| 幼愛 第二十一章 |
| 「へ?今なんて?」 「一緒に住まないか、と言ったんだ」 「一緒にって、オレと大佐が?」 「他に誰がいると言うんだ」 間抜けた問いを返してくるハボックにロイは顔を顰める。ロイはハボックを手招きすると執務室へと入っていった。続いて入って来たハボックが扉を閉めるとロイは机に寄りかかって長身の部下を見上げる。好奇心と多少の困惑とが入り混じった瞳で見つめてくるハボックにロイは言った。 「お前が色々と知りたいなら一緒に住むのが一番よく判ると思うんだが」 「えー、でもオレと一緒に住んだら大佐、女の人連れて来らんないっスよ?」 「もともと誰も連れてきたことなどないから問題ないよ」 そう答えればハボックが意外そうに目を瞠る。軽く小首を傾げると言った。 「オレ、大佐は女の人とやり放題なんだと思ってました」 「なんだそれは」 ハボックの言葉にロイは思い切り顔を顰める。ムゥと突き出す唇にハボックが笑って言った。 「だって、大佐、すっげぇモテるじゃないっスか。だから色んな女の人と寝てんのかなって」 そう言われてロイは眉間に手を当てる。 「あのな、モテるからといってやたらとセックスしまくってるわけじゃない」 「どうして?向こうから寄ってきてくれるんでしょ?選り取り見取りじゃないっスか、勿体無い」 「お前な…」 ロイはため息をつくと言った。 「好きでもない相手とのセックスなんて挿れて出して終わりだろう?そんな味気のないセックスをするより私は自分が好きな相手とセックスしたいがな」 そう言うロイにハボックは困ったように首を傾げる。そんなハボックに苦笑するとロイは言った。 「まあ、今は判らなくてもいいさ。とにかく一緒に住もう。文句はなしだよ、少尉」 そう言って強引に話を決めてしまうロイにハボックは肩を竦めたのだった。 「ねぇ、大佐。アンタ一体何食って生きてるんスか?」 ハボックはミネラルウォーターのボトルが数本とチーズと思しき干からびた物体が入ったきりの冷蔵庫を覗き込んで言う。ロイはハボックの脇からミネラルウォーターのボトルを取り出すとグラスに注ぎ一気に飲み干すと答えた。 「食うものならいくらでもあるだろう?ピザだってピザパイだってピッツァだって」 「………要するにデリバリーのピザしか食ってないんスね」 ハボックはそう言うとゴミ箱に山盛りに突っ込んであるピザ屋のトレイを見る。キッチンからダイニング、リビングへと歩きながらその惨状に呻いた。 「こんな調子じゃそりゃ、女の人呼べないっスよね」 見渡す限り脱ぎ捨てた服やら破り捨てたメモやら飲みかけのカップやらが散らかる部屋に、ハボックはがっくりと膝をつく。 「信じらんねぇ、よくこんな部屋に住めますね」 「色々忙しくてな。だがそろそろ2週に一度のハウスキーパーが来る頃だから、そうしたら片付くぞ」 ロイはそう言うとテーブルの上に載せっぱなしだったピザ屋のトレイをゴミ箱に放り込んだ。 「じゃあ、デリバリーでも取ってメシにするか」 「ちょっと待って下さい、大佐。まさかこのままの部屋でまたピザ取って食うんスか?」 「いけないか?」 平然と言うロイにハボックは呆気にとられる。ふるふると拳を握り締めると言った。 「片付けますッッ!!メシはその後オレが作りますからッッ!!」 「……え?」 「大佐も片付けしてッ!」 「……え?え?」 猛然と片づけを始めるハボックを見つめながら、ロイは思わぬ展開に目を丸くしたのだった。 「はいどうぞ」 コトリと目の前に置かれた皿にロイは目を見開く。自分の皿を手に向かいに腰を下ろすハボックに言った。 「意外だったな、お前がこんな綺麗好きで料理もできるとは」 「大佐がいい加減すぎるんスよ。オレに言わせりゃ大佐の方が意外っス」 ハボックはそう言うと冷めないうちにとロイに勧める。ロイはいただきますの声と共にフォークを手に取ると熱々のパスタを食べ始めた。 「……美味い」 「時間なかったからパスタにしちゃいましたけど、今度はもっとちゃんとしたの作るっスから」 そう言ってパスタを口に運ぶハボックを見ながらロイが言う。 「本当に意外だ。言っては悪いがこんな事をするようには見えん」 正直セックスに興じてばかりいるハボックにこんな家庭的な一面があるとは思っても見なかった。そう思ってロイが言えばハボックが答えた。 「ブレダが、一通りの事は出来るようになっておけって言うから」 「ブレダ少尉が?」 頷くハボックにロイはチリと胸に痛みを覚える。僅かに眉根を寄せると言った。 「お前、ブレダ少尉の言う事は聞くんだな」 「だってブレダは小さい時から色んなこと教えてくれたし、それに…」 「それに?」 促すように言葉を繰り返せばハボックは少し迷ってから言う。 「オレが伯父さんとエッチしてるの知ってからも態度が変わんなかった。そんな事するもんじゃないって怒ったけど、でも態度は変わんなかった。母さんはオレの事汚いものを見るみたいに扱ったけど」 そう言うハボックをロイは目を見開いて見つめる。ハボックはフォークでパスタをつつきながら言った。 「セックスっていけない事っスか?キモチよくなるのはいけない事?」 そう聞いてくるハボックにロイは苦笑する。まっすぐにハボックを見つめると言った。 「セックス自体はいけない事じゃないし、キモチよくなるのも悪いことじゃない。だがハボック、セックスは遊びじゃないよ」 ロイの言葉にハボックは困ったように瞬く。子供のような表情にロイはくすりと笑って言った。 「焦る必要はない。おいおい判っていけばいい。いつか判って欲しくて、一緒に暮らそうと言ったんだから」 ロイがそう言えばハボックが聞く。 「大佐、オレのこと、好きって言いましたよね?」 「ああ、言ったな」 「セックスしたくなるほど好きって」 「ああ」 ロイの返事にハボックは益々首を傾げた。その様子にロイは思わず噴き出してしまう。 「いいから、食べないと冷めるぞ」 「あ、はい」 そう言われて慌てて食事を再開するハボックに微笑むとロイもパスタを口に運んだ。そうして二人の奇妙な共同生活は始まったのだった。 「大佐ッ、脱いだ服はハンガーにかけろって言ったっしょ!」 「ああ、すまん」 「っとに、もうっ」 ハボックはブツブツと文句を言いながらロイが脱ぎ捨てた上着を拾い上げる。埃を落としてハンガーにかけるとロイを見て言った。 「もうすぐメシにしますから、先に風呂…って、アンタ、夕飯前にそんなもん食ってんじゃねぇ」 ハボックはそう言うとロイの手からビスケットの袋を取り上げる。ムゥと唇を尖らせるロイを睨みつければ黒髪の上司は肩を落としてソファーに座ると本を広げた。ハボックはハァとため息をつくとキッチンへと入っていく。ガサガサと紙袋の中から夕飯の材料を取り出すと支度を始めた。 (オレ、何やってんだろ…) 野菜の皮を剥きながらふとそう思う。 (大佐と一緒に帰ってきて、メシ作って一緒に食べて……。おしゃべりしたり音楽聴いたり……。ちっともエッチしに行く暇ねぇのに、なんか落ち着いちゃって) ロイと暮らし始めて2週間ほどが過ぎたが、毎日繰り返される生活がずっと昔から続いているように馴染んでしまっている事にハボックは首を傾げる。 (変なのー。でもほっとくとまた家ん中凄い事になるしなぁ…) 自分らしくないとは思うもののこういった生活が目新しく楽しいのも事実で。 (まあ、いいか、面白いし) ハボックはそう心の中で思うと、夕飯の支度を続けたのだった。 |
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