| 幼愛 第六章 |
| 快楽を求める為だけにセックスをするのだと、あっけらかんとそう言い切るハボックを、ロイは暫く言葉もないまま見つめていたが、やがて口を開くとふと浮かんだ疑問を口にした。 「少尉。1つ聞きたいんだが」 そう言えばハボックが不思議そうな顔をする。ロイはそんなハボックを見つめると言った。 「お前は今まで誰かを好きになったことはないのか?」 ロイがそう尋ねたのはハボックは好きな相手とセックスをしたいと思ったことはないのだろうかと思ったからだ。好きで好きで、触れてみたくて、キスして抱きしめて、そうしたいと思うようなそんな恋をしたことはないのだろうかと思ったのだ。ハボックはロイの言葉にキョトンとしていたが、思い起こそうとするように首を傾げると言う。 「つい最近、ブレダにもおんなじ様なこと聞かれたんスよね」 「ブレダ少尉に?」 ロイの問いにハボックは頷いて続けた。 「男でも女でもいいから誰か一人ホントに好きな相手っていないのかって。凄く気になって仕方ないとか、その人に悪く思われたくないとか、そういう相手はいないのかって」 「で、なんて答えたんだ?」 「え、ブレダくらいかなって」 「ブレダ少尉が? 少尉が好きなのか、お前。セックスしたいほど?」 驚いて目を見開くロイにハボックが思い切り顔を顰める。 「好きっていうか…ブレダのことはガキの頃から知ってるし、嫌われたらちょっとはショックかなぁって。つか、セックスしたい程好きってなんスか?」 訳が判らんという顔をしてそう聞くハボックをロイは目を見開いて見つめた。 「誰かを好きになって、その人に触れてみたいとかキスしたいと、そう思ったことはないのか?」 「ないっスけど…」 ハボックはそう言うと不思議そうに首を傾げる。 「好きになるとなんで触れてみたいとかキスしたいとか思うんスか? 別にセックスするのに好きとかなんとか関係ないっしょ? そりゃ好みの顔とか体とかはあるけど、セックスがよければ多少のことは気になんないし」 「お前…」 心底判らないと言う顔をするハボックをロイは呆然と見つめる。気さくで陽気なこの部下が、どうやら人を好きになるということを知らないままセックスだけを覚えてしまったらしい事実に気付いてロイは言葉が出てこなかった。それ以上何も言わずにただ見つめてくる黒い瞳に、ハボックは居心地悪く身じろぎする。ウロウロと視線を彷徨わせると言った。 「もう、行ってもいいっスか?」 そう言って歩き出そうとするハボックの腕を、ロイは慌てて掴む。まだ何かあるのかと見つめてくる空色の瞳を見るとロイは言った。 「ブレダ少尉のことが気になると言ったな」 「…まあ、多少は」 「では、私は? 私の事はどうだ?」 「大佐のこと?」 突然そう聞かれてハボックは目を丸くする。全く何とも思ってないとは流石に言い難くて、困りきって言葉を捜すハボックにロイが言った。 「私はお前の事が気になる」 「え?」 そう言われてハボックはきょとんとする。目を瞬かせると聞いた。 「どうしてっスか?」 そう尋ねられてロイはずっとモヤモヤとわからなかった気持ちが形になるのを感じる。ハボックの腕を握る手に力を込めると言った。 「お前が好きだからだ」 「す、き?」 「そうだ」 「だってオレ、男っスよ?」 「お前は男とセックスしてるんだろう?」 「そりゃそうっスけど…」 ハボックはボソリとそう答えると眉を顰める。 「でも大佐は女の人としか付き合ってないじゃないっスか」 「そうだな。でも考えれば考えるほどお前が好きなんだと思えるんだから仕方がない」 ロイはそう言うと僅かに顔を歪めた。 「お前が部下や私の知らない誰かとセックスしてるのかと思うと胸が苦しくて死にそうになる。お前を抱いている男全部燃やしてやりたいと思う。お前にキスして触れたいと思う。全部お前が好きだからそう思うんだ」 ハボックはそう言ってまっすぐに見つめてくるロイを黙って見つめていたが、やがて困ったように視線を落とす。つま先で地面を蹴ると言った。 「すんません、よく判らないっス」 小さな子供のように地面を蹴りながら言うハボックの手をロイは取る。不安そうに見つめてくる空色の瞳を見つめると言った。 「だったらほんの少し、私を気にしてくれればいい」 「大佐を?」 「人を好きになるということがどういうことか知りたいとは思わないか?」 「…エッチしたいほど好きになるってどういうことか?」 そう聞き返してくるハボックにロイは苦笑する。それでも頷いて見せればハボックの顔に好奇心に駆られた表情が浮かんだ。 「大佐見てたら判るんスか?」 「そうだな」 「なんか面白そうっスね」 そう言って無邪気に笑うハボックにロイは言う。 「知りたいならこれまで見たいに誰彼構わずセックスするのはやめるんだ」 「ええっ、何でっスか?」 「嫉妬で狂いそうになる」 そう言えば再び首を傾げるハボックにロイは苦笑するしかない。本当に何も知らないハボックを、ロイは自分の気持ちを差し置いたとしても、セックスしか寄る術のないその場所から救い出してやりたいと思うのだった。 「ブレダ少尉、今夜は何か用事があるかね?」 ロイはサインした書類を返しながらブレダに聞く。 「特に予定はないですけど、何か?」 受け取った書類を折り目をつけないよう軽く丸めて持つとブレダは聞き返した。 「ハボックのことでちょっと話があるんだが」 「ハボックの? アイツ、何かヘマでもしましたか?」 心配そうに聞くブレダにロイは苦笑すると答える。 「そうじゃない。実はその…プライベートなことなんだが」 珍しく歯切れの悪いロイにブレダは僅かに目を瞠ったが、その場はそれ以上聞かずに言う。 「判りました。それじゃ今夜6時でいいですか? 場所は大佐が決めて下さい」 「ありがとう。ではアレグレスに6時だ」 「了解です。残業にならないで下さいよ」 書類の山をさして言うブレダにロイは笑って部屋から追い出した。ひとつ息を吐くとペンを持ち直し、猛然と書類を片付け始めたのだった。 ブレダが店に着いた時には既にロイが来ていてブレダは奥の個室へと通される。嫌味でなくさり気なく高級な店内にブレダは上司の趣味のよさと財力を改めて感じた。 「俺が相手じゃ申し訳ないような店ですね」 本来ならデートの相手と来るような店なのではないだろうか、そう思ってブレダが言えばロイが片眉を跳ね上げて答える。 「私が相手じゃ不満かね?」 「大佐が不満なんじゃないかと思ったんですよ」 ブレダがそう言えばロイが答えた。 「こういう店はプライベートには目を瞑ってくれる」 そのセリフから今夜はロイが極々プライベートなことを話題にしたいのだと察する。それとハボックとがどう関係あるのか、疑問に思いながらブレダは口を開いた。 「ハボックのこと、って言いましたよね?」 そう聞けばロイは口を閉ざしてしまう。どう言ったものか散々に考えた末、回りくどく言っても仕方ないとストレートに聞いた。 「ハボックは以前からああして大勢の男と関係を持っているのか?」 「大佐…」 いきなりそう聞かれてブレダは目を瞠る。ロイは僅かに苦笑すると言った。 「二度ほど見た。一度は小隊の部下達を誘って酒場の2階に上がっていくところだった。もう一度は私の知らない連中だったが、その時は黙ってみてられずにハボックを無理矢理連れて出た。」 「小隊の部下って…アイツっ、俺との約束破りやがったなっ!」 怒りに声を震わせてそう呟くブレダをロイはじっと見つめる。グラスの酒をひと口飲むと言った。 「二度目の時に少し話をした。アイツは…ハボックは一体どういう風に育ってきたんだ? 少尉はハボックとは子供の頃からの付き合いなんだろう?」 そう言ってまっすぐに見つめてくる黒い瞳が単なる好奇心から聞いているのではない事を告げていて、ブレダは少し考えると少しずつ昔のことを話し始めたのだった。 |
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