幼愛  第七章


「ハボック!まだかっ?」
 ブレダは2階の窓を見上げながら叫ぶ。すると外開きに開いた窓から金髪の少年が顔を出して答えた。
「今いくっ、待ってて!」
 ハボックはそれだけ言うと顔を引っ込める。少し待つとバタバタと足音が聞こえて、ハボックが家の影から走り出てきた。
「ごめんっ、ちょっと親戚のオジサンが来てて」
「いいから行くぞっ」
 ブレダはそう言うと手にした釣竿を担ぎなおして走り出す。ハボックもバケツと竿を手に急いでその後を追った。家から少し行ったところにある川に出ると、二人は昨日目星を付けておいたポイントへと歩いていく。エサを針に付けると慣れた動作でヒュッと川の中ほどまで糸を飛ばした。幼馴染の二人はここのところ学校が終わると毎日のように釣りにきていた。釣果はその日によってまちまちだったが、二人で新しい仕掛けを考えたりするのが楽しくて、時間が許す限り川へと出てきているのだ。
「親戚のオジサンって、遊びに来てるのか?」
 ブレダは釣り糸の先のウキを見つめながら聞く。つい最近、13になったばかりのブレダは最近ちょっと横への成長が縦へのそれに比べて著しい事が気になっていることからも判るとおり、ちょっと太目の少年だった。
「うん…それがさぁ、なんか暫く一緒に住むみたいなんだよね」
 そう答えたハボックは金髪碧眼。ブレダとは反対にスラリと背の高い姿は、もう少し成長して筋肉がついてくればきっと至極バランスの取れたよい体つきになるだろう事が想像できるような少年だった。
「一緒に?なんで?」
「よく判んないけど…最近リコンしたみたい」
「へぇ…と、きたっ!」
 ブレダはクンと引く糸にあわせて竿を引く。少しすると水の中から銀色に光るうろこが現れた。
「やった!大物っ!」
 ブレダは糸を引き寄せると嬉しそうに魚を外しバケツに放り込む。それを見ていたハボックも負けじと水面を睨みつけた。だが、その日魚はブレダの餌を気に入ったらしく、ブレダの方にはあたりがあるのにハボックのウキはピクリともしなかった。ほんの数十センチ場所が違うだけなのにうんともすんとも言わない竿にだんだんハボックの眉間の皺が深くなる。1時間もするとハボックは川から竿を引き上げてしまった。
「なんだ、もうやめるのか?」
 ハボックとは裏腹に顔を弛めたブレダがそう聞く。ハボックは悔しそうに竿を片付けながら言った。
「チキショウ、オレも今度の誕生日に新しい竿、買ってもらおう」
「竿の所為とは限らないぜ」
 暗に腕の差だと言いたげなブレダをハボックは睨みつける。
「煩いな、明日はオレの方が絶対たくさん釣ってやるっ」
「悪いな、明日も俺の勝ちだぜ」
 そういい切るブレダにハボックはべぇっと舌を突き出した。竿とバケツを手に取る友人にブレダが言う。
「帰るのか?」
「全然釣れないし、それに今日は早く帰って来いって母さんが」
「そっか。じゃあ俺はもう少し釣ってから帰るわ。明日も釣りするだろ?」
「おう。リベンジしてやる」
 ハボックは拳を突き出してそう言うと竿を担いで走り出した。
「じゃな、ブレダ!」
「ああ、また明日な!」
 そう言って別れた二人は、再び一緒に釣り糸を垂れる日が来るのがずっとずっと先になるなど、その時は思いもしなかったのだった。


 ブレダと別れてハボックは家に帰ると倉庫の片隅に釣りの道具を突っ込む。それから裏口に回ると家の中に入った。
「ただいまっ」
 そう大きな声で言ったが返事がない。
「母さん、いないの?」
 ハボックはそう言いながらキッチンを覗いたが、そこには誰の姿もなかった。
「ちぇっ、早く帰って来いとか言ったくせに」
 唇を突き出してそう言ったハボックはキッチンを出ようとしていきなり目の前に立っていた男の姿にギョッとする。それが今日初めて顔を合わせたばかりの伯父だと気付いてホッと息を吐いた。
「ああ、おじさん」
「母さんなら今日は帰ってこないよ」
「えっ、そうなの?」
 さっき家を出るときにはそんな事は言っていなかった。それでは食事はどうするんだろうとハボックはグゥとなった腹を押さえて思う。もしかして伯父が作ってくれるのだろうかと思ったが、伯父はハボックを見ると別のことを言った。
「玄関の鍵は閉めたかい?」
「あ、うん。閉めたけど」
「そうか」
 伯父は頷くとハボックをじっと見る。手を伸ばして少年の頬に触れると言った。
「ジャンは母親似だな」
「そう?オレ、父さんのことは写真でしか知らないから」
 よく判んないや、と言うハボックに伯父は微笑んだ。
「せっかくだから少し話をしないか。男同士、母さんとは出来ない話もできるだろう」
 そう言って2階へと上がっていく伯父に、ハボックは少し迷ったが後を追って階段を上がる。自分の部屋の前を過ぎて新しく伯父の部屋となった場所へ入れば伯父が飲み物をコップに注いでいるところだった。
「ほら」
 そう言って差し出されたグラスを受け取れば鮮やかな紫色の液体が入っている。
「これ、葡萄?」
「私が住んでいた所でしか作っていない特産のジュースだよ」
「ふうん」
 ハボックは相槌を打つとベッドに腰しかけグラスに口をつける。ほの甘い液体は喉に心地よくて、ハボックは一気に飲み干してしまった。
「おいしい」
 ハボックはそう呟くと伯父を見る。もう一杯飲みたいと思ったが、今日会ったばかりの伯父に強請るのは気が引けて、グラスをテーブルに置いた。
「オジサンはセントラルに住んでたんだよね?」
「そうだよ」
「いいなぁ。オレもセントラルに行ってみたいや」
 ハボックはそう言いながら脚をぶらぶらと揺する。それに答えるようにセントラルの話など始める伯父の声を聞いていたハボックだったが、手の甲で額をこすると言った。
「なんか暑くない?」
「そうか?私は暑くないがな」
「なんだかポッポする…」
 ハボックはそう言うとシャツの襟元をパタパタと動かす。そんなハボックをじっと見つめながら伯父は言った。
「暑いならシャツを脱ぐといい。私は気にせんよ」
 そう言われてハボックはシャツを脱ぎ捨てる。その拍子にズボン越しに自分の股間を見やったハボックは目を丸くした。
「あれ?」
 どう見ても布の下で立ち上がっているように見えるそれにハボックは決まり悪げに手で股間を押さえる。一体どうしてそんなことになっているのか判らず、ハボックはオロオロと視線を彷徨わせた。
「どうした?ジャン」
 その時、伯父に声を掛けられて、ハボックは飛び上がる。立ち上がってハボックの前に立つ伯父を見上げると泣きそうな顔をした。
「あっ、あの…っ」
「どうした?」
 そう聞かれても答えられるはずもなく、ハボックは股間を隠すように前屈みになる。伯父は暫くそんなハボックを見下ろしていたが、ハボックの肩に手を当てるとグイと体を起こした。それから、股間を押さえるハボックの両手を片手でまとめて掴むと引き剥がした。
「あっ!」
 伯父の目に布を押し上げる中心を見られて、ハボックはキュッと目を瞑る。伯父の手がズボンの上からそこに触れて、ハボックはビクリと体を震わせた。
「どうしたんだ、一体」
「わ、わかんないっ」
 抑揚のない声でそう聞かれて、ハボックは答える。震えるハボックを見つめると伯父は言った。
「見てやろう。ズボンと下着を脱ぎなさい」
「えっ?」
 突然の言葉にハボックはギョッとして目を開ける。伯父はハボックに優しく笑いかけると言った。
「恥ずかしがることはない。男同士だし、私はお前のおじさんだろう?」
 そう言われてハボックは悩む。それでも、どうしてこんな事になっているのか判らないままでいるのは怖くて、おずおずと頷いた。そうすれば、伯父は掴んでいたハボックの手を離す。ハボックはちょっと躊躇ったがズボンに手をかける。恥ずかしさに俯いていたハボックは、伯父がうっすらと笑った事に気がつかなかった。


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