my pretty little baby
〜after 5 years〜 Havoc×Roy ver. 前編
「かわいいのよね、あの子」
「ヒューズ中佐の所に来てる錬金術師の子でしょ?」
「そうそう!こんにちはって声かけたらニコッって笑ってくれてぇ」
きゃあきゃあ楽しそうに話す女子職員の声を休憩所のソファーで聞きながら、ハボックはぷかりと煙を吐き出した。
「知らないって幸せだよね…。」
ヒューズに頼まれて元アメストリス軍の軍人だったという少年と暮らすようになって5年。本当なら27歳であるはずの
男と初めて会った時、彼は10歳の少年の姿だった。任務中に敵の錬金術師の錬成に巻き込まれて若返ってしまった
というロイの面倒を見てやってくれと上司であるヒューズに頼まれて、ハボックはロイと暮らすようになった。暮らし
始めて暫くしてからずっと好きだったのだと告白された挙句、15の誕生日にヤらせろとハボックに無理矢理約束させた
彼は、その秀麗な外見と内面のギャップが恐ろしいほどであり、5年の間にそれを嫌というほど思い知らされたハボック
は、楽しげにロイの話をする彼女達を、いっそ羨ましいと思うほどであった。
「黙って立ってりゃかわいいもんだけどね。」
口を開けば恐ろしいほどの毒舌ぶりで、本来ハボックより年上なのだから当然とはいえ知識も豊富。自分勝手この上
ないロイは、ハボックにとって到底敵わない絶対君主のようなものであった。それでも時折見せる寂しげな表情とか
甘えた仕草にほだされて、いつの間にやらロイはハボックの心の中でかなり大きなウェイトを占めるようになっていた。
そうして、もうすぐ約束の15の誕生日がやってくる。
「このままでは食われてしまう…。」
ハボックの目下の悩みはそれであった。なんだかんだでいつの間にか自分もロイのことを好きになっているようだと
自覚したのはいつだったろうか。好きなのだからロイとどうこうなることに抵抗はない。たぶん。ただ、自分が食われる
立場になると話は別だ。
「だってロイの方が絶対可愛いじゃん。」
そう思いながらハボックはロイの姿を思い浮かべる。漆黒の髪に黒曜石の瞳。白い秀麗な顔立ちで唇はほんのりと
桜色だ。すんなりと伸びた手足はしなやかで、どう考えても彼に抱かれる自分の姿は想像できるものではない。
ハボックははああ、と長いため息をつくと灰皿に煙草を押し付けた。
「どーすんのよ、オレ…」
ぼそりとそう呟いた時、ハボックの上から声が降ってきた。
「何がどうするんだ?」
ぎょっとして顔を上げるとロイの黒い瞳が見下ろしていた。
「ロイ。」
「いつまでこんなところで油を売っているつもりだ?訓練なのに姿が見えないと部下達が探していたぞ。」
ロイにそう言われてハボックは慌てて壁の時計を見る。
「やべっ」
小隊の訓練を始める時間はとっくに過ぎている。急いで立ち上がるハボックの腕をロイが掴んだ。何だと振り返る
ハボックの首筋にキスを落とすとロイは囁く。
「約束、忘れるなよ。」
「〜っっ!!」
首筋を押さえて真っ赤になったハボックは言い返す言葉も見つけられぬまま、慌てて訓練に向かうのだった。
ロイはハボックが座っていたソファーに腰を下ろすと灰皿に押し付けられた煙草を手に取った。まだほんのりと温かい
それを唇で触れる。ハボックが約束の日を前におろおろとしていることは判っていた。そしてハボックが自分のことを
まんざらでもなく思ってくれていることも。だったら何を遠慮することがあるだろう。ずっとずっと好きだったのだ。
作戦中の事故で子供に戻ってしまった自分にあと5年もしたら恋愛対象として見られるかも、といったのはハボックだ。
だから5年待った。もうこれ以上待つ気はない。ロイは煙草を灰皿に戻すと手袋を嵌めた指を軽く擦り合わせる。
「絶対逃がさないからな。」
ボンッと燃え上がった煙草を見つめてロイはそう呟いた。
「誕生日パーティ?」
「そ。ロイがここに来てちょうど5年になるし、その記念も兼ねて内内で集まってパーティしようと思うんだよね。」
ヒューズが眼鏡の奥の瞳を楽しそうに輝かせてそう言うのをハボックはぼんやりと見ていた。
「グレイシアがご馳走作ってくれるって言うし、うちでどお?」
「そっスね、まあ、ロイ次第ですけど…。」
正直言ってハボックはパーティどころではなかった。どうやって食われないようにするか、毎日それだけで頭はいっぱい
だ。今日もヒューズと話しながらそんなことを考えていたハボックは、ふとある事に思い至った。
(そか、パーティするならそれこそ酔わせて潰しちゃえばいいんだ。)
約束は「15の『誕生日』に」なのだから、とりあえずまずそこをクリアできれば何とかなるかもしれない。
「いや、パーティ、やっぱいいっスね、是非やりましょう!」
ハボックはにっこり笑ってヒューズに言う。突然乗り気になったハボックにヒューズは首を傾げたが、とりあえず賛成
してくれるのならと話を進めだした。
「それじゃ、今日は7時からパーティですから。」
ハボックにそう言われてロイは頷く。ロイは最初の内、大勢でパーティをする事に渋い顔をしていたが、最後には
ヒューズに丸め込まれてパーティを開く事に同意した。場所は結局ロイの自宅でという事になり、今日は午後から
グレイシアが来てくれて準備をしてくれる事になっている。本当ならハボックと二人でゆっくり過ごしたいという気持ちも
ないではなかったが、みんなで祝おうと言われれば無碍に断ることも出来ない。
(まあ、夜は長いのだし。)
と、ロイは思う。半ば脅すようにして明日はハボックを非番にするようヒューズに頷かせた。もともと軍属に過ぎない自分
は休みを取るのにさして苦労はない。
(沢山飲ませればハボックだって気持ちも緩むだろうしな。)
ロイはそう考えて、ハボックと共に司令部へと向かった。
グレイシアの手料理に美味しい酒。楽しいおしゃべり。ロイの誕生日を祝って集まってくれた司令室の面々はそれぞれに
プレゼントなども持って来てくれて、意外に楽しいこの時間に、思わず時が経つのも忘れてしまいそうになる。ハボックは
酒をチビチビと舐めながらロイの様子を窺った。最初は子供だからとジュースを宛がわれていたが、誰が渡したのか
手にした酒を一気に飲み干してけろりとしているロイに、今ではこれならどうだとばかりに強い酒が振舞われている。
(なんか、全然酔ってないんじゃないの…?)
子供だからちょっと飲ませれば簡単に潰せると思っていたのに、潰すどころかヘタするとこちらが潰れてしまいそうだ。
ハボックは隣に座るヒューズの耳元に口を寄せると囁いた。
「中佐、ロイってもしかしてエラく酒に強かったりします?」
「んあ?なんだ、知らなかったのか?アイツ、ザルだぜ、ザル!いっくら飲ませても酔いやしねぇよ。」
「ザル…。」
ヒューズの言葉にハボックは絶句した。これじゃあ話が違う。酔わせて潰して誤魔化そうとしてたのにそうは問屋が
卸さないらしい。
(うそだろ〜。どーすんのよ、オレっ)
やっぱり美味しく頂かれてしまう運命なのだろうか。ハボックはもはや味もわからなくなった酒のグラスを握り締めて
おろおろと思考をめぐらせていた。
楽しかった時間もようやく終わりを告げて、片づけまでやってくれようとするグレイシアをそこまでやらせる訳には
行かないと送り出して、ハボックはロイと二人きりになっていた。グラスをシンクに運びながらハボックはロイに
言う。
「疲れたでしょ?シャワー浴びてきていいっスよ。」
「お前は?」
「オレはもう少し片付けてからにします。」
「判った。」
そう言って部屋を出て行くロイの後姿を横目で追って、ハボックはどうしたものかと考えをめぐらせていた。あれだけ
飲んだにも係わらず、ロイはまるで変わった様子がない。ハボックはグラスに水をかけながらため息をついた。
(なるようにしかならないってことなのかな。)
そう思って自分の中のロイへの気持ちを考えてみる。この5年の間、まだ小さかったロイが花開くように成長していく
様子をずっと見ていた。側にいるのが自然で、いつまでも一緒にいたくて。
(好き、なんだよな、ロイのこと。)
だったら思い悩むことなど何もないのかもしれない。ハボックは肩を竦めると手早くグラスを洗い始めた。
「あー、さっぱりした。」
ハボックが濡れた髪を拭きながらリビングへ入ってくると、ソファーで転寝しているロイの姿が目にはいった。そうやって
まどろむ姿は幼くて、思わず抱きしめたくなる。ハボックはロイの側に跪くとロイの唇に自分のそれを寄せた。触れたか
触れないかの内に、突然背中に回された腕に抱きしめられる。驚いて唇を離すと、ロイの黒い瞳が嬉しそうに笑って
いた。
「狸寝入りっスか?ずりぃ…」
ハボックが苦笑するとロイは嬉しそうに言った。
「それが返事だと思っていいんだな?」
そう言われてハボックが小さくため息をつく。
「ま、仕方ないっスね。 5年も一緒にいてほだされたっていうか、毒気に当てられたというか…。」
ちっとも色っぽくない告白にロイは眉を顰めた。
「お前な、もう少し言い方ってものが…。」
「今更っスよ、そんなの。」
ハボックは笑って体を起こす。離れてしまった温もりにロイが不満そうに腕を伸ばした。
「ソファーでする気っスか?」
ハボックが伸ばされた腕を引くのに逆らわずロイはソファーの上に体を起こす。そっと唇を合わせるとソファーから立ち
上がった。
→ 後編