「綺麗な月っスね」 そう呟く声が聞こえて本から顔を上げれば、窓辺に佇む彼の姿が目に入る。その寂しげな横顔に胸がチクリと痛んで、私は立ち上がると殊更明るく言った。 「一杯やるか?今夜は十六夜だろう?」 そう言って近づいていく私を彼は意外そうに見る。 「あれ?覚えてたんスか?」 そういうの、興味ないくせにと彼は目を細めてからかうように言った。私は軽く彼を睨むと戸棚の中からグラスと酒の瓶を取り出す。つまみと言えばチーズとナッツくらいしかないと言えば彼がそれで構わないというので、トレイに載せて外へ出た。 「ああ、夜は随分涼しくなったっスね」 「そうだな」 晴れれば昼はまだ陽射しも強く汗ばむ陽気だが、日が落ちれば夏とは違いいつまでもその熱気が残ることもない。彼が運んできた小さなテーブルにトレイを置くと、私と彼は直接芝生に腰を下ろした。 「本当に綺麗だな」 「でしょう?」 空を見上げて言えば彼が自慢げに言う。 「オレは十五夜より十六夜の方が好きだな……」 月明かりの下黙ったまま酒を酌み交わしていると、そう呟いた彼の瞳がここにはいない誰かの面影を追っているように思えて、私は乱暴に彼の腕を引いた。 「うわっ」 グラスを持っていた手をいきなり引っ張られて、大きく揺れたグラスから酒が零れる。責めるように見つめてくる空色を見返して、私は言った。 「誰のことを考えている?」 「えっ?」 そう尋ねられて彼は目を見開く。答えられずに見開く空色を睨むように見つめて私は言った。 「今ここにいるのは私だ。他の奴のことを考えるのは────」 やめろと言いかけて、私は言葉を飲み込む。そんな私をじっと見つめて彼は言った。 「どうしてやめるんスか?言えばいいじゃないっスか。他の奴のことを考えるな、私の事を考えろって。アンタはオレの名前を持ってるんスから」 そう言う彼を私は思いきり睨みつける。名前で縛って意に添わせる事など私は望んでなどいない。それは彼にもよく判っているはずで、そんなことを言い出した彼が赦せなかった。 「お前は」 呻くように言って腕を掴んだ手に力を込めれば、私を見つめていた彼の瞳が揺らぐ。それに構わずグイと腕を引くと、逆らわずに近づいてきた彼に向かって私は身を乗り出した。 「ッ」 ほんの一瞬唇が掠めて、焦点があわないほど近づいた彼の瞳が大きく見開く。ドンと私を突き放した彼の顔が泣きそうに歪んだと思うと、パアッと庭先を金色の光が包んだ。次の瞬間金色に輝く犬が庭を駆け抜け、最後に大きく跳ねるとその姿が闇に溶け込むように消える。そうして。 気がついた時には、月明かりが降り注ぐ庭に私は一人取り残されていたのだった。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、とっても励みです、嬉しいですv
久しぶりの「妖」です。昨日が十六夜だったので普通にお月見の話を書くつもりが気がつけばこんな展開に……(苦笑)どうするんだ、この先(爆)
んで、今日の更新、やっぱり「セレスタ」だけになりますー。「フレアブルー」も努力したんですが間に合いませんでした(苦)次の更新こそハボロイも頑張りますッ!
以下、拍手お返事です。
なおさま
きっとロイは耳聡くヒューズの足音を聞きつけて、直前に吠えるのやめるんですよ。でもって夢中で吠えてたハボだけ怒られてる間にロイはのんびりラグでお昼寝。後できっとハボックに文句タラタラ言われると思います(笑)
陽花さま
ラブレターありがとうございます!わあ、ハボロイ、読んで下さってますか!嬉しいですーv凄く久しぶりにハボロイの方からコメント頂いて感激ですvでも、今日はどうにも時間のやりくりが間に合わなくて「フレアブルー」書きあがりませんでした…orz 次回更新はハボロイも頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願い致しますv
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