ハボックは身の丈程の草を掻き分けながら進んでいく。空は重く垂れ込めて今にも雨が降り出しそうだった。 「ッ?!……っと」 感じた気配に振り向けば、今年生まれたばかりの仔鹿が目をまん丸にしてハボックを見ている。よほど驚いたのだろう、お尻の白い毛がブワッとハート形に逆立っているのを見て、ハボックは苦笑して手を伸ばした。 「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ」 ハボックはそう言って伸ばした手で鹿の子柄の毛をそっと撫でてやる。仔鹿は暫くの間ハボックが撫でるに任せていたが、やがて小さな尻尾を振って草の間に消えていった。 重く水を含んだ湿地をハボックはゆっくりと歩いていく。時折吹き抜ける風が草の穂先と一緒にハボックの金髪をそよがせて通り過ぎていった。 「そろそろか」 ハボックは顔を巡らせ辺りを見回して呟く。夏の短いこの辺りでは、もう其処此処に竜胆の紫の花が見え隠れし、薄がその穂を開き始めていた。ハボックが一歩歩くたび竜胆の花が震え薄の穂が揺れる。緑と紫と薄茶の原が広がる湿地に金色の頭を隠したハボックが最後の十数メートルを一気に進み、湿地を走る木道の陰に隠された小さな木箱に手を伸ばそうとした時。 「あっ?!」 横合いから伸びてきた手がハボックより一瞬早く木箱を取り上げていく。木箱を持った手の続く先を見れば、黒曜石の瞳が面白がるような光をたたえてハボックを見ていた。 「私の勝ちだな」 「大佐」 ロイは木箱を手にニヤリと笑う。ハボックはムゥと唇を突き出して言った。 「どうして判ったんスか?」 ひょんな事から付き合いだすずっと前にハボックがロイに当てて書いたラブレターが出てきた。寄越せ、嫌っスと終わりのない押し問答を続ける二人を見かねて、居合わせたヒューズがラブレターを入れた木箱をこの国立公園に広がる湿地に隠し、先に見つけた方に渡すとしたのだが。 「飼い主が自分の犬に遅れをとったら拙いだろう?」 ロイは楽しそうに言いながら木箱の蓋に手をかける。それを見たハボックが情けなく眉を下げた。 「やっぱ見るんスか?」 「当然だ」 「嫌だなぁ……」 ハボックはそう呟いて竜胆と薄が揺れる中に潜り込む。木箱から取り出した紙片に目を通したロイが顔を上げた時にはハボックの姿は見えなくなっていた。 「ハボック?」 名を呼んでもハボックは姿を現さない。 「馬鹿だなぁ。私から逃げられる筈がないだろう?」 ロイはそう言って笑みを浮かべる。ロイの声をさらった風がハボックを隠した草はらの上を吹き抜けていった。
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毎度よく判んない話ですみません(汗)いや、今日は釧路湿原に行って健康的に散策などしてきたのですが、脳内では湿地で訓練するハボックの姿なんぞが浮かんでいて不健全極まりなかったっていう、それだけの話なんですがね(苦笑)仔鹿が湿原の中にいたのは本当です。しかし、本当何をしてても妄想の種って尽きませんね。物凄い実感してみたり(笑)
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