| 幼愛 第十九章 |
| 資料を戸棚に戻したフォルベックは先ほどのハボックの顔を思い出してほくそ笑む。言われるままにフォルベックに奉仕する僅かに眉を寄せた顔を思い浮かべれば己の中心にドクドクと熱が集まるのが感じられ、次にハボックに奉仕させる時にはあの白い面をこの熱で汚してやろうと思った。最初に誘いをかけられた時は驚いたものだったが抱いてみればそのしなやかな体は女の比ではなく、抱けば抱くほど淫らに乱れるハボックにフォルベックはすっかりと溺れ切っていた。 「仕込み甲斐のある体だ」 道具を使った時は流石に抵抗したがこの調子で躾けていけば自分から挿れてくれと強請るようになるだろう。その時を思い浮かべてフォルベックが下卑た笑いを浮かべた時。 ガタリと音がして棚の間から一人の生徒が顔を出した。 「お前は…」 目をギラギラとぎらつかせたその顔を見たフォルベックは記憶の中から該当する名前を探し出す。それが自分が不在の間にハボックに手を出した不届き者だと気づいてフォルベックは不愉快そうに唇を歪めた。 「貴様、確かロバート・リンドレーとか言ったな。よくも私の前に顔を出せたものだ、この泥棒猫め」 そう低い声で罵ればリンドレーの顔が歪む。歯をむき出してフォルベックを睨みつけるとリンドレーは言った。 「卒業を盾に関係を迫るなんて、絶対に赦さないぞっ、フォルベック…ッ!」 「は?何を馬鹿な事を言っている?貴様こそガキのクセに私がいない間にジャンにちょっかいだしおって……ッ」 「煩いッ!ジャンは俺のものだッ!!お前こそよくもジャンにあんなこと…ッ!!」 リンドレーは下肢を拘束されたハボックの姿を思い出して唇を噛み締める。苦痛に涙するハボックの声が耳に蘇ってギッとフォルベックを睨みつけた。 「俺のジャンによくも…よくもあんな事をッッ!!」 そう怒鳴るリンドレーにフォルベックは僅かに目を見開いたが次の瞬間クッと失笑する。怒りに目をぎらつかせる少年を見つめると言った。 「まだ気付いてないのか、おめでたいヤツめ。お前はジャンに弄ばれたに過ぎん。私がいなくて性欲を満たしてくれる相手が欲しくて、手っ取り早く手近のお前を誘惑しただけ。アレはそういう子だ」 「ふざけるなっ!ジャンはそんなヤツじゃないッ!!それにジャンは俺のことを好きだって言ったんだッ!!」 ムキになるリンドレーをフォルベックは嘲笑う。哀れむような視線を向けると言った。 「好きなんて言葉、相手を自分に振り向かせる為なら幾らでも言うさ、アイツは。アレを抱いて自分のものだと思ったか?」 クックックッと笑いながらフォルベックは戸棚の資料に手を伸ばす。 「悪いことは言わん、お前は自分の身の丈にあった相手を探せ。アレはお前の手には負えん。性格もセックスもな」 そう言うとフォルベックは話は済んだとばかりにリンドレーに背を向け資料をくり出した。 「……ッッ!!」 その背を忌々しげに睨んだリンドレーの手に鈍く光るものが握られているのをフォルベックは気付いていなかった。 コンコンと学校長の部屋の扉を叩いたブレダは後ずさるハボックの腕をむんずと掴む。ハボックは睨んでくるブレダを見返しながら囁いた。 「やっぱ帰ろう、ブレダ。フォルベックにはオレが話をつけるから」 「んな事言って卒業までいい様にヤらせるつもりかよ。そんなの赦さないからなッ」 「でも、ブレダ――」 ハボックが尚も言い募ろうとした時、入室を許可するいらえがあって、ブレダはハボックの腕を掴んだまま扉を開ける。ハボックを引きずり込むように中へと入ると学年と名前を告げた。 「君らのことは聞いているぞ、なかなかに優秀な生徒だとな。…で、突然何の用件だね?」 ちょうと一人の教官と一緒に午後の一服を楽しんでいたらしい学校長は立ち上がるとブレダとハボックに座るように促す。ブレダはハボックの腕を引いて腰掛けると手にした袋をテーブルの上に置いた。 「これを見て下さい、学校長」 険しい表情でそう言うブレダに学校長は眉を寄せるとソファーへと腰を下ろす。学校長の代わりに袋の中身を確かめた教官が目を剥いて学校長を見た。 「がっ、学校長っ、こ、これは…ッ」 様子のおかしい教官に眉を寄せると学校長も袋の中身を見る。袋の中にガサリと手を入れそこに入っている物が何なのかに気付くと目を見開いた。 「なんだね、これは」 返答次第ではただでは済まさないと言うような視線を向ける学校長にブレダが言う。 「それ、さっきまでハボックに付けられてたものです。教官がハボックに無理矢理付けさせたんです」 「な…ッッ?!」 ブレダの言葉に教官が素っ頓狂な声をあげ、学校長が目を瞠る。ハボックに視線を移すと学校長は言った。 「本当かね、ハボック?」 そう聞かれてハボックはおずおずと頷く。無理矢理付けられたという点においては間違ってはいないだろうと考えるハボックに学校長は重ねて聞いた。 「教官と言ったな、誰だね?」 「え、あの……」 「はっきり言いたまえ」 きつい学校長の声にハボックはキュッと唇を噛み締める。次の瞬間、ボロボロと泣き出してしまった。 「えっ、ハボっ?!」 これには流石のブレダもギョッとしてハボックの肩を引き寄せる。小刻みに震える肩を抱き締めながら驚きに目を瞠る大人二人を見つめて言った。 「フォルベック教官です。あの人が無理矢理ハボックに…っ!」 「なっ……フォルベックだと?まさか彼がそんな事を――」 信じられないとばかりに教官が言えば、ハボックがワッと声を上げて泣き出す。慰めるようにハボックの背を撫でながらブレダは学校長に言った。 「俺達が言う事、信じられないって言うんですか?実際それがハボックの体に付けられたし、それにハボックが言うには散々ぱら悪戯だってされたって…!教官の立場を悪用して生徒に酷いことしてるのに、それを訴えた俺達が嘘ついてるとでも言うんですかっ?!」 泣きじゃくるハボックを抱き締めながら声を荒げるブレダに学校長は冷汗を流しながら立ち上がる。二人を見下ろすと呆然としている教官に向かって言った。 「フォルベックを呼んできたまえ、いや、そのまえに…」 前代未聞の出来事に混乱しながら学校長はちょっと待っているように言い置くと教官と共に隣の部屋へと入っていく。ブレダは学校長達の姿が見えなくなると腕の中で涙を流すハボックに言った。 「おい、ハボッ、お前、やりすぎじゃないか…っ?」 耳元でそう囁けばハボックが涙に濡れた瞳をブレダに向ける。 「だって、どうしようかと思ったら頭がカーッとなって……そうしたら涙が出てきたんだもん」 仕方ないじゃん、と言うハボックにブレダは頭痛がしてきた。そんなブレダの気持ちなど知らずにハボックはこっそり笑うと言う。 「でも、うまくいきそうでよかったね」 「……お前、なに他人事みたいに言ってんだよッ。いいか、今話したことだって多少の脚色はあるものの丸ッきり嘘って訳でもないんだからな。下手な事言ってぶち壊すな。お前は一言も喋んなくていいから、判ったな」 ブレダの言葉に多少の不満はあるもののハボックは渋々と頷いた。その時学校長が戻って来て、ハボックは視線を伏せるとスンと鼻を啜る。その金色の髪をやさしく撫でながらブレダは学校長を見上げた。 「今、フォルベックを探してここへ来るように伝えろ言ったところだ」 学校長はそう言うと二人の前に腰を下ろす。順番に二人の顔を見渡すと言った。 「詳しい話を聞かせてくれるかね?最初から全部だ」 そう言われてブレダはハボックを見る。 「説明できるか、ハボ?」 そう聞かれてハボックはその空色の瞳から新たな涙を零すとふるふると首を振った。力なくうな垂れるハボックを見てブレダは学校長に言う。 「ハボックから聞いて俺が知ってる範囲の事を話すんでもいいですか?」 「とりあえずそれで構わん。君が知っていることを全部話しなさい、ブレダ」 そう言われてブレダは頷くと口を開いた。 「フォルベック教官はハボックのこと、目の敵にしてました。コイツが講義に真面目に取り組まなかったからです。まあ、その事から言えばハボックも悪いんですけど、でもあんまりくどくどとしつこいんでハボックもちょっとムキになってしまって…。それでからかい半分にフォルベック教官に言ったんです、“抱いてくれたら真面目にやる”って」 その言葉に不愉快そうに顔を顰める学校長にブレダが慌てて続ける。 「でも、冗談のつもりだったんです。からかっただけのつもりだった。だって、そうでしょう?まさかそんな事言って本気にするなんて、誰が考えます?ハボックだってフォルベック教官が慌てるのを見ればそれでよかった。でもフォルベック教官は…」 そこまで言ってハボックをチラリと見ればハボックが唇を噛み締める。視線を落としたまま小さな声で言った。 「夜中に部屋に呼びつけられて仕方なしに行ったら…ズボン脱がされて二人の一緒に持って扱けって言われて。嫌だったけ 仕方なしにやったらオレの腹とか脚とかその辺、べったべたになるくらいぶちまけて………怖くて逃げたかったけど、そのままベッドに押し倒されて、教官のデカイの無理矢理突っ込まれて……ッ」 ヒィックとしゃくりあげるハボックに学校長が目を剥く。その時バタバタと足音がして荒々しく扉が開き、学校長はブレダとハボックに待てと合図をして立ち上がった。 「マジやり過ぎだぞ、お前…」 自分達に背を向ける学校長に聞こえぬよう小声でブレダが言えばハボックが唇を尖らせる。 「だって本当の事だもん」 無理矢理っていうのは嘘だけど、と楽しそうに言うハボックの脇腹をブレダは思い切り抓った。 「…ッ!!」 「そこまで言えって言ってねぇ」 ボソリとブレダが言った時。 「なんだとっ、フォルベックがっ?!」 「資料室で刺されて倒れているのが見つかったそうですッ!!」 真っ青な顔でそう告げる教官の声にブレダとハボックは息を飲んで顔を見合わせたのだった。 |
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