華降る夜の褥  中編

「凄いな、辺り一面真っ白だ」
 ロイはそう言って外を見つめる。雨と風に舞い散る桜とで世界は真っ白に塗り潰され、時折走る稲光がその白い世界を切り裂いていた。
「暫くは帰れそうにないな、ハボック」
 外を見つめながらロイは言う。だが、返ってくるはずの返事がないことを訝しんで振り返ったロイは、ハボックが凍り付いたように自分を凝視しているのに気づいて首を傾げた。
「どうした?ハボック」
 そう尋ねるロイの白い頬を滴が一筋流れていく。雨に濡れた髪がその艶を増して首筋に絡みついているのを見て、ハボックはゴクリと唾を飲み込んだ。真っ白に舞い踊る花びらを背に立つロイはまるでその花びらが集まって出来たように見える。その匂い立つような美しさにハボックは心臓がドクリと鳴るのを感じた。
「……たいさ」
 ハボックはそう呟くとロイに手を伸ばす。グイと引き寄せれば驚いた様に見開く黒い瞳をハボックはじっと見つめた。
 雨に濡れた頬は僅かに赤みを増して、頬に零れる雨の滴のおかげで情事の最中を思い起こさせる。きっちりと上着を着込んだ上半身はともかく、庇うもののなかったズボンはじっとりと雨を含んでロイの細い脚に絡みついていた。それはロイの腰から脚の線を綺麗に浮き立たせ、素肌を晒すより一層いやらしく牡を誘ってみせる。そのくせ何も判っていないと言うように幼い表情を浮かべるロイに、ハボックは引き寄せたロイの肩をがっしりと掴んだ。
「ハボック?」
 思いがけず強く掴まれてロイは思わず身を捩る。まるで逃げようとするようなその動きに、ハボックは堪らずロイを抱き締めると荒々しく口づけた。
「…ッ?!…ンンッ!!」
 突然の口づけにロイは目を見開いてもがく。逃げようとするロイと逃すまいとするハボックは暫くの間無言でせめぎ合っていたが、敷き積もる花びらに足を滑らせて倒れるロイを追いかけるようにしてハボックはその細い身体を組み敷いた。
「ハボック…っ」
 悲鳴のような声でロイはハボックを呼ぶ。間近に迫った瞳を見上げれば、薄闇の中、グレーに近く見える空色の瞳が情欲を湛えているのに気づいて息を飲んだ。
「たいさ」
「な、ん……」
 突然欲望を見せつけられて、訳が判らないでいるロイの唇を噛みつくように塞いで、ハボックはロイの上着に手をかける。引きちぎるようにしてボタンを外すと、手を差し入れシャツの上から細い身体をまさぐった。
「やっ、ヤダっ、ハボ…ッ」
 しっとりと湿るシャツ越しに触れる熱い手のひらにロイは身を竦ませる。何度も撫でられてぷくりと立ち上がった乳首をキュッと摘まれて、ロイは悲鳴を上げて背を仰け反らせた。
「ヒャウンッ……ヤァっ、ハボック!」
 嫌々と首を振ってロイは何とかハボックを押し留めようとする。だがそうすればするほどハボックはロイの身体を押さえつけ、乱暴にその細い身体を覆う布地を剥ぎ取っていった。
「やだっ、なんでっ?ハボ!」
 半泣きで尋ねる幼い表情にハボックは堪らずロイを抱き締める。深く口づけて甘い口内を味わうと言った。
「だって、アンタが煽るから…っ」
「あ、煽る…っ?」
 そう言われてもまるでその気のないロイにしてみれば訳が判らない。敷き積もる花びらの中、しどけない姿を晒すロイを見下ろしてハボックは言った。
「すげぇ綺麗ですげぇ色っぽい……。桜の精霊ってこんな感じっスね、きっと……」
 ハボックはそう言うともう一度ロイに口づける。花びらと同じ桜色に染まる耳朶を甘く噛んで囁いた。
「好き……ねぇ、アンタをちょうだい?」
「…っ、こ、ここで…っ?!」
 吹き込まれる低い声にロイはゾクリと身を震わせて尋ねる。ハボックとはもう何度も肌を合わせてはいたが、こんないつ誰に見られるかも判らないようなところで抱かれたことなど一度もなかった。
「誰かに見られたら…っ」
 どれほど乱れようとそれを見るのがハボックなら構わない。だが、他の誰かに見られるかもしれないと思ったらとてもじゃないが頷く事など出来なかった。
「こんな嵐の中、誰も見てやしないっスよ」
「でも…っ」
 羞恥に頬を染めて躊躇うロイにハボックはクスリと笑う。雨に濡れた頬をぞろりと舐め上げて言った。
「すぐにそんな事考える余裕なんてなくしてあげます」
「……ッ」
 頬を舐める熱い舌先にロイはビクンと震える。うっとりと笑って圧し掛かってくる男を、ロイは息を飲んで見つめた。

「ハボック……っ」
 薄桃色の花びらの褥の上で、ふたつの身体が絡み合っている。ハボックが一糸纏わぬロイの肌に口づけを落とすたび、その白い肌が敷き積もった桜と同じ色に染まっていった。
「すげぇ、綺麗……たいさ…」
 そう囁かれてロイは羞恥に頬を染める。ハボックの唇が触れたそこから沸き上がる熱が、ロイの中心に集まり色の薄い楔を腹に着くほどそそり立たせていた。ハボックは密を零すそれをそっと握り込むとゆっくりと扱き出す。瞬く間に追い上げられてロイは力なく首を振った。
「だめ…っ、ダメッ、ハボック…ッッ」
 口ではそう呟きながらもロイの脚はしどけなく開かれその中心を晒している。直接的な刺激に硬度を増し、その先端をぱくぱくと蠢かせる楔をハボックは一層きつく扱いた。
「あ………っ、いやっ、や……ヤアアアアッッ!!」
 ロイは嬌声を上げて背を仰け反らせるとびゅくびゅくと白濁を迸らせる。そのイく寸前のイヤラシイ表情を間近に見つめてハボックはうっそりと笑った。
「綺麗っスよ、たいさ……」
 そう囁く男をロイは息を弾ませて見上げる。手のひらで受け止めた熱をねっとりと舐める男を頬を染めて睨んだ。
「そんな顔して……」
 オレのこと誘ってんの?と言うハボックからロイは慌てて目を逸らす。そうすればハボックがロイの手を取って自分の中心へと導いた。堅く張りつめた楔に触れて、ロイはハッとしてハボックを見る。その熱のこもった瞳と目が合えば、絡め取られたように視線が外せなくなった。
「ねぇ、今度は大佐がしてくれます?」
 ハボックはそう言ってロイの手に自身を握らせる。ロイのものよりずっと大きく猛々しいそれにロイはゴクリと唾を飲み込んだ。
「たいさ…?」
 促すように呼ぶ声にロイはおずおずと握った楔を扱き始める。そうすれば更に嵩を増すそれにロイは思わず目を瞠った。
「あ………」
 赤黒く張りつめたこれがいつも自分の中に埋め込まれているのだと思っても俄には信じられない。目を見開いて自身の楔を見つめているロイの頬を撫でてハボックが言った。
「なに?早く挿れて欲しい?」
「…っ、ばっ、ばかっ!!」
 面白がるように聞かれてロイは顔を真っ赤にする。自棄になったように扱く手に力を入れればハボックが苦笑した。
「そんな乱暴にしたら痛いっスよ、大佐」
「うるさいっ、こんな馬鹿デカいからやりにくいんだっ」
 雨の音に負けない位の大声で言うロイにハボックは笑みを深くする。ハボックはロイの手ごと自身の楔を握り締めるとロイの腰をグイと引き寄せた。
「アンタを可愛がってあげる大事なものなんスから優しくして下さいよ」
 ハボックはそう言うとロイの手の上からゆっくりと己を扱き出す。慌てて離そうとしたロイの手を握って、その手ごと己を高めていった。
「ハボック…っ」
 手を離そうにもそうさせて貰えず、ロイは手の中でどんどん膨れ上がるハボックを感じてしまう。羞恥と困惑に身を捩って逃げようとするのを赦さず、ハボックは手の動きを早めた。
「ハボックっ、や、やだっ!」
 先走りの蜜のおかげで扱くたびぬちぬちとイヤラシイ水音がする。ハボックはロイの体を引き寄せていた手で更にその細い体を近づけると、何度か強く己をこすった。
「………ッッ!!…た、いさ…ッ」
「ッッ!!」
 低い呻き声とともにハボックが果てる。びゅるりと迸った白濁はロイの手のひらに止まらず、引き寄せていたロイの下肢をしとどに濡らした。
「ヒャアアッッ?!」
 熱い欲望にべっとりと下肢を汚されてロイは悲鳴を上げる。とろりと零れる熱は、そそり立ったロイの楔を濡らし、まるでそこから吐き出されたように楔を伝って零れた。
「……あ……あ…」
 零れた白濁は楔を伝わり茂みを濡らすとその奥へと流れていく。白濁に濡れて戦慄く蕾をハボックは指先でぞろりと撫でた。
「今度はアンタの中に出したい…」
 うっとりと囁く熱を帯びた空色に、ロイはただ頷くことしか出来なかった。


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