「ブレダ少尉〜ッ!」 バンッと司令室の扉が開いて髭面の上司が飛び込んでくる。書類を書いていたブレダは思わず力が入った弾みに潰れてしまったペン先を見て、低く呻いた。 「少尉っ、聞いてくれよッ」 真っ直ぐにブレダの所に向かってきたヒューズは、ブレダの机に思い切り両手をつく。ヒューズの手の下で書類がクシャリと歪むのを見て、ブレダは慌てて書類を助け出した。 「はいはい、今度は何です?可愛いジャンくんになにかありましたか?」 この上司がこんな顔で聞いてくれと言えば、その話は99パーセント愛息子のジャンの話に決まっている。ヒューズの子煩悩ぶりは司令部でも有名で、その話の熱烈さ故、今ではヒューズの話を聞いてくれるのはブレダくらいなものだった。 「何かあったなんてもんじゃねぇよ!俺は凄いショックで!!」 どれほどショックを受けたか切々と語る上司の話をこれも給料の内とブレダは耳を傾ける。行儀よく聞いていれば話は漸く本題に入って、ヒューズは涙を拭うフリをした。 「ジャンが幼稚園で好きな子が出来たって話はしただろう?」 「ああ、ロイって子でしたっけ?黒髪黒目の可愛い子」 ブレダは以前聞いた話を思い出して言う。ロイはジャンの一つ上で、ジャンが入園した直後からなにくれと面倒をやいてくれ、その優しさにジャンはすっかりロイの事が好きになってしまったらしかった。 「そう、あのタラシのガキをジャンが好きだって言い出しただけでもショックだったって言うのに…!」 自分で話に出しておきながらロイの事を思い浮かべて一通り罵るのを適当に聞き流してブレダは話を促す。そうすればヒューズは眉を顰めて言った。 「それがな、ジャンの奴、他にも好きな奴が出来たらしいんだよ」 「へえ、そりゃ」 二股ですかと言いかけてブレダは言葉を飲み込む。ヒューズはブレダが言おうとしたことには気づかずに話を続けた。 「年少に入ってきた奴なんだがな、エドワードっていう金髪金目のガキでよ、コイツが利かん気で騒ぎばっかり起こしてて」 ついほっとけなくて面倒を見ているうちに絆されてしまったらしい。エドワードの方も満更ではないらしく、いまではロイと三角関係のようになってしまったということだった。 「なあ、どうしたらいいと思うっ?!」 「どうと言われても」 たかだか幼稚園に通う子供の言うことだ。微笑ましいと見守っておけばいいのではとブレダが思っていると、ヒューズが拳を握り締めた。 「しかもしかもジャンってば二人と結婚するって言い出して!その上、その事は俺には内緒にしてねってグレイシアに言ってたんだッ!小さい頃は俺と結婚するって言ってたのにそれなのにッ!!」 このままじゃ他の男のものになってしまうと嘆き身悶える髭面の上司をブレダはげんなりと見つめる。 (今からこんなで将来どうするんだ) ジャンが年頃になったらそれこそ血を見るんじゃなかろうかとブレダが心配になってきた時、司令室の扉が開いて小さな姿が駆け込んできた。 「パパぁ」 「ジャンっ」 抱きついてくる小さな体をヒューズは両腕を広げて受け止める。頬ずりされて痛いと笑うジャンを見て、ブレダは言った。 「連れてきてたんですか?中佐」 幾ら家族とは言えこれでは公私混同ではないのだろうか。思わずブレダがそう言えば、ヒューズが口を尖らせて言った。 「だってパパがお仕事してるところが見たいって言うんだもんっ」 可愛い息子を抱き締めてカワイコぶりっこで言う髭面の男にブレダは脱力してしまう。すると、ヒューズに抱き締められていたジャンが言った。 「違うよ、パパ。パパのお仕事見たいって言ったのはロイだもん」 ジャンはそう言ってヒューズの腕から抜け出しピョンと飛び降りる。司令室の扉から顔を出すと外に向かって声をかけた。 「ロイ、入っていいって」 そうすればどうやら外で行儀よく待っていたらしい黒髪の男の子が入ってきた。「俺はいいなんて言ってない」とヒューズがぼそぼそと言うのは聞こえないフリでロイはにっこりと笑った。 「お忙しいのにワガママをきいて頂いてありがとうございます。ロイ・マスタングです。ジャンがいつもパパは凄い仕事をしているんだと自慢するので、是非拝見したくて」 とても幼稚園に通う子供が言いそうもないことを口にしてロイはヒューズを見る。挑戦的なその視線にヒューズがムッとして睨みつけた時、バタバタと足音がしてもう一人子供が飛び込んできた。 「ジャン!ここにいたのかっ!迷っちまったぜ」 「エド」 金髪金目の子供は司令室に入って来るなりキョロキョロと辺りを見回す。ヒューズが自分を見ている事に気づいてニッと笑った。 「アンタがジャンの父ちゃん?俺、エドワード・エルリック。将来ジャンのダンナになる男だから」 ヨロシク、とピッと敬礼もどきの合図を投げてくるエドワードにヒューズのコメカミがヒクつく。それを聞いていたロイがヒューズより早く不愉快そうに言った。 「聞き捨てならんな、ジャンと結婚するのは私だ」 「はあ?なに言ってんだよ。ジャンと結婚すんのは俺に決まってんだろ!」 ロイの言葉にすぐさまエドワードが言い返す。私だ、俺だと言い争う子供達を震える拳を握り締めて聞いていたヒューズが、カッと目を見開いて言った。 「ふざけるなッ!可愛いジャンをお前らなんかにやれるかッ!ジャンはなぁ、パパのお嫁さんになるって言ってるんだよッッ!!」 「そんなのガキの頃の戯言だろッ!ジャンは俺と結婚するって言ったんだ!」 「なにを言う!私とジャンは一年前から婚約中だッ」 ギャアギャアと言い争う三人をジャンがオロオロと見つめる。何とか止めようとしていたジャンはスラリとした美人が扉から顔を覗かせたのに気づいて駆け寄った。 「ママ!」 「ジャン、勝手に行っては駄目でしょう」 グレイシアは駆け寄ってきた息子を抱き上げて言う。なにやら疲れきった表情をしているブレダに気づいてグレイシアはすまなそうな顔をした。 「ごめんなさい、ちょっと目を離した隙に勝手に行ってしまって……。ご迷惑かけませんでしたか?」 どうやら今日はグレイシアがヒューズの許可の元、ジャン達三人を連れて司令部に来ていたらしい。アンタのダンナが一番迷惑だと言いたいのをこらえて、ブレダは引きつった笑みを浮かべた。 「ママぁ、結婚の事はパパには内緒なのに二人が言っちゃった!」 「あら、それじゃあさぞかし」 大変な事に、とヒューズの方へ視線を向けたグレイシアは幼稚園児と本気で言い争っている夫の姿にため息をついた。 「いつもご面倒をかけているみたいで」 「いや、これも仕事の内ですから」 毎度夫がその部下であるブレダに迷惑をかけているらしい事を察してグレイシアが言えばブレダがアハハと笑う。 「ママ、どうしてパパが迷惑なの?」 不思議そうに首を傾げる無邪気なジャンに、お前のせいだとは流石に言えないグレイシアとブレダだった。
いつも遊びに来て下さってありがとうございますv拍手、励みになります。嬉しいですv
【ハボロイリレー小説部屋更新のご案内】 「volere」第一章出会い編第二話、みつき分更新されています。
拍手で幼稚園のお子さんが二人好きな男の子がいて、選べないので両方と結婚するって言ってるって話を伺ったもので、早速ネタにしちゃいました。気の多いロイとヤキモチハボの話でもよかったんですが、なんかヒューズを出したら話が妙な方向へいってしまった(苦笑)男同士でと言うところは目を瞑って頂けると。罪作りな子ハボの話(笑)しかしタイトル思いつかなかったよ(苦笑)
以下、拍手お返事です。
風汰さま
おおお、今頃の到着ですか??風汰さまのところならそんなに日数かからずに届く筈なのに、ど、どこを彷徨っていたんだろう……(汗)ともあれ、無事お手元に届いてよかったですぅ。お楽しみ頂けたらなお嬉しいです。11.5巻、手に入れ損なう事のないよう、ちゃんと初日に見に行ってきましたよ!(笑)も〜〜〜〜ッ、ハボックーーーーッッ!!って叫びたくなりますよねッッ!!ちなみにうちには11.5巻、今のところ三冊ありますよ(笑)
naoさま
ありがとうございます。おかげさまでなんとかここまでやってこられてます。これからもどうぞよろしくお願いしますねvそれにしても本当に毎日暑いですねー。私も息子が夏生まれなので、抱っこしてると腕に汗かいちゃうのでいつもタオル挟んで抱っこしてました(苦笑)下着で転がしておいても風邪をひく心配はないけど、ホント夏場の人間湯たんぽは辛いですよねぇ。どうぞ、お母さんがバテテしまわないよう、お体お気をつけ下さいね。そして、お子さんのカワイイ話、またまたネタに頂いてしまいましたー!なんかズルッと違う方向に行っちゃった感じなんですが、とりあえずハボがモテモテって事で(苦笑)また何かありましたらお聞かせ下さい〜vv
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