第五章


「こんにちは」
そう言って微笑む空色の瞳にロイは思わずホッと息を吐く。安心したようなその表情にハボックが首を傾げればロイが慌てて言った。
「あ、いや今日じゃなかったかと思っていたから」
「今日はご迷惑だったっスか?」
「そういう意味じゃなくてっ」
申し訳なさそうに聞くハボックにロイは思わず大きな声を上げてしまう。その自分の余裕のなさに思わず顔を赤らめると背を向けるようにしてロイは薔薇に手を伸ばした。ロイの手が触れている薔薇を見てハボックが言う。
「それ、この間貰った薔薇っスね」
「えっ?ああ」
ロイは慌てて頷くと言った。
「祖父が一番大切にしてた薔薇なんだ。私もとても気に入ってる。でも凄くデリケートでね、ちょっとした事で枯れてしまうんだ」
「そんな大切な薔薇を貰ってしまって」
「いいんだ、私がそうしたいと思ったんだし」
ロイは愛しそうに薔薇を見つめながら言うとハボックを振り返って笑った。
「どうぞ。せっかく来たんだから色々見ていってくれ」
「ありがとうございます」
そうして二人はゆったりと薔薇の中を歩いて回ったのだった。

「そろそろお暇しないと」
ハボックがそう言えばロイがハッとしてハボックを見る。
「もう?来たばかりじゃないか。もう少しゆっくりしていけばいいだろう?」
引き止めるようにロイが言ったがハボックは首を振った。明らかにがっかりとするロイにハボックは言った。
「薔薇を貰えませんか。どれでも構いませんから」
「それは構わないが」
ロイはそう言うと白い薔薇を一本、切り取って渡す。ハボックはそれを受け取ると言った。
「この薔薇が枯れるころにまた来てもいいっスか?」
「あ勿論っ」
パッと顔を明るくして答えるロイにハボックは笑う。
「この薔薇、アンタみたいっスね。凛として綺麗で。それに」
そう言ってハボックは腕を伸ばすとロイを引き寄せてその耳元に囁いた。
「とても甘い香りがする……
そう言うとそのまま耳元に唇を押し付ける。ビクッと震えてロイは慌ててハボックから身を離した。
「なんっ」
ロイは口付けられた耳元を手で抑えてハボックを見つめる。驚いたように見開かれた黒い瞳にハボックはうっとりと笑った。
「それじゃあ、この薔薇が枯れる頃に
ハボックはそう言うとロイに背を向け歩き去ってしまう。ロイはただ甘い痺れの残るそこを押さえたまま呆然と立ち尽くしていたのだった。


2008/08/11



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