第十八章 |
「ロイ」 ガラスの向こう、世闇にぼうっと浮かび上がるように広がる薔薇を見つめるロイにヒューズが背後から声をかける。だが、ロイはまるで薔薇の中に埋もれるようにガラスの中に浮かび上がる己の姿を見つめたきり、答えるどころか振り向きすらしなかった。 泊まり込むと宣言した言葉通り、ヒューズは訪ねてきたあの日以来ロイの家に泊まり込んでいた。トイレと風呂以外はそれこそ起きてから寝るまで一時たりとも目を離そうとしないヒューズにロイの中で苛立ちが募っていく。ロイは返事をしなかったにもかかわらず、まるでそんなことなど気にもしないとでも言うように煙草に火をつけるヒューズをガラス越しに睨みつけた。 「どうしてそこまでハボックの事を目の敵にするんだ?」 ロイは平然として煙草の煙を吐き出すヒューズにそう尋ねる。学生時代、互いの意見がぶつかることはあっても、頭ごなしに否定するのではなく議論しあって理解を深めあった。恋愛ごとにしても、どこに惚れたとからかうことはあっても相手が好きになったのならと笑って見守ったものだった。それなのに、今回に限り絶対に譲ろうとしないヒューズにロイがため息とともに吐き出した言葉で尋ねれば、ヒューズが答えた。 「俺の本能がだめだと言っている」 「そんなのッ、理由になってないじゃないかっ」 「それだけアイツが怪しいってことだろう?俺の本能は馬鹿にしたものじゃないってこと、お前だって知っているはずだぜ?」 ヒューズは“本能”と言ったが、実際ヒューズは物事を読み説くのに長けていた。それはロイも同じであったがだからこそ互いの意見は尊重しあってきたのに、ハボックの事に関しては頑なにヒューズの言葉を拒み続けるロイをヒューズはじっと見つめる。暫くの間その瞳を黙って見つめ返していたロイはフィと顔を背けると再び薔薇を見つめた。 「ロイ」 以前のようにはいかないことに、ヒューズは不意に哀しみを感じる。それ以上かける言葉を見つけられず、ヒューズはただロイの背中を見つめ続けた。 ハボックは闇のように真っ黒なシャツとズボンを身につけると真っ黒な上着を羽織る。そうすれば闇の中でまるで白い顔と金色の髪だけが浮かび上がって見えた。ハボックは重い扉を押しあけ、風が吹き荒れる戸外へと出る。足下を照らす月の明かりすら全くない昏い森の中を、ハボックは躊躇うことなく歩いていった。 「ロイ……今行くから」 黒曜石の瞳に恋情の焔を灯してロイが待っていることを疑わず、ハボックは吹き荒れる風の中をロイの家に向かって歩いていった。 2010/05/11 |
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