| 幼愛 第二十五章 |
| 思ったより精神的にダメージを受けた様子のハボックをロイは連れて家に戻った。ホークアイは眉を顰めはしたものの深くは追求せず二人を家に帰してくれた。ロイは車から降りるとハボックの体を支えるようにして家へと入る。ロイの腕を強く掴んでいるハボックの手を優しく叩くとロイは言った。 「シャワーを浴びてきなさい。その間に何か飲み物を用意しておくから」 そう促せばハボックが酷く不安そうな顔でロイを見つめる。ロイは落ち着かせるように優しく頷くとハボックを浴室へと追いやった。暫くして閉じた扉の向こうで湯を使う音が聞こえてくるとロイはホッと息を吐いてダイニングへと入っていく。冷蔵庫を開ければ以前一人で暮らしていた時とはうって変わって色々な食材が詰め込まれたそれに、ロイは小さく笑った。ハボックが作り置いていたハーブティのボトルを取り出すと氷と一緒にグラスに注ぐ。リビングのテーブルにグラスを置くと、ソファーに座って暫く待てばシャワーを浴びたハボックが出てきた。シャツは羽織らずGパンだけをつけたハボックの綺麗に鍛え上げられた体に目を細めると、ロイは立ち上がってハボックの手を取りソファーへと座らせた。 「飲みなさい」 グラスを取ってハボックへと差し出せば空色の瞳がロイを見る。幼げに揺れる瞳に優しく頷けばハボックは両手で包み込むようにグラスを受け取って口をつけた。伏せ目勝ちなその頬を滴が行く筋も零れるのを目にしてロイは苦笑するとハボックが首にかけたままのタオルを取る。そっと拭いてやればハボックが安心したように目を閉じた。暫くの間ロイは黙ったままハボックの髪を拭き、ハボックはロイがするままに任せて目を伏せる。少しして、ハボックはグラスの中を見つめながらポツリと言った。 「下着に血がついてた」 それを聞いたロイはギョッとしてハボックの肩を掴む。さっき目の当たりにした光景が脳裏に浮かんで唇を噛み締めると呻くように言った。 「見せてみろ」 「ヤダ」 「ハボック!」 腸が煮えくり返りそうな思いは別にして、傷ついたまま放置するわけにはいかない。ロイがそう理由を言ったがハボックはふるふると首を振った。 「やだ、手当なんてしなくていい」 「馬鹿ッ、デリケートなところなんだぞ、そのままにして何かあったらどうするんだッ!」 思わず声を荒げればハボックの瞳が見開かれる。その瞳に薄っすらと涙を浮かべるとハボックは目を伏せ小さな声で言った。 「でも、こんなの大佐に見られるのヤダ」 「……どうして?」 「わかんないっス、でもヤダ」 そう呟くハボックをロイはマジマジと見つめる。それから小さくため息をつくとハボックの前に跪いた。 「ハボック。そこがデリケートで傷つきやすいということも、傷ついたまま放っておくとよくないことも判るな?」 ハボックの顔を覗き込むようにしてそう尋ねればハボックがおずおずと頷く。ロイはハボックの手からグラスを取り上げてテーブルに置くと、その手を優しく撫でながら言った。 「大丈夫、傷がどの程度のものか見て、ちょっと薬をつけるだけだ。すぐ済む。もしそのままにしたら心配で堪らん」 そう告げればハボックが考えるように首を傾げる。ロイは立ち上がるとハボックの手を引いた。 「寝室に行こう。手当が済んだら今日はもう休んだ方がいい」 「……大佐のメシは?」 「デリバリーでも取るさ」 「またピザぁ?」 不服そうにそう言うハボックにロイは苦笑する。 「久しぶりだぞ、最近はいつもお前が美味いメシを作ってくれるからな」 そう言えばハボックが嬉しそうに笑った。ロイはハボックを促して2階へと上がると寝室へと連れて行く。ベッドに横になっているように言うと階下に下りて救急箱を手に戻ってきた。 「自分で脱げるか?」 そう尋ねればハボックが小さく頷いてGパンと下着をずり下げる。枕を引き寄せて抱え込むと目を閉じるハボックにじっとしているように言うとロイはハボックの秘所に手を伸ばした。 「ンッ!」 ピクンと震えるハボックになるべく性的な意味合いを感じさせないよう気を配りながらロイは傷の具合を調べる。さほど酷い傷ではない事にホッと息を吐くと手早く消毒し手当を済ませた。 「もういいぞ」 そう言えばハボックは服を身につける。ハァと息を吐いてベッドに体を横たえるハボックの髪を優しく撫でてやればハボックが言った。 「たいさ、オレ、エッチ好きだけど、今日は初めて怖いって思った」 ハボックはそう言ってロイを見つめる。 「初めてシたくないって思った。今までだったら“まぁいいか”って思ってたのに。なんでかな?」 そう聞かれてロイは驚きに目を見張った。それからフッと笑うと金色の髪に手を差し入れる。 「さあな、急がなくていいからゆっくり考えてみなさい。いつかきっと判るから」 ロイの答えにハボックは不満そうに唇を尖らせた。だが、それ以上は何も言わずにロイに手を差し出す。 「ここにいて、大佐」 「…いいとも」 ロイは笑ってそう答えるとハボックの手を取ったのだった。 ハボックは夢を見ていた。夢の中でハボックはまだ幼い子供のままでその頃住んでいた家の階段を登っていた。2階に上がると自分の部屋の前を通り過ぎいつものように一番奥の部屋の前に立つ。そうすれば扉が一人でに開いて部屋の中には伯父が立っていた。 『おいで、ジャン』 伯父はそう言ってうっそりと笑うとハボックに手を差し出す。だがハボックはふるふると首を振った。すると伯父の顔がどす黒い怒りに歪む。グイとハボックの腕を掴むと力づくで引き寄せハボックの顔を覗き込んで言った。 『私に逆らうんじゃない』 『でもやだ、伯父さん。オレ、シたくない』 『何を言っている。気持ちよかったろう?あんなにシテくれって強請ってただろうが』 『でも今はヤなんだ』 ハボックはそう言うと伯父の手を振り解こうともがく。だが、伯父は顔を歪めるとハボックの腕を握る手に力を込めた。 『勝手は赦さん。お前は私に身を投げ出してその身を汚され続けなければいけないんだ。私から逃げ出したお前の母親の代わりにな』 伯父は唸るように言うとハボックの体をベッドの上に押さえつける。這い回るその手のおぞましさにハボックは悲鳴を上げた。 夕飯の時間は疾うに過ぎたが食事を取る気にもなれず、ロイはとりあえず飲み物でもと眠るハボックを残して階下へと下りる。キッチンでコーヒーを淹れながらハボックがさっき言っていたことを思い出していた。それから前にブレダが言っていたことも。少しずつとは言えハボックとの距離が縮まっているように感じて、ロイは小さく笑うとコーヒーのカップを手に2階へと戻る。寝室の扉を開けた途端、うなされるハボックの声が耳に飛び込んでロイは慌ててカップをベッドサイドのテーブルに置くと、ハボックへと駆け寄った。 「ハボックっ?」 「ヤダッ!ヤダァッ!!」 そう叫びながらもがくハボックの体をロイはベッドに押さえ込む。その顔を覗き込むと言った。 「ハボック!目を覚ませっ!ハボックっ!!」 「嫌だっ、伯父さんッ!赦してッ!!」 ハボックはそう叫んだかと思うとガバッと身を起こし、覗き込むロイの顔を見るとギョッとして悲鳴を上げる。身を捩ると四つん這いにベッドの上を逃げようとするハボックの手をロイは掴んだ。 「ヒッ!!」 「ハボック、私だッ、判らないのかっ?!」 そう怒鳴ればハボックの体がビクリと震える。恐る恐る振り返るハボックの手を離すと、その頬に手を伸ばしてそっと撫でた。 「私だ、判るな?ここは私の家だ、何も怖いものなどない。大丈夫だ」 ロイは言い聞かせるように何度も大丈夫だと言いながらハボックの頬を撫でる。ハボックは浅い呼吸を繰り返してロイの顔を見つめていたが不意にその瞳に涙が膨れ上がった。ボロボロと涙を零すハボックにロイは腕を差し伸べるとその体をそっと抱き締める。 「大丈夫だ、一人にして悪かったな。もう離れないから」 そう言えばハボックがギュッとしがみ付いてきた。 「たいさ…たいさぁっ」 小さな子供のようにロイを呼びながら縋りついてくる体を抱きしめて、ロイは涙の零れる頬にそっと口付けたのだった。 |
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