八雷神  第三章


「たっ、たいさっ」
 ベッドに押さえ込まれてハボックは困ったようにロイを見上げる。その不安げに揺れる空色の瞳に優しく微笑むとロイはハボックに言った。
「いいから、私に任せておけ…」
「えっ、あ…っ」
 ハボックに錬金術を教えるようになって一緒に過ごす時間が増えるうち、ロイとハボックはいつしか恋人同士のような関係になっていた。ロイの力になりたくてロイに褒めてもらいたくて一生懸命錬金術に打ち込むハボックの姿はなんとも愛らしくて、気がつけばロイはハボックが好きでしょうがなくなっていた。好きになればその辺は手の早いロイのこと、錬金術を教える傍らハボックに迫りまくりあっという間にオトしてしまった。キスをして互いの体に触れ合うくらいまでは順調にコトが進んだものの、その先となるとハボックが恥ずかしがってしまってなかなか進めずにいたのだ。
(いい機会だ、今日こそ絶対モノにしてやるっ)
 やる気満々で圧し掛かってくるロイにハボックは思わずロイを押し返す。
「ちょっと待って、たいさっ」
「なんだ」
「いや、だって、こんなことするより錬金術の練習…っ」
「たまにはそこから離れることも大事なんだっ」
 ロイはそう言うとハボックの手を一まとめにして押さえつけた。何か言おうとする唇を強引に塞いだままズボンの中へと手を入れる。
「んっ…んん――っっ」
 キュッとハボックの中心を握り締めれば合わせた唇から熱い吐息が流れ込んできた。棹を擦りつるりとした先端を揉めば、ハボックの体がビクビクと震える。
「あっあぅ…や、だっ」
 微かに身じろぐハボックのズボンを引き摺り下ろすと、金色の繁みの中で息づくハボック自身が立ち上がりその存在を主張していた。ロイはうっとりとそれを見下ろすと指先でそっと触れる。先端をくにくにと押しつぶせばハボックが喉を仰け反らせて喘いだ。
「やっ…やめてっ」
 身を捩って逃れようとするハボックの体を押さえつけて、ロイはそそり立つハボック自身に唇を寄せる。棹に沿ってつつつと舌を這わせるととろりと蜜が零れた。先端までたどり着くと、ロイはじゅぶと口で咥える。唇を使って擦りあげてやると、ハボックがビクビクと震えた。
「あっ…やだぁっ…も、やめ…っ」
 今まではキスと優しく触れてくるだけだったロイに唐突にそれ以上のことを求められて、ハボックはすっかり混乱していた。どうしていいか判らぬうちに体が快感に支配されてしまう。ロイの口中に含まれた己が柔らかい粘膜で締め付けられきつく吸い上げられて、ハボックは何がなんだか判らないうちに熱を吐き出してしまった。
「あっあああっっ」
 どくんと吐き出されたそれをロイは全て飲み干すとハボックの顔を覗き込む。涙に濡れたその頬をそっと撫でれば濡れた空色の瞳がロイを見上げてきた。
「たいさ…オレ…」
「大丈夫、錬金術のこともそれ以外のことも、全部私に任せておけばいいんだ」
 ロイはそう言うとハボックの双丘の狭間へと指を滑らせる。突然あらぬところに触れてきた指先にハボックはギョッとして悲鳴を上げた。
「たっ、たいさっ!!」
 ジタバタと暴れるハボックをロイはなんとか押さえ込もうとする。
「大丈夫だからっ…私に任せておけと…っ」
 その時、振り上げたハボックの膝が見事にロイの腹へとめり込んだ。
「…ぐぅっ」
 思わず腹を抑えるロイの下から這い出るとハボックは剥ぎ取られたズボンを拾い上げる。
「オレッ、錬金術の練習してきますからっ」
 ズボンに脚を入れるとキチンと引き上げるのもそこそこにハボックは寝室を飛び出していったのだった。


「はあ…」
 結局またさっきの川岸のベンチに腰掛けて、ハボックはため息をついた。
「錬金術も出来なくて、恋人としてキチンとベッドで相手も出来なくて…オレってサイテーかも…」
 ロイが以前からキスより先に進みたいと思っているのは何となく感じていた。二人ともいい大人で健康な男なのだ。好きな相手がいればヤりたいと思うのは当然のことだろう。ハボックだってロイとならと思っていたはずなのだが。
 いざとなったら正直すっかりパニクってしまった。その上、ロイにされた時の快感が今まで知っていたものとは比べ物にならない程悦くて。
「オレ、たいさの口でイっちゃったんだ…」
 そう思うとかああっと顔に血が上ってくる。ハボックは両手を頬に当てて息を吐いた。
「うわ…恥ずかしい…っ」
 このあとどんな顔をしてロイに会えばいいのかと思うと余計に顔が熱くなってくる。
「でも、オレってば自分だけイイ思いして逃げてきちゃったんだ…」
 そう思うとロイに大して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。ハボックは川面を吹き抜ける風に頬を曝しながらロイのことを考えた。
「練習しよう…」
 錬金術が上手く使えるようになればセックスも上手くいくような気がする。ハボックは紋章を描いた手袋を嵌めるとギュッと手を握り締めたのだった。


「ただいま…」
 ハボックはそっと扉を開けると家の中へと入っていく。リビングに行けば酒のグラスを片手にソファーにだらりと腰掛けているロイと目が合った。
「たっ、ただいま…」
「おかえり」
 そろりと目を逸らすとリビングから出て行こうとするハボックをロイは呼び止める。
「練習してたのか?」
「はい…」
 俯き加減に答えるハボックにロイはグラスをテーブルに置くと言った。
「見せてみろ」
「えっ?」
 びっくりして顔を上げるとロイが皿に載せていたナッツを手に取る。
「ほら」
 ピッと指で顔めがけて弾いてくるのを慌てて指を鳴らして粉々に砕く。5、6個もそうして小さな雷撃で砕いてしまうとロイがくすりと笑った。
「なんだ、できるじゃないか」
「えっ、でもっ」
「的が大きかろうが、雷撃を大きくしようが、やることは変わらん。同じようにやればいいんだ」
 ロイはそう言うとグラスを手に取る。さっきのことなど何もなかったようなロイの態度にハボックはキュッと唇を噛み締めるとロイの近くへと寄っていった。何も言わずに見下ろしてくるハボックを不思議そうに見上げるロイをじっと見返してハボックはゆっくりと口を開く。
「たいさ、オレ…錬金術が上手く使えるようになったら、その…セックスも上手くいくかなぁって…」
 目尻を染めてそう言うハボックにロイは目を見開いた。
「だからその…頑張るんでもう少し、時間ください…」
 恥ずかしそうにそう言うハボックにロイは嬉しそうに笑うとその腕を取る。
「楽しみにしている」
 ロイはそう言うとハボックを引き寄せそっと口付けたのだった。


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