| そういう人々 第二十一章 |
| 「どういう状況か説明して」 中庭を足早に歩きながらホークアイが言う。ハボックは万一にも人に聞かれないよう、低い声で答えた。 「さっきボウカー中佐と一緒のところを窓から見ました。今はどっか茂みの中に隠れてるみたいっス」 「少尉、大佐は」 そう尋ねられてハボックは足を止める。同じように足を止めたホークアイをハボックはじっと見つめた。 「黒猫っス」 そう言えば鳶色の瞳がまあるく見開かれる。暫くの間無言のまま見つめあっていた二人だったが、ホークアイがポツリと呟いた。 「かわいい」 「えっ?中尉って犬派なんじゃないんスか?」 「あら、どうして?」 「だってブラックハヤテ号がいるじゃないっスか」 ハボックはホークアイが飼っている犬の名前を出す。厳しく躾られた愛犬の顔を思い浮かべて、ホークアイは「ああ」と頷いた。 「そうね、飼うなら犬でしょうけど、ペットなら猫がいいわ」 「ハヤテ号はペットじゃないんスか?」 「あの子は部下だもの」 「えっ?じゃあオレと同列?」 あの小さいワンコロと一緒かとハボックが肩を落とす。そんなハボックを見上げてホークアイが言った。 「今はそんな話はどうでもいいわ。早く大佐を見つけないと拙いのではなくて?」 「そうでした。タイムリミットは三十分なんス。それを過ぎると人間に戻っちまう」 「出来の悪い獣人族ね」 「え?そこ?」 なんだか普段のホークアイと勝手が違う気がしてハボックは眉を下げる。それでもとにかくロイの秘密をバラしてまで協力を求めたのだから、なんとしてもロイを助け出さなければならなかった。 「あそこ」 ハボックは囁くように言って近くの木の幹に身を隠す。同じように身を隠したホークアイがそっと覗けば、少し先でボウカーが茂みの中をかき回すようにしてなにやら探している姿が見えた。 「頼む、隠れてないで出てきてくれ」 猫なで声で茂みの中に呼びかけるボウカーの声を聞いて、ハボックとホークアイは顔を見合わせる。 「どうにかして中佐をあそこから引き離さないとだわね」 「ちょっとやそっとじゃ動きませんよ。あの人、黒猫の大佐に凄いご執心だから」 「でも、急がないと拙いんでしょう?大佐が猫になってからどれくらい経つのかしら」 「さあ」 少なくともさっき窓から中庭を見下ろしてから十分近く経っている。最長ならあと二十分だが、幾ら何でもそんな計算をするわけにはいかなかった。 「どうすりゃ中佐をあそこから引き離せるでしょう」 ハボックが困ったようにホークアイに言う。そんなハボックをホークアイがじっと見つめた。 「ねぇ、少尉。あなた、どうして大佐の秘密を私に話したの?何か考えがあってのことじゃなくて?」 単純に自分という人間を信じたからというだけではないだろうと、ホークアイが尋ねる。そうすれば「んーと」と辺りを見回したハボックがホークアイに視線を戻して言った。 「同類──っスよね?オレたち」 「あら、断定するのね」 「オレ、鼻はいいんスよ」 そう言って見つめてくる空色をホークアイは見つめ返す。数秒間、互いにその瞳の奥に隠されたものを確認しあうと、ホークアイが口を開いた。 「私に考えがあるんだけど」 「なんです?オレはどうすればいいっスか?」 即座に答えるハボックにホークアイは笑みを浮かべる。 「こっちにきて、少尉」 ホークアイはそう言うとハボックを促し、中庭の木々が生い茂る奥へと入っていった。 「おおい、私の黒姫ぇ、頼むよ。お前を抱かせてくれ」 ボウカーが強請るように言いながらガサガサと茂みに突っ込んでくる手を、ロイは身をくねらせてよける。 (冗談じゃない。どうして私がお前に抱かれなければならんのだッ) いっそのことその手を思い切り引っ掻いて逃げだそうかと思ったものの、逃げ込んだ茂みは丁度庭の奥まった場所で、飛び出したはいいがそのまま追い込まれてしまいそうな不安に、ロイにしては珍しく判断を決めかねていた。 (こんな事をしている間に戻ってしまったらどうしよう) 今ここで人の姿に戻ったらどうなるだろう。自分の部下ですら迷うことなく研究所に送った男だ、ロイなど幾ら上官といえど即刻処分するよう進言するに違いなかった。 (癒してやると言ったら見逃してくれるかな) 黒猫の自分に首っ丈のボウカーだ。猫の姿になって思う存分抱かせてやると言ったら────と、そこまで考えて、ロイはブルブルと小さな顔を振った。 (いや、それだけは絶対に嫌だ。それくらいなら研究所送りになった方がマシだっ) そこまでして助かりたいとは思わない。だが、このままここで捕まるのも絶対に嫌だと、ロイは枝の隙間からボウカーの顔を睨みつけた。 (くそーッ!いい加減諦めろッ、あっちに行けッ、このヘンタイ猫オタクッ!!) ロイがそう心の中でボウカーを罵った時、不意に伸びてきた手がロイの尻尾を掴んだ。 (ッッ!!) 「ここか!やっとみつけたぞっ」 嬉々とした声と共にグイと尻尾を引っ張られて。 (ヤバイヤバイ────助けろッ、ハボック!!) 爪を地面に突き立てたロイは、恐怖に小さな顔を歪めてハボックを呼んだ。 |
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