5.秋の雨降り
シトシトシト。 窓の外に目をやれば灰色の空から雨が降ってくる。秋の長雨とはいえ、もう三日も降り続いている雨によく降るなぁと思っていると、ソファーにだらしなく寝そべって本を読む人がウンザリしたようなため息を零した。 「――――なんだ?」 零れたため息に“ウンザリ”と書いてありそうな程気持ちのこもったそれに思わずクスリと笑えば、途端に黒曜石の瞳が睨んでくる。オレは咥えていた煙草を指で挟んで答えた。 「いやだって本当に嫌そうなため息だったから」 「本当に嫌なんだから当たり前だろう?もう何日降ってると思ってるんだ」 「今日で三日っスね」 「真面目に数えるんじゃない」 聞かれたから答えたのにそんな事を言うなんて理不尽だ。そう思いながら見つめるオレに、彼は決まり悪そうに目を逸らした。 「バケツの底が抜けちまったみたいっスね」 空のバケツの底が抜けたせいで雨がやまないのかもと冗談めかして言えば、彼が思い切り顔をしかめる。 「空のバケツは誰が修理するんだ、誰が」 「――――神さま?」 「一番信用ならん奴だな」 少し考えて口にした答えに無神論者の彼がピシャリと言って空を睨んだ。 「そんな奴に任せるくらいなら私が修繕してやる」 「えっ?ちょっと?」 言うなりソファーから立ち上がり彼は窓辺に歩み寄る。長雨でここのところ開けていなかった窓を開けると、懐から取り出した発火布をシュッと嵌めた。 ――――ああ、こういうちょっとした仕草がカッコいいんだよ、この人。 錬成陣が描かれた白い手袋を嵌めた手を胸元に寄せて空を睨む彼の姿に思わずオレはうっとりしてしまう。……って、いやいや、そんな場合じゃない。幾ら彼が名だたる錬金術師でも天候までは操れないだろうと止めようとするより一瞬早く、彼は腕を伸ばすとパチンと指を擦り合わせた。 バチッと見慣れた錬成光が雨を煌めかせて空へと駆け上る。そんな事は起こり得ないと判っていてもつい空を見上げたが、やはり雨が止むことはなかった。それどころか。 「雨、強くなってないっスか?」 さっきまではシトシトと降っていた雨が俄かに激しさを増して降ってくる。オレは雨が降り込んでこないように慌てて窓を閉めた。 「バケツの底直すどころかバケツそのものを壊したんじゃねぇの?」 「知るか」 彼は不機嫌にそっぽを向くと手袋を外して懐に突っ込み、ソファーにドサリと腰を下ろす。 「フン」 と、悔しそうに鼻を鳴らしてゴロリと寝そべり背もたれの方を向いてしまった。 「コーヒー淹れるっスね」 不貞腐れた彼の様子に思わず零れそうになる笑いを噛み殺してオレはキッチンに向かう。コーヒーを落とし彼の為にはミルクと砂糖を多めに入れるとリビングに戻った。 「どうぞ」 言ってカップをテーブルに置く。ほんの少し無視を決め込もうとして、それでもやはりコーヒーのいい香りには抗えないと言うように起きあがると、表情だけはムッとしたままカップに手を伸ばした。 「――――旨い」 「どうも」 礼代わりの褒め言葉にオレは笑って答える。彼は窓の向こうを見やって言った。 「折角の休みが雨のせいで台無しだ。散歩にも行けやしない」 「晴れてたって散歩になんか行きやしないっしょ、アンタ」 「そんな事はない。雨だから仕方なしに本を読んでるんだ」 絶対本心じゃないと思ったのが伝わったのか、彼がムッと鼻に皺を寄せて尚も言おうとした、その時。 サーッと部屋の中に陽射しが射し込んでくる。驚いて窓に目をやれば、さっきまで降っていた雨がやんで陽が射していた。 「晴れてる……」 呟いて俺は立ち上がると窓に寄る。窓を開ければ雲の切れ間から青空が覗いていた。 「バケツの底、直ったみたいっスね」 オレは開けた窓から顔を出して空を見上げる。まったくバケツを直したとしか思えない程雨は見事にやんでいた。 「神さまとやらよりよっぽど頼りになるだろう?」 ニヤリと笑って彼は自慢げに言う。雨上がりの空気は柔らかくてオレは陽射しが零れる空を見上げて言った。 「折角バケツを直して貰った事だし、散歩に行きましょうか」 「えッ?!」 ギョッとしたような声に振り向けば本に手を伸ばしかけたまま固まる彼と目が合う。オレはニヤリと笑って言った。 「晴れてたら散歩に行くって言いましたよね?」 「ウ……ッ」 流石に言い逃れ出来ずに口ごもる彼にクスリと笑って窓の外を見る。 「もう本はたっぷり読んだっしょ?外は気持ち良さそうだし――――あ」 彼を散歩に誘い出そうと言葉を重ねようとしたオレは庭に敷き詰めたように降り積もった落ち葉に目を瞠った。 「すげぇ、真っ赤な絨毯みたいっスよ」 オレは言って彼を手招く。面倒くさそうにしながらも窓辺にやってきた彼も窓から見える光景に目を見開いた。 「雨で散ったのか。見事だな」 「きっと公園はもっと凄いっスよ。ねぇ、散歩行きましょう、散歩」 きっと公園は降り積もった落ち葉が綺麗な絨毯を描いているだろう。オレは窓辺に立つ人に散歩に行こうと強請る。 「仕方のない犬だな」 そんなオレにため息を零しながらも嫌とは言わずに。 「コートを取ってこい」 「イェッサー!」 笑う黒曜石に答えてオレは部屋を飛び出した。
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お題五つ目「秋の雨降り」です。秋の……って割にあまり季節感がない気がする(苦笑)お題を書いていていつも思うのですが、お題を考える方って何をイメージしてお題を考えてるのかなぁ……。きっと私が書いたのは全然イメージ違うだろうなって思います(苦笑)
以下、拍手お返事です。
なおさま
おお、蒸し焼き芋vvすっごい美味しそうです!ああ、食べたくなってきちゃった(笑)ザクロ、うわ、そんなドラマあるんですか?滅茶苦茶怖そうです……(苦)確かにロイとかハボとか筋肉凄くて噛みごたえありそう(爆)
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