第四章 |
「あっ」 カップを取ろうとしたロイは手元が狂ってテーブルの上に中身を零してしまう。みるみるうちにクロスに広がる染みにため息をつくと、メイドに片付けを命じて席を立った。 (なんでこんなに落ち着かないんだ?) 朝から失敗続きの自分を振り返ってロイは僅かに眉を寄せる。原因は判っていた。今日が約束の一週間後だからだ。 『じゃあ丁度この薔薇が枯れる頃に』 そう言って差し出した薔薇を受け取った男の瞳が忘れられなかった。綺麗な、本当に綺麗な空色の瞳。 (あんな綺麗な色、見たことがない) 薔薇を映し出したそれはまるで晴れ渡った空のようだった。こんな風に誰かのことが、それも初対面でろくに言葉を交わしてもいない相手のことが気になることなど初めてのことで、ロイはウロウロと歩き回る。ふと壁にかけられた大きな時計に目をやってハタと気付いた。 (そういえば時間の約束をしていなかった) 一週間後と言っただけで午前か午後かすら決めていなかったことを思い出せば約束そのものがあやふやに思えてくる。 (本当に来るんだろうか…) そう思い始めれば益々落ち着かなくなってロイは庭へと出た。どんなに心が乱れている時でもこの庭に行けば不思議と心は静まった。だが、今日は吹き渡る風が木の葉を揺らしてたてる騒めきのように心がザワザワと乱れて落ち着かない。ロイは軽く首を振ると近くの薔薇に触れる。それがあの時ハボックに渡した薄紅色の薔薇だと気付いてロイは僅かに目を見開いた。その薔薇の向こうに綺麗な空色を見たように思ったとき。 「こんにちは」 背後から聞こえた声に振り向けば、そこには金色の髪を陽の光に煌めかせたハボックが立っていたのだった。 2008/08/03 |
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