ハボロイ風味
「ふぅ……」 外から吹き込む風がカーテンを揺らす窓辺の椅子に腰掛けたロイは、読んでいた本から目を上げてため息をつく。夏の午後、真っ青に晴れた空を見上げれば今ここにはいない相手の顔が浮かんで、ロイは慌てて視線を本に戻した。 八月六日の今日、語呂合わせで二人の記念日だと騒ぐハボックと休みを取って一緒に過ごす約束をしていた。記念日だなんて馬鹿馬鹿しいと言いつつ、それでも仕事をやりくりして休みを取ってみれば当のハボックが急な仕事で出勤しなくてはならなくなってしまったのだった。 『すんません、一緒に休みとるはずだったのに……。でも、ソッコー終わらせて帰ってくるんで待っててくださいね!』 そんな風に言って飛び出していったハボックの声が蘇ってロイは緩く頭を振る。青い空に背を向けてロイはボソリと呟いた。 「記念日だなんて、馬鹿じゃないのか?そもそもこんな関係、いつまで続くかだって判らないじゃないか」 気がつけばいつの間にか好きになっていた。それでもハボックの好みは可愛いらしい女の子だとよく知っていたから、絶対に叶うはずのない恋だと思っていたのに。 『好きですッ、オレとつきあって下さいッ!』 真っ直ぐに気持ちをぶつけられ、とても誤魔化す事など出来なかった。信じられない気持ちで差し出された手を取って、好きで好きで堪らないと思うと同時にこの関係がいつまでも続くとは思えなくて。 「記念日だなんて今年は騒いでも、来年になったらもう私の事なんてどうでもよくなってるかもしれないんだから」 ハボックを失うのを恐れるあまり、ハボックがいなくなったときの事をロイは今から考える。もう要らないと言われるその時を思って、ツキンと痛む胸をロイがそっと押さえた時。 ガチャガチャと鍵を開ける音に続いて乱暴に扉が開く。バタバタと階段を駆け上がる足音が部屋の前で止まって、ハボックが飛び込んできた。 「ただいまッ!お待たせしました、大佐!」 「────おかえり」 ハアハアと息を弾ませるハボックにロイは目を丸くして答える。大きく息を吐いて呼吸を整えると、ハボックはロイに近づいてきた。 「午前中で終わらせるつもりだったんスけど、すんません、遅くなっちゃって」 「構わないさ。別に記念日でもなんでもないんだから」 「あー、もうっ!すぐそう言うこと言う。拗ねてんスか?ロイってば」 二人きりの時だけ使う呼び方で顔を覗き込んでくるハボックに、ロイは目尻を染めてハボックを押しやる。「別に拗ねてなんかない」とプイと顔を背けるロイにクスリと笑って、ハボックは懐から小さな包みを取り出した。 「はい、これ。二人の記念日に」 「え?」 包みを差し出されて、ロイは不思議そうにハボックを見上げる。「ほらほら」と包みを振られてロイは仕方なしに受け取った。 「開けて開けて」 ニコニコと笑って促すハボックに、ロイは包みを開ける。そうすれば中から意匠を凝らした万年筆が出てきた。 「……凄い、どうしたんだ?これ」 その素晴らしさに目を瞠ってロイが言う。ハボックは自慢げに笑って言った。 「いいでしょ、それ。一本一本職人が手作りするんスよ。すっげぇ人気で出来るまで一年待ち」 「一年?」 「そ。去年の今頃知って、一年なら丁度いいなって」 そんな風に言うハボックをロイは驚いて見つめる。 「丁度いいって……私たちが今年もこうしているかなんて、そんな保証どこにもないじゃないか。もしかしたら他の誰かと────」 「そんなことあるわけねぇっしょ」 言いかけたロイの言葉をハボックはきっぱりと否定した。 「今年も来年もそのまた来年も、ずっとずっとオレは大佐が好きっスもん。だから毎年一緒に記念日過ごしましょう」 ね?と笑う空色をロイは目を見開いて見つめる。ギュッと万年筆を握り締めて、ロイはプイと顔を背けた。 「馬鹿じゃないのかっ、記念日なんてっ」 「馬鹿でもいいっスよ。だって、オレの大好きな大佐との記念日、素敵っしょ?」 ハボックは言ってロイに手を伸ばす。背けたロイの顎を掬ってその顔を見つめた。 「好きっスよ、大佐。ずっとずっと大好き。なにがあってもオレは大佐の側にいますから」 そんな風に言って笑うハボックにロイは胸が締め付けられる。 「来年の記念日にはなにを用意しようかなぁ。ねぇ、なにがいいっスか?ロイ」 「知るかっ、自分で考えろ」 「そっスね。じゃあ一年じっくり考えます。でも、その前に」 と、ハボックはロイを真っ直ぐに見つめる。 「愛してます、これからもずっと一緒にいてくださいね」 「────馬鹿っ」 本当はそう言いたいのは自分の方なのに、素直に言葉に出来なくて。 「ふふ……ロイの“馬鹿”は“大好き”って意味っスよね」 「ッ、馬鹿ッ」 「はいはい、判ってますって」 くしゃくしゃに顔をしかめて「馬鹿」と繰り返す唇に優しく降ってくる口づけを受け止めて、ロイはハボックをギュッと抱き締めた。
いつも遊びに来て下さってありがとうございます。拍手、本当に励みになります、嬉しいですーv
ハボロイの日ですね!なんとか振り絞って書いてみましたが、なにやらよく判んない話ですみません(汗)ハボが好きだけど素直に言えないロイの話……のつもり(苦笑)昔よく書いてた気がしなくもない、所謂王道?(笑)
以下、拍手お返事です。
阿修羅さま
毎日本当に暑いですねぇ、頭煮溶けちゃいますよ(苦)年配の方には本当にしんどいと思います。お母様も阿修羅さまもお体大切になさってくださいね。ニアピン、それでは受けさせて頂きますー。なんかもうお待たせしっぱなしでホントごめんなさい(汗)早くお届け出来るよう頑張ります!
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