第十四章


 ザアアと風が音を立てて薔薇の庭を吹き抜けていく。陽が沈んで暗くなった庭をテラスの窓越しに眺めていたロイは、そっとため息をついた。
 あの日、待って待って漸く来てくれたハボックをヒューズが追い返してしまった。それだけではない、しつこいほどにハボックと会う事を反対した挙げ句、百年も昔の作曲家と一緒に写真に写っているなどと言う。
(そんな事、あるわけないじゃないか)
 きっとハボックによく似た彼の祖父か曾祖父が一緒に撮った写真なのだろう。そう考えなければとても説明が付かなかった。
(会いたい……)
 ロイはそう胸の内で呟いてガラスに額を押しつける。ひやりとした感触は体温の低いハボックの肌に似て、余計にロイの中に恋情の焔を燃え上がらせた。
『薔薇が時を告げたらまた来ます』
 そう言って笑ったハボック。ロイはガツンと乱暴に額をガラスに打ちつけて言った。
「薔薇が時を告げたらって……いつ?!」
 ハボックが持ち帰った薔薇は、今どの時をハボックに伝えているのだろう。
 ロイは床まで届く大きな窓を押し開くと夜の庭へと足を踏み入れた。闇の中、色をなくした薔薇達は鬼火のようにボウッと浮かび上がって見える。庭の中程まで薔薇の海をふらふらと歩いてきたロイは、足下に転がった添え木用の細い棒を拾い上げた。その棒を大きく振り上げると咲き乱れる薔薇に思い切り打ちつける。
 バシィッッ!!
 乾いた音とともに夜闇の中無数の薔薇の花びらが宙に舞った。
「ハボック……ッ」
 舞い上がる花びらと共にこの声が風に乗って届けばいい。
 ロイはそう願いながら大切に慈しんできた薔薇達を、手にした棒で叩き続けた。


2010/03/26



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