第十五章 |
ざわざわと風が森の木々を揺らして音を立てる。ハボックは昏く沈む森を窓越しに見下ろして薄く笑った。大きな窓を開けてハボックはテラスに出る。装飾を施されたテラスの古い柵に手をつくと森の向こうを見通すように眺めた。 『ハボック……ッ』 白い顔を歪めて自分を呼ぶロイの姿を思い出せば、自然唇に笑みが浮かぶ。ハボックは暫くの間吹きつける風に髪を嬲せていたが、家の中に戻ると窓を閉めた。部屋を横切り薄暗い階段を下りる。幾つも並んだ部屋の一つに入り備え付けの棚からグラスを取り出してワインを注いだ。それを手にテーブルに近づくとグラスに放り込まれた薔薇を見つめた。 開ききった花びらは庭に咲いていた時の鮮やかさを失い、瑞々しい緑だった葉は黄ばんで萎れてきている。ハボックが指を伸ばせば、まるで触れられるのを畏れるように花びらがひとひら震えて落ちた。その姿がまるでロイの様に見えてハボックはクツクツと笑う。ゆっくりと歩いて低い棚に近づくと、その上に飾ってあった写真立てを手に取った。 「ねぇ、やっと見つけたよ、デュ・ファイ」 ハボックは写真に写る男に向かって話しかける。おどおどした視線を投げる男を愛しそうに撫でて言った。 「アンタはオレを否定したけどロイは違う。オレはロイを手に入れる」 そう言ってハボックは写真立てを棚に戻す。もう一度薔薇に手を伸ばすと今度はグラスから抜き取った。 『薔薇が時を告げたらまた来ます』 告げて最後にロイを見たのはいつだったか。今頃どんな想いで自分を待っているのだろう。 「もうすぐ……もうすぐっスよ、ロイ」 そう呟いて薔薇に口づければ瞬く間に萎れた薔薇がはらはらと散って落ちる。昏い笑みを浮かべるハボックを、たった一人で写真に写った男が怯えた目で見つめていた。 2010/04/10 |
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