八雷神  第十三章


「大丈夫か、ハボック」
 食事を終えての帰り道、紅い顔で歩くハボックにロイが聞いた。
「ええ、まあ…」
(ここで大丈夫じゃないっつってもカンベンしてくれないよな…)
 そんなことを考えながらハボックは酒精の混じった息を吐く。急ピッチで杯を重ねたにもかかわらず酔い潰れもしない自分の体質が今日ほど恨めしいと思ったことはなかった。程なく家に着いて鍵を開けて中に入る。辺りが静かになったせいか自分の鼓動がやたらと大きく聞こえて、ハボックは落ち着かなげに視線を彷徨わせた。
「水、飲むだろう?」
「あ、自分でやります」
「いいからそこで待っていろ」
 ロイはそう言うとハボックを置いてキッチンへと入っていく。仕方なしにソファーに腰を下ろしてハボックが待っているとロイがグラスを手に戻ってきた。
「ほら」
「ありがとうございます」
 差し出されたグラスを受け取って一気に飲み干す。冷たい水が火照った体に染み込むようで気持ちよかった。
「もっと飲むか?」
「いえっ、もう十分っ」
 ロイの言葉にビクッとして答えるハボックにロイが苦笑する。
「そんなに構えるな」
「べっ、別にそういうつもりは…っ」
 そう答えながらもウロウロと視線を彷徨わせているハボックにロイが言った。
「何もとって喰おうというわけじゃない」
 ロイはそう言うとハボックの隣りに腰を下ろす。じっと見つめてくる強い視線を頬に感じながら、だがロイを見ることの出来ないハボックにロイはため息をついた。
「私が嫌いか、ハボック」
 悲しそうな声にハボックは慌てて首を振る。
「そういうわけじゃ…っ」
「では何故私を見ない?私が嫌いで私を見るのも、ましてや触れられるのなんて嫌でしょうがないんじゃないのか?」
 ロイの声とは思えない弱々しい声にハボックは弾かれたようにロイを見た。その途端、まっすぐに見つめてくる黒い瞳にハボックは絡め取られたように身動きが出来なくなる。
「ハボック…」
 ロイは見開く空色の瞳にうっとりと微笑むとその頬に指を這わせた。実のところロイは、ハボックが自分のことを嫌っているなどとは微塵も思っていないし、自分を見ないのはただ恥ずかしくてどうしたらいいか判らないからだけなのだと判っていた。だが、わざと傷ついたように振舞うことでハボックの方から言わせたかったのだ。
 ロイが欲しい、と。
「ハボック…」
 名を呼んで指を頬に滑らせる。
「私に触れられるのは嫌か?」
「そんなことないですっ」
「ムリしなくてもそう思っているのならそう言ったらいい」
 そう言って触れていた指を離すとハボックが慌てたように手を伸ばした。ロイの手を取って、だがそれからどうしたらいいか判らないというように途方に暮れた表情を浮かべる。
「ハボック?」
 促すように名を呼べばハボックは意を決したようにロイの手を自分の頬に引き寄せた。
「さ、触ってください…たいさに、ふれて、ほしい、です…」
 消え入るような声でそう言うハボックの頬は酒のせいか、はたまた内からこみ上げる熱のせいかとても熱い。ロイは必死の思いでそう言ったハボックに向かって言った。
「いいのか?触っても?」
「は、はい…」
 恥ずかしそうに頷くハボックの頬に引き寄せられた手を、ロイはゆっくりと滑らせる。頬を辿り唇をなぞると歯列を割ってその口中へと指を差し入れた。
「ん…っ」
 縮こまる舌を押さえ歯茎をなぞり、柔らかい頬の内側の肉を撫でる。指で散々に口内を蹂躙すればハボックの唇の端から唾液が銀色の糸となって零れた。
「ふ…んく…」
 ロイの指を噛むことも、舌をつかって押し出すことも出来ずにハボックはロイがなすままに任せている。涙の滲む空色の瞳にロイはゾクゾクして指を引き抜くと噛み付くように口付けた。舌を差し入れればおずおずと答えてくるハボックのそれにロイの心が歓喜してきつく絡め取る。呼吸まで奪われるような激しい口付けに、ハボックはロイの腕に縋りついた。。
「んっ…んんっっ」
 ハボックの唾液に濡れたロイの指がハボックのシャツの中に忍び込んで乳首をキュッと摘む。ぞくんと痺れるような感覚が背筋を走って、ロイの腕を掴むハボックの手に力が入った。
「うっ…んんっ…んーっ」
 しつこいほどに口内を嬲られ、乳首を弄ばれて、ハボックの体から力が抜けていく。それと反対にハボック自身は窮屈そうに布地を押し上げていた。
「あ…ふ…たいさぁ…」
 ようやく自由を得た唇から出たロイを呼ぶ声は甘く濡れていてロイはにんまりと笑う。シャツを脱がせてしまうと、ぷくりと膨れ上がった乳首に舌を這わせた。
「あんっ…あっ…やっ…」
 こんなところを弄られて感じるなんて女みたいだと思いながらも零れる声を抑えることが出来ない。ハボックはもどかしげに身を捩るとズボンの上から自身に手を這わせた。キスと胸への愛撫だけですっかりと育ちきったそこが零す蜜で布地はしっとりと濡れている。ハボックは硬いジーンズの布地に自身をこすり付けるように腰を揺らめかせた。
「腰が揺れてるぞ、ハボック」
「あ…だって…」
 からかうように言われて恥ずかしいと思いながらもやめることが出来ない。ロイはそんなハボックをうっとりと見下ろしながら乳首を嬲る指に力をこめた。同時にハボックの肌に唇を滑らせ、時折きつく吸い上げる。チクリとする痛みと共に肌があわ立つように快感に膨れ上がって、ハボックは布地に自身を擦り付ける動きを早めた。薄い下着の布越しにファスナーの金具がハボックの熱を追いたて、次の瞬間ハボックは耐え切れずに熱を吐き出していった。
「―――ッ!!」
 ハボックはロイの胸に顔を寄せるとハアハアと荒い息を吐く。ロイはハボックの顎を掬うと弾む息ごとハボックの唇を貪った。たっぷりとその甘い唇を味わって顔を離せばハボックがくったりと寄りかかってきた。ロイは力の抜けたハボックの体からズボンを剥ぎ取ってしまう。放った熱でべったりと汚れた下着をわざとハボック自身ごと揉みこんだ。
「ベトベトだな」
 そう囁けばハボックの顔が真っ赤に染まる。ロイはハボックの下着に手をかけると言った。
「このままじゃ気持ち悪いだろう、私が綺麗にしてやる…」
 そう言ってロイはハボックの下着を取り去ると熱に汚れた中心に舌を絡める。
「あっ…ヤダ…っ」
 身を捩るハボックの体を押さえつけて丹念に舌を這わせれば若い牡は瞬く間に力を取り戻してそそり立った。
「あっ…やっ…またっ、でちゃう…っ」
 ハボックは脚を突っ張ってこみ上げてくる波を必死に鎮めようとする。だが、ぬめぬめと纏わりつく舌が、熱い粘膜がハボックの理性を飲み込みぐずぐずに溶かして。ハボックは間を置かずに再び熱を吐き出させられていた。
「あああ…っっ」
 ロイは口中に吐き出されたものをこくりと飲み込むとハボックの顔を覗き込む。逞しい胸を上下させ、とろんと溶けた表情でぼんやりと宙を見上げるハボックをロイは今すぐメチャクチャにしてやりたい衝動に駆られて、それでもなんとかそれを押さえ込むと、一度ハボックから身を離し立ち上がった。
「もっともっと気持ちよくしてやる…そして髪の毛から脚の先まで私を刻み込んでやろう…」
「た、いさ…?」
 焦点の定まらない目でロイを見上げるハボックにそう囁くとロイはハボックの体を抱き上げる。くたりと胸に凭れかかってくるその頬にキスを落とすと、ロイはハボックを抱いてリビングを出て行った。



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