第八章 |
ロイは庭を臨むテラスに置かれたカウチにその身を横たえる。目の前に広がる薔薇の庭を横切る風が、ロイのもとに甘い香りを運んで、ロイは鼻孔を満たすその香りにため息をついた。 この間からハボックの事ばかり考えるようになっていた。薔薇の手入れをしようと庭に入っても、気がつけば剪定用の鋏を手にぼーっとして立っている。気持ちは目の前の薔薇になどなくて、こんな事などこれまでに一度も経験したことがないロイは一体自分はどうしてしまったのかと、途方に暮れるばかりだった。 「あれから何日たったんだろう……」 ロイはそう考えて目を閉じる。 『この薔薇が枯れる頃に』 目を閉じればそう言って笑った空色の瞳が瞼に浮かんだ。あの日以来、早く薔薇が枯れる事ばかり考えてしまう自分がロイは嫌で仕方なかった。ロイが唇を噛んで緩く首を振った時、耳に届いた足音にロイは勢いよく身を起こした。 「ハボ――」 「ロイ?」 期待に満ちて唇から零れた名前は空中で凍り付いて地に落ちる。そこに立っていたのは待ち焦がれた空色の瞳ではなく、驚いたように見開かれた常磐色の瞳だった。 「ヒューズ、か」 がっくりとカウチに身を戻すロイにヒューズは苦笑して言った。 「おいおい、俺じゃいけないような口振りだな。折角会いに来たってのに」 おどけたような口振りで言ってみたがロイは何も答えない。まるで心ここにあらずといった黒い瞳にヒューズは尋ねた。 「誰か待ってるヤツでもいるのか?」 世捨て人のように誰とも接してこようとしなかった友人に、それほどまでに会いだい相手などいるのだろうか。そう思いながら答えを待つヒューズに、だがロイは答えなかった。 「おい、聞いてるのか、ロイ」 ヒューズはそう言ってロイの肩を掴む。そうすればロイは驚いたようにヒューズを見た。 「ヒューズ、いつ来たんだ?」 「ロイ…?」 不思議そうに言って見上げてくる黒い瞳を、ヒューズは呆然として見つめたのだった。 2009/09/06 |
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