幼愛  第三十一章


 好きだと告げるハボックの言葉にロイは満面の笑みを浮かべる。零れた涙を指で拭い、そのまま何度も頬を撫でればハボックが不思議そうに首を傾げた。
「大佐、すげぇ嬉しそう」
「当たり前だろう?好きな相手に好きだと言ってもらえたんだ。踊りだしたいくらい嬉しいに決まってる」
「踊りだしたいくらい」
 ハボックはそう繰り返してプッと噴き出す。
「大佐が踊ってるところ、見てみたいっス」
「……お前、どんな踊りを想像してるんだ?」
 クスクスと笑うハボックにロイは眉を顰めた。ハボックは笑いを引っ込めると言う。
「ねぇ、大佐。オレのこと好きって言ってみて」
 子供のように目を輝かせて強請るハボックの手を握るとロイは言った。
「好きだよ、ハボック。お前が好きだ」
 まっすぐに見つめたまま告げればハボックは目を大きく見開き、それからにっこりと笑う。
「ホントだ、すげぇ、嬉しい」
 へへ、と嬉しそうに笑う様子が愛しくて、ロイはハボックを引き寄せると口付けた。最初は啄ばむように、それから徐々に深く。舌を差し入れ、ハボックのそれに絡めて吸い上げればハボックが腕の中で暴れた。
「おい」
 思いがけない抵抗にちょっとムッとして睨めばハボックが真っ赤な顔でロイを押し返す。抱き締めようとするロイと逃れようとするハボックは暫くの間無言で争っていたが、いい加減焦れたロイが声を上げた。
「おい、どういうつもり――」
「だってっ!」
「だって、なんだ?」
 ジロリと睨んでそう言うとハボックが真っ赤な顔で喚く。
「だって、すっげぇ恥ずかしいんスもんっ!なんで大佐とキスすんのってこんなドキドキして恥ずかしいのっ?!」
「はあっ?!」
 口を両手で押さえて喚きたてるハボックにロイは目を丸くした。まじまじと見つめればハボックの顔が益々紅くなる。
「色んなヤツとキスしたけど、今までこんなにドキドキしたり恥ずかしかったりした事ないっスもんっ!そりゃ、こいつキス上手いなぁとか、すげぇクるキスするヤツだなぁとか思ったりしたことはあるけどっ!大佐、キス上手いし、今までの中でトップ3に入るくらい――」
「ハボックッ!!」
 真っ赤な顔で喚くハボックをロイは大声を上げて黙らせた。ピクピクとひくつくこめかみを押さえて、呼吸を整えると言う。
「あのなぁ、お前、私を嫉妬で狂わせたいのか?」
「……え?」
 キョトンとするハボックにロイはため息をついた。心底わかっていない様子に頭痛を覚えつつも説明しない事にはきっと何一つ判らないのだろうと察して、ロイはハボックの肩に手を載せると話し始める。
「あのな。私は自分がお前の初めての相手じゃないことは判っているし、それを責めるつもりもない。だが、だからと言って何とも思っていないわけじゃないんだ」
 気持ちを落ち着けるように一つ息を吐くとロイは続けた。
「本当はお前にキスする一番最初の相手でありたかった。これまでお前とキスしたり触れたりしたであろうヤツらに、私は猛烈に嫉妬してるんだ…ッ」
「なんで?今オレとキスしてんの、大佐なのに」
「それでも嫉妬するんだ」
 ロイはため息混じりにそう言うとハボックを抱き締める。今度は逃げようとしないハボックの肩口に顔を埋めると言った。
「お前が好きだから嫉妬するんだ。お前だってキスしてる最中に前にキスした女の子の話なんぞしたら嫌じゃないか?」
 そう聞いてからもし「何とも思わない」と言われたらどうしようかとふと不安になったが、そのまま黙っているとやがてハボックがポツリと言った。
「ヤダ、そんなの。ムカムカするっス」
 唇を突き出して言うハボックに内心ホッとしつつ、それを出さずにロイはハボックに笑いかける。
「これまでの事は忘れて私だけを見ていなさい。今、こうしてお前に触れてるのは私なのだから」
 そう言えばハボックがおずおずと頷いた。ロイのことを上目遣いに見つめながら言う。
「大佐とキスするとドキドキして恥ずかしいのは何でっスか?これも聞いちゃダメ?」
 尋ねるハボックの顔はさっきよりは赤みが減ったものの、その所為でむしろ頬や目尻が染まっているのが判った。ロイはハボックの髪を優しく撫でながら囁いた。
「好きな相手とするキスだからだよ、ハボック」
「好きな、相手、と?」
 聞き返すハボックにロイはそれ以上答えず、その唇を塞いだ。


「う、ん……ん、ふぅ……」
 ベッドに並んで腰掛けて、ロイはハボックを抱き締めながら何度も口付けを繰り返す。舌を絡めあい互いの口中を探ればハボックが甘えるような吐息を零した。合わさる唇からはくちゅくちゅと濡れた音が響き、ロイはハボックの髪に手を差し入れるとグイと引き寄せ、更に深く口付ける。送り込んだ唾液が飲み込みきれずにハボックの唇の端から銀色の糸となって零れ、シャツの色を変えた。
「ん…んっ、た、いさぁっ」
 呼んでハボックは荒い息を吐くと力の入らない腕でロイを押し返す。今度はなんだと思いながら見つめれば、ハボックが恥ずかしそうに呟いた。
「イきそう……」
 真っ赤な顔で呟いて俯くハボックの中心へと目をやれば、そこはキチキチとジーンズの固い布地を押し上げている。
「キっ、キスしてるだけなのに…ッ」
 羞恥と困惑で上ずった声でハボックはそう言って腰を揺らめかせた。ロイはそんなハボックにくすりと笑うとジーンズの前を寛げる。勢いよく顔を覗かせる自身をハボックは慌てて手で押さえた。
「ヤダッ、たいさっ」
「だってキツイだろう?」
「でもっ」
「いいから、キスの続きだ」
 ロイは笑いを含んだ声でそう言うとまだ何か言いたげなハボックの唇を塞いでしまう。さっきより更に深く唇を重ね、唾液を混ぜあわせながら舌を絡め、口中を嘗め回すと抱き締めたハボックの体が震えた。
「ンッ…んふ……ぅあ……くふん…」
 キスの合間に甘ったるい声を零しながらハボックはロイのキスに答える。口付けを交わしながらロイが薄く開いた目で見れば隠すように押さえていた筈のハボックの手が、自身に絡み付いてせわしなく動いていた。ロイは薄く笑うとハボックの髪を撫でていた手を自身を弄るハボックの手に重ね、更にきつく扱き始める。ギョッとして逃れようとするハボックを引き戻してロイはハボック自身をその手ごと嬲りながらキスを続けた。
「ンッ…アッ……や、た、いさっ」
 イヤイヤと首を振って逃げようとするハボックをきつく抱きしめて深く唇を合わせるとロイはハボックを嬲る手の動きを早める。ビクビクと震えるハボックが果てようとする瞬間、その根元をきつく押さえて解放を禁じるとロイはハボックの舌をきつく吸いあげた。
「ンッ、ンンッ……ン―――ッッ!!」
 熱を吐き出せぬまま快感が脳天を突き抜けて、ハボックは力なく床を蹴る。口内を深く犯されて身悶えながら、ハボックはロイの背をかき抱いた。解放を求めてもがくハボックの口内を散々に蹂躙した挙句、ロイはようやく抑えていた指を離す。
「アッ……アア―――――ッッ!!」
 突然訪れた解放にハボックは嬌声を上げながらびゅくびゅくと熱を迸らせた。勢いよく飛び散った熱はまだ前を寛げただけだったジーンズをベトベトにしてしまう。その情けない光景にハボックはロイを恨めしげに見つめると言った。
「たいさ……ひどいっス…」
 荒い息をつきながら目元を染めて言う恨み言はロイの耳には甘い囁きにしか聞こえない。
「お前が私にヤキモチを妬かせるからだ」
「なんスか、それ」
 不服そうに突き出された唇にロイはチュッと口付ける。
「私は本来凄く嫉妬深くて独占欲が強いんだよ、ハボック」
「そんなの、知らなかったっスよ」
「知ってたら好きにならなかったか?」
 そう聞かれてハボックは目を瞠った。それからふわりと笑うと言う。
「もっともっと独占して欲しいっス」
 言って強請るように抱きついてくる体を、ロイは笑って抱き締めるとベッドに押し倒した。


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