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2013年02月の日記

2013年02月25日(月)
豆騎士 初空月編
2013年02月22日(金)
222
2013年02月19日(火)
妖7
2013年02月18日(月)
髭騎士12
2013年02月14日(木)
正直者は救われる
2013年02月12日(火)
獣3
2013年02月06日(水)
獣2
2013年02月01日(金)


豆騎士 初空月編
エドハボ風味

「や、やっと着いた……ッ」
 イーストシティの駅に降り立った少年の口から疲れきった呟きが零れる。彼は両腕を空に向かって突き上げると大きく口を開いた。
「やっと着いたぞーッ!!」
「兄さん、みんな見てるよ……」
 大声で叫ぶエドワードにアルフォンスが大きな体を精一杯縮こまらせて恥ずかしそうに言う。だが、エドワードはギュッと両の拳を握り締めると感動に涙しながら言った。
「なに言ってんだ、アル。ここまで来るのに何日かかったと思う?二週間だぞ、普通なら三日で着く道のりを二週間ッ!その間どれだけ苦労したことか……ッ!」
 落石事故で不通になった路線を避けて、遠回りした町では洪水被害。ボートで何とか脱出した先で逃げ出した牛の群れに押し潰されそうになったり、渡ろうとした吊り橋が落ちたりと、今ここに無事立っているのが不思議なくらいだ。エドワードは手の甲で滲む涙を乱暴に拭って言った。
「何はともあれやっと着いた!アル、俺は少尉んとこ行くから荷物頼むぜッ」
「あっ、兄さん!」
 言うなり返事も待たずにエドワードはコートを翻して走り去ってしまう。そんな兄にアルフォンスはやれやれとため息をついた。
「まぁ、仕方ないか」
 ここ数ヶ月、二人は体を元に戻す方法を探し求めてイーストシティに帰ってこられなかった。せめて新年をエドワードが年上の恋人と迎えたいと思っていたのも知っていたがそれも叶わなかった。
「今夜は帰ってこないかな」
 アルフォンスは呟きながらエドワードが置き去りにした荷物を持ち上げた。
「ゆっくり話が出来るといいね、兄さん」
 エドワードが走り去った方へそう笑いかけて、アルフォンスはイーストシティの駅を後にした。

「しょういいい〜〜ッ!!」
 ダダダと地響きを立ててエドワードは司令部の廊下を走り抜ける。バンッと司令室の扉を開ければ、中で仕事をしていた面々が驚いて顔を上げた。
「エドワードくん、お帰り。久しぶりだね」
 エドワードの姿を認めてフュリーが笑みを浮かべて言う。それに手を上げて答えると、エドワードは司令室の中をキョロキョロと見回した。
「少尉は?」
「ハボなら今日は午後から休みだぜ」
「えっ?マジ?!」
「ついさっき詰め所寄ってから帰るって出ていったからまだその辺にいるんじゃねぇ?」
 ブレダの言葉にエドワードは金色の目を見開く。慌てて飛び出そうとすれば、いきなり背後から襟首を掴まれてグエッと潰れた蛙のような声を上げた。
「挨拶もなしに帰る気か?鋼の」
「大佐!」
 背後から聞こえた声にエドワードは肩越しに振り向く。襟首を掴む手を振り解くとロイを睨んだ。
「なんだよッ、別に大佐に会いに来た訳じゃねぇし!」
 しゃあなと再び飛び出そうとするエドワードの襟首をロイは素早く掴む。グイと持ち上げればエドワードが手足をジタバタさせてもがいた。
「大佐ッ、てめぇ、このッ!」
 肩越しに睨んでくる金目をロイはジロリと見た。
「上官に対する礼儀と言うものを知らんのか。私の一言で明日のハボックの休みは取り消しになるんだぞ」
「ッ?!きたねぇぞッ、大佐!」
「なんとでも」
 罵る言葉にもまるで動じた様子もないロイをエドワードは睨む。それでも下に下ろされれば襟を正してピッと敬礼して言った。
「ご無沙汰してます、マスタング大佐。相変わらずの嫌みっぷり、ご健在を確認出来てなによりです」
「……鋼の」
「わりぃ、大佐!これ以上付き合ってらんないわ。俺、マジ少尉探さねぇと、」
 最低限の事はやったと、エドワードは悪びれもせずそう言うと、今度こそ司令室を飛び出していく。その背に向かってため息をつくロイにブレダが苦笑した。
「今何を言っても無駄ですよ。ハボックに会いたい一心で帰ってきてるんですから」
「明後日が思いやられる」
 示し合わせたわけではないだろうが、ハボックは今日の午後から一日半の休暇だ。そうとなればヤりたい盛りの少年が年上の恋人を放っておくはずがなく、休暇明けのハボックはさぞかしぐでんぐでんで色気がダダ漏れになっていることだろう。
「ハボック隊の軍曹に明後日の演習はなしにしろと言っておいてくれ」
「判りました」
 げんなりとしたロイに苦笑して答えて、ブレダは司令室を後にした。

「いねぇじゃん」
 ハボック隊の詰め所に行けば「隊長はロッカールームにいった」と言われたエドワードは、開け放った扉からロッカールームの中を見回して呟く。偶々中にいたハボックの部下がエドワードを見て言った。
「隊長ならたった今帰ったけど」
「マジかよ!もう少し引き留めておいてくれよ!」
 エドワードは勝手な事を言ってロッカールームを飛び出す。廊下を走り抜け司令部の玄関から飛び出し通りに出ると、キョロキョロと辺りを見回した。
「どっちだ?」
 そう呟くとエドワードは商店が立ち並ぶ方へと走り出す。ハボックがよく行く食料品店や雑貨屋、本屋から煙草屋まで覗いたがハボックの姿は見当たらなかった。それならもう帰ったのだろうかとアパートに行ってみる。だが、ドアを叩いても応える声はなく、ハボックはアパートにも戻っていなかった。
「くそっ、どこに行ったんだよ……」
 ハボックが行きそうな所は粗方当たってみたがどこにもその長身を見つけられないのが悔しい。何だかハボックが遠くなってしまったようで、エドワードはギュッと拳を握り締めた。
「ちきしょう、絶対見つけてやるッ」
 エドワードは結わいた髪を後ろに跳ね上げて呟く。アパートの階段を駆け下りると当てもなく走っていった。キョロキョロと見回しながらただ本能に導かれるまま走る。そうすればイーストシティを流れる河を渡る橋に出て、エドワードは足を止めた。
『ここから初日の出が見えるんだぜ、大将』
 橋から河を見やったエドワードは不意に頭に蘇った声に目を見張る。いつの事だったろう、川沿いの遊歩道を歩いていた時、ハボックが言ったのだ。
『あの高い塔の間から昇ってくるのが見えるんだ。いつか一緒に見られたらいいな』
 そう言って笑った空色の瞳。目の前に浮かぶ空色に、エドワードは川沿いに降りる階段を二段抜かしで駆け下りた。川沿いに伸びる遊歩道をエドワードは駆けていく。視線を巡らせれば道から外れた河近くの草の中、金色の頭が見えた。
「少尉ッ!」
 大声で呼びながら伸びた草を掻き分けて走る。そうすれば振り向いた空色が驚いたように見開かれた。
「大将?」
「少尉ッ」
 立ち上がろうと腰を上げかけたハボックにエドワードは思い切り飛びつく。受け止めきれず地面に倒れ込んだハボックに圧し掛かるようにして、エドワードは噛みつくようにハボックに口づけた。
「大――――、んんッ!」
 突然のキスにハボックは驚いて目を見張る。押し返そうとするハボックを押さえつけて、エドワードは更に深く口づけた。
「ンッ!んふ……、ぅん」
 半ば強引に舌をねじ込みハボックのそれを絡め取る。キツく絡めて口内をなぶればハボックの躯からゆっくりと力が抜けていった。
「すげぇ熱烈な再会だな」
 長いキスを終えて唇を離せば、ハボックが苦笑して言う。見下ろしてくる金目に手を伸ばして、ハボックは言った。
「いつ帰ってきたんだ?」
「さっき。すげぇ探したんだぞ」
 そう言って睨んでくるエドワードにハボックがクスクスと笑う。ムッとするエドワードの頬を撫でてハボックは言った。
「おかえり。元気そうだな」
 よかったと目を細めるハボックにエドワードは顔を歪める。なんだか涙が出そうになって、エドワードはハボックの首元に顔を埋めた。
「大将?」
「こんなとこで何してたんだ?」
「ん?大将の事考えてた。元気にしてるかなぁって」
 背に腕を回してそう言うのを聞けば、エドワードは顔を歪める。首筋に顔を埋めたままくぐもった声で言った。
「ごめん、初日の出見らんなかった」
「来年見ればいいだろ」
 耳元で聞こえた声にエドワードは顔を上げる。そうすればハボックがエドワードを見上げて言った。
「来年がダメならまたその来年。それでも見られなかったらまたその次。初日の出は毎年来るんだからさ。それとももう一緒にいてくんないの?」
「――んな訳ねぇだろっ!」
 悪戯っぽく言う空色をエドワードは睨む。
「離さねぇよ、ずっと」
「うん」
 にっこりと笑うハボックにエドワードは堪らず噛みつくように口づけた。
「絶対離さないからな。だから一緒に初日の出見よう」
「うん」
「約束だからな」
「うん」
 笑って頷くハボックにエドワードは何度も何度も口づけた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですv

お久しぶりの「豆騎士」です。年明けに間に合うように帰ってこられなかった豆の話。本当は1月早々にアップしたかったのですが間に合わず、松の内も終わっちゃったしお蔵入りかなと途中まで書いて放ってあったのですが、「萌えに季節は関係ない!」ってコメント頂いたので今更ながらアップしてみました(苦笑)でもって、続きあります。エロです。つか、本当はエロを書きたかったんですが例によって枝葉が多くて長くなってしまったので(苦笑)エロ編もアップしていいかなぁ(笑)ちなみに「初空月」というのは陰暦の正月の事で、今年は2月10日あたりだそうな。結構いいタイミング?(笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

ふふふ、「222」火花を散らすロイsとあわあわするジャンsって構図ですよね、きっと(笑)たまにはこんな初々しいのも書かないとエロばっかりになりそうなので(爆)ロイハボ、やっぱり熱くなりますよね、どうしてだろう。同じハボなのに(笑)「セレスタ」わはははは!いやあ、私も今回で絶対ご対面だと思ってたのですが、ロイってば思ったより足が遅くて(笑)ブラッドレイは衰え知らずなので多少ロイが来るのが遅くても大丈夫ですから(違っ)ああ、キリバン、1つ違い!確かに5と6は見分け付きづらいかも〜(汗)5並び、面白いのでキリバン設定しましたが、申請ないのでいつもコメント沢山頂くお礼にリク如何ですか?お届け出来るのはちょっと先になると思われますが(苦笑)

セレスタの涙〜、毎回ドキドキそわそわ悶えながらしながら の方

いつも遊びに来て下さってありがとうございます!「セレスタ」次回こそご対面……の筈です(笑)「髭騎士」もなるべく早めにお届けしますね。どちらも合わせてお楽しみにお待ち頂ければ嬉しいですvそれから、ありがとうございますっ!頂いたコメントを読んで「そうなの、まさしくそうなのよ!」と、思わず手を握り締めたくなってしまいました(涙)同じ書き手の側の方で同じように考えていらっしゃる方がいると判って、なんだかとっても心強かったです。結局は書きたいものを書くしかないと判っていても本当に悩ましい……。まだまだ悩みそうです(苦笑)コメント、本当にありがとうございます!……ところで、どちらのサイトさまなのか気になります〜ッ!えーっ、ちょっと待って、ロイハボ/ヒュハボって、ご迷惑でなければ遊びに伺いたいですッ!!どうか、私に愛の手をッ!!

555555打おめでとうございます♪  の方

いつもありがとうございます!5並びなんだかめでたい気がしてましたが、無事達成出来てこそばゆく嬉しいです(笑)また次も目指して頑張りますv
2013年02月25日(月)   No.298 (カプ色あり)

222
「こんなもんかな」
 ハボックは広げっぱなしだった雑誌を纏めて重ねると部屋の隅の棚に突っ込む。グルリと部屋の中を見回し、とりあえず客がきても恥ずかしくない程度には片付いていることを確かめた。
 今日はロイがハボックのアパートに遊びに来る事になっている。大したものは出来ないが食事に来ないかとハボックが誘ったのだ。二つ返事で了承したロイは秘蔵のワインを持ってくると言っていた。時計を見ればもうすぐ約束の時間で、ハボックの唇に自然笑みが浮かんだ。
 ハボックは自分の上官であるロイのことがもう長いこと好きだった。まるっきりのノンケで女性にしか興味がなかった筈の自分がどうしてと不思議に思わない訳ではなかったが、その鮮やかなまでの生き方に惹かれ気がつけばいつもロイの姿を目で追っていた。彼の力になりたくて、彼の側にいたかった。いつまでもどこまでも一緒にいたくて、一緒になりたかった。彼の全てが欲しくて自分の全てを捧げたかった。
 とは言え、そんな簡単に己の想いを吐露出来る相手でないこともよく判っていた。役に立つ手駒の一つとして、彼の敵を嗅ぎ分けその喉を引き裂く狗として側にあるのが、自分に出来る精一杯と思っていたのだ。そんなある日。
 街を歩いていれば、突然曲がり角から飛び出してきた金色のレトリバー。元気にじゃれついてくるその首にはリードが垂れ下がっていたから、誰か飼い主の手を振り切って逃げてきたのだとはすぐ知れた。それならせめて飼い主が来るまで足止めしておいてやろうとじゃれつく犬の頭をわしわしと撫でてやっていれば。
『ジャン!』
 聞き慣れた声に驚いて目をやった先にロイの姿。思わず返事をしてしまったものの、本当は心臓が飛び出そうな程ドキドキした。もっとも、その後飼い犬にジャンと名付けた理由を聞いた時には、飛び出た心臓が止まってしまうのでは思ったものだが。
「ニャーン」
 その時脚に柔らかい感触がして、ハボックは足元を見下ろす。擦りついてくる黒猫を抱き上げると腕に抱えて小さな顔に頬を擦り寄せた。
「どうした?ロイ」
 ハボックはロイと呼んだ黒猫を愛しそうに見つめる。そうすれば黒猫はザラザラした舌でハボックの頬を舐めた。
 ロイが伝えられない想いを飼い犬にジャンと名付けて紛らわせていたように、ハボックもまた黒猫にロイと名付ける事で誤魔化していた。うっかり想いを口にして部下として側にいることも出来なくなってしまわないよう、真っ黒な瞳をした黒猫を飼っていたのだ。
「大佐、コイツの名前知ったらなんて言うかな」
 飼い犬にジャンと名付けた事をハボックに知られて、ロイは随分恥ずかしがっていた。ハボックが黒猫にロイと名付けていると知ったらどんな顔をするだろう。
「へへ……、もうすぐお前の名前を貰った人が来るよ。ずっとずっと好きだった人が」
 空色の瞳にロイへの恋慕を映してハボックが呟く。すると、黒猫はいきなり大声で「ニャーッ!」と鳴くとハボックの腕から飛び降りてしまった。
「えっ?あ、おい、ロイ?」
「フーッ!」
 手を伸ばそうとするハボックを威嚇して黒猫はスタスタと部屋を出て行く。玄関までくると長い尻尾をピンと立て、毛を逆立てて扉を睨みつけた。
「ちょ……、ロイ!えーッ、嘘だろッ?」
 どう見てもこれからやってくるロイを追い払う気が満々なのを見て、ハボックは慌てる。
「もう……、参ったな」
 あのロイの事だ、幾ら相手が小さな黒猫だろうと自分に向けられた敵意には敏感に反応することだろう。
「全く、お前なぁ、オレの気持ちはよく知ってんだろ?」
 ハボックは黒猫の側にしゃがみ込むと小さな頭を撫でながら言う。そうすれば黒猫が振り向いて真っ黒な瞳でハボックを見た。
「ニャア」
『知っている。だからこそだ』
 短く鳴いた声がそう言ったように聞こえてハボックは目を見張る。小さな顔に笑みが浮かんだように思ったが、黒猫はフイと顔を戻してしまってよく判らなかった。
「……まったく」
 ハボックは苦笑して床に腰を下ろす。
「お手柔らかにな。オレの好きな人なんだから」
「ニャッ」
 短く答える黒猫はロイに何を伝えるのだろう。
 ハボックは黒猫と一緒に玄関の扉を見つめて、誰より好きな相手が来るのを待っていた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても励みになってます、ありがとうございますvv

猫の日ですね。そんなわけで「111」の続きです。お互いの名前つけた犬と猫飼ってるって、それってどうよ、と思わないでもないですが(苦笑)

明日から連載開始のハボロイ書いたんですが、相変わらずタイトルが浮かばない……(苦)毎度本文よりタイトルに時間かかってる気がしますよ(苦笑)決まらなくて「ハボロイ新作」とかでアップしたらすみません(今、ポメラにはそのタイトルで保存されてる/苦笑)
でもって、先日こそっと呟いた事はまだ考え中です…。すっぱりするか、隔週とかにするか、今まで通りか、もうちょっと悩むかなぁ。

以下、拍手お返事です。

なおさま

「妖」私もカマクラ体験した事ないですよー。あれってどうやって作るんですかね?ワインは飲めませんがソーセージ焼いたりスルメ焼いたりはしたいです(笑)あれっ、なおさまって元はハボロイでしたっけ?もう、すっかりハボ受けなイメージでしたよ(笑)本当、難しいです…。なのでもうちょっと悩もうかなぁと(苦笑)「久遠」ふふふ、辛そうなハボック、いいでしょう?(コラ)ハボックの頭を撫でてあげてやって下さい(笑)

おぎわらはぎりさま

うお、そんな野望が!(笑)どんなネタか気になりますが(笑)まあ、とりあえずまだすぐには決めませんので〜。キリリクなら受けるかもしれませんしねv

ハイムダール王国の続編、大変面白く拝読させて の方

ありがとうございます!そう言って頂けると大変励みになりますv続きも楽しんで頂けるよう頑張りますねv
2013年02月22日(金)   No.297 (カプなし)

妖7
「うわぁ、すげぇ!」
 ガラリと鎧戸を開けた彼が楽しげな声を上げる。開けた窓から身を乗り出しながら言った。
「ねぇ、凄い積もってるっスよ!こんなの久しぶりだ」
 そう言う彼の声に窓の外を見やれば一面の銀世界だ。開け放った窓から冷たい空気がどんどんと入り込んできて、私はぶるりと体を震わせて言った。
「寒いぞ。頼むから早く閉めてくれ」
 そう言ってソファーの上でクッションを引き寄せる私に彼はやれやれとため息をつく。開けたままの窓に背を預けて言った。
「冬だからって部屋に引きこもってばかりいないで、多少寒くても外の空気に触れた方が健康的っスよ?」
「不健康で結構だ」
 私はそう言うと無理と判っていてクッションの下に体を押し込もうとする。無駄な努力をする私にクスリと笑って、彼は窓を閉めると歩み寄ってきた。
「ほら、行きましょう」
「いや、だから寒いのは」
 彼の手に己のそれを掴まれ内心ドキリとしたのをモゴモゴと言いながら誤魔化す。それに気づいているのかいないのか、彼は私の手をグイと引っ張った。
「ねぇ、一緒に行きましょうよ」
 甘えるように小首を傾げて言われれば体の芯が熱くなるようだ。私は慌てて手を取り返すと、また掴まれないようクッションの下に隠した。
「勘弁してくれ。寒いのは本当に苦手なんだ」
 そう言う私に彼は残念そうにため息をつく。だが、それ以上は無理強いすることなく「じゃあ行ってきますね」と笑って出ていってしまった。
 一人になると部屋の中が急に寒々しく感じられる。本でも読んで誤魔化そうと読みかけの本を開いたが、内容はさっぱり頭に入ってこず余計に部屋の寒さが気になるばかりだった。それでも意地を張って彼が戻ってくるのを待ってみたが、待てど暮らせど彼が帰ってくる気配はない。結局しびれを切らしたのは私の方で、私は本を置くと立ち上がり窓に歩み寄った。曇ったガラスを袖で拭いて外を見る。そうすれば庭に大きなドーム状の家のようなものが出来上がっていて、私は驚きのあまり寒さも忘れて窓を開け放った。
「おい、何を作ってるんだ?」
 私の声に手にしたスコップに凭れて一息ついていた彼が顔を上げる。私の姿を捉えた空色がにっこりと笑って答えた。
「カマクラ」
「は?」
「手っ取り早く言えば雪で作った小屋みたいなもんスよ。もうすぐ出来上がりっスから、そしたら招待しますね」
 彼は笑ってそう言うと、私の返事も待たず裏の方へと行ってしまう。私は庭に残されたカマクラとやらをじっと見つめていたが、コートを着込むと庭に出た。
「雪で作った小屋ねぇ」
 雪で出来ているのなら小屋と言っても寒さをしのぐ為のものにはならないだろう。招待されてもとても行く気にはなれず、どうやって断ったら彼を傷つけずに済むだろうと考えていると、背後から雪を踏む音が聞こえた。
「そんなものどこにあったんだ?」
 彼が裏から運んできたのは小さな火鉢だ。尋ねれば彼はそれをカマクラの中に運び込み火を熾しながら言った。
「スコップと一緒に物置に入ってたっスよ。――ああ、よかった。使えそうだ」
 彼は嬉しそうに言うと火鉢をそのままに家の中に入る。少し待っているとグラスとワインのボトル、それにクッションを手に戻ってきた。
「ささ、我が家へどうぞ」
 彼は火鉢を挟んでクッションを二つ置くと内の一つに腰を下ろして私を手招く。なんとなく断るタイミングを逸した私は、頭を屈めてカマクラの中に入った。
「暖かい」
 周りを雪で囲まれているというのに中はほんのりと暖かい。クッションに腰を下ろせばスッとワイングラスが差し出された。
「意外とあったかいっしょ?」
「ああ、びっくりした」
 私は答えて腰を下ろすと、差し出されたグラスを受け取る。彼は私と自分のグラスにワインを注ぐと目の高さに掲げて言った。
「じゃあ雪見酒に乾杯」
 それに答えてグラスを掲げワインを喉に流し込む。雪の中で飲む酒は何故だかいつもの倍は旨いように感じられた。
「ねぇ、折角だしなんか焼けるもんないですかね?」
「この火鉢で焼く気か?」
「結構焼けると思うんスけど」
 彼はそう言ってグラスを置くと食料を漁りに家に戻る。少しして鉄串を数本とソーセージやチーズを手に戻ってきた。
「これ焼きましょう、これ」
「ちょっとした宴会だな」
「楽しいっしょ?」
 呆れて言う私に空色の瞳が悪戯っぽく笑う。
「――――そうだな」
 頷いて笑い返せば胸の奥がほんわりと暖かくなるようだ。
 私と彼はカマクラの中、差しつ差されつしながら雪見酒を楽しんだのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、更新の励みです、ありがとうございます。

「妖」です。本当は日本酒でするめでも焼こうかと思ったんですが、迷った末ワインに。結構そっちでもよかったかなぁ、火鉢だし(苦笑)
東京も今日は雪が舞ってます。積もる事はなさそうですが寒い……。今シーズンはよく雪降るなぁ。流石にこれで最後かしら。三月にドカッと降ったりして(苦笑)

以下、拍手お返事です。

なおさま

ホント、なんでヒューズってああいうプレイが似合うんでしょうね(笑)うわあ、白いお尻に手形!!そんな写真、うっかり出回っちゃったら大騒ぎだろうなぁ(爆)うふふ、流石ヒューズの恋人と思って頂けて嬉しいv「ここ」ってところを突いて下さるコメントに口元が弛んじゃいます(笑)

おぎわらはぎりさま

あはは、苛め足りなかったですか?でも一応こっちは相思相愛だからなぁ。とりあえずガッツリ苛めは眼帯のオッサンにお任せして(笑)ロイ……うーん、物にもよる気はしますが…。あとやっぱり昔より最近の作品の方がハボ苛めに熱を込めて書いている気はします(爆)いや、だって楽しいから(コラ)


以下は悩み中の呟きなのでスルーして下さっておっけです(苦笑)
最近ちょっと思うのはサイトをどうしようかなぁということ。と言ってもやめる気なんぞないですが、ハボックへの愛ダダ漏れだし(苦笑)ただ、最近ロイハボ、ハボ受けで来られる方が多いし、反面ハボロイは少なくなる一方だし、それなら今頂いているリクを終えたらハボロイは閲覧だけにした方がいいかなぁ、とかね……。個人的には書きたい気持ちもあるので、書きたい時だけ書いて基本は閲覧中心。正直一週間の内で書ける時間は限られているので、それなら読んで下さる方がいるのを書いた方がいいんじゃないだろうか。などなど悩み中……。でも、ハボロイはハボロイで楽しいんだよなぁ。元々うちはハボロイオンリーサイトだったんだよ。今じゃ誰も信じないだろうけど(苦笑)悩むなぁ。もっと時間があればなー、つか、もっと早く書ければいいのか……ははは(苦)
2013年02月19日(火)   No.296 (カプなし)

髭騎士12
CP:ヒュハボ(R18)

「やだッ、中佐、やめてッ!!」
 ビリビリとシャツを引き裂き、無理矢理ボトムを剥ぎ取ろうとするヒューズにハボックは必死に抵抗する。さっきまでの怒りとは別の種類の怒りのオーラを纏ったヒューズは、無言のままハボックの服を引き裂き毟り取ると、逃げようともがくハボックの長い脚をグイと胸につくほど押し上げて開かせた。
「やだぁッ!」
 灯りの下恥部を晒されて、ハボックが羞恥に駆られた悲鳴を上げる。それに構わずヒューズはハボックの双丘の狭間に顔を埋めた。
「ヒャッ!」
 ひっそりと息づく蕾に舌を差し入れねちゃねちゃと舐め回す。蕾を嬲る濡れた感触に、ハボックは悲鳴を上げてもがいた。
「やだ、やめて、中佐ッ!」
 甘く蕩かされてすら恥ずかしい行為を明るい部屋の中でいきなりされて、顔を真っ赤に染めたハボックはヒューズを引き剥がそうと髪を掴む。グイと乱暴に引っ張られる痛みに顔を歪めたヒューズは、ハボックの尻を手のひらで思い切り叩いた。
「ヒィッ!」
「暴れんじゃねぇよ」
 低い声で囁いて、ヒューズはハボックの尻を叩き続ける。パンッパンッと乾いた音とハボックの悲鳴が狭い寝室に響き渡った。
「痛いッ!中佐っ、痛いっス!」
 容赦なく叩かれてハボックが泣き叫ぶ。白い尻が真っ赤に腫れ上がった頃になって漸く、ヒューズは叩く手を止めた。
「ちゅうさ……」
 すっかり抵抗の意志をなくして泣きじゃくるハボックをヒューズはそっと抱き締める。嗚咽を零す唇を己のそれで塞いで、ヒューズは言った。
「ロイの為にってのはお互い様だ。それはよく判ってるつもりだったが、実際こうして見せつけられると……堪んねぇ、殺してでも俺に縛り付けたくなる」
「中――――んんっ!」
 低く嫉妬に塗れた声で囁くと同時に深く口づけられてハボックは目を見開く。呼吸すら奪う激しいキスに、ハボックの躯から力が抜けていった。
「中、さ……」
「お前がロイの狗だってのは判った。でも、それと同時に、いや、それ以上に俺のもんだってこと、教えてやる」
 ヒューズはそう言うと唾液に濡れた蕾に指をねじ込む。潤いの足りない秘所を強引に掻き回されて、ハボックは引きつるような痛みに悲鳴を上げた。
「ヒイイッ!」
 ヒューズの胸に縋りつきゆるゆると首を振る。ビクビクと震えながらハボックは涙に濡れた頬をシャツに擦り付けた。
「痛いっス……、中佐、やめて……っ」
 ハボックが恥ずかしがるのを面白がったり、そんな意地悪をする事はあっても、こんな風にいつまでも痛みを与え続けるようなセックスをヒューズがするのは珍しい。ヒクッヒクッと泣きじゃくるハボックの唇をねっとりと舌で舐めてヒューズは言った。
「脚を開け。痛いのが嫌ならな」
 そう言うヒューズをハボックは濡れた瞳で見つめる。嫉妬の焔を宿す常盤色にハボックはおずおずと脚を開いた。そうすればヒューズは二本目の指を無理矢理突っ込んだ。
「アヒィッ!」
 突っ込んだ指で小さな蕾を乱暴に割開かれて、ハボックは仰け反らせた喉から悲鳴を迸らせる。グチグチと掻き回す残酷な男をハボックは涙に濡れた瞳で睨んだ。
「痛くしないっていったくせにっ」
「そんな事言ってねぇよ」
 責める言葉にヒューズがそう返す。睨んでくる空色を濡らす涙を唇で拭ってヒューズは言った。
「お前に痛みを与えられんのは俺だけだろ?」
「……気持ち良く出来んのもアンタだけっしょ?」
 そう返されてヒューズは目を見開く。ハボックはヒューズの首に腕を回して言った。
「痛いより気持ち良くシて?オレ、アンタで気持ち良くなりたい……」
「……隣のヤツに聞かれるぜ?」
「いいもん。好きな相手に触られんのがどんだけイイかって聞かせてやるんだから」
「お前」
 口をへの字に曲げて言うハボックにヒューズはプッと吹き出す。クククと笑って、ヒューズはハボックの額に己の額をハボックのそれにコツンとつけた。
「いいぜ、思いっきりイヤラシい声上げさせてやる」
 ニヤリと笑ってそう言うと、ヒューズはハボックに圧し掛かっていった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになります、嬉しいですvv

「髭騎士」です。13も書いたんですが、エチ終わんないよ(苦笑)まあ、日記は基本書く量が少ないからな〜。そんなわけでもう少し続きますv

以下、拍手お返事です。

なおさま

やっぱりハボからのチョコ欲しいですよね!私なら「くれ!」と即答するんですけど(笑)うわあ、前のバレンタイン話も……ッ!羞恥プレイですが、嬉しいです、ありがとうございます(赤面)「セレスタ」もう、この話はブラッドレイの気分で読むと一番楽しめる気がします(笑)ワクワクしながら待ってて下さいねッv頂くコメントにいつもやる気貰ってますvありがとうございますvv
2013年02月18日(月)   No.295 (ロイハボ)

正直者は救われる
「ねぇ、大佐。オレからチョコレート欲しいっスか?」
「――は?」
 突然そんな事を聞かれて、私は書類を受け取ろうと手を差し出した姿勢のまま固まる。数度瞬いて、ハボックに尋ねた。
「チョコがなんだって?」
 ハボックが言っているチョコレートというのは恐らくバレンタインデーのチョコレートの事だろう。何故なら一週間後の今日が丁度バレンタインデーだからだ。とは言え、そんな事を聞かれる理由は全く判らず、私は困ったように首を傾げた。
「だから、オレからチョコレートが欲しいかって聞いてるんです」
 ハボックは初めに口にした言葉を繰り返す。私は差し出した手を下ろすのも忘れて考えた。
 正直なところを言えば私はハボックからのチョコレートが欲しい。何故ならこのちょっと不遜なところがあるこの部下に、私は部下に対する好意以上のものを抱いているからだ。有り体に言えば私はハボックが好きだ、女性に対する恋愛感情と同じ気持ちを抱いている。ハボックが私にバレンタインチョコレートをくれると言うなら喜んで貰うだろう。だが。
「突然何を言い出すんだ」
 いきなりハボックがそんな事を聞いてきた理由が判らない。探るように尋ねればハボックがもう一度同じ質問を繰り返した。
「だから、オレからチョコレート欲しいっスか?」
「欲しいと言ったらくれるのか?」
 正直に答えて呆れられたり気持ち悪がられたりしたら、私の繊細な心臓は耐えられない。なによりハボックと気まずくなる事を考えたらチョコレートが欲しいなどと言わずに済ませた方が良いように思えた。
「質問に質問で答えないで下さいよ」
 ハボックは苛立たしげに言って私を見つめる。何より惹かれた空色に見つめられて、私はどぎまぎしながら引きつった笑みを浮かべた。
「オレからチョコレート欲しいっスか?」
 ハボックは四度(よたび)同じ質問を繰り返す。正直に欲しいと言うべきか、それとも笑って誤魔化すか。どちらにするか決め倦ねている私の耳にハボックの声が聞こえた。
「ブブーッ!時間切れっス」
「え?」
 思いがけない言葉に私は目を丸くする。
「おい、ちょっと待て、答えないとは言ってな――――」
 慌てて言う私にハボックは急かすように言った。
「サイン、早く下さい。急ぎの書類なんです」
「え?あ、ああ」
 言われて私は慌てて書類にサインを認める。そうすればハボックが引ったくるように私の手元から書類を奪った。
「ありがとうございました、それじゃあ」
 ハボックはそれだけ言って執務室を出て行ってしまう。私はハボックが出て行ったまま開け放たれた扉を呆然として見つめた。

「大佐、顔にチョコレート欲しいって書いてありますぜ」
 不意にそう言う声が聞こえて、私はハッとして声がした方を見る。そうすればブレダ少尉が扉に凭れるようにして立っていた。
「聞いてたのか?」
 悪趣味だなと眉を顰めれば少尉が苦笑する。
「ドア、全開でしたからね。聞きたくなくても聞こえますよ」
 言われてみればハボックが入ってきた時から開けっ放しだったようだ。やれやれと背もたれに体を預けて、私はこの見かけによらず聡い部下を見上げて言った。
「どういう意味だと思う?」
 どうやらブレダ少尉には私の気持ちがバレているらしい。それなら貰える意見は貰った方が利口だ。そう思って尋ねれば、少尉はうーんと首を捻った。
「アイツ、普段は凄く判りやすいんですけど、こういう特はさっぱりなんですよねぇ」
 幼い時からハボックを知る男は困ったように言う。少し考えたブレダ少尉は私を見つめて言った。
「正直に欲しいって言ったらどうです?」
「言って、あれは深い意味はないと言われたらどうするんだ。“マジっスかぁ?大佐”とか言われたら立ち直れんぞ」
「見かけによらず繊細ですね」
 不敬罪に問えない事もない事を平気で口にする辺り流石ハボックの友人だ。普通の人間なら竦み上がるような視線で睨んだが、ブレダ少尉はまるで気にした風もなかった。
「俺が言うのもなんですけど、正直が一番だと思いますよ」
 少尉はそれだけ言うと行ってしまう。
「正直ね……」
 長年こんな生活をしていたお陰で、正直になるにはどうすればいいのか忘れてしまった。私は深いため息をつくと窓の外の青空を見上げた。

 正直になる方法を忘れてしまったからと言って正直になりたくない訳じゃない。なによりハボックの言葉の真意が気になって気になって、私は仕事が手に着かなくなってしまった。
「大佐、こちらの書類は今日までにとお願いしたはずですが」
「あー……そうだったかな」
 ははは、と笑って頭を掻く私を鳶色の瞳が冷たく見下ろす。私は冷や汗を掻きながら書類に手を伸ばすと捲りながら言った。
「明日君が来るまでに君の机に置いておくよ」
「――――よろしくお願いします」
 なんとかそれで手をうってくれたらしい。中尉はファイルを閉じると執務室から出て行った。その背中を見送った私は手にした書類を机に置く。さっさと取りかからなければならないのは判っていたが、私の頭の中はハボックが言った言葉で一杯だった。
『オレからチョコレート欲しいですか?』
 あれから何度もあの言葉の意味を考えたがどうしても判らなかった。仕方がないから何度も直接聞こうと思ったが、結局聞けずに今日まで来てしまった。そして今日はバレンタインデーだ。果たしてハボックは誰かにチョコレートをあげたのだろうか。それともどこかの可愛い女の子からチョコレートを貰ったろうか。
『オレからチョコレート欲しいですか?』
 もしも正直に「欲しい」と言ったなら。
「くそっ」
 堂々巡りの考えはなんと非生産的なのだろう。乱暴に椅子に背を預け書類が乗った机の上に脚を投げ出した時、ノックの音がしてブレダ少尉が入ってきた。
「中尉に見つかったら撃たれますぜ」
 そう言いながら差し出された書類を引ったくり、宙でサインを認める。皺の寄った書類を突き返せば少尉が呆れたように私を見た。
「まだ悩んでるんですか?」
「煩いな」
「素直じゃないっスね」
「悪かったな」
 ムスッとして睨めばブレダ少尉が苦笑する。書類の皺を伸ばしながら少尉は私を見ずに言った。
「もし俺がハボックにチョコレートくれって言ったらくれると思います?」
 突然そんな事を言い出す少尉を私は驚いて見上げる。
「結構くれそうな気もするんですけどね」
「――おい」
 強ちないとは言い切れず私は少尉を睨んだ。
「小隊の連中にも聞いてみろって言ってみますかね、チョコレートくれって」
「――君は私以上に性格がひねくれているな。知らなかったよ」
「長年大佐の部下やってますからね」
 そう言う部下を私は思い切り睨みつける。そうすれば少尉が苦笑して言った。
「いい言葉教えてあげましょうか?」
「聞いてやる」
「正直者は救われる」
「馬鹿を見るんじゃないのか?」
「見ませんよ。正直者の頭には神様が宿るともいうじゃないですか。神様が正直者を救わない筈はないんですから」
 少尉の口から出てきた言葉に私は軽く目を瞠る。それからクッと笑って少尉を見た。
「なるほど」
 そうしてゆっくりと立ち上がる。明朝までの書類はまだ手付かずだったが徹夜でやれば何とかなるだろう。なにより私は救われたかった。
「どんな形になるにせよ、とりあえず救われてくるよ」
「ご武運を」
 お節介な部下はそう言って敬礼を寄越す。私は書類とブレダ少尉を残してハボックを探しに部屋を出た。

 あちこち探して最後に屋上に上れば、手摺りに凭れて煙草をふかすハボックの姿があった。沈みゆく夕日に金髪を色濃く染めて空に上っていく煙を見送るハボックの隣に並ぶ。そうすればハボックが顔を動かさず視線だけ投げて寄越した。
「この間答え損ねた質問の返事だがな」
「時間切れだって言いませんでしたっけ?」
 私に終いまで言わせずハボックが口を挟む。そんな風に言うのを聞けば、どうしてあの言葉の意味が判らなかったのだろうと可笑しくて堪らない。私に負けず劣らず素直でない男にクスクスと笑えばハボックがムッとして私を睨む気配を感じた。
「お前のチョコレートが欲しいんだが。くれたら一割増しで返してやる」
「――――なんスか、一割増しって」
 私の言葉にハボックが訝しげに言う。私はニヤリと笑ってハボックを見ると言った。
「私の方がお前の事を好きだからな」
「――――なにソレ」
 きっぱりとそうつげればハボックが顔を赤らめる。プイと顔を背けたハボックの耳朶が真っ赤に染まっているのを見ながら言った。
「で?時間切れだからくれないのか?」
「まだ時間切れじゃないっしょ?」
 まだバレンタインデーなんだからとハボックは呟くように言う。それから上着の内ポケットに手を突っ込んで中から小さな包みを取り出した。
「オレからチョコレート欲しいっスか?」
「ああ、勿論」
 私がそう答えて手を差し出せばチョコレートの包みが置かれる。
「よかった、アンタが貰ってくれなきゃ自分で食わなきゃいけないとこでしたよ」
「他のヤツにやろうとは思わなかったのか?」
「なんでアンタ以外の奴なんかに」
 私の言葉にハボックが鼻に皺を寄せた。その子供っぽい表情にクスリと笑って私はハボックを引き寄せる。
「大佐?」
「チョコの返事だ」
 私はそう囁いてハボックに口づける。チュッと合わせた唇を離すとハボックが言った。
「普通返事はホワイトデーにくれるんじゃねぇ?」
「これは余分の割増分」
 だからいいんだと言えばハボックがクスクスと笑う。
「好きっス、大佐」
「ああ、私もお前が好きだよ、ハボック」
 鼻先をくっつけて囁きあうと、私たちは何度も口づけた。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、やる気貰ってます、嬉しいですvv

バレンタインデーですね。もー、いい加減ネタがない(苦笑)一体何度目のバレンタイン?何度告れば気が済むんだ、お前ら……な気分です(笑)とりあえず間に合ったからオッケってことで〜v

以下、拍手お返事です。

なおさま

「獣」ふふふ、ゴールデンハボック可愛いと言って下さって嬉しいですvそりゃあもう、ロイ、離れられませんって(笑)「セレスタ」いやあ、なおさまに発狂して頂けるよう、頑張りますよッ(笑)

おぎわらはぎりさま

うおう、ストーブ前が定位置v可愛いなぁvv愛あるイジメ、お待たせしてすみません(苦笑)とりあえず鬼畜メガネを近いうちにお届けできればと思いますv
2013年02月14日(木)   No.294 (カプなし)

獣3
 いつものようにラグの上でのんびりと寝そべっていればパタパタと軽い足音がする。嫌な予感に眉を顰めれば思った通り頭上から声が降ってきた。
『ねぇ、大佐。オレもそこで寝かせてくれません?』
『嫌だ』
 ヤツのお願いに私は即答する。
『お前みたいなデカいのが来たら狭くなる』 
 顔も上げずに素っ気なく言えば「えーッ」と不満の声が聞こえた。
『そのラグ十分広いじゃないっスか。ちょっとそっち寄ってオレも入れてくださいよぅ』
『嫌だ。私は真ん中に寝たいんだ』
 ツンとそっぽを向いて私は答える。だが、ハボックは諦める事なく言った。
『オレもそこで寝たい。そのラグでもふもふあったまりたいっス』
 入れてとハボックが私の体を前脚でユサユサと揺さぶる。私は体を捻るとハボックの脚に噛みつこうとした。そうすれば慌てて脚を引っ込めるハボックに私はフンと鼻を鳴らす。恨めしげに見下ろしてくる空色を横目に見上げて言った。
『お前には自前の毛があるだろうが』
 ゴールデンレトリバーのハボックにはフサフサの長くていかにも暖かそうな毛が生えている。だが、グレイハウンドの私は短毛種だ。だからこの暖かいラグが不可欠なのだと言えばハボックが不満げに口を突き出した。
『毛が長くたってフカフカの寝床は欲しいっス。それに真ん中に寝ようが少し端に寄ろうが暖かさは変わんないっしょ?』
『あのな、私はお前が来る前からこのラグを使ってたんだ。新参者のお前にとやかく言われる筋合いはない』
 このラグは私のものだと宣言すると、私は目を閉じる。流石にもう諦めるだろうと思った私は、いきなり腹の下に押し込まれた鼻先で強引に体を押しやられた。
『おいっ』
『うお、柔らかッ』
 ハボックは私を押しやって出来た隙間に無理矢理大きな体を横たえる。嬉しそうに毛足の長いラグに鼻先をこすりつけるハボックを睨んで、私は言った。
『なに勝手に入ってきてるんだっ』
『いいじゃないっスか。仲良く寝ましょうよ』
『はあ?ふざけるなっ、とっとと出て――――』
 行けと言いかけて、私はフサフサの毛が近くにあると意外に暖かい事に気づく。気持ちよさそうに寝そべるハボックを暫く見おろしていたが、ハボックの体を脚でグイと少しだけ押しやった。
『大佐ァ?』
『狭い。もう少し向こうにいけ』
『オレの方が体が大きいのに』
『文句があるなら出ていって貰うぞ』
 そう言って睨めば、ハボックはブツブツ言いながらも一度体を起こし気持ち端に寄る。まだ多少不満はあったが近ければその分暖かく、だがその事は口には出さずにやれやれとため息をついてみせた。
『仕方ない、それで我慢してやる』
『ほんとっ?ありがとう、大佐!』
 わざとらしく言った言葉に素直に礼を返されて、私は反応に困って顔を背ける。だが、ハボックはそんな事にはまるで気づいていないように言った。
『ふふ、あったかいっスね』
 楽しげな声も聞こえぬふりで狸寝入りを決め込む。そうすればハボックは私の脚にフニッと肉球を押しつけてきた。
『あったかいなぁ』
 欠伸混じりにそう言ったと思うと、あっと言う間に眠りに落ちたハボックの寝息が聞こえてくる。私はハボックの肉球に自分のそれを押しつけると傍らの温もりを感じながら眠りに落ちていった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、励みになりますv嬉しいです〜vv

ええと、今日の更新ですが、間に合いませんでしたー(汗)来客ありの三連休で今日も朝から用事があったもんで、ちょっとばかり無理でした。そんなわけでお休みですー、申し訳ない。

と言ったところで改めまして「獣」です。なんかワフワフづいている(苦笑)今日もネタは頂いたコメントから。ラグに横たわる二匹、美味しく頂きましたッvvこの後爆睡したロイは帰ってきたヒューズに起こされて散々からかわれると思われ(笑)二匹の間で寝たいなーと思いつつ、お楽しみ頂ければv

以下、拍手お返事です。

なおさま

「獣」グレイハウンド、いいでしょう?(笑)うお、60キロも出したツワモノがいるんですか?凄いなぁ。そうそう、決してジジ犬だからではありません(笑)ホークアイが飼い主!それいいなぁvちょっと考えてみようかな、うふふv「セレスタ」ええ、ブラッドレイと私がイキイキしてますよ!(笑)いーやーッ、もう、なおさまそれ言っちゃダメ!(笑)ってか、バレバレ?(笑)まだもう少しブラッドレイが生き生きする予定ですv

香深さま

うふふ、調子に乗って第三弾ですvそして今回もネタ頂きましたッ、いつもありがとうございますv(笑)もう、香深さまの妄想、美味しすぎて(笑)かまくらも書いているところです。今日はそっちにしようと思ってたのに、ラグで昼寝に負けました(苦笑)また何か妄想したら是非囁いて下さいねv
2013年02月12日(火)   No.293 (カプなし)

獣2
 いつものように毛足の長いラグの上でぬくぬくとしていれば、不意にハボックが喧しく吠える声がする。その声がやたらと興奮している時の声だと察すれば、私の眉間に深い皺が刻まれた。
『大佐っ大佐っ大佐っ』
 案の定少ししてハボックが物凄い勢いでリビングに駆け込んでくる。ハボックは私の周りをぐるぐると回りながら言った。
『空から白いフワフワしたものが降ってる!でもって一面真っ白っスよ!すっげぇ綺麗!!なんだろう、アレ』
 ハボックはぐるぐると周りながら一気にまくし立てる。不思議そうに小首を傾げるのを見て、私はラグに寝そべったまま言った。
『なんだ、お前。雪を知らんのか?』
『ゆき?』
 言えばハボックが空色の瞳をぱちくりとする。どうやら全く知らないらしい。私はふわぁと欠伸をしながら説明してやった。
『雨は知ってるだろう?簡単に言えば空の高い所で凍った雨が溶けずに降ってくるのが雪だ』
 詳しく説明したら色々あるが、コイツにはこれで十分だろう。私は持ち上げていた頭を下ろすと目を閉じたが、ハボックの不思議そうな声に閉じた目を開けた。
『これが雨の凍ったもの?こんなに白くてフワフワなのに』
 ハボックはそう言って前脚を窓の桟に乗せて外を覗く。フサフサの尻尾を振るハボックの背中からは外に出たいと訴えるオーラが滲み出ていて、私は慌ててハボックから顔を背けて目を瞑った。
『ねぇ、大佐』
『断る』
 呼びかけただけでピシリと断られてハボックが振り向く。
『まだ何も言ってないじゃないっスか』
『言うつもりじゃなかったのか?』
 言われてハボックは口を噤む。暫く私のことを見つめていたが、窓辺から離れて私の側にやって来た。
『ねぇ、外に行きましょうよ』
『嫌だ』
『雪ん中でもふもふしましょう。きっとフカフカで気持ちいいっスよ』
 そんな風に言うのを聞いて、私は呆れたようにハボックを見た。
『お前、さっき言ったのを聞いてなかったのか?雨が凍ったのが雪だと言ったろう?もふもふなどしたら寒くて凍えてしまうわ!』
『えーッ!あんなに柔らかくて気持ちよさそうなのにッ?』
 ハボックは残念そうに窓の外を見やる。少しして私を見て言った。
『冷たくてもいいや、一緒にもふもふしに行きましょう』
『一人で行け』
『そんな事言わずに、ねぇ、大佐』
 ハボックはそう言って私を起こそうとするように鼻面を私の腹の下に突っ込む。グイグイと腹の下をこすられる感触が擽ったくて、私はガバリと身を起こした。
『やめんかッ』
『はい、行きましょう、行きましょう』
 ハボックはそう言いながら体を使って私を部屋の外へと押し出す。廊下に出ただけでもヒヤリと冷たい空気に『寒い!』と叫べば、ハボックがやれやれとため息を零した。
『寒い寒いってジジ臭いっスね』
『なにっ?』
 聞き捨てならない言葉に私はジロリとハボックを睨む。何も言わず見返してくる空色に、私はフンと鼻を鳴らして玄関に向かった。
 外に出れば目の前は一面の銀世界だ。確かにハボックが騒ぎ立てるのも判る気がして雪景色を眺めていれば、ハボックがそろそろと雪の上に脚を下ろした。
『うおッ?』
 かなり積雪があったようで、ハボックの脚はズボズボと雪に埋もれてしまう。空色の瞳をまん丸にしていたハボックは、次の瞬間にぱぁと笑うと雪の中に飛び込んだ。
『すげぇ、フカフカだぁ!』
 そう叫びながらハボック雪の中を泳ぐように走り回る。見るからに寒そうな姿に呆れたため息をついた私の顔に、ビシャッと雪が飛んできた。
『ッ?!』
 ふるふると首を振って顔にかかった雪を跳ね退けて見れば、ニヤリと笑うハボックと目が合う。してやったりといったその表情に、私はムッと目を吊り上げて怒鳴った。
『よくもやったなッ!』
『ボケーッとして立ってるからっスよ』
『……言ってくれるじゃないか』
 その言葉に私の本能にカチリと音をたててスイッチが入った。
『私に喧嘩を売った事、後悔させてやるッ』
 そう怒鳴ると同時に雪の中に飛び込む。一瞬腹から脳天に冷気が突き抜けたが、雪の中追いつ追われつしなが庭を駆け回っていれば、寒さなどあっと言う間に気にならなくなった。そして。

「なぁ、もしかしてお前ら雪ん中で遊んだのか?」
 帰ってきたヒューズが足跡だらけの庭と雪塗れの私達を見て尋ねた。
『ヒューズさんっ、凄い面白かったんスよ!オレ、大佐に一杯雪かけちゃった!』
「おお、ハボック。楽しかったか、そうか、そうか」
 尻尾を振りながらヒューズを押し倒し、髭面をベロベロと舐めまくって訴えるハボックの頭を撫でながらヒューズが言う。
「お前も楽しかったか?ロイ」
 面白がるように私に問いかけるヒューズに、私はフンと鼻を鳴らすとすっかり冷え切ってしまった体をラグの上で暖めたのだった。


いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても嬉しいですvテンション上がりまくりですvv

東京はまたもや雪です。でも、昼過ぎから雨になってきた事もあって、今回は積もらなそう。よかった〜v毎朝一時間、ウォーキングに行っているので、雪積もるとホント迷惑なんだもん(苦笑)

そんなわけで「獣」です。「妖」でも雪ネタを考えていたのでどっちにしようか迷ったのですが、結局こっちに。雪の中で駆け回る二匹ということで。
でもって、ロイの犬種、教えて下さった皆さま、ありがとうございますーvvネットで教えて頂いた犬の顔を見てきて「おお〜、こんな子vv」と一人はしゃいでました(笑)どの子もそれぞれに可愛くてどの子でも有り得そうで、ものすごーく悩んだのですが、グレイハウンドの黒い子がいいかなぁ……。“その速さは「閃光」、優雅さは「燕」、賢さは「ソロモン王」に例えられてきた犬で細身の筋肉質、無駄な肉がなくスピード感に溢れた犬種”なんだそうですよ。でね、「世界で最も足の速いカウチポテト」と呼ばれてるんですって!思わず「ロイじゃん!」って思っちゃった(笑)そんなわけでロイはグレイハウンドってことでv教えて下さった皆さま、本当にありがとうv

以下、拍手お返事です。

なおさま

うふふ、ゴールデンハボック飼いたいでしょ?(笑)犬ってなんか物凄く人間臭いところありますよね(苦笑)甲斐犬、おお、本当に虎模様!イケメン〜vでも、中型犬なんですね。うーん、やっぱりハボに負けない大きさが欲しいかなぁ……。「セレスタ」ふふふ、いつもいいところ突いて下さるなぁ、なおさまのコメントv読みながら私も思わずニヤついてしまいましたよ(笑)どうぞ続きをお楽しみにv

香深さま

えへへ、てしてし、楽しんで頂けて良かったですーv調子に乗ってまた書いてしまいました。尻尾もご了解頂いたので絶対書こうと思います(笑)今日は火鉢で2人inかまくらとどっちにしようかと迷ったんですよね。「獣」にしてしまいましたが「妖」の二人も好きなので結局書くと思います(苦笑)コメント頂くと本当に嬉しくて一つ一つ返さずにはいられません。鬱陶しいと思われるかなぁと思いつつ、だって嬉しいんだものv更新、きゅぅ〜としながら待って頂いていると思うと、「よっしゃ!」っていう気持ちになります。これからも頑張りますねv

わんこ話可愛かったですv の方

可愛かったですか?ありがとうございます〜v確かに大佐は猫のイメージの方が強いですよね。でも、ここはワンコ二匹で行きたかったので、敢えて犬で!(笑)狼犬の黒い子にも凄く心惹かれました!孤高なイメージがロイっぽいとも思ったのですが(汗)考えて下さってありがとうございますvまた何かありましたら是非教えて下さいねv

『獣』微笑ましくていいですねv の方

えへへ、微笑ましいなんて、なんかくすぐったいです、ありがとうございますv犬種も色々教えて下さってありがとうございます!結局悩みに悩んでグレイハウンドがいいかななんて思いましたvアイリッシュ・セターもよかったのですがやはり短毛種がよかったので…。また何かありましたら是非教えて下さいませv

おぎわらはぎりさま

シェルティー!小さい頃、近所で飼っているおうちがあって、いつも「可愛いなぁ」と眺めておりましたよ(笑)男性には噛みつくけど女性は噛まないって、いいなぁ、その子(笑)個人的には好きな子ですが、今回はやはり短毛種にこだわりがあったので……。また何かありましたらどうぞよろしくお願いしますv
2013年02月06日(水)   No.292 (カプなし)

 まだ窓越しの陽射しも弱い朝早い時分、少しでも温もりを得ようと毛足の長いラグの上に横たわっていれば、パタパタと足音がする。微かに爪が当たる音の混じるそれに眉間に皺を寄せれば、頭上から声がした。
『外に行きません?外』
 そう言われて片目を開けて見ると金色の毛並みのレトリバーが私を見下ろしている。フンと鼻を鳴らして目を閉じれば、ソイツは前脚を私の背に乗せてユサユサと揺すった。
『ねぇ、行きましょうよ。今日は寒いから霜柱がいっぱいできてるっスよ』
『霜柱ができる程寒い所にどうしてわざわざ出て行かねばならんのだ』
 冗談じゃないと顔を背ければソイツはガッカリとしたようにため息をつく。私の背に乗せていた足を下ろして言った。
『仕方ないっスね。アンタはオレより年寄りだから寒いとこは体に悪いっスもんね』
 一人で行ってきます、とため息混じりに出て行こうとするのに、私はガバッと起き上がって引き止める。振り向く空色に私は目を吊り上げて言った。
『誰が年寄りだッ!私は寒いのが苦手なだけだッ!』
『犬なのに?』
『私は繊細なんだッ』
 フンと鼻を鳴らして私はソイツの側をすり抜け玄関へと向かう。そうすれば『外行くの?行くの?』と、楽しそうにワフワフ言いながらソイツが纏わりついてきた。
 最近我が家に新参者がやって来た。何を思ってか人間(ヒューズ)が馬鹿デカいゴールデンレトリバーを連れてきたのだ。ハボックという名のソイツはやたら人懐こく、昼間は広い家に私一匹の気ままで優雅な生活は一変してしまったのだった。
『うっ』
 玄関を出た途端吹き付ける冷たい風に、私は思わず足を止める。だがハボックは私の横を走り抜けると、嬉しそうに冷たい空気を吸い込んだ。
『空気がキンとしてすっごい気持ちいいっスね!』
『クソ寒いだけだろう』
 尻尾を振って空を見上げるハボックにボソリと答えて私は一歩踏み出す。そうすれば腹の下を冷たい空気が通り抜けて、私は頭から尻尾へとぶるりと大きく震えた。
『あっ、ほら、霜柱っスよ、ロイ!』
 ハボックが庭の土を持ち上げている霜柱を見つけて言う。親しげに名を呼ばれて、私は思い切り眉間に皺を寄せた。
『私の事は大佐と呼べ』
『えーっ、ヒューズさんだってロイって呼ぶじゃん』
『私の名はロイ・マスタング大佐だ。大佐と呼べ、新参者の少尉め』
『ケチ』
 ブーブーと不満を言う鼻っ面に一発パンチを食らわせれば、ハボックが空色の瞳に涙を滲ませて私を見る。しょぼんと項垂れて私の側を離れたハボックは、だが足元でサクッと霜柱が音を立てると、顔を輝かせて私を見た。
『見て見て、大佐、霜柱っスよ!』
 ハボックはそう言うと前脚の肉球で霜柱をぺしぺしと叩く。そうすればハボックの肉球の下で霜柱がサクサクッと鳴った。
『おもしれぇ……、大佐っ、ほら、大佐もやってみて』
『嫌だ、肉球が冷たくなってしまう』
『そんな事言わずに、楽しいっスよ』
 ハボックはそう言いながら霜柱をてしてしと踏み潰す。そのたびハボックの肉球の下で霜柱が答えるように鳴った。
『楽しい〜っ』
 ハボックは空色の瞳をキラキラと輝かせて霜柱の上を歩く。その楽しげな様子を見ていれば、俄かに興味が湧いてきて私は肉球で霜柱を叩いてみた。
 てし。
 サク。
 てしてし。
 サクサク。
 …………面白い。
 てしてしてし。
 サクサクサク。
 てしサクてしサクてしサク。
 てしてしてしてし。
 サクサクサクサク。
 単純だが不思議と面白いそれに思わず我を忘れててしてししていれば、不意に背後から声が聞こえて私は持ち上げた脚をそのままに凍りついた。
「へぇ、珍しいな、ロイ。お前がそんな事するなんて」
 面白がるような声に上げた脚を下ろしゆっくりと振り向く。すると玄関の扉に寄りかかるようにしてヒューズが立っていた。
『あっ、ヒューズさんだ!ヒューズさん!』
 ヒューズがいることに気がついたハボックが、尻尾を千切れんばかりに振って駆け寄っていく。ワフワフと纏わりつくハボックの頭をガシガシと乱暴に撫でて、ヒューズは言った。
「おお、ハボック。お前はいつも懐こくて可愛いな」
『ヒューズさん、遊ぼっ』
 乱暴な可愛がり方にも、ハボックは嬉しそうに目を細めてヒューズに擦り寄る。そんな一人と一匹をジロリと睨めばヒューズが苦笑した。
「お前ももう少し愛想よくしろよ、ロイ」
『何故私が人間如きに愛想良くせねばならんのだ』
 私はイーッと牙を剥くと玄関に向かって歩き出す。途中、ヒューズの靴で汚れた肉球をゴシゴシと拭いた。
「俺はお前のそういうオレ様な所が好きだぜ?」
 そんな事を言うヒューズにフンと鼻を鳴らして私は家の中に戻る。背後ではハボックがヒューズに遊んで貰おうと、デカイ体で体当たりしていた。
 私はリビングに戻ってくるとラグの上に横たわる。まったく、朝からくだらない事をしてしまった。ハボックが来てからというもの、どうもペースを乱される事が多すぎる。少し反省しなければ。
 私はすっかり冷え切ってしまった肉球をラグの上で温めながら、ハボックのはしゃぎ声を耳にそっと目を閉じた。


いつも遊びに来てくださってありがとうございます。拍手本当に嬉しいです。テンションあがります、ありがとうございますvv

完全に獣のロイとハボックです。拍手でそんな二人が気になるとコメント頂いたのですが、「肉球でてしてし。とかフワフワ毛並み。とか」って……もう頭がてしてしで一杯になっちゃいまして(苦笑)そんな訳でワンコな二人v ロイもこの話は猫でなくワンコです。ハボは毛並みもフワフワなゴールデンレトリバーなのですが、ロイの犬種は実はまだ決まってません。顔の尖った黒色短毛種でレトリバーと同じくらいの大型犬って……なに?(苦笑)それこそドーベルマン位しか浮かばない。どなたかこれはという犬種があれば教えてください(笑)ちなみに飼い主はヒューズ。自分が中佐なので飼い犬達に大佐だの少尉だのつけて楽しんでます。もっともロイは飼われてる気はないと思われ(笑)飼い主を中尉にする事も考えましたがそれだとロイが気ままに振る舞えないので(苦笑)そんな訳で「私が飼いたいよ」なワンコ達です。

以下、拍手お返事です。

なおさま

よかった、髭かぶってませんでしたか。どうも記憶力がなくて(苦笑)ふふふ、やはりハボは犬属性ですよね!続きも早めにお届けしますね。「久遠」好き勝手し放題のウルフです(笑)判って貰えず辛そうと思って頂けるなら話としては成功と言えるのかな(笑)そんなハボを楽しんで下さったら嬉しいですv

おぎわらはぎりさま

うふふ、髭でテンション上がって下さって嬉しいです。苛められるハボを楽しみにお待ちくださいませ(笑)

香深さま

頂いたコメントを読んでいたら妖の二人がかまくらの中で火鉢囲ってる姿が浮かんでしまいました(笑)一応日本の話じゃない筈なんですが、何故か和風なイメージですよね、何故かしら(笑)「初詣」ああ、そんなハボックも凄い可愛い!チラ見ハボック、想像すると顔がニヤけちゃいます(笑)はぼっく。になってくはぼっく…それが「新・暗獣」なのかなって思ってます。今回のシリーズではロイと一緒に色んな事見て、感じて欲しい。ロイにも一杯独占欲を発揮して欲しいです(笑)でもハボが出てきた経緯を考えれば独占欲なんて必要ないんですけどね(苦笑)一夜の夢は……ふふふ、お楽しみに!(笑)「セレスタ」は一杯心配して下さい。まだまだこれからなので!(笑)私も今日、本屋で背表紙のハボを眺めてきましたよ。うん、やっぱり大好き。何年経っても冷めないどころか益々好きになる気がします(笑)そして、獣化!てしてしにヤられて思わず書いてしまいました。いつも勝手にネタにしてしまってごめんなさい(汗)でも香深さまのコメントって物凄く私の萌えツボを刺激するんですもの!嬉しくてつい(苦笑)尻尾ネタも書きたいのだけどいいですか…?こちらこそ変わらず遊びにきて下さって本当にありがとうございます!今年もどうぞよろしくお願いしますv

『久遠の空』ハボ→ロイ←ウルフかと思いきや の方

うふふ、楽しんで下さってますか?嬉しいですーv この先も楽しんで頂けるよう頑張りますね!

紅さま

こんにちは、はじめまして!遊びに来てくださってありがとうございますv えへへ、ハボックに悶えて下さって嬉しいですーv デカいけど可愛いを目指しているので可愛いは最高の褒め言葉です、ありがとうございます!「初回衝撃」は私自身続きが書きたい話の一つなので、機会があればメロメロになるハボをお届け出来ればと思っています。これからも可愛いハボックを一杯書いていきますので、どうぞお付き合いの程よろしくお願いしますv
2013年02月01日(金)   No.291 (カプなし)

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