裏・曼珠沙華  第八章


 そうしてどれだけの時間が過ぎたのだろう。ぼんやりと扉にもたれかかって座り込んでいたオレの肩を誰かがグイと引く。見上げた視線の先に驚いたようにオレを見つめるジーノの顔があった。
「ジャンっ?どうしたんだ、一体!」
 そう聞かれても答えないオレにジーノは舌を鳴らすとオレの体を引き上げる。鍵を開けてオレを中へ入れるとリビングに行きソファーへと座らせた。
「どうしたんだ、ジャン。何があったんだ?」
 ジーノはソファーに座ったオレの前に跪くと手をとる。すっかりと冷え切ったそれに目を瞠るとオレの顔を見た。
「いつからあそこにいたんだ。こんなに冷え切って…」
 ジーノはそう言うと立ち上がってオレの隣りに腰を下ろし、冷たくなったオレの体を抱きしめる。オレの髪を優しく撫でながらジーノが再び言った。
「何があったのか話してくれ。俺で力になれることなら何でもしてやるから」
 ジーノはそう言ってオレの髪を撫でる。「ジャン」と優しく呼ばれた途端、オレの目から涙が零れ落ちた。
「ジャンっ?どう――」
「たいさがお見合いするって…結婚するって…!」
 自分が言った言葉に胸を深く抉られる。大佐が結婚…!そんなの、耐えられないよ。
「どうしよう…オレ…大佐が結婚したら…っ」
 そう口にした途端、うまく息ができなくなる。変な風にしゃくりあげるオレの背をジーノが何度も撫でた。
「やだ…そ、んなの…っ」
 辛くて苦しくて泣きじゃくるオレをジーノはギュッと抱きしめる。ジーノは辛そうに眉を寄せると呻くように言った。
「もうやめろよ。そんな風に泣くくらいならマスタング大佐のことなんて忘れちまえばいいだろうっ」
 ジーノはオレの顔を覗き込むようにして続ける。
「俺が忘れさせてやる…俺ならお前を泣かせたりしないっ!ジャンっ、お前が好きだっ!!」
 ジーノはそう言ってオレに噛み付くようにキスしてきた。なに?どういうこと?ジーノがオレを好きって…。
「お前がマスタング大佐を好きだって言うから、ずっと我慢してきた。言ったらお前を悩ませるだけだと思ったし、それにこうして俺のところに来てくれなくなったら嫌だったから…。でも、大佐が結婚するっていうなら、それだったら言ってもいいだろうっ?ジャン、お前が好きだ。俺じゃダメか?好きだ、好きなんだよ、お前が…っ!」
 まるで堰を切ったように想いをぶつけてくるジーノをオレは呆然と見つめていた。ジーノがオレを好き?だってそんな事一度だって言ったことなかったのに。いつだってジーノはオレの大佐への想いを黙って聞いてくれて、慰めてくれて。大佐を想うのは辛かったけど、でもいつでもジーノがオレを支えてくれたから…。
「ジャン、好きだよ…」
 そう囁いてジーノはまた口付けてくる。歯列を割って忍び入ってくる舌先に思わず逃げようとするとグッと引き寄せられた。
「好きだ…俺を拒まないでくれ」
 ジーノはそう言いながらオレをソファーに押し倒す。見上げた先の瞳が辛そうに歪んでオレを見ていた。
 ジーノ。
 優しいジーノ。
 泣き言ばかり言っていたオレを、いつだって優しく受け止めてくれて。
 いつも甘えてばかりで。
 オレはジーノの為に何一つしてあげてはいないのに。
 どうして拒むことなんて出来るだろう。オレに差し出せるのはこの体だけなのだから。
「…ジーノ」
 そっと腕を伸ばせば折れんばかりに抱きしめられた。


 ベッドの上で着ていたものをすべて剥ぎ取られ、オレはジーノに抱きしめられていた。ジーノの指が、舌先がオレの肌を滑っていく。時折きつく吸い上げられてチクリとする痛みが走った。
「ジャン…好きだよ」
 何度もそう囁くジーノ。その声があんまり切なくて、オレはギュッと目を瞑った。ジーノの指がオレの乳首を摘み、くりくりとこね回しては押しつぶす。そこから湧き上がるのが快感なのか、それとも苦痛なのか、オレはわからなくて何度も首を振った。濡れた舌が這い回り、肌が粟立つ。怖い。ただひたすらに怖かった。
「怖がらないで、ジャン…好きなんだよ…」
 そう言ったジーノの手がオレの中心に絡みついた。ギクリと震える体を押さえつけて、ジーノの手がオレの中心を擦る。高まっていく快感にオレは怯えて涙を零した。
「ジャン…ジャン…」
「あっ…あ、ヤっ…やだっ…」
 きつく擦り上げられてオレは堪らずジーノの手の中に熱を吐き出してしまう。荒い息を零す唇を塞がれて、苦しさのあまりジーノに縋りついた。ようやく唇が離れたときには息も絶え絶えでジーノはそんなオレの髪をかき上げると優しく微笑む。
「かわいいよ、ジャン…」
 ジーノはそう言うとオレの体を俯せに反した。
「ジーノ…?」
 何をされるのか判らなくて、ジーノを呼んだけど答えはなくて。グイと腰を持ち上げられたかと思うと尻を割るように開かれて、奥まった場所に濡れた感触がした。
「なっ…?」
 ぬめぬめと這い回るそれがジーノの舌だと気づいた時、目の前が羞恥で真っ赤に染まる。シーツを掴んで逃げようとした体を引き戻してジーノは唾液で濡らしたところに指を突き入れた。
「ひぃ…っ」
 異物が入り込む感触に体が竦む。逃げるどころか身動くことすら出来ないオレの後ろを、ジーノはぐちぐちとかき回した。手を伸ばしてベッドサイドの引出しから小さなボトルを取るとその中身を振りかける。冷たくとろりとしたそれに思わず身を引こうとしたが、ジーノの手がそれを許さず、ジーノは振りかけたそれをオレの中に塗りこめるようにしてさらに激しくかきまわした。
「あ…?」
 暫くするとジーノの指が沈んだそこから熱が湧き上がり始めてオレの頭はパニックに陥った。
「大丈夫、怖くないよ、ジャン…気持ちよくなる薬が入ってるんだ」
 気持ちよくなる薬ってなに?ヤダ、なんなんだよ、これ…っ!
 湧きあがった熱は瞬く間に全身を支配してしまう。気がつけばオレの中心は腹につくほどそそり立ってとろとろと蜜を零していた。
「ヤダ…ジーノ…やめて…っ」
 怖い。体がどろどろと溶け出してしまうような気がする。ジーノの指がずるりと抜かれてホッとしたのも束の間、熱い塊を押し当てられてギクリと身を竦ませた。
「大丈夫…力を抜いて…」
 そうジーノが耳元に囁いたと思った次の瞬間、グイと塊りが押し入ってくる。さっきの指とは比べ物にならない衝撃にオレの唇から悲鳴が上がった。
「ヒッ…ヒアアアアッッ!!」
 ズブズブと塊りが押し込まれ、衝撃に頭の中がスパークする。痛い。痛い。
「ひ…ヒイイッ…!」
「ジャン、力抜いて…っ!」
 苦しげな声が聞こえたけどどうすることも出来ない。引き裂かれる痛みに涙が止めどなく零れ落ちた。
「ジャン…っ」
 ジーノの指が萎えたオレ自身に絡んでゆっくりと擦り始める。強引に引き出される快感にほんの少し緩んだ体を、ジーノが一気に貫いた。
「アッ、アア―――――ッッ!!」
「ジャン…ジャン…っ」
 じゅぶじゅぶといやらしい水音と、パンパンと肉を打つ音が薄暗い部屋に響き渡る。ジーノの手で扱かれて、オレは熱を迸らせた。それが快感なのかすらもうオレには判らなくて。それでもジーノにされれば、体は勝手に反応して何度も何度もイかされてしまう。
「い、や…ヤダ…もう、ゆるし…っ」
 優しいジーノ。
 拒むことなんて出来る筈もなかったけれど。
「たいさ…」
 オレはただ一人本当に愛している人の名を呟いて、ゆっくりと闇に落ちていった。


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