第七章


「眠れない………」
 ロイはもう何度目になるか判らない寝返りをうって溜息をついた。そっと手を伸ばすと白く滑らかな首筋に触れる。
『とても甘い香りがする……』
 そう言って昼間ハボックの唇が触れたその場所は、真夜中になった今でさえ熱く熱を持っているように感じた。
 ロイは一向に訪れない眠りに諦めると、溜息をついてベッドから脚を下ろす。そうして部屋の続きになっている浴室へと入り、洗面台の上の鏡を覗いた。薄闇に浮かび上がる端正な白い顔。そこから続く白い首筋には寝衣にも隠れない場所にくっきりと紅い痕があった。
「こんなにはっきりと………」
 ここまで痕が残るほどきつく触れられただろうかと、微かな疑問を抱きながらロイは鏡を見つめる。その痕を指でなぞればゾクゾクとした痺れが湧き起こって、ロイはキュッと唇を噛んだ。どうにもじっとしていられなくなって、身を翻すと部屋の外へと出る。庭に続く大きなガラスの扉を押し開け、一面に広がる薔薇の中へと脚を踏み入れた。闇の中薔薇はそれ自体ボウッと光っているように見える。ロイは昼間、ハボックに乞われて渡した白い薔薇のところまで来ると、その花弁にそっと触れた。
『この薔薇、アンタみたいっスね』
 触れた途端、ハボックの声が聞こえたような気がしてロイはあたりを見回す。だが、そこに広がるのは咲き誇る薔薇の花ばかりで。
『この薔薇が枯れる頃にまた来てもいいっスか?』
「………早く枯れてしまえばいいのに…ッ」
 ロイは呻くようにそう呟くと触れていた花弁を握りつぶした。


2009/05/25



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