八雷神  第六章


「手っ取り早い方法としてはレールの上を走行できるものを錬成するのが一番なんだが…」
「それって物質錬成ですわね、少尉には難しいんじゃないんでしょうか。」
 ホークアイに言われてロイは眉を寄せる。確かに自分の錬成スタイルに近いものからハボックに教えていった為、ハボックはあまり物質錬成を手がけたことがない。最初のうち一通りという形で錬成陣の書き方や錬成の仕方を教えはしたものの、最近は雷撃の使い方や気流の扱い方ばかりに終始していた。
「慌ててとんでもないものを錬成してそうだな」
 銃や体術に関して言えば、例えどんな状況だろうとふてぶてしいまでの度胸でやりおおせるハボックが、錬金術が絡むとどうしてああも自信をなくしてしまうのか、ロイにはまったく理解できない。それが、錬金術師としてのロイをもはや崇拝に近い形で崇めている為、その弟子として恥ずかしくない結果を残そうと必死になるあまり空周りし続けているのだとはロイには判らなかった。
「くそ…これで取り返しのつかないことになりでもしたら」
 自分で自分を燃やしてしまいそうだ、そう呟くロイにホークアイが微笑む。
「少尉は結構図太いですよ」
「…そうだな」
 ロイは頷くと腕を組んで線路沿いに疾走する車のライトが照らす先をじっと見つめたのだった。


「ハボック少尉、あれ!」
 後ろを見ていたミランダが叫ぶように言って指を刺す。前方を見据えていたハボックは肩越しに振り向いて、車のライトが近づいてくるのを見ると舌を鳴らした。
「来るの、はええよ…っ」
 ハボックはそう呟くとミランダに言う。
「これ、押さえててくれるか?」
 言われてミランダはハボックに代わってレバーを握った。ハボックは錬成陣の描かれた手袋をキュッと引っ張ると、左手に銃を構える。
「なるべく体を低くしててくれ」
 せめて後ろにだけでも何か盾代わりになるものを錬成しておけば良かったと、そんな考えが頭を過ぎったが、ハボックは頭を振って迫り来る車を睨んだ。
(考えても仕方のないことは考えるな。今自分にできる最善のことをするんだ)
 ハボックがそう考えた時、近づいてきた車の窓から身を乗り出した男がマシンガンを構えるのが見えた。
「来る…!」
 ハボックは手を差し伸べるとパチンと指を擦り合わせる。指から迸った雷撃がハボック達とテロリストの間を横切る様に走って、雷の壁のようになったそれは撃ち込まれた無数の弾丸を弾き返した。
「凄い!」
 暗い中、煌めく光にミランダが目を瞠る。取りあえず一撃目を上手くやり過ごしてハボックはホッと息を吐くと銃を構えた。揺れる台車の上から、それでもそのガラス細工の光を放つ瞳が追いすがるテロリストを見つめる。ガウンと撃ちこまれた弾が、マシンガンを構える男の肩を貫きマシンガンが後方に跳ねる様にして消えていった。
「来るぞ、次っ!」
 次々と浴びせかけられる弾丸を必死の思いで弾き返して、ほんの少しの隙に銃で反撃する。ミランダは台車に這いつくばるようにしながらレバーを握っていたが、ハボックに向かって怒鳴った。
「その光の矢で攻撃した方がいいんじゃないっ?」
 そう言われてハボックの顔が僅かに歪む。
「当てる自信がないんだ…」
 そう呟いたハボックは、少し前の作戦の時、敵に降らせるはずの光の矢が味方にまでく降り注いだことを思い起こして唇を噛み締めた。
「あんな事になったら目も当てられねぇ…」
 あの時はロイがなんとかしてくれたが、今ここにロイはいない。自分だけなら一か八かでやってもいいが、ミランダがいるのだ、そんな博打的なことはできはしなかった。
「でも、これ以上はもう…っ」
 ミランダがハボックが防ぎきれなかった弾丸に悲鳴を上げながら叫ぶ。ハボックがどうしたものかと逡巡した時、迫る車の窓から銀髪の男が顔を出した。その男から立ちのぼる気配にハボックはぞくりと身を震わせる。
(ヤバイっ!アイツ、絶対ヤバイっっ!!)
 ロイが言っていた錬金術師というのは間違いなくアイツだろう。ハボックがそう考えた時、男がにやりと笑った。そうして走る車の幌を外すと車のボンネットに錬成陣の描かれた紙を置く。男がその紙の上に手をつくとまばゆい光が走り、その光が消えた後には車の前部にどデカイ砲身が錬成されていた。
「うそっ!」
 ハボックがそう叫ぶと同時にハボック達めがけて砲弾が飛んでくる。ハボックは咄嗟にそれめがけて指を擦り合わせ。
 ドオオオンッッ!!!
 台車にたどり着く寸前で吹き飛んだ砲弾の爆発の余波で四方八方に爆風が吹き荒れる。
「うわああっっ!!」
「きゃあああっっ!!」
ハボックとミランダは台車ごとレールの上から吹き飛ばされてしまった。


「いてぇ…」
 ハボックはそう呻いて地面に手をついて体を起こす。すぐ近くに倒れているミランダに近づくとその体を揺すった。
「おい、大丈夫か?」
 そう言えばかすかに呻く声がして、ミランダは首を振って身を起こす。ざんばらになった髪をかき上げるとハボックを見た。
「なんとか生きてるわ…」
「そりゃ良かった」
 ハボックはそう言うと辺りを見回す。
「テロリスト達は?」
「アイツらも爆風食らったはずだ。ただでは済まないだろう」
 爆風から逃げる形になっていたハボック達に比べて、テロリスト達の車は逆に突っ込んでいったはずだ。ハボックはミランダに手を貸して立ち上がると、側に転がる台車に寄っていった。台車を引き起こすと手早く錬成陣を描いて壊れた箇所を修理する。
「なんか益々形が歪になったみたい」
 遠慮のないミランダの言葉にハボックは情けなく顔を歪めた。
「そう言うなよ。これでも一生懸命やってるんだから」
 そう言うハボックにミランダはくすりと笑うと言う。
「動けば文句ないわよ。さ、早く行きましょう」
 そう言って台車に手をかけるミランダをハボックは感心したように見つめた。
「ヒューズ中佐がアンタにディスクを持たせた理由が何となく判る気がするよ」
「可愛げがないっていいたいんでしょ?いいのよ、その通りですもの」
 唇を尖らせるミランダにハボックは笑って言う。
「違うよ、とってもタフで魅力的だ」
 そんなハボックの笑顔をミランダは目を瞠って見つめると嬉しそうに笑った。
「アナタも同じね」
「サンキュ」
 二人はそう言って笑い合うと力を合わせて台車をレールに戻す。
「よし、もう一度行くぞ!」
「ええ」
 そうして二人はイーストシティに向けて再び走り出したのだった。




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