| 幼愛 第二章 |
| 「あ、おはようございます、大佐」 司令室の扉を開けた途端、そう声を掛けられてロイはギクリと体を強張らせる。ハボックは椅子に背を預けるように仰け反っていたが、手を伸ばして机の上の灰皿に煙草を押し付けると立ち上がった。 「今日は遅かったっスね。寝坊したんスか?」 ニコニコと笑いながらそう言うハボックをロイは言葉もなく見上げる。その視線の先でふわぁと大きな口を開けて欠伸をするハボックに聞いた。 「お前の方こそ眠そうだな」 そう聞かれてハボックは困ったように頭を掻くと答える。 「あはは、昨日貫徹だったもんで」 「貫徹?寝なかったのか?」 「ええまぁ、盛り上がっちゃったんでね、つい」 ハボックの言葉にロイの脳裏に夕べの酒場でのハボック達の姿が浮かんだ。 小隊の部下達に囲まれて酒を飲んでいたハボック。部下を引き寄せ口付けを交わすハボック。そして。 『お前らも来いよ。みんなで楽しもうぜ』 ロイの脳裏にハボックの声が蘇る。あの後ハボックは部下達とセックスに興じたのだろうか。その体を部下達に投げ出し、身の内に迎え入れたのだろうか。それとも。 『あの金髪の男が性質悪くってなぁ。誰彼構わず男を誘うんだよ』 部下達と別れて別の男を誘ったのだろうか。ロイが知らない誰かと朝まで一緒に過ごしたのだろうか。 そんな事が頭に浮かんで、ロイはムカムカと吐き気がしてくる。黙り込んでしまったロイにハボックは首を傾げるとその顔を覗き込んだ。 「大佐? どうかしましたか?」 その声に驚いたようにハボックを見るロイにハボックは数度瞬く。それから口を開いて言った。 「じゃあ、オレ、これから演習なんで」 ハボックのその言葉にロイは大きく体を震わせる。ロイの脇をすり抜けて司令室から出て行こうとするハボックに、ロイは咄嗟に声をかけていた。 「待て」 そう言ってハボックの腕を掴む。驚いて振り向く空色の瞳に向かって言った。 「演習は中止だ。視察にいく、ついて来い」 「はあ?今日の視察にはブレダが行く事になってたでしょ?」 「気が変わった、お前が来い」 「無茶言わんで下さい。大体オレ、演習の内容、押してるんスよね。マジでやらんと拙いんで」 そう言って嫌そうに顔を顰めるハボックにロイの眉間の皺が深くなる。演習の内容が押しているのは演習と称して部下の誰かとよろしくヤッているからではないのか、そんな風に思えてロイはハボックを睨むようにして言った。 「視察にはお前が来るんだ、ハボック」 「大佐」 横暴な物言いに流石のハボックもムッとしてロイを睨む。その時、ホークアイが司令室の扉を開けて入ってきた。 「どうかしたんですか、二人とも」 険悪なムードを漂わせるロイとハボックにホークアイは眉を寄せてそう言う。ハボックはロイの手を振り払うとホークアイに言った。 「中尉ぃ、大佐ってばオレは演習があるって言ってんのに視察について来いなんて無茶言うんスよ?」 ノルマ終わってないのに、と訴えるハボックにため息をつくとホークアイはロイに言う。 「今日の視察、ブレダ少尉が同行する事になっていたはずですが、何かハボック少尉を連れて行く理由でもおありなのですか?」 そう聞かれてロイは「いや」とモゴモゴと答える。ホークアイはハボックを見上げると言った。 「構わないわ、少尉。演習に行ってらっしゃい」 そう言われてハボックはホッとしたように笑うと軽く敬礼して出て行く。そのハボックの背を食い入るように見ているロイにホークアイが言った。 「どうかされたんですか? ハボック少尉になにか問題でも?」 「いや、そう言う訳では…」 ロイは答えて眉を顰める。その顔に浮かんだ表情にホークアイがハッとしたのも束の間、ロイは無表情を装うと執務室に入っていく。 「2、3片付けたい書類がある。それが済んだら行くから車を用意しておいてくれ」 ロイは振り向かずにそう言うとバタンと扉を閉めたのだった。 「まったく、いきなりなんだって言うんだろうな…」 ハボックは頭を掻きながら廊下を歩いていく。突然のロイの態度に理不尽なものを感じながら歩いていると後ろから声がかかった。 「隊長」 振り向けばハボックと殆んど変わらぬ長身の男が立っている。ハボックよりがっしりと筋肉のついた体を軍服に包んだ男、ウィルヘルム・ゴルツはハボックを見つめると躊躇うように言った。 「なんだ、ウィル?」 親しげにそう呼んでにっこりと笑うハボックにゴルツの頬に赤みがさす。ハボックはそんなゴルツを上目遣いに見ると言った。 「この間はよかったぜ、ウィル…」 そう言えばゴルツの顔がますます紅くなる。ゴルツは数度唾を飲み込むとハボックに言った。 「隊長っ、俺、今度は隊長と二人きりで、そのっ」 勢い込んで言うゴルツにハボックは一瞬目を丸くしたがくすりと笑うと答える。 「そうだな、今日の演習でイイトコ見せてくれたら考えてもいい、かな…」 「はっ、はいっ!頑張りますっ!!」 ゴルツはハボックの言葉に目を大きく開くと怒鳴るように答えた。1つ敬礼して足早に演習場に向かう大きな背中を見送りながらハボックはクスクスと笑ったのだった。 ハンドルを握りながらブレダは後部座席に座っているロイの様子をミラー越しに窺う。普段なら過剰とも言えるほどの愛想を振りまいて歩くロイが、今日はムスッと黙ったきり一言も口を聞かない事にブレダはこっそりとため息をついた。 (なんかハボックとやりあったらしいけど) 丁度席を外していてその場にいなかったブレダは、視察に出る直前、ホークアイからちらりとその事を聞いて驚いたのだ。機嫌が悪そうなロイの様子に、こんな時にそれこそ銀行強盗にでも出くわしたら問答無用で焔の餌食だろうと考えてブレダは視察中、何事もないことを祈らずにはいられない。一方、当のロイはブレダがそんな事を考えているなどとは露程も思わずに今ここにいない空色の瞳を思い描いていた。その姿を思い浮かべた時、ハンドルを握るブレダがハボックとは幼い頃からの知り合いだったことを思い出してその背を見つめる。 (少尉に聞けば何か判るだろうか…) そう思ってロイは何を知りたいのか今はまだ判らぬ事に思い至る。緩く頭を振るとロイは空色に晴れ渡る空を睨みつけたのだった。 「よし、今日はここまで!」 ハボックがそう言えば隊員たちの間からホッとした声が上がる。ハボックは居並ぶ隊員達を見ると言った。 「シャワー浴びて着替えたら30分後にミーティングだからな。グズグズするなよ!」 そう言いおくとさっさと建物へと向かう。その背後を追いかけるように大柄な影が走ったと思うとハボックの耳に自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向けばゴルツが縋るような尋ねるような視線を向けている。ハボックは無表情でゴルツの顔を見つめていたが、ふわりと笑うと言った。 「今日は士官用のシャワールームを使うかな…」 囁くように言って唇を舐めればゴルツの目が見開かれる。もつれるような足取りでついて来るゴルツに喉の奥で笑いながらハボックはこの時間、恐らくは使う人のいない士官用のシャワールームへと向かったのだった。 ザアザアと頭上からシャワーの滴を浴びながらハボックは狭いシャワーブースの壁に背を預けていた。足元には同じ様にシャワーを浴びながらゴルツが跪いている。ゴルツはハボックの長い脚を抱え込むようにして舌を這わせていたが、目の前でそそり立つハボック自身を熱の篭った目で見つめるともの欲しそうにハボックを呼んだ。 「たいちょう…」 その声にハボックがくすりと笑って頷けばゴルツはむしゃぶりつくようにハボック自身を咥えこむ。じゅぶじゅぶと自身を嬲られてハボックはゴルツの短く刈り込んだ髪を掴んだ。 「んっ…ああ…は、ウィル…っ」 熱く濡れたハボックの声にゴルツは興奮して懸命に舌を這わせる。袋を揉みしだきながらカリの部分を唇で擦り上げ、すぼめた口に奥深く迎え入れればハボックは背を仰け反らせて喘いだ。小刻みに震えるハボックの双丘を大きな手で鷲掴むと更に唇で竿を擦り上げる。何度もきつく吸い付けばハボックがぶるりと身を震わせてゴルツの口中へ熱を放った。 「ンアアアッッ!!」 ゴルツは吐き出された熱を一滴残らず飲み干すとしつこくハボック自身を舐め回す。ハボックはそんなゴルツの頭を押しやると言った。 「も、いい加減にしろっ」 そう言って振り払えばゴルツが熱の篭った目でハボックを見つめる。ハボックは濡れた前髪をかき上げると言った。 「今ここでヤるわけにいかないだろ、続きは今度な」 「えっ、今度っていつですかっ?」 ゴルツの言葉には答えずハボックはそれだけ言うとさっさとシャワールームを出て行く。後には熱に浮かされた顔で佇むゴルツが残されたのだった。 |
| → 第三章 第一章 ← |