第十七章


 来客を告げるメイドの声に僅かな期待を抱いて振り向いたロイの目に映ったのは、学生時代からの古い友人であるヒューズだった。あからさまに落胆の表情を浮かべるロイに、ヒューズはロイが今この瞬間もあの得体の知れない男を待ち続けているのだと痛感する。冷静な判断など出来なくなっているに違いないロイにヒューズが何か言おうとする前に、ロイが口を開いて言った。
「何を言っても無駄だからな。お前の言う事など聞かん」
「ロイ!」
 きっぱりと言って睨んでくる黒曜石の瞳をヒューズは睨み返す。ズイと近づくと揺さぶるように肩を掴んで言った。
「いい加減に目を覚ませ、ロイ。あいつは危険だ、絶対普通じゃない」
「普通じゃない?どこがだ?大体デュ・ファイと一緒に写っていた写真だって、アイツによく似た祖父の写真とかなんじゃないのか?」
 確かによく似た親族と考えるのが常識的かも知れない。だが、ヒューズにはあの写真に写っているのがハボック本人だと確信していた。
「いや、あれは間違いなくアイツだ」
「そんなの有り得ないだろうッ?お前だっておかしいって言ってたじゃないか」
「……アイツが人間でなければ有り得るだろう?例えば……吸血鬼、とか」
 唐突に浮かんだ考えをヒューズは口にする。そうすればポカンと目を見開いたロイが次の瞬間ゲラゲラと笑い出した。
「吸血鬼?何言ってるんだ、お前。そんなの想像の産物だろう?」
「だがそう考えればデュ・ファイと一緒に写真に写っていたのも説明がつく。いずれにしろアイツは人間じゃ―――」
「いい加減にしろ、ヒューズ」
 必死に説得しようとするヒューズの言葉をロイが遮る。さっきまで可笑しそうに笑っていたのが嘘のような冷たい表情を浮かべて言った。
「いい加減にしろ、それ以上ハボックを愚弄するような事を言うなら、幾らお前でも赦さない」
「ロイ」
 苛烈な色を湛える黒い瞳にヒューズは息を飲む。大抵の相手なら気圧されて何も言えなくなるであろう瞳に、だがヒューズは睨み返して言った。
「オレは意見を変える気はない。そして絶対にアイツをお前に近づけない」
「ヒューズ」
「これから事が片づくまで、俺はここに泊まり込むからな」
「……勝手にしろっ」
 頑として言い張るヒューズに、ロイはプイと背を向けると部屋を出て行ったのだった。


2010/05/01



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