| 月の鏡 第三章 |
| 銀色の月の光が、 月の光に照らされて、街は眠りについている。ハボックはそこにいるはずのロイを探すように街をゆっくりと見渡した。 「ロイ……」 ハボックは愛しい相手の名をそっと呟く。街から自分へと目をやると、鋭い爪をした手をじっと見つめた。 「この手でロイを抱き締められる筈、ないよな」 今は自分に好意を抱いてくれているロイもこの姿を見たらきっと逃げ出してしまうに違いない。どんなにロイが好きだろうと、結局自分と彼は住む世界が違うのだ。だが、それでも。 「ロイ……ッ」 胸に燃え上がった焔は簡単に消す事など出来なくて。 「ロイーーッ!」 銀色に輝く月に向かってハボックは大声で吠えた。 ロイは読んでいた本から顔を上げてホッと息を吐き出す。長いこと文字を追い続けて疲れた目を指で揉んで、何度か瞬きするとロイは椅子から立ち上がった。窓に歩み寄りカーテンを開けると昏い夜空にぽっかりと浮かんだ月が見える。 「すごい……吸い込まれそうだ」 煌々と輝く満月は周りにあるはずの星の光をも飲み込んで夜空で孤高の光を放っている。このまま見つめ続けていたら光の中に吸い込まれてしまいそうな錯覚を起こして、ロイは慌てて目を逸らそうとした。だが、逸らしたいと思っても視線は吸い寄せられたように月から離すことが出来ない。ロイはその妖しいまでの美しさにゾクリと身を震わせた。 「怖いほどの美しさだな……」 目が逸らせないならいっそこのまま吸い込まれてしまいたい。不意にそんな昏い誘惑にロイが駆られた時。 『ロイーーッ!』 「ッ?!」 降り注ぐ月の光を切り裂くように聞こえた声がロイの心臓を鷲掴む。ロイは慌てて窓を開くと乗り出すようにして下を見下ろした。 「ハボック……?」 聞こえた声は確かにハボックだった。だが、その姿はどこにも見当たらない。ロイは視線を上げると小高い丘を覆う木々とその一番上の屋敷が建っている辺りを見つめた。 「私を呼んだ……?」 空耳にしてはあまりに切ない声。月の光が降り注ぐ中、愛しい相手が住む屋敷の方向を見つめていればそれが錯覚などとは思えなくなってくる。 「私を呼んだのか?ハボック……」 初めて出逢ったときから心惹かれて、相手もまた自分を想っていてくれる確信があった。それでも彼との間を隔てる越えられない一線がこの月の光のような気がして。 「ハボック……」 ロイは月の光の向こう、木々に覆われた小高い丘をじっと見つめ続ける。そうしてロイはゆっくりと視線を上げると、夜の世界を支配する銀色に輝く月を見上げた。 「ハボック、私は」 もしこの月がハボックとの間を隔てているというのなら、月を破壊してでもハボックを手に入れたい。不意にそんな考えが浮かんで、ロイは銀色の光を降り注ぐ月を挑むように睨むとその視線を丘へと戻した。 「ハボック、もう一度私を」 呼んで欲しい。そうすればこんな月の光の呪縛など簡単に切り裂いてしまえるはずなのだ。ロイはもう一度あの声が聞こえるようにと強くつよく願った。 |
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