| my pretty little baby 後編 |
| 「どうだ、ロイの様子は?」 「特に変わったことはないっスよ。毎日中央図書館に通い詰めちゃなにやら小難しい本を読んでます」 そっか、と頷くヒューズをハボックは見つめた。 「なんだ?」 すっとぼけてそう聞いてくるヒューズを目を眇めて睨みつけるとハボックは言った。 「ごまかさんでくださいよ。ワケありなんでしょ、あの子」 「まあな」 ハボックの言葉にそう答えるヒューズにハボックは苛々と聞く。 「いい加減教えてくれてもいいんじゃないっスか?」 「ロイに聞けよ」 「教えてくれそうもないからアンタに聞いてるんでしょ」 「ロイが教えてもいいと言わないなら俺には答えられないな」 そう言うヒューズにハボックは口ごもった。それから少し考えると口を開く。 「あの子やけに頭がいいっスよね」 「そうか?」 「10歳の子供が国家錬金術師だなんて」 「才能があればなれないことはないだろう」 「…昔、軍にロイ・マスタングっていう男がいましたよね。たしかイシュヴァール戦線で活躍したとか」 ハボックの言葉にヒューズは黙ったまま彼を見た。全く表情のない顔からは何の情報も読み取れない。 「調べたら行方不明ってことになってるんスけど」 「そこまで判ってんなら俺に聞く必要なんてないだろうが」 「…どういうことなんです?ロイ・マスタングが無事でいるなら今27になっている筈です。でもロイはどうみても10歳そこそこの子供にしか…」 「だからロイに聞け」 取り付くしまのないヒューズにハボックは黙り込む。その時、来客を告げる声がしてヒューズは席を立っていってしまった。後に残されたハボックは唇を噛み締めて、主のいなくなった椅子を睨みつけていた。 「はい、目ぇ瞑って〜」 そういいながらハボックはロイの頭にシャワーをかけてシャンプーを洗い流していく。最初の日に一緒に風呂に入ってから、結局ロイは毎日ハボックと一緒に風呂に入り、一緒のベッドで眠っていた。 (…まったく子供扱いだな) ロイは濡れた顔を手でこすりながら考えた。いい加減慣れたとはいえ、やはりいつも目のやり場に困ってしまう。触れたくてキスしたくて仕方がないなどと自分が考えていることがバレたらハボックはどう思うだろう。そんなことを考えていると 「ああ、ここ、シャンプーのこってるっスよ」 などと言いながらハボックが触れてくるので、ロイは酷く動揺した。 (クソっ、人の気も知らないで…っ) ロイはお湯と一緒に滲んだ涙も手でこするとぶるぶると頭を振った。 「ロイ、そろそろベッドに入った方がいいっスよ」 「んー、もう少しこれ読んでから」 抱えた膝の上に分厚い本を載せて、ソファーに座り込んでいるロイの手からハボックは本を取り上げた。 「ダーメっ!子供はもう寝る時間です」 「…子供扱いするな」 「10歳は十分子供っスよ」 ハボックは答えて、しばしロイをじっと見つめた。それから低い声で言う。 「それともホントはもっと年くってるんですか?」 ぎくりとしてハボックを見上げるロイを見つめたハボックは次の瞬間、いつもの笑みを浮かべて言った。 「なーんて、そんなワケないっスよね」 さ、もう寝て寝て、とロイを追い立てるハボックをロイは不安げに見つめた。 燃えさかる焔と逃げ惑う人々。目の前の男が何やら呪詛の言葉を吐きながら地面に描かれた錬成陣に手を当てた。男が手をあてた部分から光が陣の中を走り、辺りがまばゆい光に包まれていく。体を引き裂かれるような痛みに、ロイは大声を上げた。 「―――イっ!ロイっ!目、覚まして!ロイっ!」 揺さぶられてハッと目を開ければ、青い瞳が心配そうに見下ろしていた。 「大丈夫っスか?」 「…あ…」 ハボックは汗に濡れたロイの髪をかき上げた。 「今、タオルと水、取ってきますから」 そう言って部屋を出て行こうとするハボックにロイは必死に縋りついた。 「行くなっ!」 「…ロイ?」 「イヤだ、1人にしないで…っ」 必死に縋り付いてくる細い体をハボックはぎゅっと抱きしめた。 「大丈夫、ここにいます」 優しく背中をなでてくれる手にロイは安堵のため息を零す。ぎゅっとその背をかき抱けば抱き返してくれる手が嬉しかった。 「…ハボ」 「なんスか?」 「ヒューズから何か聞いたのか?」 「いいえ、アンタに聞けって言われました」 そう言うハボックをロイは見上げた。不安に揺れる幼い瞳にハボックは優しく笑う。 「アンタが話す気になったら話して下さい」 「…話す気にならなかったら?」 「それならそれでいいです」 ハボックの言葉に俯くロイの髪をなでるとハボックは囁いた。 「何も聞かなくてもオレはずっと側にいますから」 その言葉にロイがハッと顔を上げる。 「アンタが必要ないっていうまで、ずっと側にいますから」 大きく見開かれた黒い瞳から大粒の涙が零れ落ちた。ハボックはロイをそっと抱きしめると何度もその名を呼んだ。 「2年前、イシュヴァール戦の末期の頃だ。私とヒューズはイシュヴァールの一部族を殲滅させる為に最前線にいたんだ」 ベッドに腰掛けてハボックの肩に頭を預けながらロイは話し出した。 「作戦自体は簡単に済むと思っていたんだ。私もヒューズも。だが、あちら側にいた1人の錬金術師が…」 「…アンタが小さくなったのってその錬金術師のせい?」 ハボックが問うのにロイは小さく頷く。 「気がついたときには私は錬成反応の中に立ってた。体中が引き裂かれるような痛みに襲われてのた打ち回っているうちに錬成陣の外に転がり出てた。私は運が良かったというべきなんだろうな。途中で外に転がり出たおかげで今、こうして生きてる。でも、その錬金術師は消えてなくなった」 「でも、錬金術で人間を若返らせることなんて出来るんスか?」 「今、目の前にいるだろう」 「はあ、そうっスけど…」 「錬成を行った錬金術師が死んでしまったおかげで、一体どういう方法で錬成が行われたのか全くわからないんだ。この2年、随分調べて回ったが皆目見当がつかなかった。国家錬金術師になったのは、そうすれば一般の人間にはみられない資料が見られると思ったからだ。ヒューズには反対されたがな」 「軍はなんて?」 「ヒューズが手を回してくれたおかげで、ロイ・マスタングという軍人はイシュヴァールで行方不明ということになっている。いくらなんでも10歳の子供があのマスタングとは誰も思わないさ」 そう言って自嘲ぎみに唇の端を吊り上げるロイの肩をハボックは抱き寄せた。 「お前のことは知ってた。イシュヴァールにいた頃、伝令で私のところに来たことがあったろう?」 「ああ、そういえばそんなこともあったような…」 「…一目惚れだったんだ。もっともそんなことは後で気がついたんだが」 そう言われてハボックが目を瞠る。ロイはハボックをちらりとみると、また視線を足元に向けた。 「国家錬金術師になって、こちらにくると決まった時、ヒューズの部下にあの時のお前がいることを知った。名前も知らない、一度見たきりのお前が忘れられないって言ったらヒューズに散々馬鹿にされたよ。名前を教えてやるって言われたけど、わざと聞かなかったんだ。お前から聞きたかったから」 ロイはそれから小さく息を吐くとベッドから立ち上がった。 「一度話してみたいと思ってた。ヒューズのおかげで話すどころか少しの間一緒に暮らせた。もう十分だ。ハボック、お前がここにいる理由はないんだ。見かけは子供だけど大人としての知識はあるし、1人でやっていける。私の我が儘につき合わせて悪かったな」 そう言って力なく笑うロイにハボックは唐突に怒りを覚えた。ベッドの脇に立つロイの腕を掴むとぐいと引き寄せる。 「待ってくださいよ。何、1人で決めてるんです?オレがどう思ってるか、なんで聞かないんです?」 ハボックはロイの顔を両手で挟むとその黒い瞳を覗きこんで言った。 「オレはここ2、3週間分のアンタしかしらない。でもね、結構アンタのこと、好きですよ?それがアンタの言うスキと同じものではないと思うけど、でももしかしたら同じスキになるかもしれないでしょ?試してみないんですか?」 ロイは目を見開いてハボックを見つめた。 「それに、もしかしたらもとに戻る方法が見つかるかもしれないんだし。10歳のアンタは流石に恋愛の対象にするにはオレの道徳心が許しそうもないけど、後5年もしたら」 ハボックの空色の瞳を見つめるロイの瞳から涙が零れ落ちる。 「側にいてもいいのか?」 「オレ、さっき言いませんでしたっけ?アンタがいらないって言うまでは側にいるって」 「ハボっ」 縋りついてくる細い体を抱きしめてハボックは小さく笑った。 「頑張ってみてくださいよ。もとに戻れる方法、見つかるかもしれないし」 「…戻れなくても可能性はあるわけだな?」 「はい?」 さっきまでの悲しげな雰囲気は消えうせて、やたらと自信に満ちた瞳でそう言うロイにハボックは首を傾げた。 「だったら約束しろ。15の誕生日にお前を抱かせるって。」 「え?」 「約束したからな」 そう言うとロイはハボックに深く口付けた。 「んっ、ん―――っっ」 「約束のキスだ」 にやりと笑うロイにハボックは慌てて答えた。 「ちょ、ちょっと待って!オレが5年後にアンタを好きになるかなんてわかんないでしょっ?」 「そうさせる」 「…アンタねぇ」 「5年後が楽しみだな」 「…そんなの判んないっスからね」 やたらと自信ありげなロイにハボックはぼそりと言い返した。 ロイが名うてのタラシだったことをハボックが知るのはほんの3日後のことだった。 2006/9/29 |
拍手リク「恋人未満のロイハボでちびロイの世話をするハボックの話が読みたいです。お風呂もベッドも一緒で悶々とする見た目は子供、中身は大人のロイをぜひお願いします!」だったのですがー…。すみません、ごめんなさい。きっとこんな話は期待してなかったですよねーーーっっ。「見た目は子供、中身は大人のロイ」ってのをどうしたらよいか全然思いつかず、気がついたらこんな話に〜。悶々してないし。もう、穴があったら入りたいです…。すみません、これでいっぱいっぱいでした、カンベンしてやってください(ぺこぺこ) → my pretty little baby 〜 after 5years 〜 → my pretty little baby 〜 after 5years 〜 Havoc × Roy ver.(カプにご注意!) |