷いた。

「なあ、ハボック。短冊になんて願い事書いた?」
「えっ?!」
 級友のルイスに唐突にそう尋ねられ、ハボックは思わず声を上げてしまう。慌てて笑みで表情を取り繕って答えた。
「短冊って、まだそんなの書いてるの?ルイス」
「だって叶ったら嬉しいじゃん」
 そんなことを言うルイスに何を願ったのかと尋ねれば、ルイスは指折り数えて答えた。
「サッカーの優勝決定戦のチケット当たりますように、だろ。それからレギュラーになれますように、と、お小遣いが上がりますように。後は〜」
「そんなにお願いしてるの?欲張りだなぁ」
 五つも六つも願い事を口にするルイスにハボックは呆れて笑う。
「沢山お願いしとくと毎年一つくらいは叶うんだよ。お前もやってみれば?」
「ん……オレはいいよ」
「そんなこと言うなよ、叶うぜ?」
 ルイスはそう言って鞄の中から短冊を取り出してハボックに差し出した。
「ほら、これやるよ」
 ニコニコと笑って差し出された短冊を断ることもできずハボックは仕方なく受け取った。

(本当はもう書いたんだ)
 購買部に寄るというルイスと別れてハボックは校門を出て家路につく。胸のポケットから生徒手帳を取り出し、挟んであった空色の短冊を見つめた。
(書いたけど……)
 本当は七夕の今日までに飾ろうと思っていた。だがいついっても笹の周りには生徒が大勢いて、とても飾ることが出来なかったのだ。
(どうしよう、これ)
 星に願いをかけるなんて子供っぽいと思う。それでもハボックにとって短冊に書いた願いはどうしても叶えたいものだった。ハボックは足を止めて振り向く。短冊を挟んだ生徒手帳を握り締めて、ハボックは建物の陰で見えない学園の校舎がある方向をじっと見つめた。

「すっかり遅くなってしまったな」
 ロイは古書店の扉を押し開いて呟く。どうしても欲しい本を探してあちこち歩き回っていれば、時間は瞬く間に過ぎて時計の針は十時を過ぎてしまっていた。
「流石に腹が減ったな……」
 本を探していた間は感じていなかったが、やっと気づいて貰えたとばかりに腹の虫がグウグウと空腹を訴える。家に帰って何か作るのはとても腹の虫が許してくれそうもなくて、ロイはこの時間でもやっている店を探して足早に通りを歩いていった。
 その時、視界の隅を金色の光がよぎってロイは足を止めた。
「────ハボック?」
 振り向いた先に見えた背中にロイは目を瞠って大事な相手の名を呟く。時間を考えれば人違いかとも思ったが、ロイは構わず後を追った。
「やっぱりハボックだ」
 先を行く人影は間違いなくハボックのようだ。後を追うロイには気づかず、ハボックは小走りに夜の通りを進んでいく。その先にあるのが学園の校舎だと気づいて、ロイは眉を寄せた。
「何をしに行くんだ……?」
 忘れ物でもしたのかとも思ったが、わざわざこんな時間に取りに行かねばならないような忘れ物があるとも思えない。校門に手をかけて身軽に乗り越えてしまったハボックに、ロイは慌てて足を早めた。
「どこに行ったんだ?」
 同じように門を乗り越えている間にハボックの姿を見失ってしまって、ロイは小さく舌打ちする。警備員に見つかっていらぬもめ事を起こさないで済むよう、暗がりを選んで歩きながらロイはハボックの姿を探した。
「くそっ、どこだ?」
 なかなかハボックを見つけられず、ロイは苛々と呟く。その時、ホールの入口が細くすいている事に気づいて、ロイは足音を忍ばせて近づいていった。
 扉の隙間から体を滑り込ませてロイはホールの中に入る。そうすれば天井の明かり取りの窓から入る月明かりに照らされた大きな笹が、ホールの天井に向かって沢山の短冊をぶら下げた腕を広げていた。その大きな笹にどこから持ち出したのか長い梯子がかけられている事に気づいてロイは目を見開く。その梯子を目でたどれば天井に近いところに人影が見えて、ロイは見開いた目を更に大きく開いた。
 梯子の一番上にしがみついたハボックが大きな笹のてっぺんに手を伸ばす。手にした小さな紙片をなんとか結びつけようとするハボックの、梯子の上でつま先立った足がズルッと滑った。
「あっ?!」
「ハボックッ!」
 足を滑らせた拍子にバランスを崩したハボックが梯子から落ちる。ロイはホールの入口からダッシュで飛び出すと落ちてくるハボックに向かって腕を伸ばした。
「わああッ!」
「くぅ……ッ!」
 落ちてきた細い体をロイは必死に受け止める。ハボック諸共床に倒れ込んだロイは、慌てて腕に受け止めたハボックの顔を覗き込んだ。
「大丈夫かッ?!」
「……先輩?」
 自分を受け止めてくれたのがロイだと気づいてハボックが目を丸くしてロイを見上げる。怪我がないようだとホッとしたロイは、次の瞬間場所も忘れて大声を張り上げていた。
「何をやってるんだ、お前はッ!こんな暗いところで梯子に上るなんて、落ちて怪我でもしたらどうするんだッッ!!」
「ご、ごめんなさい……ッ」
 間近から怒鳴られて、ハボックがビクッと震えて身を縮める。ギュッと目を瞑るハボックを見つめて、ロイはハアアと大きく息を吐いた。
「怪我がなくて本当によかった……」
「先輩」
 ギュッと抱き締めてそう呟くロイをハボックは見上げる。ロイはハボックの金髪を掻き上げて尋ねた。
「一体何をしようとしてたんだ?」
「えっ?えっと……その……短冊を飾ろうと思って」
「短冊?」
 そう言うのを聞いて、ロイは昼間ヒューズから笹の一番高いところに飾った短冊の願いは百パーセント叶うと聞いたことを思い出す。手にした短冊を胸に抱き締めて俯くハボックを見つめてロイは言った。
「何をお願いするつもりだったんだ?」
「えッ?!な、内緒っス!」
 弾かれたように顔を上げたハボックがそう叫ぶのを聞いて、ロイはムッと顔を顰める。「ハボック」と低く囁いて睨めば、困ったように視線をさまよわせたハボックが小さな声で答えた。
「先輩とずっと一緒にいられますように、って……」
「え?」
 顔を赤らめて短冊を抱き締めるハボックをロイは驚いたように見つめる。呆れたようにため息をついてロイは言った。
「そんなことわざわざ星に願わなくても」
「だってッ!先輩、とってもモテるし!」
 ロイが言った途端ハボックが声を張り上げる。
「先輩の事、好きな女の子いっぱいいて、オレなんかよりずっと可愛いくて……いつか先輩、他の女の子の事好きになっちゃうかもしれないけど、オレ、先輩とずっと一緒にいたいから……ッ」
 短冊を握り締めてそう叫ぶハボックをロイは目を見開いて見つめていたが、やがてフッと笑って言った。
「馬鹿だな、そんなこと星に願わなくても私が好きなのはずっとずっとお前だけだ。お前が離れたいと言っても一生離してやらない」
「先輩……」
 言って見つめてくる黒曜石にハボックが目を見開く。ロイはハボックの頬をそっと撫でて続けた。
「好きだよ、ハボック。ずっと側にいる。だからお前もずっと側にいてくれ」
「ッ、うん……、うんっ、先輩っ」
 熱く囁けばハボックがくしゃくしゃと顔を歪めて頷く。そんなハボックを抱き締めて、ロイは深くふかく口づけた。
2016年07月07日(木)   No.488 (ロイハボ)

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  Photo by 空色地図

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