幼愛  第十六章


 薄暗い部屋の中で荒い息遣いと濡れた音が響く。ハボックは圧し掛かるリンドレーの肩を押し返すと呻いた。
「いたっ…ロブ、もっとゆっくり…ッ」
「ジャン…ッ、ジャン、好きだッ」
 リンドレーはハボックの言葉になど耳を貸さず、その長い脚を抱え上げると欲望のままに己を打ち付ける。自分の欲を満たそうとするだけの行為はハボックにとって快楽よりも苦痛の方が勝っていた。
 あの夜、男を抱くのは初めてだったリンドレーに逐一方法を教えながら体を繋げた。自分と同じ年の少年とのセックスは男に抱かれ慣れたハボックにはとても新鮮で楽しかったがそれも最初のうちだけで。
「ジャンッッ…ンアアアッ!!」
 ガツガツと勝手に突き上げていたリンドレーはブルリと体を震わせるとハボックの中に熱を吐き出す。じわりと体の中を濡らす感触にチッと舌打ちするとハボックはリンドレーを突っぱねた。
「中で出すなって言ったろっ、我慢できないならゴム付けろよっ」
「あっ…ご、ごめん」
 気持ちよさに我を忘れてそのまま放ってしまった事に気付いてリンドレーは慌てる。チラリと見下ろしたハボックがまだ弾けていない事に気付くと慌てて手を差し伸べた。
「ゴメンッ、俺だけ先に…っ、今、手で――」
「も、いいッ、早く抜けよッ」
 言われてリンドレーは萎えた自身をハボックの中から引き抜く。その抜ける様を凝視していたリンドレーはごくりと唾を飲み込んだ。ハボックはそんなリンドレーには気付かず剥ぎ取られた下着を手に取るとちょっと躊躇ったが身につけると手早く身支度を整えた。
「なぁ、明日も会えるだろう?」
 一度ハボックと肌を合わせて以来、リンドレーは毎晩ハボックを抱きたがった。欲に濡れた瞳で見つめてくるリンドレーにだがハボックはフンッと鼻を鳴らすと冷たく答える。
「明日は無理。っていうか当分無理だから」
「なっ、なんでっ?!」
 了承の答えが返ってくるものと思い込んでいたリンドレーは冷たい拒絶の言葉に目を剥いた。ハボックの腕を掴むと噛み付くように言う。
「どうしてっ?毎晩会ってたじゃないかっ!何で急に会えなくなるんだよッ」
「だってテオが…フォルベックが帰ってくるもの。だからダメ」
「な…フォルベックとまた会う気なのかッ、そんなの赦さないぞッ」
 ガッシリと腕を掴んでそう怒鳴るリンドレーの独占欲丸出しの言葉にハボックはムッとして顔を顰めた。そもそもリンドレーとのことはフォルベックがいない間の遊びにしか過ぎず、ハボックはリンドレーの手を振りほどくと言う。
「仕方ないだろッ、卒業できなかったら困るんだからっ」
「だったら俺が話をつけてやるッ!」
 キッとなって怒鳴るリンドレーにハボックはギョッとした。そんな事をされたらフォルベックに何をしていたかばれてしまう。ハボックは慌ててリンドレーの手を握ると言った。
「ダメだよッ、そんなことしたらロブが何されるかわかんないだろ?それこそ卒業どころか学校にもいられなくなっちゃうかもしれないんだから」
「だけどこのままにしてたらフォルベックのヤツ、またジャンのこと…ッッ」
 リンドレーはそう叫ぶとハボックをギュッと抱き締める。腕の中の少年が自分だけのものである事を疑わないリンドレーにハボックはこっそりとため息をつくと言った。
「フォルベックのことはオレが自分でなんとかするから。もともとオレの問題なんだし。会えないのはちょっとの間だけだから」
 ね、と小首を傾げて笑うハボックにリンドレーは不服そうな顔をする。それでも甘えたような声で呼ばれて頬を膨らませつつも答えた。
「判った。ジャンがそう言うなら我慢する。でもっ」
 リンドレーはそう言うとハボックの肩をガッシリと掴んでその瞳を覗き込む。
「絶対にフォルベックと二人きりになるなよッ、アイツに触らせたりしたら赦さないからなッ」
 そう言ってリンドレーは唇を押し付けた。拙い口付けを受けながらウンザリと眉を寄せるハボックだった。


 シンと静まり返った寮の廊下を微かな足音が通り過ぎていく。夜も大分更けた頃、ハボックはフォルベックの部屋の前に立つとそっと扉を叩いた。夜闇の中でその音は妙に大きく聞こえて、ハボックはきょろきょろとあたりを見回す。その時、扉が細く開いて、中から伸びてきた手がハボックを部屋に引きずり込んだ。
「…ッ!」
 驚いて上げそうになる悲鳴を飲み込んで、ハボックは手の主を見上げる。1週間ぶりに見る男は欲情にその瞳をギラつかせてハボックを見下ろしていた。
「…遅かったな」
「ごめんなさい、同室のヤツがなかなか寝なくて」
 そう答えたハボックの顎をフォルベックはグイと掴む。強引に仰向かせると空色の瞳を覗き込んだ。
「私がいない間、他のヤツを誘ったりしていなかったろうな」
「…してないっス」
 痛みに顔を歪めて答えるハボックの瞳をフォルベックはじっと見つめていたが、やがてフンと鼻を鳴らすとハボックをベッドへと突き飛ばす。シャツのボタンを外し、脱ぎ捨てながらハボックに言った。
「服を脱げ。全部脱いで体を見せてみろ」
 ハボックはベッドに肘をつき半身を起こしてフォルベックを見つめていたが、立ち上がるとボタンに手をかける。シャツを脱ぐとズボンに手をかけ下着ごと脱ぎ捨てた。
「………」
 フォルベックはハボックの体を隅々まで舐めるように見ていく。その白い肌にとりあえず情交の痕がないことを確認するとハボックに言った。
「ベッドに上がれ。脚を開いて奥を見せるんだ」
 そう言うフォルベックをハボックは不満げに睨む。唇を尖らせて拗ねたように言った。
「してないって言ってるのに、そんなにオレのこと、信用できないんスか?」
「出来んな。お前は平気で男に脚を開くヤツだ」
 フォルベックの言葉にハボックは目を丸くする。そんなハボックをフォルベックは苛々とベッドに突き飛ばした。
「私が言ってるのが判らんのか?ベッドに上がって脚を開けと言ってるんだ」
「そんな…っ、はなから疑ってかかってるんじゃんっ」
 ムッとして言い返すハボックの頬がパンッと高い音を立てる。フォルベックは金色の髪を鷲掴んで痛みに涙ぐむ空色の瞳を覗き込むと言った。
「私の言う事に逆らうな。言うとおりにするんだ」
 そう言って、フォルベックはハボックを突き飛ばす。涙の滲んだ瞳でフォルベックを睨んだハボックは、だが大人しく膝裏に手を入れるとM字型に脚を開いた。そうすれば目の前に曝される小さな蕾にフォルベックは手を伸ばすと遠慮もなく太い指を差し込んだ。
「ヒアッ…いたっ…アアッ」
 まだ潤いのないそこを強引にかき回されてハボックは悲鳴を上げる。小刻みに体を震わせるハボックをフォルベックは昏い瞳でじっと見つめていたが、やがて低い声で言った。
「…相手は誰だ」
「え…?」
「誰に脚を開いた?」
「なん…オレ、何も――」
「嘘をつくなッ」
 フォルベックはそう怒鳴るとハボックの首を大きな手で掴むとそのままベッドに押し倒す。ハボックが悲鳴を上げるのに構わずグイグイと押さえつけた。
「誰だ、相手は?クラスメートか?上級生か?それとも教官か?」
「オ、レは…なにも…ッ、ヒゥッ!」
 必死に否定するハボックを押さえ込んでフォルベックは言う。
「私を誤魔化せると思うなよ…全く、ちょっと目を離すとこれだ」
「あ…テオ…ッ」
「言え、相手は誰だ」
 食い込んでくる指をハボックは外そうと必死にもがいた。だが、手は弛むどころか益々喉に食い込んで、ハボックは息が出来ずに全身を震わせる。空気を求めて大きく開いた口から一人の少年の名が零れるのを聞くと、フォルベックはハボックの喉から手を離した。
「ヒウゥッ…グハッ…ゲホッゲホッゲホッ」
 シーツを握り締めて激しく咳き込むハボックの髪をグイと掴むとフォルベックはハボックを睨みつける。
「私が出かける前に言ったことを覚えていなかったようだな」
「ごめんなさ…オレ、さびしくて…ッ」
「言いつけを守れなかったヤツには罰が必要だ」
 フォルベックは低くそう言うと噛み付くようにハボックに口付けたのだった。


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